·····想は頭を悩ませていた。

目の前には血塗れになった女の死体、胸元には、泣きじゃくっている可愛い恋人のトガヒミコ。


「(あぁ·····俺、後で弔に殺されるかもしんねぇなぁ·····)」


そんなことをぼんやり考えながら、トガの背中をぽんぽんとあやす様に叩いてやる。するとトガが涙目になりながらも、キッ!とこちらを見上げてきた。

·····それは、遡ること5時間前。
依頼でターゲットの女性を色仕掛けして情報を得ることになったと告げられた想は、弔に文句を言っていた。

「つーか、何で俺なんだよ!荼毘に行かせりゃいいだろ!?」
「あいつにハニートラップやらせたら、秒で殺しちまうだろうが!」
「·····それは否定しねぇけど!!」
「それに·····お前が一番こういう任務向いてるからだ。化粧で変装できるし、女の扱いも上手いだろ」
「いや、それでも·····今からでも断れねぇのか!?」
「うるせェな、もう依頼主に承諾してしまってんだから諦めろ」
「·····ざッけんな!このクソ野郎ッ!!!」

結局押し切られてしまい、渋々引き受けることになった想は、恋人であるトガにきちんと説明して「自分から女に触れない」「絶対にキスもセックスもしない」と約束を取り付けて任務に行くことになったのだが·····まさか、こうなるとは思わなかった。

ターゲットの女性が思っていた以上に想を気に入ったらしく、ホテルまで連れ込まれそうになったのだ。しかも、その女性は中々しつこい性格をしていたようで、「私なら抱けるわよね?」と言って迫ってきた。しかもキスまでしようとする始末。
それを偶然、別の任務であおぎと共に近くに来ていたトガに見られ、激昂したトガは女性を殺してしまったという訳だ。

「·····こんな人、血塗れでも全然カアイくない!!チウチウする気にもなれません!!」
「んー·····そうだよなぁ·····」

トガの言葉に同意しつつも、想はどうしたものかと考えていた。

想としては言い寄られるのは良い気分では無いものの任務遂行のために我慢して、なんとか自分の個性の幻覚で誤魔化そうと思っていたのだが·····それが、この始末である。

·····トガ自身は想が何よりも自分だけを愛していると知っているので、浮気されたと勘違いしている訳ではない。だが、やはり自分の知らないところで大切な人に手を出されたというのが気に食わないらしい。

「あ〜·····まぁ、情報は取れたし·····もう、どうでもいいか·····」

想は諦めたようにそう呟くと、未だにぐすぐす泣いているトガをお姫様抱っこして歩き出した。

「なぁ泣くなよ、俺の可愛いヒミコ〜·····ちゃんと俺は、ヒミコとの約束守ってたぜ〜?」
「うぅっ·····ほんとですかぁ?」
「本当だよ、俺から触ってないしキスもしてない·····俺のキスはヒミコだけのモンだって、いつも言ってるだろぉ?」
「あっ·····えへへ·····♡」

想はトガの機嫌を取るために、優しく頬に口付けをしてやるとトガは先程の厳しい表情から一変して、にへっと柔らかく笑って少し笑顔になる。

「綺麗な金色の目が涙でとろとろになっちまったなぁ·····でも俺のせいだもんな·····ごめんな、ヒミコ·····」
「·····ふぇ?なんで謝るんですか?」
「だって·····お前が怒るようなことしちまったからさ·····」
「ふふ、大丈夫ですよ!私はどんなことがあっても、想さんのことを信じてますもん·····それに、私が怒ってるのはあの人だけです!」
「そっか、ありがとな·····」

優しい恋人に感謝しながら、想はトガをあおぎの元へと連れていく。
想から経緯を聞いたあおぎは、呆れたような顔をしながら溜息を吐いた。

「トガちゃんがいなくなったと思ってたら·····そういうことだったのね·····勝手な事しちゃダメでしょ、もう」

あおぎはむにぃ、とトガの頬を痛くない程度に軽く引っ張って叱るが、トガはぷくーっと頬っぺたを膨らませて拗ねる。

「だってぇ!ムカツクんですもん!私の想さんなのに、あんなにベタベタして·····!!」
「だからって殺しちゃったら元も子もないじゃない。ねぇ想」
「·····まぁ、必要な情報は取れたし別にいいだろ·····なぁヒミコ、俺と一緒に後で弔に怒られような〜?」
「はーい」

想の言葉に素直に従うトガを見て、あおぎはやれやれといった様子で肩を落とす。
「·····あんまり甘やかすのは良くないと思うけど」
「仕方ねぇだろ、俺にはヒミコしかいねぇんだから。お前だってハヅネと荼毘には甘ェくせに」
「······うるさいわね、刻むわよ」
「おーこわ」
想が揶揄う様に笑うと、あおぎははぁ、とため息をついて諦めたようにこう言った。

「·····トガちゃんのやったことの後処理は私に任せて。ちゃんと弔くんにも説明するから」
「ん、すまねぇ」
「とりあえず、トガちゃんのご機嫌直してあげたらどう?今のままじゃ、トガちゃんが可哀想よ」「うっ·····」
トガに視線を向けると、トガは想と目が合うとにぱぁっと可愛らしく笑みを浮かべて抱きついてきた。
「想さ〜ん!」
「はいはい、よしよし」
「えへへぇ♡」
トガの頭を撫でてやると嬉しそうに目を細めるトガ。その光景を見ていたあおぎは、苦笑いしていた。
「本当に仕方ないわねぇ·····後は私が何とかするわ。2人で先にアジトに帰ってていいわよ」
「じゃあお言葉に甘えて·····よいしょっと」

再びトガをお姫様抱っこした想はそのままアジトへと帰っていく。そんな2人の背中を見送ったあおぎは、1人小さく呟く。
「全く·····想ってば、トガちゃんには本当に甘いんだから·····」
そう言って、あおぎは今回の件についての報告をするために、纒と弔に電話をかけた。

·····その後、なんやかんやあったがあおぎと纒の尽力により、トガと想は無事に弔に許して貰えた。

そしてその日はトガと想はずっと離れることなくべったりとくっついたままで、その仲睦まじさに敵連合の仲間たちは呆れるしか出来ないのだった。

·····その後、想の部屋で2人は一緒に寝ることになり、ベッドに寝転がっている想の上にのしかかるようにしてトガが上に乗っていた。

「弔くんに怒られちゃいましたねぇ」「あぁ·····弔にはしこたま嫌味言われたけど·····崩されなかっただけ、マシだよな·····」

そう言うと、想はトガの頭を優しく撫でる。するとトガは嬉しそうに笑って想に擦り寄った。
「私も、纒ちゃんとあおぎさんに叱られましたぁ·····でも、2人とも最後にはちゃんと許してくれましたよ!」
「そりゃ良かったなぁ、ヒミコ」
「はい♡」
お互いに抱きしめ合いながら、想はトガの唇に優しく口付けをする。それを受け入れながらもトガは想に問いかけた。
「想さん、消毒·····してもいいですか?」
「ん?何を?」
「あの女の人に触られたところです!全部、私で上書きします!!」
そう言ってギュッと強く想を抱き締めると、トガは頬をすり寄せてくる。
その仕草が愛おしくて、想も優しくトガの身体を強く抱き返した。
「分かったよ、ヒミコ·····好きにしていいぞ」
「ふふっ、ありがとうございます」
トガは想の服に手をかけると、ゆっくりと脱がしていく。想も抵抗せずにトガにされるがままに服を脱がされて下着姿になると、トガも自分の着ていた服を全て脱いだ。

「·····お前も脱ぐのか?」
「当たり前です!だって私だって、想さんの匂いでいっぱいになりたいんですもの!!」
そう言ってトガは再び想を押し倒してくると、そのまま肌を重ね合わせてお互いの体温を感じる。いつもより熱い気がするのは気のせいでは無いだろう。
「·····じゃあ、どこを触られたのか·····素直に教えてくださいね?」
「あぁ、もちろん良いけど·····えーと確か、腕と肩·····あと腰も触ってきたっけな·····あ!約束した通り、俺からは触ってねぇからな!」
「ふふ、分かってますよ〜」

想の必死な弁解を聞き流しながら、トガは想の腕や肩にゆっくりと時間をかけて触れていく。

「ふふっ、やっぱり想さんの方がカアイイねぇ·····」

トガは舌なめずりをしながら、想の肩口に噛み付く。その瞬間、ほんの少しの痛みと快感が同時に襲ってきて想はビクッと震えた。
トガは噛むだけでなく、ペロリと舐めてから痕を残すように吸い付いたり歯形を残したりとやりたい放題に想にマーキングを施す。その間、想はトガにしがみ付いて快楽を堪えたいのを必死に我慢して、その代わりに握りしめていた拳にグッと力を込めた。

「んっ·····ちゅぅ·····ふふ、こんなところかなぁ」

満足するまで堪能した後、トガは想の傷口にキスをしたり、指を滑らせて自分の唇や指についた血をペロッと舐めとる。

「血塗れでボロボロじゃない想さんも大好きですけど·····やっぱり血が出てる想さんが1番カアイイですねぇ」
「·····出来損ないの俺の血なんかでヒミコが喜んでくれるなら、安いもんさ」
「ふふ、想さんは自分がどれだけ価値のある人間か分かってないんですねぇ·····」
「えー、そうかぁ?俺の価値なんて、お前に比べたら塵芥だろ」
「そんなことありませんよぉ?私は想さんだから好きなんですよ·····だから絶対に他の人にはあげない。私だけの想さんなのです」

トガが独占欲を露わにしながら想の胸に頬を寄せると、彼はくすっと笑いながらトガの頭を優しく撫でてやる。「俺はお前のものだ、お前だって俺のものなんだぜ?ヒミコ·····」
「はい!想さんは私のもので、私は想さんのものです!!嬉しいですねぇ」
トガは幸せそうな表情を浮かべて想に抱きつくと、想も優しく抱き返す。
「じゃあそろそろ、続きしましょう?想さん」
「そうだな、今度は俺がお前にマーキングしてやんよ」
「きゃー♡」
2人は互いにクスクスと笑い合うと、また激しく求め合うのであった。
·····後日、散々血を吸われたり体を重ねまくったため少しやつれた想が、弔に「連合の仲間減らしたくなかったらハニトラだけは勘弁してくれ」と泣きついたのは、また別の話である。

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