ミモザの香り
·····勇樹は、自由奔放なタイプのオネェだ。
なので正直、クラスの委員長的ポジションである飯田と恋人同士と言われてもにわかに信じがたいものがある。
勇樹もそれを自覚してはいるのか、男同士だと言うことを気にしているのか·····とにかく人前ではスキンシップを(勇樹なりに)控えめにしているが、2人きりになるとベッタリと甘え出す。
「·····天哉ちゃんといられて、アタシとっても幸せだワ」
感情が高ぶっているのか、ぽこぽこと体のあちこちから勇樹の個性で花が咲いては床に落ちていく。
それをお構い無しに勇樹は隣に座っている飯田の腕にぎゅっと体を寄せて、少しでも彼にくっつこうとする。そんな姿に飯田も悪い気はしないらしく、苦笑しながら彼の頭を撫でていた。
「·····ね、天哉ちゃん。アタシのことぎゅーってして欲しいんだケド·····ダメかしら?」
「はは、仕方ないな·····おいで」
そう言って飯田が腕を開くと、勇樹はぱあっと表情を明るくさせてその中へと飛び込む。
勇樹が飛び込んできた際に、甘い花の香りと薄い化粧品の香りが、飯田の鼻をくすぐった。
「·····アタシ、こうしてぎゅっとするの好きなのよネ。2人きりならこうして天哉ちゃんにキスも出来るしィ·····」
ちゅっ、と頬に柔らかい感触を感じ取った飯田は顔を赤くさせる。
「き、君はまたそういう事を……!」
「だってェ、学校じゃくっつけないしキスも出来ないじゃなァい?アタシこう見えてもすっごい我慢してンの!」
ぷんすか!という擬音が似合いそうな勢いで頬を膨らませる勇樹に、飯田はやれやれとため息をつく。
「·····俺だって同じだ。勇樹にはいつだって触れたいと思ってるが·····」
飯田はそこまで言って口ごもるが、勇樹は彼が何を言いたいのか分かっていると言わんばかりに眉を下げると、飯田の胸元にしなだれかかった。
「ん·····個性社会でも、まだまだ同性愛が許されない事くらい、アタシも分かってるつもりヨ。だからアタシ達はこの関係を秘密にしてるンじゃないの。」
「勇樹·····」
「いつかバレちゃうかもしれないけどネ……それでもアタシは天哉ちゃんと一緒にいたいし、愛していたいのヨ」
ふわりと微笑む勇樹を見て、飯田は何も言えなかった。
もし自分達の関係が周りに知られた時、どうなるかなんて目に見えている。
·····だがしかし、自分は彼を手放したくはないのだ。
例え世間から後ろ指さされようと、軽蔑されようとしても、彼だけは絶対に守ろうと思っている。
そしてそれは自分だけではなく、勇樹も同じ気持ちだった。
「·····ああ、そうだな。俺達の関係は誰にも知られてはいけないものなんだ。だけど·····」
「うん·····」
「せめて2人の時は、お互いを愛し合う時間があってもいいんじゃないかなって思うんだ」
そう言いながら、飯田は勇樹を抱き寄せる。すると勇樹は嬉しそうに擦り寄って、「そうよネ!」と答えた。
「·····ねぇ天哉ちゃん、アタシの事好き?」
唐突に問いかけてきた質問に、飯田は一瞬だけ固まるがすぐに答えた。
「あぁ·····好きだ、世界で1番愛している」
「ウフフ!アタシも天哉ちゃんが世界一大好きヨ!!」
2人は顔を見合わせると、どちらからともなく唇を重ねた。
しっかりと飯田と手を繋ぐ勇樹の手首には、ミモザの花が咲き誇っていた。
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ミモザの花言葉·····「秘密の恋(西洋)」「密かな愛」「思いやり」
202204026
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