新しい世界に愛は必要か?

ここは、ヒューマライズの支部である施設のひとつ。
時間は夜8時、施設のまわりでは虫やフクロウの声が聞こえだし、人気が全く無くなるこの時間。

·····そんな時間に、施設の廊下を小さなライトを持ってコソコソ歩く2人の人影があった。


「ティアマト、こっちこっち·····」

「ま、待ってエキドナ·····歩くのが早すぎるわ·····」

「·····しーっ、声を出さないで。誰かに見つかったら私達だけじゃなくてエナとディオにも迷惑がかかるわ」


2人の人影はキョロキョロとまわりを警戒しながら、足音を立てないようにコソコソと歩いていく。
·····その人影の正体は、ヒューマライズ幹部「ヒュドラズ」の双子の姉妹、エキドナとティアマトだった。

2人は周りを見渡し、誰もいない事を確認するとホッとした表情を浮かべる。


「·····ふぅ、ここまで来れば大丈夫ね」

「え、エキドナ·····エナとディオ、今日はターン様の演説が早く終わったから先に来てるって言ってたわ」

「ティアマト、それ本当?それなら今日は久しぶりのデートだもの、いっぱいエナにハグして貰わなきゃ!もちろんティアマト、あなたもディオにいっぱいハグして貰わないとダメよ?」

「う、うん·····わ、わかってるわ·····と、とりあえずエキドナ、静かにしないと·····」


興奮気味になるエキドナを抑えるように言うティアマトだが、彼女も内心はかなり嬉しいのか、頬を赤く染めていた。

そのうち2人は少し開けた中庭のような場所に出た。·····今晩は月夜で、薄暗いながらも周りは見える。
そして中庭の小さなガゼボに、小さくライトの明かりがチラチラと動くのが見えた。

·····どうやらそこに、誰かがいるらしい。

エキドナとティアマトがそのガゼボへ近づくと、その光の主の姿が見えてきた。

ガゼボの中には外周に沿うように2つのベンチが置かれており、そこに座っている2人の人影。
月夜に照らされたその姿を見ただけで、エキドナとティアマトにはそれが誰なのかすぐにわかった。そして同時に笑顔を浮かべてその人影に向かって走り出した。


「エナ!」「ディオ!」
「エキドナ!」「ティアマト!」


エナとエキドナ、ディオとティアマトはお互いの名を呼び合い、
暗がりの中でも相手を間違えることなく真っ直ぐ飛びつき、熱いハグを交わした。


「会いたかったわ·····私達、2人にとても会いたかった!」

「我々も2人に会いたくて仕方なかった·····」


エナとエキドナはそう言うと、お互いに頬にキスをする。
それを見たディオとティアマトも恐る恐るではあったが頬にキスをして、その恥ずかしさを誤魔化すように、ぎゅっとお互いを抱きしめた。

その後しばらく恋人同士で抱き合ったり頬にいっぱいキスをした後、ようやく落ち着いて話せる状況になった。


「最近は予定が合わなくて、なかなか会えなくて辛かったわ·····」

「·····俺も、エキドナのことばかり考えてた」

「仕方ないわ·····最近はあれこれ立て込んでるものね·····」

「我々は幹部だから·····仕方ない·····」

「ふふ·····ディオ、顔をよく見せて。今夜は月夜だけど·····暗がりじゃあなたの顔がよく見えないわ」


エキドナ達は改めて自分達の前にいる人物の顔を見る·····それは間違いなく、自分が愛している恋人達の顔であった。


·····4人は恋人同士でありながら、こうして他人の目から隠れてデートをする。
それには、いくつかの理由があった。

大きな理由の一つに、ヒューマライズの掲げる思想の一つである【個性終末論】が大きく影響している。

個性を世界を終末へ導く悪、世界を蝕む病として扱うヒューマライズでは、個性を持つ信者は幹部であったとしても、どうしても肩身が狭くなってしまう。
それは、髪の一部が蛇になっておりひと目で個性保持者であるエキドナとティアマトはもちろん、発動系の個性であるエナとディオも、例に漏れず。

個性の殲滅を目的とするヒューマライズでは、個性保持者の信者は恋愛や結婚をすることを戒律で禁じられており、決して許されていない。
これは個性保持者をこれ以上増やさないようにするための戒律だ。


·····それでも、4人は惹かれあってしまった。
それからというもの、4人はこうしてほかの信者に見つからないように人目を忍び、人気の無くなる夜に会ってお互いに愛を深めていく。


4人は、今夜会うことが出来た嬉しさと相手への愛おしさを胸に、会えなかった時に起きたことを話し始めた。

·····しかし、4人がしばらく話に夢中になっていると、突然4人がいるガゼボにライトの眩しい光が向けられた。


「(·····しまった、見つかったか!)」


エナとディオは慌てて立ち上がり、自分の影にエキドナとティアマトを隠そうとする。

·····すると、その光の先から1人の女性が現れた。



「·····あなた達、ここで何をしているの?」



その女性は、ターンの側近であるモルフェ・ヒュプノスだった。

それを見て、エキドナ達の表情が一瞬にして強張る。
ティアマトはなんとか言い訳を考えようとするが、それより先にエキドナが口を開いた。


「え、えっとー·····綺麗な月夜なので、4人で星座の話をしていました·····」

「·····つまらない嘘をつくものじゃないわ。こんな時間にわざわざ誰にもバレないように外に出て、何も無いわけないでしょう?」

「うっ·····(流石にモルフェ様は騙されてくれないわよね·····)」


モルフェの容赦ない返答に、エキドナはどうしたものかと冷や汗を流す。


「·····誤魔化さなくたっていいわ。あなた達、恋人同士なのでしょう?こんな所で逢瀬なんてしたら、ほかの信者にバレてしまうわ。私の礼拝堂へいらっしゃい。」

「え·····」


エキドナは、意外な反応に目を丸くする。
もしここに現れたのがモルフェではなく他の信者であれば、問答無用でエキドナ達は捕まえられ、そのまま尋問室行きになるはずなのに。


「·····私達を尋問室へ、連れていかないのですか·····?」

「えぇ·····その代わりと言ってはなんだけど、礼拝堂であなた達の馴れ初めでも聞かせてもらおうかしら?·····まぁ冗談はさておき、他の信者に見つかる前に礼拝堂へお入りなさい。」


そして4人は半信半疑になりながらもモルフェに着いていき、モルフェが管理をしている礼拝堂へと入っていった。


「·····あなた達、恋人同士だったのね。双子同士の恋人って混乱したりしないのかしら?」

「い、いえ·····ところでモルフェ様は、どうして私達を庇って下さったのですか·····?ヒューマライズでは、個性保持者の恋愛は許されていないはずですが·····」

「そうねぇ·····ターン様や他の信者ならそうでしょうけど·····私としては、個性ごときで愛し合う2人を引き裂きたくはないわ。それに·····」

「それに·····?」

「それに、私だって·····ターン様を異性として心から愛しているもの。それを罪だと言うのなら、私は何回尋問室へ行かなければいけない事やら·····」

「モルフェ様も·····?」

「と、とにかく!今回は見逃してあげるから·····その代わり、今度からはこの礼拝堂を使ってもいいから、ちゃんとした場所を選んでこっそり逢い引きなさい。」

「え、あ、あの·····ありがとうございます!」

「·····ふふ、ここを使う理由は適当に考えてあげるわ。」

「あ、はい·····(相変わらず、優しい人なのか厳しい人なのかわからない方·····)」


そして4人は、モルフェの厚意に感謝した。


その後4人はモルフェに見送られながら、夜が明ける前に部屋へ帰ることにした。


「モルフェ様には感謝しないとな·····俺達、モルフェ様に見つからなければ、間違いなく捕まって拷問されていただろうな·····」

「ほんと、モルフェ様のおかげで助かったわ·····それにしても、モルフェ様はなぜあんなに寛容なの·····?」

「分からないけど、きっと·····何かあるんだろうな」

「もしかしたらモルフェ様もターン様を愛しているから、私達がヒューマライズの思想と反していることをしていても黙認してくださったのかも。」


4人はそんな話をしながら廊下を歩いていく。
エキドナ達は、この日の出来事を胸に刻み込み·····そして、4人はまた会えることを約束して別れ、それぞれの部屋へ戻ったのだった。




――――――――
サーペンターズ、映画の中ではほぼ笑ってる声しかないので口調は捏造しまくりました。


20211101

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