第九話

広い部屋に興奮し走り回る三人を見守りつつウルキオラの用意した紅茶を飲む。
「…本当によろしいんですか」
「ネルを従属官にすること?」
「いえ、例の女のことです」
つい最近ここへ連れてこられた人間の女の子、井上織姫の世話を押し付けたのは紛れもなくトップに君臨するあの人。
断ろうと思えば断れたけど、楽しそうだし。
「我儘を聞いてもらったのは私だもの。それより、女の子に必要なものは何だと思う?」
「は…必要なもの、ですか…」
「可愛い服よ。ここは娯楽が何も無いんだから!」
そう言えば、と向けた視線の先ではしゃぐ彼女の服は破れた布の切れ端みたいなもので。
「ネルの分も用意してね。女の子三人でお茶会がしたいわ」
「承知いたしました」
未だ別室にいる眠り姫との短い生活に心を馳せた。
起きたら泣き叫ぶだろうか。
置かれた状況を受け止め対応しようとするだろうか。
まあ、どうであろうとお茶会は決行するから関係ないけれど。
「ネル、いらっしゃい。汚れを落としましょう」
久し振りにお湯をはった一人には大きすぎる浴槽に放り込むと熱かったようで悲鳴に近い叫び声を上げた。
心配し慌てて駆けつけた男二人の顔面に桶を投げつけ呼びつけたウルキオラ・シファーに処理させる。
「あ、あづい…」
「慣れれば大丈夫」
「わ、わっ!」
「口を閉じないと石鹸飲み込むわよ」
両手を口に当てた彼女に愛らしさを感じた。
この子の運命は可哀想だけど、その分幸せならいいよね。
「いい子ね」
「いい子にじてたらごごにいれるスか?」
「好きにするといいわ」
ここにいるのも、ここを出るのも。
貴女を縛るものは何も無いのだから。

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