仲間の一人が幸せになれたなら

「俺結婚するんだ」

いつもの仲間達の集まりの時。拓篤からの言葉に、達央、マモ、渉、そして俺がビールを吹き出しそうになりながら驚いた。

「まじか!?」
「ついにかー!!」

各々が言葉を発する。いやーついに俺達の中から結婚する人が出るなんてね。マモはとっくの昔に結婚してるし子供もいるわけだけど。それとこれとは別だ。

「おめでとう拓篤」
「ありがとう晃」
「あぁ、まずはおめでとうだね」

びっくりの方が勝っちゃっておめでとうの言葉が出ないのも頷ける。まずはおめでとう。その一言を言えば、続くように他の奴らもおめでとうと言った。
俺はビールを一気に口に運び、空になった缶をビニール袋に入れて立ち上がり台所へと向かった。

「次何飲むー?」
「ビール!」
「俺もビール頂戴!」
「はいよー」

冷蔵庫を開けながら聞けば、達央と渉の声が聞こえた。俺と二人の分のビール計3本持って冷蔵庫を閉じる。二人にビールを手渡して、俺はまた床にあぐらをかきながら聞いた。

「聡美ちゃん?」
「長いよね、何年だっけ?」
「8年かな?」
「おーついにかー満を辞してって感じだな」

声優っていう仕事も楽ではない。熱愛が出て仕舞えば少しざわつくのも仕方ないし。拓篤と聡美ちゃんは隠れながらもしっかりと二人で歩んでた。俺達はそれを知ってたから、やっと公開出来るんだなということに嬉しい気持ちだった。

「勇気いるべ」
「まぁね〜でも晃だって勇気ある行動してたからさ、俺達も勇気出すかーって」
「俺?」

達央がビールをがぶがぶ飲みながら拓篤にそう聞けば、拓篤は梅酒をゆっくり飲みながら、俺に視線をずらしてこう言った。
マモが机に置いていたつまみに手を伸ばすのが視界の端に見えたため、俺も同じように腕を伸ばす。マモは当たり前のように俺の名前を言って、うなずいた。

「あぁ、あっきーめっちゃ勇敢だったもんね」
「交際を公開するのって、誰でも出来るもんじゃねーよ」

2年前だったかいつだったか。俺は確かにラジオを通じて交際宣言をした。あの時は勇気を出そうって思ったことじゃなくて、自分に素直に、ファンには嘘をつきたくないと思ってやろうとしたことだから。

「公開した時はびびって仕方なかったけど、今はめっちゃ楽だよ」
「だよなー隠れて付き合うのって結構辛いもんだし」
「うんうん….マモくんの時なんて大変だったもんねえ…」

マモはこの中でいち早く結婚をした。その時の様子は今でも覚えてる。

皆、一瞬シーンとなりながら各々酒を口に含んだ。声優とはいえ俺たちも男の一員。好きな人と付き合って、結婚したい。その気持ちは全員持ってるものだ。

「さ!飲もうぜ」
「だな」

こんな空気もおかしいだろ。仲間の一人が結婚するんだ。お祝いモードになるのが一番大切なはず。
俺の言葉に達央が同意して、さらにビールを煽るように飲んだ。

「拓篤の結婚祝いだ!二日酔いになるまで飲もーぜ!」
「いいねいいねー!今日はあっきーの家に泊まっちゃおー!」
「お願いしまーす!」
「勝手に決めんなよ別にいいけどさ」

若かった頃。よくこのメンツで集まってた。売れなくて仕事がない時、なぜか全員共演できたゲームの収録の帰りや、まだ全員独り身で時間があった時。俺たちはいつも集まっては仕事の話やなんでもない話しを肴にアルコールを浴びるように飲んでいたな。

みんな1人ずつ、大人になっていく。なんだかそれがモノ寂しくて、でも、嬉しくて。

俺は少し感情に浸りながら、ビールを飲んだ。

「あああマモ、袖めくって、ソースつくぞ」
「ゴッメーン」

だけど、どんな年になっても変わらないこいつらとの時間が、好きだったりするんだよな。



prev 戻る next
憂いにキエル。