そうだったらいいなぁ、なんて夢物語。


晃君と初めて会ったときのことを私は今でも覚えてる。鈴村さんが紹介してくれた、今イチオシの後輩って見せてくれたんだ。今だって変わらないそのイケメンぶり。当時の彼も、とってもかっこよく見えて、あぁ王子様みたいだな…って思った。

晃君はずっと男子高校で、あまり女性に慣れていなかった。その時も共演はほとんど男性ばかりで女性の方とは共演しないと言っていた。

「こんなにイケメンなんやけど女子が苦手やねん、松来で克服させてやって」
「その言い方失礼じゃないですか鈴村さん」
「松来は面倒見もいいし、丁度ええやろ。仲良くしたってな」

初めて話した時、彼は今よりも大人しくて人見知りしていた。女の人が苦手、というよりはあまり話したことがないからどうしたら良いのかわからない、みたいな感じだった。
なんとなく、可愛い後輩ができたみたいで当時の私はとても嬉しく思った。

暇な時間があれば彼を呼びつけてご飯行ったり、同じ現場になればたくさん一緒に話したり。私たちはそうやって少しずつ二人の時間を作って歩んでいった。

私にとって晃くんが必要なように、晃くんにとっても私が必要だったらいいなって、心のどこかでそう思っていた。

「結婚しよう、未祐さん」

私が入院しているって鈴村さんから聞いたらしい。晃君は私の病室まで来て、私の手を強く握りながらそう言った。

プロポーズだった。

恋人同士じゃない、先輩後輩の関係だった私達を終わらせるその言葉。思わず、目を見開いた。私の目をじっと見つめて、そらさずに言い切った晃君。

そんな時でも私はどこか他人ごとのように、「晃君、王子様みたいだな」って思った。

まだまだ人気絶頂中の晃くん。この時ぐらいから少しずつ声優の結婚ブームもあったけど、やっぱり結婚をするとファンは減っていく。
男性声優の中でも人気中の人気の彼と、私が結婚だなんて。

そんなの、晃くんに悪い。

それなのに、晃くんは私の手を離さずにさらにこう言ってくれた。

「俺、未祐さん以外で好きになれる女性なんていないです。大好きだから、結婚して欲しい」


そんなこと、言ってくれる人なんていないと思ってた。仲の良い先輩と後輩。私達はそうやって、少しずつ時間を過ごしていった。私だけが好きだって仕方ない。晃くんの人生は晃くんのもの。私だけのものじゃない。


『苺大福食べたいなぁ〜』
『はいはい、買って来てあげるから』
『晃君飲んでるのー?』
『飲んでる飲んでる。鈴村さんみたいに変な絡みしないでくださいよ全く』
『晃君は本当にカッコいいなぁ』
『カッコよくないですよ、俺』


私のわがままも、うざがらみも、カッコいいなって言葉にも、晃くんはいつも付き合ってくれた。優しい笑顔を浮かべて、付かず離れずの距離感を保ち続けて。


「好きです、未祐さん」

晃くんが、ギュッと私の手を握る力を強めた。
入院してから細くなった手も指も、晃くんの大きい手に包み込まれて消えていく。
晃くんは私の目をじっと見つめて、そして、今まで見たこともないぐらい、綺麗な、泣きそうな顔で笑ってくれた。



「私も、好きです」



私がそう答えたから、なのかな?そうだったら、いいなぁ、って。

思った。



prev 戻る next
憂いにキエル。