激しい破壊音、
サイタマさんの雄叫び

それらが耳に入り、やっとのことでわたくしは目を覚ました。建物は揺れて、今にも崩れ落ちそうだ。

とにかくここを出ないと危なそうですわね...。

はだけたガウンを歯と辛うじて使える指先でたぐり寄せて、裸足でベッドを降りる。床の冷たさがダイレクトに足の裏に伝わって、思わず身震いをするが先に進まなくてはならない。
音がした方向へ進むと、そこにはアフロ頭のジェノスさん、床に蹲って嘆くサイタマさん、脱力したように地面に座る博士がいた。



「さ、サイタマさん...?」

「お!○○!」
「○○さんっ!」

「ぐぇっ!」



ドアの影から声をかけると、サイタマさんはこちらを向いて、ジェノスさんはそのままこちらへ駆け寄ってくれた。(途中、博士が踏み潰されていたけれど)
ジェノスさんは勢い余ってそのままわたくしを抱きしめると、ぎゅうっと力強く腕を回してくれた。
わたくしもそれに甘えるようにして頬ずりをする。

ジェノスさんは腕の拘束具を外して下さると、そっともう一度抱きしめてくれた。



「心配しました、あのあと、○○さんは先生や俺の攻防も虚しく連れ去られてしまって...!」

「あ、いえ、あの、むしろお恥ずかしいところを...お見せしましたわ...。」

「.........あ!い、いえ、その、だだ、大丈夫でしたか////!」

「ええ...、もう平気ですわ...。」



アーマード・オクトパスのあれを思い出してしまい、お互いに赤面して顔を逸らしてしまう。サイタマさんの方なんて恥ずかしくて見られず、ジェノスさんは耳まで真っ赤で、そんな風にされたらわたくしもどういう顔をすればいいのかわからずにジェノスさんの胸に顔を埋めて隠す。

ジェノスさんはどうしたらいいのかわからなかったのか、わたくしの頭へ手を置くと優しくなでてくれた。

...と!忘れてましたわ!




「サイタマさんっ!」

「ん?なんだ?」

「いつものスーパーは今日が特売日ですけれど、ふたつ隣の街は明日が特売日!しかもお肉が安い日ですのよ!!!」

「なァにい!よし、じゃあさっさと家帰ろうぜ!」



サイタマさんはわたくしの説明にガッツポーズをしてさっと立ち上がると意気揚々として建物を出ていく。ジェノスさんはわたくしを横抱きにしたままで建物を出る。博士はいつの間にかいなくなっていた。

外に出るとそこは広大な森の中。どうやらふたりは走ってきた様子で、車も何も無い。



「え、あの、今から走っていかれますの??」

「そうだけど?」

「そ、そんな!わたくし重たいですし、」
「いえ、○○さんは軽いくらいです。ですがむちっとしていて程よい肉感がありますので、恥じることはないかと。」

「お前が恥じろ。」



そのままわたくしを抱えておふたりは本当にほんの数時間でZ市へと到着してしまいました。サイタマさんは「一応まだなんかあるかも!」と急いでスーパーへと向かわれた。

わたくしはジェノスさんに抱っこされたまま自室へ到着して、やっと一息つけた。
やはり自分の見知った家は良い。



「ありがとうございますジェノスさん、ここまで運んでくださって...。」

「いえ!俺があの時しっかりしていれば...ですが、その、余りに○○さんが、妖艶で、ですね...。」

「あ......///わ、わたくし、お風呂に入りたいんですの!サイタマさんが帰られるまでお部屋で寛いでらしてください!ね!」

「はっ、はい///!」



慌ててジェノスさんから離れると、火照った身体を冷やすように手のひらで顔を扇ぐ。博士がに襲われてから体を清めて居なかった為、下着を手にしてバスルームへと向かい、鏡に写った自分を見て幾分か冷静さを取り戻した。

あ、ジェノスさんのあの頭...トリートメントをしたら戻るかしら?せめて博士の所へ戻るまででもなおしてさしあげたいわ...。なんだか面白いから笑っちゃいそうだし...。よし!




(視点Change)



進化の家で○○さんを見つけたとき、○○さんはてらてら光るグレーのガウンに身を包んでいた。そのガウンは身体の凹凸を綺麗に現していて、俺は乳房を押し上げて凹凸に沿って光る線がとてつもなくいやらしく思えて、誰にも見せたくないと思った。

○○さんの身体を隠すように抱きしめて、腕の中におさめる。○○さんのあの、アーマード・オクトパスに責め立てられているあの姿が頭に浮かんで、僅かに残った生身である自分のソレ(普段はアーマーに隠されている)にカッと血が集まるのを感じて頭を振る。


○○さんの、あの、声。表情、俺を見つめる、瞳。
あの表情を俺も作ることが出来るだろうか?俺にもあの声を出させることが出来るだろうか...。俺も、○○さんに触れて、○○さんを俺でいっぱいにしてしまいたい。



先生がスーパーへ出掛けて、このマンションには俺と○○さんのふたりきり。俺は○○さんの部屋にいて、○○さんは今、ひとりでシャワーを浴びている。



(...さわやかでいて甘い、フリージアの香りがする。)



それは○○さんから香る全てのにおいがそうだ。あの時、進化の家であの研究者が言っていた「生きる花の妖精」という言葉と、「それ故にイェルクヴェインは高値で取引されて数を減らしてきた」という言葉。




進化の家へ侵入し、部屋を散策して進んでいた俺達が見つけた奴の書斎のデスクにあったのは、奴がよその文献や事件からのデータをまとめたメモだった。


イェルクヴェイン狩り?

イェルクヴェインの血液は如何なる病をも治すことが出来る。その心臓を食せば若返り、幼子の子宮は極上の美をもたらすと言われていた。

イェルクヴェインは神の血筋であり、皆 一様に美しい外見をしている。唾液には催淫効果があり、唾液や愛液は甘く、古くから王族や貴族の夜枷や愛玩用として売買されてきた。(力は一般の吸血鬼よりも弱く捕えやすい。)

17世紀のイギリスで、イェルクヴェインとは異なる形で誕生した吸血鬼との同盟を当時のイェルクヴェイン当主が結ぶ。→血液の提供を条件に、イェルクヴェインを守護するという契約を交わし、それ以降イェルクヴェインが人身売買の被害に合うことは無くなった。

病死や殺害により、19世紀に現存するイェルクヴェインは、

父イヴァン・イェルクヴェイン
母カトリーナ・イェルクヴェイン
(近親相姦な為同じ血族)
兄イアン・イェルクヴェイン

が存在していたが、1xxx年にxxxx村の村民に拷問の末惨殺され、契約を交わした吸血鬼によって救出された○○・イェルクヴェインが最後の生き残りとなる。


○○・イェルクヴェイン=今後の材料に良し→確保




「家族を・・・村人に拷問の末 惨殺・・・???」


○○さんは優しく、朗らかで、そんな過去の傷などほんの少しも匂わせなかった。隣でそれを見ていたサイタマさんも、眉根を寄せて顔をしかめている。

メモのページを捲ると、目を背けたくなるような光景が写真に残されていた。



「これはっ・・・!!!!!!」

「…ひでぇな。」



写真には、刑事であろうコートを着た男が複数人と、ドレスを破り裂かれ髪が坊主頭にされた美しい女性、体が逆方向へ真っ二つに折れた少年、壁に突き刺さる幾本ものクワやオノを身体に受けて項垂れる男性ら3人の惨殺遺体と、事情聴取を受けている様子のシスターの写真、生前に撮ったのであろう家族写真を写した古びた写真がクリップでとめられていた。

家族写真には、○○さんによく似た目つきの優しそうな父親に、○○さんと同じウェーブした髪を持つ美しい母親、幼いながらも凛とした雰囲気を醸し出す少年に、テディベアを胸元に抱きしめて無邪気に笑う幼い○○さんが映っていた。


この眩い程に輝く幸せそうな家族が、あんな姿になるなんて。


俺は思わずそのメモを、家族写真だけを抜き取り焼却する。先生は俺を止めず、周りのものを壊している。きっと○○さんの目に入らないようにしたいのだろう。
幸い、○○さんと再開した時にはその場所を見ていなかった様子で、俺はひどく安心した。








○○さんは、この街へ住んでまだ少ししか経っていないと言っていた。一体、どれほど辛い暮らしをしてきたのだろう。俺はまだ、それを聞いてもいいような間柄ではないのか...。
○○さんともっと近づきたい、○○さんを誰にも渡したくない、○○さんを俺の...!

気が付くと、俺は○○さんのいるシャワー室のドアを開けていた。


ガラッ
「○○さんっ...!」

「え、じぇ、ジェノスさんっ?!いかがなさいましたの...あ、ジェノスさんもシャワーを浴びたかったのですか?シャンプーしてもいいのでしょうか...?わたくしが洗って差し上げますわ!」

「え?!(いやここはきゃーとか、そういうのを...)」

「さ、服をお脱ぎになって!さぁさぁ!完全防水ですの?」
「え、ええ、水深20メートルでも平気です...。」
「良かった!」



……いや、俺の考えとしては、このまま○○さんを風呂場で...。と、いう考えだったが、○○さんは恥ずかしがる様子もなくさっさっと俺の服を脱がしていく。○○さんは天然なのだろうか...?ただたんに鈍いだけ?

俺の性器はアーマーで覆われてはいるが、俺の意思でどうとでもなるし、力の差なんて歴然だ。なのに何故こんなにも俺の侵入を快く許したんだ?






「良かった、トリートメントで何とか真っ直ぐな髪に戻りましたわ!」

「あ、ありがとうございます...クセーノ博士は旅行に出ていて修理するのにあと2日ほどかかりますので...。腕はスペアや自分でなんとかなりますが、頭髪繊維は盲点でした。」

「うふふ、誰かとお風呂に入るのって楽しいですわね!」



不思議なことに、○○さんの部屋は先生の部屋よりも明らかに広い。バスルームはトイレと別だし、浴槽は足を伸ばして入れるほどだ。シャワーも最新式の水が細いものだし、部屋もかなり広い。たぶん二つの部屋を繋げているんだろう。



「さて、ジェノスさん、お湯に浸かられます?」
「え、あ、はい...。」
「わたくしも入っても?」
「えっ!」



○○さんは促されて入った湯船に浸かる俺に向かい合うように腰を降ろした。湯は何か入っているのか乳白色で、○○さんはタオルを浴槽のふちに畳んでかけると肩まですっぽりと身体を沈めた。
俺は一応腰にタオルを巻いてはいたものの、それにならってタオルを外して浴槽へとかける。
○○さんはほうっ、と恍惚とした顔で息を吐くと、俺と目が合いくすっと笑った。




「......あの時、見ましたか?」

「あの時?」

「...進化の家で、わたくしの歴史を。」
「! 気付いて、いたんですか。」


○○さんが言うには、捕らえられてから少しあって(言葉を濁していたが何か酷いことをされたのだろうか)、博士の目を盗んで逃げ出そうとした時に見つけたのだという。


「...楽しいものではなかったでしょう?わたくしとしては、過去のことです。忘れはしませんが、今はとても幸せだから、気を使って欲しくなくて…サイタマさんやジェノスさんがそれを知って、今までの接し方と変わってしまったらと不安でした。」

「そんなこと!有り得ません!」

ばしゃっ!


○○さんは悲しそうな顔をして自分の肩をそっと抱いた。俺や先生が、○○さんから離れたりだなんてしない。気を使って距離を置いたりなんてしない。変わらず俺はあなたを愛しているし、先生もあなたを見捨てたりなんてしない!



「○○さんがたとえどんな人生を歩んでいたとしても、俺も先生も離れたりしません!それに、俺は、その。○○さんのことを、誰よりも大切に思っている自信があります...!あなたの事を...俺は...!!」



俺は思わず膝立ちになって○○さんの肩をつかんだ。○○さんは目頭からぽろっと涙を零すと、嬉しそうに微笑んで、腕を伸ばして引き寄せると俺の頭をかき抱いた。



(っ?!む、胸が直接 頬に...!!!)

「ジェノスさんっ...ありがとうございます!あなたはほんとうに、わたくしを大切に思って下さっているんですね...あなたに出会えて良かった、きっとわたくし達はとても親密になれます、本当の姉弟のように...!!」










は?






「ちょ、ちょっと待ってください!今、俺を弟と言いました?」



俺は慌てて○○さんの腕から抜け出すと、○○さんに問いかけた。○○さんはきょとんとして、さも当然のように頷いた。

弟?!俺が、弟だと?

何か噛み合わないことがあったと思ったが、まさか俺を弟として見ていただなんて...!それなら、あの触手事件のあとに俺だけここまで受け入れて貰えるのも理解できる、先生へは目も合わせられなかったのに...!こうして俺を風呂にいれてくれるのも、さっきのように全裸であるにも関わらずその胸に抱きしめてくれるのも、全て俺を弟としてしか見ていないから...!!

そうわかると、何故だか腹の底からふつふつと怒りが芽生えてきた。○○さんはよくわかっていないような顔で、俺の髪をいじって遊んでいる。

あぁ、そうか。あなたがそう来るなら、俺はあなたに雄の姿を見せますよ。


覚悟、してください。