愛されてる彼が、とても愛おしい。


「「お帰り松来〜!!!!」」

無事に退院をして、一発目の仕事はこのラジオだった。大好きで仕方ないチェリーベル。鈴村さんと櫻井さんがクラッカーをパンパンと鳴らしながら笑顔を浮かべてくれている。その二人の姿をみて、あぁ帰ってきたなと心から思った。

「ただいまーーー!!!」

マイクに向けて目一杯叫んだ。気持ちいい。なんて清々しいんだろう。鈴村さんが何故かイチゴ牛乳を片手に私にカンパーイと言った。

「いやー松来がついに帰ってきましたよ皆さん!」
「ほんとおかえり、待ってたんだよ皆」
「ありがとうございます!頑張って治してきました!」
「もう完治なの?」
「完治ではなくて…少し制限しながらの復帰になります。あと数年は様子見とお医者さんからも言われました」

完璧な仕事復帰というわけではなかった。制限をしながら少しずつ声優の仕事をやっていければいい。数年かかってもいいから、また好きな仕事ができるのなら、と。私はそれを了承して、今この場にいる。

私の言葉に櫻井さんは頷きながら、そして鈴村さんは少し涙目になってまた笑ってくれた。

そう、戻ってきたんだこの場所に。大好きな場所に。輝ける場所に。

胸がいっぱいになる。もう戻れないかもしれないと思っていた。もうこの人たちに会えないのかもしれない、と。二人もスタッフの皆さんも事務所の人達も皆、私のことを笑顔で迎えてくれて、そして優しくおかえりって言ってくれた。本当に嬉しくて、本番が始まる前にも泣きそうになったことを思い出す。

「そっかそっか、でも少しずつ戻ってこれるならいいね」
「あんまり無理はしないんやで、皆心配しとったし」
「ね、晃とかすごい心配してたよね」
「あいつずっと怒ってたわ」

と、ここで晃君の話になった。やばい。どうしよう、ドキドキと緊張で心臓が破裂しそうだ。帰ってきたばっかりのこのラジオで言うことじゃないしまだ言わないけれど、そもそもこの二人にもまだ言ってない。というか言えてないから、こんな話題を出してきたんだと思う。

確かによく、私は晃君の話題をこのラジオでしていた。仲のいい後輩として彼のことをお話ししたり、女性リスナーの多いこのラジオで、女性に人気の晃君の話題もしてあげたいなと思っていたから。

でも今はこの気遣いが、なんだかすごく恥ずかしい。

「晃君に、すごく怒られましたよ」
「「だろうな〜」」
「あいつ心配性だしね、人の心配はするけど自分の体調とかあんまり省みない」
「そうそう、それで何回俺らが怒ってきたことか!」

この二人にとても愛されてる晃君の話は止まらない。人のことは心配するくせに、自分の心配はしない晃君、というのは彼の先輩にあたる部類の人たちには有名で。私も何回彼の心配をしたことか。

でもそこが晃君らしい。心配かけたくない。その思いは痛いほどにわかるから。

「でもまぁよかった。晃も喜んでるね、松来が戻ってきて」
「本領発揮やね。兎にも角にも松来お帰りや!また3人で頑張っていこーな!」
「はい!これからもよろしくお願いします!」

3人でたくさんわらいながら、こうやって復帰初の仕事は無事に終わった。
収録も終わって鞄を手にしたとき、鈴村さんと櫻井さんが私の肩に手を置いて、ご飯に行こうと誘ってくれた。

「復帰早々だし遅くまでは連れて行かないから、ご飯だけでも行かない?」
「あ、はい!お二人にお話ししたいことがあって…」

絶対に絶対に二人には言わないといけないと思っていたこと。むしろ、私からお誘いしようと思っていたのに逆に誘ってもらって申し訳ない気持ちだ。
私はカバンの紐をギュッときつく握ってそう言えば、お二人とも顔を見合わせてキョトンとしていた。







「で?話したいことって?」

烏龍茶で乾杯をした。本当はお酒の場とかで言いたかったけれど、二人とも私に気遣ってかお酒は頼まずに烏龍茶を頼んでくれた。
コップの中の氷がカランとなる。滴で濡れた手をお絞りで拭きながら、サラダを取り分けてくれた櫻井さんに頭を下げて、私は口を開いた。鈴村さんが鍋の豆腐をあつあつと言いながら食べている。

「あの…」
「「ん?」」
「私、実は…」
「「ん???」」

ゴクリと、唾を飲み込む。両親でもないのにこんなに緊張するなんて。手をきつく握って、よし、と意気込んで思い切って言ってみた。







「晃君と、結婚を前提にお付き合いすることになりました……!!!!」






シーーーン、と、静まる。周りのガヤガヤとした騒ぎがやけに耳について聞こえた。
下を向いて話してしまったから二人の反応がわからない。わからないけど、多分固まってる。だっていつものようにうるさく騒いでくれない。本当に固まってしまったんじゃないかと私は顔を見上げてみた。

櫻井さんはサラダを取り分けている途中で、机の上に全部落としていたし、鈴村さんは掴んでいた豆腐をぽちゃんとお皿の中にこぼしていた。

「あの……」

なんとも言えない空気感。声をかけてみれば、二人は同時に口を開いた。






「「えー!!!???」」






それを皮切りに思い思いに話していく。え、まじで!?嘘!?晃と!?ついにか!?なんて各々話し始めたあと、鈴村さんがずい、と顔を近づけて肩を揺さぶってきた。

「あの晃やんな!!黒沢晃か!?」
「は、はい、黒沢晃君です…!」
「健一ストップ、大変なことになってるから」

思い切って揺さぶられたせいで髪がぐちゃぐちゃだ。慌てて手を離してくれた鈴村さんが自分の席に戻り、背中を背もたれに預けて上を見上げた。

「ついにか〜……ついに二人が付き合い始めたか……」
「まぁ……ただならぬ雰囲気はあったよね」
「ただならぬ…?」

上を見上げたままの鈴村さんを横目に櫻井さんがそう言った。

「晃、クールに見えるけど松来の前では尻尾振ってたよ」
「あいつこそツンデレやもんな。松来の世話をしてやってるんだと思わせときながら、本当は自分からアピールしてな」
「そうそう、俺達とのご飯より松来優先にしてることだって多かったよ」
「え!?そうなんですか!?」

確かに、俺これからご飯だったのに、とか言いながら私とのご飯に付き合ってくれることは多々あった。あぁそうだったんだ…あれ冗談だと思ってた…。私は顔を両手で覆いながらうなだれた。

「ごめんなさい…」
「いや松来が謝ることちゃうで、あいつがそれだけ松来を優先してたってことやし」
「でもついにか……え、まってさっき結婚を前提にって言わなかった?」

思い出したかのように櫻井さんがそういう。その言葉を聞いて、がばりと鈴村さんが起き上がった。

「結婚を前提にって…!?」
「その、あの……言っていいのかなこれ…」
「言え言え!晃のそんな甘い話聞いたことないから聞かせろ!」
「晃彼女ほしいしか言わないからな〜俺達も、聞きたいんだよね」

晃君って男の先輩達にどう思われてるんだろう…?思わず苦笑をしてしまった。
私は改めて、お話しするために背中を伸ばして、ごほんと咳払いをする。

「晃君に、入院してることを黙っていたことを怒られて。その後に、先輩と後輩の関係だけで終わらせるなってことも言われて」

あぁ、思い出す。あの時の晃君。
私の手を握りながら、それこそドラマみたいに、じっと私の目を見つめていってくれた。

「……結婚しようって」

恋人でもない仲のいい先輩と後輩というだけの関係だった私達を終わらせる一言。
それは、付き合おう、でもなく、結婚しよう、だった。

「先にプロポーズ!?」
「さっっっすがあいつというか…やることぶっ飛んでんなぁ…」
「晃、よっぽど松来の事離したくなかったんだね」
「そ、そうなんですか…?」
「俺以外の人と結婚しないでほしいから先にプロポーズしたんでしょ?」
「あいつ凄いわ。自信ないと出来ないでそんな事。俺だってプロポーズ緊張したのに」
「晃も凄い緊張したと思うよ」

二人がニコニコと笑いながらそう言った。
そうか、晃君も緊張したのか。その相手が私だったなんて。いつも飄々としていて、クールな印象を与える晃くんでも、緊張するんだな。
私はなんだか微笑ましく思って、思わずくすりと笑ってしまった。

「でも告白より先にプロポーズはぶっ飛んでるね」
「あいつのことこれこらぶっ本やなくてぶっとんって呼んでやろうぜ」
「晃の事をぶっ本って呼んだ事はないけど」
「黒沢晃の、ぶっ飛んでる!!に改名やろ」
「つまんなそ〜」

本人のいないところでこんなにいじられてて、改めて晃君は愛されてるなと感じた。目の前の二人がずっと目を細めながら話し続ける。止まらない晃君の話。なんだか私も嬉しくなった。

「でもおめでとう、松来」
「せや、いうの忘れとった。おめでとう」
「ありがとうございます」

櫻井さんと鈴村さんが、改めるように背中を伸ばしてそう言って。私を見つめるその顔には笑顔が張り付いていて。
ニコニコと、その周りに擬音語が散りばめられているような、そんな可愛らしい笑顔だった。

「晃なら大丈夫や」
「うん、晃なら、松来の事を任せられるね」

あいつなら、幸せにしてくれるよ。

櫻井さんのその言葉に思わず顔が赤くなった。
私は晃くんを、王子様みたいだなと思っている。いつもかっこよくて皆の人気者の晃君。いつも誠実で、努力家で、裏切らない人。

私達の彼への印象は、どこまでも共通で、そして正しくて。

「松来の門出を祝ってもう一回乾杯やな」
「だね」
「まだ結婚はしてないです…!」
「それでもええねん!」

松来、幸せになりーや!

鈴村さんのその言葉を音頭に、また烏龍茶での乾杯が始まった。カーンとなるコップの音。もうほとんどお茶は入ってなかったけど、氷で薄まったそれを一気に飲み干した。

美味しい。とっても美味しく、感じた。

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憂いにキエル。