シンデレラなんかにならないで!
·····琉音ちゃんに「いつものお礼」と称して、可愛らしいデザインの新しい靴をプレゼントした。
琉音ちゃんが前に雑誌で見て欲しがってた、低めのヒールで赤いリボンが映える、薄い水色のパンプス。
「わぁあ!!·····いずくん、どうして私の欲しい靴が分かったの!?これね、雑誌で見てすっごく可愛かったから一目惚れしちゃった靴だったの!」
「·····ふふ、内緒だよ!(いつも共有スペースで麗日さんや勇樹くんとその靴が載ってる雑誌を見て、欲しがってたの知ってたからね)」
出久はネタばらしをしたい気持ちを飲み込んでそう言うと、にこりと笑う。
「この靴、琉音ちゃんにすごく似合うと思うよ」
琉音は出久のその言葉にさらに嬉しそうに微笑んで、すぐその靴に足を通すと、その場でくるくると回ったり踵を軽くとんとんと鳴らした。
「えへへ……本当に嬉しい、ありがとういずくん!」
嬉しそうにニコニコする姿も、照れたように笑ってリンゴみたいに真っ赤な頬を押さえる姿も、出久にとっては愛らしくて堪らない。
こんなに喜んでくれるならいくらでも買ってあげたくなるなぁ、と思いながら出久もまた笑顔で彼女の隣に並ぶ。
「はしゃいでくれるのは嬉しいけど、足くじいたりしないでね」
「もー、大丈夫だって!せっかくいずくんがくれた靴だもん、大事に履きたいよー」
·····そんな風に口を尖らせて抗議してくる琉音ちゃんがこれまた可愛い。今日はこのままデートしようか?なんて提案すればどんな反応をするだろうかと考えて思わず出久は口元に笑みを浮かべてしまう。
すると、琉音は少し照れくさそうにもぞもぞと少し小さい声でこう言った。
「あのね、あのね·····この靴で早く外に出たいから·····いずくんが嫌じゃなかったら·····私とデート、しない?」
「!·····もちろんいいよ!!」
即答してやれば彼女は顔を赤く染めながらも幸せそうな表情を見せる。
それが何とも言えずに出久の心を満たすものだから、もっと喜ばせたくなって知らずのうちに出久は琉音に手を差し伸べていた。
·····すると、おずおずと琉音の小さな手が出久の傷痕だらけの手に乗せられる。指先同士がちょこんっと触れ合った瞬間心臓が爆発しそうになったが出久は必死に耐えてそのまま握り締めると、琉音が恥ずかしげにはにかんで見せるのだ。
「えへへ·····本当にありがとう。·····大好きだよ、いずくん」
そう言うと琉音はちゅっ、と出久の頬にキスをする。
そのキスのあたたかさと、拙いながらも愛のこもったその言葉に、出久は「琉音ちゃんのことを好きになって良かった」と、改めて思った。
その後二人は着替えてから手を繋いで仲良く寮を出たのだが、道中ずっとニコニコしている琉音に釣られてつい出久もニヤけてしまい、不思議そうな様子の琉音に「どうしたの?」と聞かれても誤魔化すことしかできなかった。
·····だってしょうがないじゃないか。好きな人が自分とのデートのために一生懸命選んだ服を着て、自分の贈った靴を履いてくれているんだもの。しかもさっきまで一緒にいたはずなのにまだドキドキするくらい似合っている。これでときめかない方がおかしいだろう。
「(ああもう、本当にかわいい!!僕だけのものにしたい!!!)」
僕は本当に琉音ちゃんが好きなんだな、と改めて思うと同時に他の男に見せたくないという独占欲も出てきちゃうあたり、やっぱり僕は性格が悪いんだろうかと考え込んでしまうがそれも仕方ないと思ってほしいところである。
「そういえばね·····持ってる服でこの靴に合いそうな服、これしか無かったんだけど·····変じゃない、よね?」
そう心配そうに聞く琉音ちゃんは、裾に小さいフリルのついた長めの水色のワンピースを着て、僕の贈ったパンプスを履いていた。
·····その時、そのコーデを見てひとつ思い浮かんだことがあり、つい口に出してしまった。
「·····なんだか、シンデレラみたいで可愛いね」
うん·····ちょっとクサい台詞だな、と自分でも思う。
でもそれを聞いた琉音ちゃんは、またほっぺを赤くしてぷー、と膨らませて靴に目線を落とすと
「·····えー、それは嬉しいけど·····シンデレラになるならこの靴置いてこなきゃいけないから、それはやだなぁ」
と、呟いた。
それにくすりと笑って「そうだよね、ごめんよ」と言うと
「·····でも、もしいずくんのお姫様になれるなら、私はそれでもいいかも」と言ってくれた。
可愛すぎる衝動に耐えきれずに琉音ちゃんを思わず抱き上げて、ぐるりとその場で一回転してしまう。
わあっ、と驚いた声を上げる彼女の耳元で囁く。
「うん、僕もそれがいいな。絶対に琉音ちゃんを何処ぞの王子様なんかに渡してやらない。琉音ちゃんは、僕のお姫様なんだから!」
そして出久はそのまま彼女を地面に下ろして、今度はそっと、壊れ物を扱うように優しく、唇に優しくキスをした。
「·····琉音ちゃん、大好きだよ。これからも、いつまでも。君だけを、永遠に想っているから」
そう告げると彼女はまた頬を真っ赤にして「私も!」と飛び付いてきた。
ぎゅっと抱き返して、彼女の温もりを感じる。それだけで心があったかくなっていくような気がした。
(ああ、本当に幸せ者だなぁ、僕ってば!)
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イチャラブなデクルネは健康にとてもよい。
20211212
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