アスナの帰宅がまばらになったライブラ離宮は、アスナの異母弟であるレオルグとその母アイネアスが一切を取り仕切るようになっていた。
そんなライブラ離宮にクロスが帰宅したのは偶然のことであり、前当主であり、父であるクロスを出迎えたのは今年で十二歳になったレオルグであった。
「おかえりなさいませ、父上」
「おう、ただいま。大きくなったじゃないか」
クロスは屈託なく笑い、一番下の息子の頭を撫でてやる。
アスナが不在であることを侍従から聞くと、あれも忙しいものだと嘆息してみせた。
忙しくなくとも、この離宮にはほとんど戻ってこないのだが、とレオルグは父の背中を追いながらふと考えた。
姉に会ったのは最後、いつだっただろうか、と思い返してそれも思い出せないほど会ってないことに気付いた。
兄であるラーズはライブラ離宮を拠点にしているため、ここに戻ってくることが多いが、アスナは年間の殆どをシュナイゼルのもとで過ごしていた。
母はそんな現状を喜んでいたが、レオルグは離宮へ戻ってこなくても姉の絶対的な権力を感じていた。
この離宮の使用人たちは義理としてアイネアスの言うことを聞くが、決して忠誠を誓っているわけではない。
姉が帰ってくれば、アイネアスの立場などないのだ。
血の繋がりのない母に手厚くする必要性など本来はなくて、それでもアスナはレオルグにもアイネアスに手厚く接するように努めていた。
レオルグは気付いていないが、アスナは年の離れている末の弟を、たとえ半分しか血がつながっていなくともとても可愛がっていた。
アスナが配偶者を持ち、その子供が生まれてしまえばレオルグなど用済みなのだと、レオルグは考えていた。
「レオルグ、最近、剣の方はどうだ。ちゃんとやっているか?」
「はい」
――姉は十歳の頃にはすでに同年代では負け無し。
大人でも彼女に勝てるものは少なかったと言われるほどの剣士だった、と幾人もの大人がアスナとレオルグを比べていた。
勉学に追いても優秀で、あの第二皇子の傍にいるのだ、政治面でも、軍略面でもアスナは多岐にわたって類まれなる成果を残している。
姉の名代としてパーティーに出席すれば、姉がどんな人物なのか皆、大仰に語るのだ。
比べられることはレオルグにとっては負担以外の何者でもなかったが、わかりやすい目標でもあった。
――姉を超えなければ、自分は当主なれないのだろう、という漠然とした思いがこみ上げてきて、お行儀よく膝の上に置いた手を強く握りしめた。
すると部屋に侍従が一人やってきた。
「旦那様、そのお客様が」
「……今日は予定がなかったが」
「シュナイゼル殿下が旦那様にお会いしたいと」
―シュナイゼルが? と、レオルグの前で訝しげな顔を浮かべた父が椅子から立ち上がった。
「ああ、レオルグ、済まない。急な来客だ。夕食は一緒に食べよう」
「はい」
父が足早に去っていくのを見ながら、レオルグはシュナイゼルという人物を思い出していた。
――姉のそばにいる第二皇子殿下。
姿を拝見することはあるが、実際に会話したことはない。
姉の元婚約者だという話も聞いたことがあるが、詳しいことは幼いレオルグにはわからない。
なんだか、とっても気になったので、お行儀が悪いから後で母に怒られてしまうかも、と思いながらもレオルグは応接間に行ってみることにした。
「お久しぶりです、伯父上。諸国漫遊はいかがでしたか」
突然の来訪お許しください、とシュナイゼルは世の女性を蕩けさせるとても美しい笑みを浮かべて、伯父へ話しかけた。
それをハグで出迎えて、クロスは苦笑した。
「楽しかったぜ? シュナイゼルも外交と言わず、ゆっくり旅行の時間でも取ったらどうだ」
忙しいのを承知でその口ぶりの伯父に、今度はシュナイゼルが苦笑することになるが、勧められた椅子に腰掛けた。
「しかし、珍しいな。なにか用事か?」
アスナなら、お前の知っての通り、ユーロピア戦線だぞ、とクロスがいうと、シュナイゼルは穏やかな笑顔で、先日自分で見送りました、と告げた。
「ふん、仲直りしたのか。つまらん」
まるで仲違いを楽しんでいたと言わんばかりの口ぶりにシュナイゼルは嘆息した。
口ぶりこそこれであるが、伯父が一番心配してくれていたのだろうと勝手に思うことにして、シュナイゼルは連れてきていたカノンに指示をして持ってきた荷物をクロスの前で広げた。
「伯父上と久しぶりに、対局がしたかったのですが」
――チェス盤である。
黒と白で区切られたそれを一瞥して、クロスはにやりと口角を上げる。「おー、こわい」
「何の無理難題を押し付けられるかな」
クロスは黒の駒を自分の方へと引き寄せると、手際よく並べていく。
必然的にシュナイゼルは白を自分の方へ引き寄せて、同じように並べていく。
そういえば、アスナがいなくなったときもこうしてチェスをしたが、とシュナイゼルは思い返しながら、目の前で楽しげに笑っている伯父を前に、ポーンを持ち上げた。
「無理難題などと。ただ、確認したいことがいくつかありまして」
シュナイゼルは優雅だった。
世界中の女性達が恋慕と憧れを持って見つめるのも頷けるな、とクロスはその美しい甥を眺めやって思う。
ことり、とチェス盤の上に再び駒が置かれる音は二人以外の会話がない部屋には少しだけ大きく響いているように聞こえてきた。
「何かな」
クロスはできるだけ平静を装っていた。
耳に痛い沈黙が長引くのは好ましくなく、駒を動かす音でも、誰かの声でも少しでも音のある空間にしなければ、この数年でガラリとその纏う雰囲気が変わったシュナイゼルを相手にして負けてしまいそうだと思ったのかもしれない。
「シュヘンベルグ家について、少々」
ぴくり、と指が止まる。
シュナイゼルを伺い見れば、彼は先程と何一つ変わらない表情でクロスを見ている。
「伯父上が当主から降りられて、アスナが当主になった際には父上だけではなく、ナイトオブワン、枢密院からも了承が降りるのを待ったとのことですね。議事録が残っていました」
シュナイゼルは穏やかに言う。
「……そうだ。ナイトオブサーティーンになるシュヘンベルグ家の当主の叙任は厳格に定まっている。先代が死亡以外で当主を引き継がせる場合には、皇帝、ラウンズ、枢密院もしくは貴族院の三者から推挙をもらわなくてはならず、枢密院や貴族院は三分の二以上の賛同が必要となる」
――要するに、権力が多大に与えられる責任は大きく、不適格だと判断されれば、たとえ嫡子であっても否定される。
与えられる権力への責任であると同時に、皇族の血族であっても明確に臣下であることを区分付けするための拘束なのである。
「だが、そんなものは誰でも知ってることだ。俺たちは基本的に血族以外が当主になることを拒絶するが、たとえ血を継いでいても不適格ならば容赦なく廃嫡にする」
アスナは選ばれたということだ。
その意図を込めて、クロスは駒を一つ動かした。
黒のナイトが示す人物が誰だか気付いたのか、シュナイゼルは穏やかに微笑んで、話を続けた。
「例えば、当主が女性だった場合」
シュナイゼルの声はとても穏やかだ。
そのうちに僅かな動揺がにじむクロスとは違って。
「配偶をとるのが基本。だが、女性が当主になっている時、シュヘンベルグ家には必ずと言っていいほど、年が離れた弟がいる。――その弟が成長するまでの当主権の代行が多いという認識は間違っておりませんか?」
――シュヘンベルグ家の歴代には女性当主が四人いる。
その中のひとりがアスナで、実はアスナがシュヘンベルグ家で歴代初の女性当主というのはシュナイゼルが述べたことに原因がある。
――皇帝を始めとした任命者たちがはじめから当主として女性を指定したのが初めてだということ。
基本的には弟が当主となるにふさわしい人物になるまでの間の権限の代行という名目で当主になる。
シュナイゼルの指摘に、クロスは苦虫を噛み潰した顔をして頷いた。
「間違っていない。そうだな、アスナはレオルグやラーズがいるが、代行ではなく、当主として信任を受けている」
「アスナは名実ともに、推しも押されぬシュヘンベルグ家の当主というわけですね」
シュナイゼルがにこりと微笑む。
ここまで笑顔を続けられると逆に怖いが。
「そういえば、そういう当主権の代行。実はシュヘンベルグ大公爵を名乗らずともできるらしいですね」
シュナイゼルの本題が読めてきたような気がした。
「例えば――お一人いましたね、伯父上の何代前だったか、ああ、確か五代前の。その時も女性当主でしたが、その方は皇帝に嫁がれている」
シュナイゼルがまた一つ、駒を動かした。
クロスはじと、シュナイゼルを見ている。
「皇帝妃となっても、彼女は弟が当主になるまでの間ナイトオブサーティーンの権限と当主権の代行をしていた記録が残っています。まあ、実際の署名には弟の名前が記されていましたが」
「……ああ。皇室へ嫁ぐ際、与えられる皇籍を使って、一時的にシュヘンベルグ家を皇室預かりにするという方法だ。皇帝から信任を受けて、その役割を代行する、という回りくどいやり方だがな。―シュヘンベルグ家は昔から、そこから皇帝の后を出すことも多い」
シュヘンベルグ家に皇族の血が入っているというのはこれがきっかけである。
そこで子供を設けた后が子供のうちの一人をシュヘンベルグ家の本家に戻すことも多いので、紛れもなくシュヘンベルグ家は皇族の血が入っている。
現にクロスは元、皇位継承第一位だった男だ。
まあ、皇帝になれると言われていたその座を蹴ってまで、シュヘンベルグ家に出戻りしてきた男はクロスぐらいかもしれないが。
「今代でいうのなら、恐らくラーズは家を継ぐつもりはないでしょう。彼は自由を好む男だ」
シュナイゼルの指摘は尤もだった。
ラーズはすでに家に縛られない生き方を選び、自ら立身してラウンズの座についている。
正直、いまさら家名がついて回るほうが迷惑なくらいだろう。
「となれば、次の当主はレオルグですね。――私は詳しくないですが、随分と神童と言われているとか」
ドアの向こう側で一つの影が揺れた。
クロスもシュナイゼルもそれを敏感に察知していたが、敢えてそれを指摘せずに話を続けた。
「でも、彼は幼い。アスナが今ここで当主から降りるようなことが起これば、伯父上ではなくアスナがその代行をすることになるのですかね」
「……まあ、アスナが皇籍を持つことになればな」
シュナイゼルが待っていました、とばかりに笑顔を明るめた。
しれっとしているが、シュナイゼルはずっとこの言葉を引き出したかったのだろう。
「……それともあれか、シュナイゼル、お前はアスナに皇籍でも与えたいのか? あれは――皇帝になんぞ向いてないぞ」
敢えて、外した回答をした。
「アスナを皇帝になどするつもりはありませんよ、責任と重圧で彼女が潰れてしまう」
プレッシャーには強いタイプだとは思うが、それとこれとは話が違う。
シュナイゼルはわかっているくせにのらりくらりと逃げようとする伯父に微笑みかけた。
「どうです、伯父上、アスナをこの国の実質的なファーストレディにするというのは」
白のクイーンが動かされた。
それが、黒のナイトのいた場所に置かれると、黒のナイトは盤上から姿を消す。
シュナイゼルとクロスの間に、たっぷりと沈黙が持たれると、互いは視線を合わしたまま動かなかった。
しばらくして、クロスが口を開く。
「それは、シュナイゼル殿下」
クロスは臣下として発言した。
「あなたがアスナを娶られる、ということか、宰相閣下」
この国の外交上におけるファーストレディは皇帝妃たちではない。
正直な話、シャルルは数が規格外すぎる。
一人ならばそれがファーストレディで間違いないが、全員を正妻として娶っている皇帝妃たちをファーストレディと呼ぶには国際社会が困るだろう。
故に政権に於いて、二番目の権力を有する宰相の妻を、国際的にはファーストレディの扱いを受けるのだ。
夫と共に、諸外国へ出向くことも多いから、必然的にそうなるというだけのことだが。
――今、この国の宰相はシュナイゼルだ。
アスナをファーストレディにと口にするならば、宰相であるシュナイゼルがアスナを妻としなくてはならない。
シュナイゼルはにこりと笑った。
「もとより、私とアスナは婚約者でしたが?」
なにかおかしいことでも、とシュナイゼルは言ってのけた。
「解消したものだと思っていたが」
「伯父上たちにはその方が都合よかったと見えますね。ビスマルクが熱心に見合い写真を持っていく理由が何となくわかりますよ」
アスナを大公爵として使い潰すつもりなら。
言外に秘めた言葉を感じ取ったのか、クロスは初めてシュナイゼルから視線を明確にそらした。
「私もアスナも解消するなどと言った記憶はありませんよ。伯父上たちも言わなかったじゃありませんか」
「屁理屈を……」
「それでも結構。有耶無耶にしただけでは解消とはいいませんよ」
家同士の約束であって、子供同士の口約束などではないのだから。
「証文、破っておくべきでしたね」
カノンが見せてきたのは、以前皇帝とクロスの間でかわされたシュナイゼルとアスナの婚約に関する証文だ。
これがあるということは、二人の婚約は正式に生きている。
「……どこから、それを」
「伯父上が残しておくように指示をしたそうですね。――アスナを守るためですか」
シュナイゼルの指摘にクロスは黙る。
「……そうか、オズワルドとガリオンを味方につけたな」
「シュヘンベルグ家の使用人たちは、揃って私の味方をしてくれるそうですよ」
にこりと笑った。
クロスは脱力して、シュナイゼルへチェスの投了を示した。
「あれは優しすぎる。いずれ、心に限界が来ると思って、それをシャルルに許可をとって、残しておいたが―逆手に取られたな。アスナを戦場から遠ざけるためか?」
クロスは力なく笑った。
白のクイーンが燦然と立ち、その姿がまるで神々しく感じた。
「いいえ」
シュナイゼルは穏やかに微笑んだ。
「ただ、私の隣にいてほしかっただけです」
完璧な第二皇子の仮面でもなく、ただのシュナイゼルとして屈託なくそう告げたシュナイゼルに対して、クロスがそれ以上言えることは何もなかった。
「伯父上、あなたは以前、私に父上を恨むなとおっしゃいましたね」
「……ああ」
クロスは顔を上げた。
眼の前にいるシュナイゼルは両手を組んで、美しく微笑んだ。
「感謝していますよ、アスナを私に与えてくれたことを」
――たとえ、父上がアスナに何をしたとしても。
冷たく、少しだけ冴え渡った目に、クロスは何も言えなかった。
いうべき言葉が見つからなかったとも言える。
こういう時に、まざまざと見せつけられるのだ。
己の過去の罪。
娘を道具として取り扱った、自分の愚かさを。
「……シュナイゼル殿下、我が娘を妻にという御意、賜りました。あのような難儀な性格をしておりますが、殿下の后にしていただけますこと、父として喜ばしい限りです」
クロスは儀礼に則って、シュナイゼルの前に膝をついた。
「娘との婚姻に際しまして、政治的に大きく困難が訪れました際には、わたくしが陛下や枢密院に口添え致しましょう。――これでよろしいかな」
「ありがとうございます、その確約さえ得られればそれで良かったのです」
シュナイゼルは席から立ち上がった。
「お前の決心は硬い、と言うわけか」
嘆息して、クロスはつぶやく。
もう、シュナイゼルとアスナが出会って二十年近くになるはずだった。
あの頃は特段そういう意図があったわけではなく、シュヘンベルグ家から一人は皇室に嫁いでいるからという理由があって。
偶然にもアスナとシュナイゼルが出会ったということから婚約を成立させただけのことであったが。
シュナイゼルはアスナを求めている。
あれほど、世界に欲の薄い男が。
世界は、求められるものだと認識しているシュナイゼルという男が、アスナという存在だけは自分の意志で求めている。
必要としている。
そして、アスナにとってシュナイゼルは生きる理由である目的でありその全てだ。
「んで? プロポーズは」
「これから」
「これから!?」
自分の元へ最後に挨拶に来たものだと思っていたクロスは、正直驚いて、声を荒げてしまった。
「色々予定を組んでいまして。伯父上を先に味方につけておいたほうが楽なんですよ、後が」
「……ほう?」
シュナイゼルの頭の中ではすでに決着がついているようだが、相手はあの、アスナだ。
「一回は振られるだろう」
「一回で済みますかねぇ」
ああ、とクロスもシュナイゼルの言葉に納得してしまった。
騎士としての仮面を完全に取り去るなどアスナには無理だろうな、とクロスも納得がいく。
「でも勝算はあるんだろう」
クロスがにやりと笑って言えば、シュナイゼルは肩をすくめてみせた。
「相手がアスナですからね」
予想通りに動いてくれるかどうか、と表情に滲ませる。
くつくつと楽しげに笑って、クロスは立ち上がった。
「どうだ、夕食でも一緒に」
これからだろう、と言えば、シュナイゼルは首を横に振って立ち上がった。
金糸の髪が僅かに揺れて、シュナイゼルの瞳を隠す。
「いえ。実は伯父上から許可をもらったら、次の行動に移ろうと思っておりまして」
優雅に笑ったシュナイゼルに寒気を感じたのはクロスだけではないはずだ。
「――まあ、アスナをいじめるのはほどほどにしてやってくれよ」
そうやって、娘に助け舟を出してやることしか、今のクロスにはできそうになかった。
とりあえず、しばらくは皇宮でもこの話題で大騒ぎになるのだろうな、と容易に想像できた。
と、いうよりも。
シュナイゼルは大騒ぎにする気がありそうだった。
娘の苦難を、クロスは案じるしかなさそうだった。
それらの会話を聞いていたレオルグはなぜか、心臓がドキドキとして止まらなかった。
姉が結婚する。
元々、あまりこちらへは帰ってこない姉が結婚すると言われてもあまり実感がわかなかったが、きっと姉は彼のもとに嫁ぐのだろうと思った。
では、この家は?
ふと、気付いて顔をあげると、ドアが開いて、慌ててレオルグはそのドアの間に隠れるようにして小さな体を隠そうとしたが、ドアがピタリと止められると、覗き込むようにして、シュナイゼルがこちらを見ていた。
「レオルグ、そんなところで遊んでいては危ないよ」
さすがはたくさんの妹や弟がいただけはあるのだろう。
穏やかにレオルグに微笑みかけて、手を差し出して、レオルグの手を掴むと、ドアの元から引き出した。
「あ、あの」
シュナイゼルはレオルグの前にしゃがむと、髪の毛や服についた誇りを払ってやった。
「ご、ごめんなさい、あの」
「大丈夫。――済まないね」
私は、君を利用する。
アスナが騎士の座から離れるためには、君が必要だった。
シュナイゼルは一瞬たりとも表情を暗めることはなく、優しく微笑んで立ち上がった後に言った。
「期待しているよ、レオルグ」
君は姉にも劣らぬ才能を有しているだろうね。
レオルグは目を見開いた。
――期待している、なんて初めて言われた。