「·····あいしてる、俺の可愛い·····可愛いヒミコ·····」

まるで子供が絶対奪われたくない宝物でも抱きしめるかのように、ぎゅっと腕の中にいるトガを抱きしめながら、想はぼんやりとそう呟く。その声音には愛情が籠っており、どこか狂気染みていた。

そんな彼の様子に、トガも気づかない訳がない。
彼女は自分の首筋や頬に当たる彼の吐息を感じながら、ひどく嬉しそうな声で「想さん、カアイイねぇ·····」と囁いた。そして彼女の小さな手が、想の頬に触れる。

つつ、と指先がゆっくり頬を滑り、想の耳を撫で、指先に触れたピアスがぶつかってちりんと小さい金属音を鳴らしたその瞬間、想の身体がびくりと震える。トガはその反応を楽しむようにくすりと笑うと、「ねえ、想さん」と甘えたような声で言った。

「私、想さんが好き·····だから、想さんになりたい·····想さんを殺したいんです·····!」
「そっか·····お前がそうしたいならいいぜ?俺はヒミコになら何されたって大歓迎だぞ·····?」

想がとろんとした顔でそう言ってトガの頬を撫でれば、トガはいやいやと首を振って想に抱きつく。

「でも、想さんを殺したくないって気持ちもあるんです·····こんなの、初めてなんですよ?」
「·····そりゃあ光栄だなぁ」

ふわふわとした口調で喋り合う二人だったが、その内容はひどく物騒だった。しかしそれを気にする者はここにはいない。2人きりのこの空間では、何を言っても許されるのだ。

「ヒミコはこんな出来損ないの俺のこと、そんなに好きでいてくれるんだな·····嬉しいよ」
「当たり前です!だって私は、想さんのことが大好きなんですから!!」

満面の笑みを浮かべて叫ぶトガを見て、想もまた微笑む。それはとても幸せそうであり、同時に狂っているように見えた。

「·····想さんといる時だけは、私は普通の女の子でいられるんです。血塗れの私じゃなくて·····ただの恋する一人の女の子になれる·····」
「んー、そうだなぁ·····ヒミコが望むなら、俺はいくらでもお前を女の子にしてやるよ?」
「·····本当ですか?」
「あぁ。そりゃあもう可愛く着飾って、綺麗に化粧をして·····あぁでも、そうしたら他の男が寄ってくるかもしれねェか·····そいつらは全員殺さないといけなくなるなァ·····」
想が愉悦に満ちた声でそう言うと、トガは嬉しげに身を震わせた。
「ふふっ·····私は想さんにしか興味ないから、大丈夫ですよぉ?」「·····ならいいけどよ」
想の独占欲に、彼女はますます笑みを深める。
「想さんのそういうところ、大好きです·····♡」
「俺もだぜ。ヒミコが俺だけを見てくれてるって思うだけでゾクゾクする·····」

想の指先が、ゆっくりと彼女の身体を撫で上げる。まるで焦らすような動きに、トガは小さく喘いだ。

「俺はどんなヒミコも愛してんだ·····血塗れのヒミコだって、お前の一部なんだろ?それも含めて全部好きだし、お前を愛したいと思ってる」
「あっ·····うぅ·····」
想の言葉一つ一つに反応しているのか、彼の腕の中でトガが小さく震える。

「·····ヒミコは、何にもおかしくねぇよ。お前の愛を認めない、お前の愛し方を分かりもしない奴らのことなんか、忘れちまえ」
「想さ、ん·····」

甘えるように名前を呼ばれ、想はくすりと笑うとトガの背中を小さい子を宥めるようにぽんぽんと叩く。するとそれに安心したのか、トガは彼の胸に顔を押し付けるとすうっと大きく息をした。

「·····想さん、すきです」
「うん」
「だいすき」
「前から知ってる」
「あいしています」
「俺もだよ」
「ずっといっしょにいたい」
「離れたりできるもんか」
「わたしだけをみて」
「ヒミコしか見てねぇよ」
「もっとぎゅってしてください」
「はいはい·····」

甘えん坊な子供をあやすように返事をしながら、想がトガを強く抱きしめる。その力強さに、トガが嬉しさに頬を緩ませる。

「想さんの匂い、好き·····落ち着くんです」
「そうかい、俺もだよ」
想はトガの頭を優しく撫でながら、ふわりと笑う。
「·····想さん、想さん·····」
「どうした?」
「想さんは私のこと、嫌いになりませんよね?」
不安げに問いかけられた言葉に、想が目を細めた。

「·····不安そうな顔で何を言ってんだろうなぁ、俺のお姫様は!」
「きゃっ!?」
突然、想がトガの肩を掴むとそのまま押し倒す。そしてトガの上に覆い被さった彼は、楽しげに笑い声を上げた。
「ヒミコは馬鹿だなぁ。お前の事を嫌いって言うくらいなら自分の個性で発狂して死んだ方がマシだっつの!お前の事を嫌おうなんて、そんな事ある訳がないだろうが」
「そ、想さん·····」
「·····こんなに可愛くて、綺麗で、優しい女の子を嫌う男なんざこの世に存在しねェんだよ·····まぁ、ヒミコを愛せるのも、愛されるのも、世界に俺一人で十分だがな!」
想がそう言って高らかに笑えば、トガはぽかんとした顔で彼を見つめていた。そしてやがてふふふとおかしそうに笑い出すと、「やっぱり、想さんが一番です」と言って想の胸元にすり寄る。
それを見た想は満足そうな顔をしながら、自分の右親指の先を噛みちぎってトガの唇に押し当てた。
「ほら、口開けてみろよ?」
「ふぁい」
素直に開かれた小さな口に、想は自分の血で赤く染まった指を押し込む。トガはそれを躊躇なく舐めとり、こくりとその喉を動かして飲み込んだ。
まるで赤子が母親の乳を飲むかのように、トガは夢中で想の血を飲み続ける。「美味いか?」
「おいひい、れふ·····」
「そうかそうか、そりゃあ良かった·····俺なら、お前が欲しがるならいくらでも飲ませてやれるぜ?だってそれがお前の愛し方なんだもんなぁ·····」
想がそう言って妖しく微笑むと、トガはうっとりとした表情で彼を見上げた。
「私も·····いっぱい、想さんが欲しい·····」
「·····いいぜ、いくらでもくれてやるよ。俺の可愛いお姫様にな」
想はそう言ってトガの顔中にキスを落とすと、トガもまた嬉しそうに笑って彼を受け入れた。「想さん、大好きです」
「あぁ、俺もだ」
二人はお互いの身体を抱き寄せ合い、再び深い眠りについた。この狂った世界で、彼らは今日も互いを求め合う。
例えこの先にどんな未来が待ち受けていようとも·····彼らにとっては些細な問題に過ぎないのだ。

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