「当たり前の事聞くなよ」

「(·····ほっといたら、消えちまいそうだな)」


爆豪の部屋でとろみと2人きりの勉強会中、爆豪は隣に座っていたとろみを見て、ふとそんなことを考えていた。


体格差も全く違う、自分より30センチも小さい身長。
爆豪の片手で覆えるほどに小さい、子供のような柔らかい手。
少し力を入れただけで折れてしまいそうな華奢な肩幅や、細い腰回り。

とろみはスライムの個性で髪や指先が半透明なせいで、窓から差し込む日光が薄ぼんやりとではあるが彼女の体を透過してしまうのも、その印象に拍車をかけていた。


「(こいつって·····こんな小せぇ女だったのか)」


ただただ漠然とそう思う爆豪。
しかしすぐに「(·····あ?何考えてんだ俺は?)」などと考え、その思考を首を振って打ち消す。

それを見たとろみは「勝己、なにやってんのアンタ·····?」と頭にハテナを浮かべながらも、読んでいた教科書に目を戻した。

·····すると、爆豪は何気なしにとろみの手の上から自分の手を重ねる。


「み゛っ゛!?」


急に触れられたので驚いて猫のような声を上げてビクゥ!と大きく跳ねる彼女だが、爆豪は「おー」という声を上げるだけなので特に何も思っていないようだ。そのまま重ねた手を軽く握ったり開いたりして感触を確かめるようにしている。


「何よ、急に·····」

「別に」

「·····ふーん、それしても·····アンタの手、あたしよりデカいし·····すごくぬっくいわね」


そう言うと、とろみは自分の手を未だ掴んでいる爆豪の手ごと上げ、その手にすり、と頬を寄せ·····そしてゆっくりと目を閉じる。まるで何かを慈しむような優しい仕草だ。

いつも見ないようなとろみの仕草に、爆豪はドキッとすると同時に心臓が大きく高鳴った気がしたが、気にせずとろみの頭を撫で始めた。それに気づいた彼女は嬉しげにはにかんで「なによぅ」と嬉しそうに笑った。


「·····お前が、ほっといたら消えちまいそうに見えた」


ぽつりと言う爆豪の言葉を聞き、とろみは一瞬ぽかんとした顔をするがすぐに笑顔に戻り、「バカねぇ」と言ってから言葉を続ける。


「あたしはどこにも行かないし、アンタみたいな男置いてどこにも行けないわよ·····そもそもあたしみたいな女捕まえといて、逃げられると思ってるワケ?」


冗談交じりの声色で言う彼女に、爆豪は何も言わずに小さく笑う。
そのまま爆豪は「ん」とだけ呟いて腕を開いた。

·····それは爆豪なりの『おいで』の意味である事を知っているとろみは、その意図を読み取って彼の胸に抱きつくようにして寄りかかる。
爆豪はそれを優しく受け止めて、自分の体でとろみの小さい体を包むように抱きしめた。


「·····あたしが消えそうなんて、そんな事で不安になるなんて·····アンタらしくないじゃない」


くすりと笑いながら言われた一言に対して、彼は答えなかった。
その代わりとでもいうかのようにぎゅっと彼女を包み込む力を込めることで返答する。


「(こいつには言えねーけど·····この小さな体が、いつか俺の腕の中で溶けていくんじゃねえかと思う時がある)」


ふにふにと柔らかいスライム体がほとんどであるとろみの体を抱きしめながら、彼は心中で独り言を呟いた。

そんな様子を見たとろみは何かを察したのか、爆豪の唇にチュッと音を立ててバードキスをする。突然の行動に驚いたのか、爆豪は「うおっ!」と間抜けな声を上げた。


「·····ばぁ〜っかね、大丈夫だって言ってんでしょ?あたしを誰だと思ってんの?·····あたしは、大爆殺神サマを宥められる、ただ1人の水霊よ!」


自信満々に言い切る彼女の表情を見て、今度は爆豪の方がクスリと笑った。
その様子を見て、とろみはさらに言葉を続ける。


「あたしは、アンタとは個性も性格も水と油みたいなもんだけど·····それでもあたしは、アンタを好きだし愛してんだから!アンタを置いてどっかに行くなんて、海が涸れたってありえない話よ!」


胸を張って堂々と言うとろみに「そーかい」と言いつつ爆豪も微笑んだ。


「だから、アンタも勝手にどこかに行こうとしないでよね?」
「·····ハッ、そりゃこっちのセリフだぜ。とろみちゃん?」


そう爆豪がわざとちゃん付けでとろみの名を呼び、悪戯っぽく笑うと、その様子にとろみは堪えきれなかったのかぷーっと吹き出してそのまま大笑い。
·····そしてとろみの爆笑が落ち着いたあと、2人は顔を見合わせて、同時にまた笑った。
ひとしきり笑ってから、爆豪は改めて口を開く。


「·····俺もお前を好きに決まってンだろ、バァカ」


照れくさそうではあるが、しっかりと告げられた言葉を聞いたとろみは満足げに目を細めて、もう一度彼に抱きついた。
爆豪もそれに答えるように、黙ってとろみを抱き返した。



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イチャつく勝とろも大好きです·····

20211224

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