「ん...。」


ふと目を覚ますと、暖かい気温の中で暫く締め切っていた部屋独特のむわっと感を感じて眉根を寄せた。ああ、これは寝すぎた時特有のどろっとした感覚。



「いま、なんじ......え?もうお昼?!やだ、寝ちゃったほんとに...!」



スマートフォンの画面をつけると、時刻はもう昼の11:30。昨日 眠りに落ちたのは23時前だったから、かなり寝てしまったようだ。
といっても今日は特に予定もないので、ノロノロと洗面所へ行き顔を洗って身支度を済ませる。

(あ、そうだもうサイタマさん起きてらっしゃるかしら...。一応ジェノスさんがどうなったのか報告しておこう...。)

お客様から頂いた、お茶と茶菓子をミニバッグに詰めて玄関のドアを開ける。(理由をつけて会いたいだけ)



ガチャッ


「あ、」
「あら?」



そこにはサイタマさんの家の前で仁王立ちをするジェノスさん。わたくしは少し驚いてしまったけど、そういえば昨日、弟子にしてくれと頼んでいらしたような...。というか、身体、綺麗に直りますのね...。


「あ、○○さんっ、おは、おはようございます!」

「おはようございます、もうお昼ですけどね。寝すぎちゃいました。」


恥ずかしくて俯いて笑うとジェノスさんはギリィ!と音が鳴るくらいに歯を食いしばって突然空を見た。

...お腹、痛いのかしら?

ジェノスさんはフーッ!と息を吐くとこちらに向き直り、90度に腰を曲げて頭を下げた。



「昨日は、俺を運んでくださってありがとうございました!なんとお礼を言えばいいか...!」

「そんな…いいんですのよ。それに、昨日はよく眠れましたの。ジェノスさんのお陰です。」

「俺の...?」

「ジェノスさんがベッドに寝ていらしたから、わたくしが寝る頃もまだあったかくて。すっかり心地よくて寝坊しちゃいました。温もりは眠気を誘いますね。」



いい加減ドアから半身を乗り出すのも疲れるので、ぺたんこ靴を履いてジェノスさんに向かい合うように近づく。ジェノスさんはやっぱり私のおでこが顎にあたるくらいに大きい。

(あ、睫毛に前髪がひっかかってる)

背伸びをして指で前髪を梳くと、ジェノスさんはびくっ!と体を揺らして、でもわたくしがやりやすいように腰を曲げて下さった。



「ごめんなさい、前髪が目を隠していたから...」

「い、いえ、俺も邪魔だと思ってはいたので...!」

「ふふ、今日はサイタマさんの所へ?」

「はい、ですが、あの、○○さんにも、(会いたく...て...。(ボソボソ))」


「?(後半があまり聞こえなかったわね...。)」


ガチャッ


「......あの、タイミング、伺ってたんだけど、いい加減お前ら入るなら入れよ...気配が気になる...。」


隣のドアが開く音がして振り向くと、なにやらサイタマさんがドアを開けて気まずそうにこちらを見ていた。ジェノスさんはサイタマさんに勢いよく頭を下げたけど、サイタマさんは(ちょっと)嫌そうな顔をして体を後ろに引いた。



「先生、お待たせしてしまい申し訳ありません!!」

「別に待ってはねーけど...つーかほんとに来たんだな...。で、○○は何だった?」

「わたくしは昨日あの後のことを一応伝えるつもりだったのと、お客様から美味しいお茶菓子を頂いていたので、お暇ならお茶でも、と。」


「おお!いいな!よし、入れ入れ!」
「(先生は茶菓子が好き...!)」ガリガリガリ
「(ジェノスさん、ノートはどこから出したのでしょう...。)」






















「あの、俺が...!」
「いいんですのよ。こうするのが好きですから、さ、ジェノスさんはサイタマさんとお話を続けて。」

「あ、ありがとうございます...。」


サイタマさんのご自宅にあがり、お茶の用意をしようとして何度かジェノスさんに止められはしたけど、わたくしはサイタマさんの為にお茶を入れることが大好きなので何も辛くなど無いのです。
ジェノスさんは大人しく座布団に座ってめんどくさそうに頬杖をつくサイタマさんを見つめている。

あら、この茶葉 マリアージュフ〇ールだわ!香しい花の甘い香りとフルーツの爽やかな香りがする。家にあるもう1缶もそうかしら?だったらうんと綺麗な便箋でお礼をしたためなくちゃ!


箱から取り出したシックな黒い缶を見て些かテンションがあがり、鼻歌混じりにお茶の用意をする。サイタマさんはめんどくさがり屋さんですから、砂糖の数やミルクを先に聞いて、ジェノスさんはそれに続いて聞いて、着々と準備をしていく。

(ハァアゲてんだようるせーな!なんなんだテメーはァ!)

...たとえハゲていても、サイタマさんはとても素敵な殿方ですわ。さて、お茶の準備が出来たし、お茶菓子を盆に乗せてテーブルへと向かいましょう!少し時間がかかってしまいましたわね...。



「お待たせしました、いいお茶だったのでつい気合が入ってしまって...。」

「お、いーにおいだな!...うん、高い紅茶は初めて飲むけど高い紅茶って味がする!」

「これは、マリアージュフ〇ールですね。懐かしい、昔に母親が飲んでいた記憶があります。家にありました。」

「まぁ!とてもセンスの良いお母様だったのですね...。ジェノスさんは品もありますものね。」

「いえ、そんな...。俺はまだ未熟です。……俺は、ほんの14歳までは、ただの生身の人間だったんですから。」

「(せっかく茶がきて話しが途切れたのにまた話し出した...。)」



ジェノスさんは淡々と壮絶な過去を話して下さった。
わたくしはハンカチを片手に唇を引き結んで涙を拭いていたけれど、サイタマさんはイライラした様子で膝を震わせている。が、我慢の限界なのか拳をテーブルに叩きつける。



ダンッ!!!!

「バカヤロウ!!!!20文字以内に簡潔にまとめて出直しやがれェ!!!!!」

「そんなにお辛い過去があったんですね...ぐすっ、わたくしはジェノスさんを(サイタマさんの次に)全力でお支えしますわ!」

「○○さん...貴女は、なんて優しい方なんだ…!」


お互いに手を重ね合って見つめ合う。きっと彼の手はもっと柔らかく、でも年相応に骨ばっていたのでしょう...。わたくしはジェノスさんの手に指を絡めてその黄色の瞳を見つめた。ジェノスさんは子犬のような表情でこちらを見つめている。ああ、やはり強がっていてもまだ19歳の男の子。寂しい気持ちもあったに違いない。


(彼のパーツが散らばれば集め、あれが食べたいと言えば作ります!必要とあらば出来る限りのことはします!本当の姉弟のように、彼の力になりたい!)


(○○さん...なんて優しく、美しい人なのだろうか。俺はあの時、交差点でぶつかったあの時から○○さんの事が頭から離れなかった...。いつか俺は、先生よりも強くなって、そして、○○さんを...!!)



(こいつらたぶん意思が噛み合ってねぇな...。)