毎日のように一緒にいずくんと過ごして。
たくさん笑って———
·····そんな日々が、ずっと続くと思っていたのに。
あれから少し年月が経って·····いずくんも私も、小学3年生になった頃。
·····その日は朝からずっと雨で、雨の音と重なって流れてくるニュースが何故かひどく耳障りだったのを覚えている。
『·····ヒーラーヒーロー“フェニックス”が、ヴィランの襲撃によって殉職しました』
『“フェニックス”は貴重な治癒個性を持っていたこともあり、最前線で戦うトップヒーローのうちの1人として有名でした。そのためヒーロー界には激震が走っており·····』
『サイドキックであり妻である“ナイチンゲール”は動揺を隠せないようで、後日記者会見を行うとの·····』
———ある日突然、お父さんがヴィランに殺されてしまった。
お父さんはヒーラーヒーローで有名なヒーローだったから、
何人か有名なプロヒーローがお葬式に来たらしいけど·····正直全く覚えてない。
——唯一思い出せることといえば、滅多に泣かないお母さんがお葬式ではずっと涙を流していた事だけだった。
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その後、お母さん·····“ナイチンゲール”はソロで活動するようになった。
お母さんのお母さん·····おばあちゃんであるリカバリーガールや、いろんな治癒系ヒーローが自分の事務所へ誘ってはくれたみたいだけど、もうサイドキックを失いたくない、という事でどこにも行こうとはしなかった。
·····そして、あれよあれよと言う間にお母さんのヒーロー事務所の県外への移転が決まり、私とお母さんは引越しをすることになった。
「·····幼なじみの出久くんと引き離すようで心苦しいけど、これしか方法がなかったの」と
お母さんに泣きながら言われてしまっては、私も·····うん、って言うしかなかった。
·····それに、今もし私がお母さんから離れてしまったら、きっとお母さんが壊れてしまうと思ったから、
余計に離れる訳にはいかなかったというのが、本音ではあるけど。
·····そして、それを私からいずくんに伝えた時、声が震えて仕方なかったのを覚えている。
琉音
「·····いずくん·····あのね、私·····お引越ししないといけなくなったんだ」
出久
「ええっ!?」
琉音
「お父さんが·····フェニックスが居なくなったから、ナイチンゲールはソロで活動することになったんだ·····」
「だから、事務所を移転するの·····」
出久
「そ、そんな·····」
琉音
「今度の家は県外になっちゃうから、今みたいに頻繁にはいずくんと会えなく·····なるんだ·····」
出久
「僕·····琉音ちゃんと離れるの、きっと耐えられないよ·····」
琉音
「私も·····嫌だよ、いずくんと離れるなんて」
涙声でそう言う琉音の手を握り、出久はこう言った。
出久
「ぼ·····僕だって琉音ちゃんと離れるのは嫌だよ!」
琉音
「·····ねえ、いずくん」
出久
「な、何?」
琉音
「小さい頃にいずくんが言ってくれた、私をいずくんのお嫁さんにしてくれるって·····本当?」
出久
「·····もちろん!心の底から誓って嘘じゃないよ!!」
「·····琉音ちゃんには、僕のお嫁さんになって欲しい。この気持ちは昔から変わらないよ」
琉音
「じゃあ、私·····いずくんのお嫁さんになっても恥ずかしくないヒーラーヒーローになるよ!」
「いずくんが最高のヒーローになるんだもん、私も最高のヒーラーヒーローにならなくっちゃ!」
出久
「琉音ちゃん·····」
琉音
「ねぇ、いずくん·····私は中学を卒業したら絶対に雄英高校に行くから、いずくんも雄英高校に来て!」
「·····そうしたら、一緒にヒーローになれるよ!」
出久
「·····!」
琉音
「もちろんその間に手紙も出すし、メールだってするから!だから私の事、忘れないでいてね·····?」
出久
「もちろんだよ!」
そう言うと、出久が琉音を抱きしめる。
そして、しばらく琉音のくぐもった泣き声は、なかなか止むことはなかった。
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それが、私のいずくんとの思い出。
そして今·····私はいずくんと約束した通り、雄英の入学試験の場に立っている。
離れているあいだに何回かメールや手紙を送りあっていたけれど、いずくんにまた顔を合わせて会えると思うと、少し身震いしてしまう。
·····でも、それより嬉しさの方が上回っているから、自然とうっすら口角が上がって笑顔になる。
会えた時になんて言葉を最初にかけよう、なんてことも考えてしまうの。
正直·····
6年も経てばいずくんは私の事を『幼なじみの女の子』としか覚えていないかもしれない。
かなり昔の約束なんて忘れて、他のかわいい女の子を好きになっているかもしれない。
だけど、私はずっといずくんを想っていたから·····
どんな形であれ、いつか最高のヒーローになるいずくんの隣に居られるように、ずっと頑張ってきたんだ。
「(だから絶対、雄英に通うんだ·····!!)」
そう心の中で大きく叫んだ琉音は自分を鼓舞するように口元をぐっと上げて笑い、拳を握りしめた。
試験官
「·····えー、それでは·····治癒個性の皆さんには試験にて負傷した受験生の処置を行っていただき、それを実技試験として行います」
「医療行為が必要な負傷者、または重傷者に関しましてはプロヒーローの方で行いますので、その場合は直ぐに試験官の方へ伝えてください。」
「今回の実技試験では応急処置に対しての知識や、負傷者の対処、対応などが加点対象となります·····」
·····雄英の推薦入試は、一般入試とは内容が大きく異なる。
戦闘能力だけではなく、個性の特性に応じた試験が行われるのだ。
治癒系個性を持つ受験者に課されたのは、救護試験。
実技試験で負傷した受験者を治療し、対応力と判断力を評価される。
個性保持者が飽和している現在においても、治癒個性などの医療系に適している個性保持者は貴重。
·····そのため、個性の適性に合わせた推薦試験が行われているというわけだ。
試験官の説明を聴きながら、琉音はチラっと試験室のモニターに視線を向ける。そのモニターには実技試験の会場が映し出されており、今まさに試験が始まったばかりであった。
様々な個性を持つ受験生が、次々に現れる“仮想
試験官
「えー、向こう側でも試験が開始されたようですね·····では、ある程度の負傷者が集まった時点でこちらも試験開始とします。開始の指示はこちらでしますので·····」
琉音
「(いずくんやちゃーちゃんも、きっとこの試験で頑張ってるはず·····だから私も、頑張らなきゃ·····!)」
そう心の中で呟くと、大きく深呼吸する琉音。
その時、モニターから目を試験官に戻していた琉音は知らなかった。
———試験開始に戸惑う出久が、そこに映っていたことに。