脅迫紛いのプロポーズ

「·····俺と結婚しろやァア゛!!」


爆豪からどう見ても傍から聞いたら脅迫紛いなプロポーズを受けたとろみは、驚きのあまり硬直する。


「大爆殺神がプロポーズしてる!!」

「え!?相手誰!?」

「てかあれって、プロヒーローのウンディーネだよね!?」

「·····ダイナマイトのバディの!?」


周りのファンたちは二人のやり取りを見てザワつく。


「·····おい、聞いてんのかテメェ!」

「は·····?え·····?アンタ、今、あたしに何言って·····?」


とろみは未だに状況を飲み込めていない様子で呆然としている。

·····特に今の状況では尚更。


「·····アンタ馬鹿なの!?なんでテレビの取材中にプロポーズすんのよ!!」

「あぁ!?こっちは真剣なんだわ!ふざけた質問ばっか投げかけてきやがって·····もう我慢の限界だったんだよ!!俺と結婚する気があるならさっさとイエスと言えやゴラァッ!!!」

「はぁ·····!?」


·····それは、遡ること数分前。
とろみと爆豪はプロヒーローのバディに密着する番組の取材を受けていた。

2人は雄英高校時代から付き合っている恋人同士なこともあり、プロヒーローになってからもバディを組んで活動していた。
お互いの個性は水(スライム)と爆破という正反対の性質を持つ二人だが、その相性の良さには定評があり、数々の事件を解決してきた実績があった。

そんな二人が今回取材を受けた番組は、『人気ヒーロー同士のプライベートに迫る!』というもので、今回は『大爆殺神ダイナマイト』こと爆豪勝己と『ウンディーネ』こと水頼夢とろみのペアに白羽の矢が立ち、二人はインタビューを受けることになったのだ。


·····とは言っても。
お互いに人気のプロヒーロー、そして男女のバディとくれば、当然マスコミが放っておくはずもなく、2人に投げかけられる質問は下世話なものばかりであった。

一応、2人は交際している事を公にしてはいるのだが·····爆豪ととろみは性格上お互いに突っかかることが多く、いわゆるケンカップルとして度々メディアを賑わせている。

まぁ、同期にデクと2代目ナイチンゲール、ショートとスパークキャンディというラブラブカップルが居るのでケンカップルである2人が目立つのは仕方ないと言えばそうなのだが。


·····ともかく、そんな事もありリポーターからの質問は爆豪ととろみの関係を面白おかしく掘り下げるようなものばかりだった。

とろみは『そんなものは慣れている』と言わんばかりに受け答えをしていたのだが、一方の爆豪は不機嫌そうに顔を歪めていた。

·····しかし、リポーターがとろみの地雷である「家族のこと」に触れたとき、とろみは一瞬体をビクッと震わせると背中側の見えない場所で、震える手で必死に爆豪のヒーローコスチュームの端を握って、何事もないように振舞っていた。
それに気付いた爆豪は、見えないようにとろみの手を優しく握りしめ、大丈夫だと言うように力強く握る。

·····爆豪は普段から言葉数が少ないが、こういうときに言葉でフォローするのではなく行動で示すタイプなのだ。
爆豪のその行動に気づいたとろみは、「ありがとう」と言いたげに小さく微笑んだ。


·····すると、リポーターがまたとろみの地雷を踏み抜いた。


「ウンディーネさんはご両親から絶縁されているとお聞きしましたが、ダイナマイトとのことは、ご両親はご存知なんですか?」

「ッ·····どうでもいいことです、そんなこと」


リポーターの無遠慮な質問にとろみは一瞬沈黙したが、すぐに返事をする。


「·····あたしの両親は、ダイナマイトの両親だけですから」


とろみのその言葉を聞いた爆豪は、とろみの手を握る力を強くした。


「あなた達が、どんな回答が聞きたいかは知りませんけど·····あたしは爆殺神を宥められる、ただひとりの水霊なので!」


とろみは口元に、ニッと笑顔を浮かべてそう言い放つ。
その言葉は、まるで自分に言い聞かせるようなものだった。

爆豪は何も言わずにとろみを見つめていたが、やがてとろみの両手を掴み、自分の胸元へ持ってくいく。
突然の爆豪の行動に驚いたとろみが振り返るのも気に留めず、爆豪は耳をつんざくような大声でこう叫んだのである。



「·····俺と結婚しろやァア゛!!」



·····これが事の経緯だった。


「·····はぁ!?アンタ馬鹿なの!?なんでテレビの取材中にプロポーズすんのよ!!」

「あぁ!?こっちは真剣なんだわ!ふざけた質問ばっか投げかけてきやがって·····もう我慢の限界だったんだよ!!俺と結婚する気があるならさっさとイエスと言えやゴラァッ!!」

「はぁ·····!?」


爆豪に詰め寄られたとろみは、呆然としたまま硬直する。
そして次第に頭の中で状況を整理できたのか、爆豪に向かって口を開く。


「·····アンタって男は·····プロポーズするにしたって、ムードってものがあるでしょーが!!!」

「知るか!俺はテメェ以外と結婚するつもりなんかねぇんだよ!」

「·····っ!?」

「雄英でテメェと出会って、卒業して、一緒にプロヒーローになって·····俺の隣にはいつもテメェがいた。テメェ以外の女なんて考えられなかったんだよ!」


爆豪は真っ直ぐとろみの目を見てそう言った。
その目には、嘘偽りのない本心だと訴えかけるかのような熱が籠っていた。


「·····な、なによ、いきなり·····恥ずかしいじゃないのよ、バカ」


とろみは爆豪から目を逸らしながら、頬を赤く染める。


「·····で?答えは?」

「·····えっ?」

「だから、イエスなのかノーなのかどっちなんだよ」

「·····あ、あたしは·····」


とろみは爆豪から視線を外すと、周りの様子を窺う。
周りのファンたちは、突然の爆豪のプロポーズに驚いているようで、2人のやり取りを固唾を飲んで見守っている。


「っ·····あたしは、アンタが知ってる通り·····めんどくさい女だし·····アンタのこと、好きすぎてやばいくらい執着してるし·····」

「おう、よく分かってんじゃねーか」

「·····でも、それでもいいなら·····こんな女でもいいなら·····喜んで」


とろみは爆豪の瞳を見つめながら、はにかみつつそう言った。
しかし爆豪の思った通りの答えではなかったのか、爆豪は目をつりあげて文句を言い始める。


「·····はぁ!?ンでだよ!!そこは『はい』だろうが!!『喜んで』じゃねぇだろ!!イエスかノーかどっちなんだコラァッ!!」

「はぁ〜!?·····うるさいわね、普通に考えて言葉の文脈で分かるでしょうが!!それと、アンタはいちいち怒鳴らないと気が済まないわけ!?」

「おい、今すぐまともに答えろやゴラァッ!!答え次第でぶっ殺すぞ!!」

「こ、この野郎·····!プロポーズされた直後に脅迫とか、ほんっとありえないわ!!」


爆豪の理不尽さにとろみは憤慨し、スライム体で爆豪の後頭部をスパァンといい音を立てて叩いた。


「·····痛ぇなクソがッ!!」

「自業自得よ!!」


とろみはそう言って爆豪の胸ぐらを思い切り掴むと、そのまま引き下げ、近づいた爆豪の唇にキスをした。


「·····!?」

「·····」


爆豪ととろみの目の前にいるリポーターも、他のリポーターも、リポーター達の周りでインタビューを受けているヒーローたちも、周りで見ていたファン達も·····目の前の光景にみんな唖然として固まる。

·····そんな中、とろみは爆豪から顔を離すと、思いっきり勝ち誇った顔でこう言い放った。


「·····これで分かったでしょ、ダイナマイト。あたしはアンタのことが大好きだって·····愛してるって!」


ぺろ、と口の端を舐め上げると、とろみは爆豪の額に軽くデコピンする。


「·····チィッ、やられたぜ」


爆豪は悔しげに舌打ちすると、そのままとろみを抱き寄せて人前なのも全く構わず熱烈なディープキスをする。


「·····っ!?ん·····む、んむ〜!!」


暴れるとろみを全く気にせず、吐く息を一息も逃さないとばかりに舌を絡めては酸素を奪いとり、開放された頃にはとろみは真っ赤な顔でふらりとよろけて、爆豪にもたれかかった。


「·····へっ、ざまぁみやがれ」


爆豪は自分にもたれかかるとろみの肩を抱き寄せて、リポーター達の方を向く。


「·····そういうことだ。俺はこいつのことだけは誰にも渡さねえ。絶対にだ」

「爆殺神ダイナマイト、それは独占欲という奴ですか?」


リポーターの一人がマイクを向けるが、爆豪は「ああそうだ、悪いか?」と即答し、その言葉に辺りはシンとなる。


「·····ダイナマイト!ウンディーネ!お二人とも素晴らしいです!是非番組のエンディングで密着取材のVTRを流させていただきます!!」


リポーターが興奮気味に声を上げるが、爆豪は不機嫌そうな表情のまま無視して歩き出す。
そんな爆豪の後ろをついて行きながら、とろみは嬉しそうに微笑んでいた。


「·····あたしみたいな女捕まえたからには、アンタもう逃げられないわよ。お生憎様!」

「ハッ、上等だ」


爆豪は鼻を鳴らすと、とろみの腰に腕を回す。


「········まぁ、あたしも、あんたしか見てないんだけど」

「あぁん!?聞こえねーぞ!」

「うるっさいわね、何でもないわよ!」


爆豪ととろみは、お互いに見つめ合い、そして同時に吹き出した。


「·····あたし達、結婚すんのよね」

「·····あぁ、そうだ」


そう言って、爆豪はとろみの頬を優しく撫で上げる。


「ふふ·····あたしに『爆豪』の苗字くれるの?」

「·····嫌なンか」

「まっさかぁ!あの家ととうとう縁切れると思ったらせいせいするわ!」


とろみは笑顔でそう言って、爆豪と腕を組む。


「·····ただ、勝己とこれから先もずーっと一緒に居られるのが夢みたい、って話よ」

「·····フン、当たり前だろ」


爆豪はとろみの顔を見つめると、優しい笑みを浮かべる。


「テメェの帰る場所は、俺の隣だけだ」

「·····あら、今日は随分素直ね」

「うっせ」


2人は笑い合うと、お互いの指を絡めるように手を繋ぎ、恋人つなぎにする。


「忘れないでよね、爆殺神を宥められる水霊はあたしだけだけど·····水霊を宥められる爆殺神はアンタだけよ」

「·····当然だろ」


2人は見つめ合うと、どちらからともなく笑いあったのだった。



·····そして翌日。



「·····あそこで勝己のプロポーズ、受けなきゃ良かった·····」


ラグマットの上でスライム状態になってとろけているとろみがそう呟くと、爆豪は「あ゛ァ!?」と不満そうな声を上げた。


「何が気に食わねぇんだよ」

「·····あんな公衆の面前で公開プロポーズされるあたしの身にもなってみなさいよ·····おかげさまでSNSは大炎上よ」


とろみはそう言うと、ジト目で爆豪を見る。


「俺のプロポーズが嫌だったってのか?」

「·····嫌じゃないもん」

とろみは頬を膨らませながら、プイッとそっぽを向く。


「可愛いなテメェ·····オラ、こっち向けや」


爆豪はとろみを引き寄せて持ち上げると、膝の上に乗せて自分の方に顔を向かせる。


「やっ」

「ヤダじゃねぇ」


爆豪はとろみの顎を掴み、無理やりこちらを向かせた。


「·····やめてってば」

「やめるかアホ」


爆豪はとろみにキスすると、そのままぎゅっと抱きしめる。


「んぅっ」

「·····とろみ」


爆豪はとろみの名前を呟くと彼女の首筋に顔を埋め、甘えるようにすり寄った。
それを見たとろみは呆れたように笑うと、同じようにぎゅっと爆豪を抱き返した。


「·····ねぇ、勝己」

「ンだよ」

「·····ほんとに、あたしでいいの?」


とろみは爆豪から視線を逸らすと、不安げな声でそう言った。


「······どういう意味だよ」

「だってあたし、めんどくさい女だし······」

「アホ。そんくらい知っとるわ」

「家庭環境詰んでるし·····」

「それも知っとるわ」

「······でも、それでもいいの?」

「しつけぇ」


爆豪はとろみの頭を撫でる。


「テメェは俺が選んだ女だ。だから自信持てや」

「·····うん」


とろみは爆豪に抱きつくと、爆豪の胸に顔を埋める。


「·····あたしのこと、一生離さないでね」

「おう、約束だ」


爆豪はとろみの額にキスを落とすと、またとろみを強く抱きしめた。
後日、爆豪ととろみの密着取材の映像が放送され、二人の人気はさらに高まることになるのだが·····それはまだ先の話である。



ーーーーーー
プロヒ設定でなおかつプロポーズネタが書きたかった·····!!
個人的にかっちゃんは(見せつける目的で)人前でも気にせずキスしたり愛を叫ぶタイプだと思ってます。

20220401

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