わたくしは、何の役にもたたない、弱いだけの、落ちこぼれ怪人だった。


幼い頃に家族を殺された挙句にわたくし1人だけが攫われました。

わたくしを攫った吸血鬼の怪人から教えられたことは、彼らは人間の血を吸い、引き起こされる快楽によって奴隷を増やし、怪人が地上を支配することこそが目的なのだと。その目的を達成する為にはわたくしの血が必要なのだということでした。


落ちこぼれ怪人のわたくしが、数千年もの間 彼らから生かされ続けてきた理由は、ただの傷薬としてだけ。


わたくし達のような人間に近い姿の怪人や、わたくしを攫った吸血鬼の怪人達は、いつの時代も闇に紛れてひっそりと人を襲い、そして吸血行為によって起きる快楽と依存性によって、着実に奴隷を増やしていた。個々の力は他の怪人よりも弱いし、もはや怪人と呼んでも大差ないくらいの能力を持つヒーローなんてものもいるものですから、21世紀を迎えてからは、同族で賛同した者で集まり、みんな固まって、集団で行動していました。

集団生活の中で、一つの古い城を住処としていた彼らは気位が高く、他種族とのなれ合いを好まなかった。
他の怪人とも相容れず(この集団のリーダーが言うには吸血鬼は気高い怪人である為に低能な怪人とは一線を画している為理解し合えないそうで…。)それぞれが寄り添い、身を守る為に100数人でひとつの城で暮らしていました。



もちろん、ただの傷薬のわたくしも。






『落ちこぼれが、なんで居座ってるワケ?』
『回復の為にしか利用価値がないくせに。』

『……すみ、ません。』

『アンタら伝説の創成人が出来るのは、傷を癒すのとその見た目で愛玩されることだけ!!』
『ほらもっと奉仕しろよ、お前どーせそれくらいしか役に立てねぇだろ?(笑)』

『ぃや…も、許し…て…。』



毎日のように浴びせられる罵声と暴力。誰かが死にかけた際に手首を切りつけられ、性のはけ口として体を好きなようにされる毎日。

もう、何年も、何百年も…。



わたくしを守ってくれる人は
もう誰もいない。

ただ2人を除いては、だった。




『アンタ達、さっきリーダーがこの子を探してたわよ?リーダーのお気に入り相手にそんなの見つかれば殺されちゃうけど、いいの?』



『は…運がいいわね、ほんと、何から何まで気持ち悪いわ。』
『チッ、これからって時に!』


バタバタバタ……!!


『……だいじょうぶ?おねーちゃん。』

『ありがとうございます…いつも、助けて、下さって。』

『…別に毎回助けられてるわけじゃないし…。私はああいうの嫌いで、妹が、どうしても助けろって五月蝿いからよ。』
『わたし、いってない。』
『い、いいの!姉さんの言う事に間違いは無いの!』
『まちがい、ない……。』


『…ごめんなさい…。』


『……アンタ、もう首輪も鎖も繋がれてないじゃない。逃げれるんなら逃げた方が良いわ。まだ心が壊れてないうちにね。』




この怪人組織のリーダーである、ルシウスは、長らくイェルクヴェインの血族を守り続けてきた一族の末裔で、戦闘能力も、血も、何もかもが崇高な存在として崇められていて、そんな彼に求愛を受けている(ように見えている)わたくしは、ずっと憎まれ続けていました。

誰かに暴行されそうになっている時、いつもこの、気の強い姉と、少しぽやっとした妹の姉妹が助けてくれていたのに、もうわたくしは逃げることすら億劫になってしまっていた。文字通り、心が壊れかけてしまっていたのです。

そんな時、ちょっとした事件が起きて、新しいリーダーが決まりました。その吸血鬼がリーダーとなったその日、わたくしの人生がガラリと変わることになったのです。







「お前 追放な。」


「え…?」


「アイツが消えた今、リーダーは俺だ。俺はお前みたいな存在が無くても、自らの力で地上を支配する。お前は要らなくなったんだよ。

だから、とっとと、出ていけ。」



その瞬間から、わたくしは何の前触れもなく1人突然にあの城を追い出されました。
何一つ持たないまま、山を下り、村へたどり着き、そして街へ出ました。人間の時代は大きく変わり、人間同士の大戦を何度も繰り返して、今や世界はひとつの国となっていました。

わたくしは、幼かったあのころと同じく、大昔のように人間に紛れて、人間の食事をして、人間の仕事をして人間界で暮らし始めました。
昔の暮らしも嫌いでは無かったし、火起こしせずに火がつくことも、何かが繋がっている訳でもないのに意思疎通が出来るようになっていることにも驚きました。わたくしはそれ程に長い間、あの組織の城から出たことは無かったのです。

近年の人間界もいざ住んでみるととてもいい所で。なんでもスイッチ1つで出来る機械に、速い乗り物、数々の娯楽。

最初、人間のお金を持っていなかったわたくしは、ゴミを漁り、時代に溶け込む衣服を手に入れ、人目を避けてたどり着いたゴーストタウンのとある空き家に住んでいました。

街を歩き、声を掛けられ、食事をして、可哀想な身の上話をした上でお情のお金を貰って生活していたわたくしは、ある日街でスカウトを受け、天職を見つけのです。


それは水商売、夜の蝶 キャバ嬢というものでした。
夜に羽ばたく煌びやかな蝶。
美しさを武器とし、相手のひと時に寄り添い時間に華をそえる仕事。

人と話すことが嫌いでも無かったからか、日に日に売り上げも上がり、あっという間にお店の上位へとのしあがり、きちんと賃貸契約を結び、ちゃんとした家も手に入れました。


わたくしが人間界で暮らし出してから半年が経ったある日、いつもわたくしを助けてくれていたあの姉妹から、伝書蝙蝠を使った突然の連絡が入ったのです。手紙を運んでくれた蝙蝠も、長い間探してくれていたのかヘロヘロで、3日間介抱してやっと手紙の返事が書けるくらいでした。


その手紙には、こう書かれていました。



『私達はもう終わりよ。

一瞬だったわ。

私と妹以外はみんなやられてしまったみたい。怪人は辞めて、安全に生きる道を選ぶわ。怪人としてのプライドなんて捨てる。

これを見たら返事を頂戴、

貴女が今、人間に紛れて平和に暮らせているなら、どうしたらいいか教えてほしいの。

どうか、お願い。』




その手紙を受け取った時は信じられなかった。わたくしがずっとずっと逆らうことすら出来なかったあの人たちを、一瞬で全滅させる人が居るだなんて。あの城には、100数人の千年以上生きる吸血鬼が居たというのに、誰も勝てなかったなんて。

わたくしは2人に現在の自分の働いている仕事や人間界での暮らし方、戸籍の買い方やバイヤーの紹介などを手紙に書いて、蝙蝠へと託した。

もしかして、わたくしはあの時に先に追放になって良かったのかも知れません。そうでなくては、きっとわたくしも彼らと一緒に、一瞬で息絶えていたかもしれないのですから。

今がとても幸せだから、全ては前向きに捉えていかなくてはなりませんわ。




「2人は今頃、どうしてるかしら…。」












「あ、○○今から仕事?」

「あ、さ、サイタマさん///!」

「明日休みなら鍋食いたいんだけど、どうせなら一緒に食わねえ?」



ふと過去を思い出しながら、仕事の準備をしてヒールを履き、玄関のドアをあけて鍵を締める。後ろの階段からひょっこり現れて声を掛けてきたのは、この無人街であるZ市の同じマンションで隣の部屋に住む、サイタマさん。

わたくしの恩人であり(この話は後ほど)、大切な殿方。




「明日はお休みですわ。ちょうどお客様から頂いた(高級)鶏肉があるんです!冷凍はしてあるけれど量が多くてどうしようか困っていたので、お鍋で食べましょう!」

「うお!まじか!じゃあ俺 鍋とか野菜やっとくわ!」

「お言葉に甘えますわ、ありがとうございます。では、行ってきますわ!」

「おう、いってらっしゃーい。」









「……行ってきます、サイタマさん。」





閉まった扉へ向かって、こっそりと返事を送る。

隣人は優しくて頼もしいヒーローで、仕事も楽しい。あの城で生活していた数百年以上続いた苦痛が、今はまるで嘘のようで、これは夢なんじゃないかとたまに怖くなる。でも、これが現実、これがわたくしの生きる今。






そういえば、あの吸血鬼組織を全員 倒してしまった強すぎるヒーローって誰なのでしょうね?

明日の愛しのサイタマさんとの夕飯を楽しみにして、今日も夜に光が灯るあの街へと出かける。人間はとても優しくて、あたたかい。いつかの日、わたくしが父親から託された言葉が胸に落ちてきて、また幸せを噛み締めた。




以上が、わたくしは今、Z市に住んで、人間界で暮らすまでのあらすじですわ。





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