あれから目が覚めて、ほんのり温もりを残してぽっかり空いたスペースをぼうっと見つめてから布団を抜け出す。部屋にソニックさんの姿は無かった。あったのは、テーブルに置いてあったうさぎのメモ帳に「また来る。」とだけ書いてある書き置き。
それをテーブルに置き直し、のそのそと起き出してから、身支度を整えて窓を開ける。

なんだか早朝に目が覚めてしまったけど、サイタマさんとジェノスさんはヒーロー認定試験で不在ですし、特に予定も無かったのでスイーツを作ったり勉強したりと過ごして、メイクをして仕事場へと向かい、いつものように仕事を終えて家に帰り、風呂に入って眠りについた。
帰宅した時にまだ起きていらしたサイタマさんとマンション下のゴミ出し場所で鉢合わせして、今日作ったアップルパイを手渡しついでに少し話した。


サイタマさんとジェノスさんはヒーロー認定試験を受けてきたらしく、順位はジェノスさんがS級、サイタマさんはC級のそれぞれ最下位らしい。ジェノスさんはまあわかりますが、サイタマさんがC級??なんとも納得の行かない結果ですけれど、ヒーロー協会が定めたのならば仕方がない。あとはサイタマさんが上に上がるだけですわ!サイタマさんはアップルパイをその場で食べながら、部屋へと戻っていった。わたくしも部屋へ戻り、日記をつけて、眠りについた。









......ヒーロー認定試験の翌日。

目が覚めて、今日はお2人へのお祝いをしたくて身支度を整えてからすぐに隣家のインターホンを鳴らしたのだけれど、何も応答が無い。

サイタマさんには商品券とわたくし券、ジェノスさんには(何が良いか本当に悩んだけどわからなくて)特注のパーカーとわたくし券にした。
わたくし券とは、わたくしにして欲しいことを命令出来る券のこと。サイタマさんは欲がない方ですから、あまりわたくしに頼ってくださいませんし、マッサージ券だと、サイボーグだからマッサージは必要ないし。ジェノスさんに至っては服はいつもシンプルな物のみですし、もともと荷物が少ないので趣味などがわからなくてこれに致しましたのですが...。サイタマさんはやはりあのオッパイシリーズが似合いますから商品券で。(笑)


でも、それを渡しに行こうとインターホンを押しても出られず...どうやらどこかへ出掛けてらっしゃるみたい。

仕方無くそれを家に置いて、ずっと考えていた行動に移った。





















サングラスをして、つばの広い女優帽を深くかぶって、街を歩く。

街では、一体あのニュースがどうなっているのか気になったのだ。あれだけ大々的に放送されていたとしても、次から次へと怪人が現れる世の中だ。もしかしたらもうわたくしの話題ごと流されてしまっているかもしれない。

Z市を出て、最寄りの駅から電車に乗り込む。

幸いどこぞの女優だかモデルだかがこの帽子とサングラスコーデを流行らせてくれたおかげで、チラホラと似たような姿の女性を見る。これならそこまで怪しまれずに済みそうだ。
電車の切符を買って、空いた席に座る。

ふと電車の吊革広告に目をやる。そこには、雑誌の内容が書かれた広告があった。

【アマイマスク新作SF映画主演決定!!】
【あの女優〇〇の隠し子騒動とは?裁判の結果は?】
【謎の美女、太古から生きる不老不死を求めてカネが動く?世界が動く?ヒーロー協会の動向は?】
【あの人気モデルに熱愛発覚!!相手はあの大富豪か】


真ん中にあるのは、きっとわたくしのことでしょう。一体世間はどれだけこの血について騒いでいるのか……。

怖くなってきた。

唇を噛み締めてサングラスを不安から掛け直すと、目的の都心部最寄り駅へと到着した。
駅を降りて、物凄い人をかきわけて進む。サングラスが外れないように注意しながら人混みを抜けて改札を出ると、ランチタイムのサラリーマンやOLの姿や、主婦の姿を見かけるようになった。今日は試験なのか早くも自由になった学生もちらほら見える。

せっかく街に出たのだから、とテイクアウトでコーヒーを注文して、それを飲みながらぶらぶら街を歩くと、巨大なスクランブル交差点にある液晶に目がいった。丁度ニュースがやっていたので、交差点から離れた所にあるベンチに腰掛けてそれを見る。



『さて、まだヒーロー協会がどうするかの発表などはしていませんが、例の美女についてはどのようになっているのでしょうか?』

『話題の美女ですが、世間はどのように思っているのか、当番組で自主的なアンケートを実施しました。老若男女100人に聞いた!あの美女をどう思ってる?VTRをご覧ください!』





『うーん、なんかねぇにわかに信じ難いわぁ。そんな人。でもホラ、本当なら人助けするべきよねぇ。』

『ほんとに居たとすれば、ぜひその魔法の血を世界に提供すべきだろう!だって、世の中には今でさえ死にかけてる人もいるんだよ?ただでさえ怪人がいる世の中なのにそいつは誰も助けてないんだ。そーゆー力がありながら!』

『何かァ、それって逃げてんじゃね?そんなスゲー力あんのに隠れてるとかスゲー卑怯だと思うんッスよ。』

『父がガンで闘病してるんです。力のある人がヒーローになるように、その人も誰かを助けるべきです。私としては、名乗り出ないのは許せないです。』





液晶画面から突き刺さる言葉が痛くて、思わず目を伏せて画面を見ないようにする。

そうですわよね、今まさに苦しんでいる方もいらっしゃるというのに、わたくしは自分の保身だけを考えて、こうしてこそこそ隠れて様子を伺っている。

父親がガンの治療中だというあの女性の鋭い目線が頭から消えない。

わたくしの血があれば、彼女の父親を救えると言うのに...。




『はい、やはり街の皆さんとしては、実在するのであれば、何らかの人助けをすべき。という意見が多いようですね。』

『さて、ここで新作SF映画の告知でいらっしゃいましたA級ヒーロー1位のアマイマスクさんにもご意見を伺いましょう。こんにちは!』

『こんにちは。』



「きゃー!!」
「はぁー...かっこいい〜!」





アマイマスクさんが画面に映ると、少し歩みを遅くしたり、立ち止まって液晶画面を見つめる人が増えた。柔らかいブルーの髪と切れ長の目。まぁ、確かに美形ではありますけど。本当に人気がありますのね。

アマイマスクさんの顔の下には新作映画のテロップがでかでかと現れた。アマイマスクさんは人の良さそうな笑みを浮かべてアナウンサーを見つめる。




『アマイマスクさんは、例の女性についてはどのようにお考えですか?』

『僕は新作映画の告知としてここへやってきたのですが、実はもう一つ仕事がありまして。』

『...?と、いうと...。』

『例の美女へ、ヒーロー協会から直々のメッセージがあります。』
『えっ?!ほ、本当ですか!!』



突然の発表に慌ただしくなるスタジオ。アマイマスクさんにズームしたカメラと同時に、アマイマスクさんはカメラを見つめるとにっこりとそちらへ向かって笑いかけた。隣の女子高生や主婦達ががきゃあきゃあとはしゃぐ中で、わたくしはヒーロー協会からのメッセージとやらに不安を抱きながら、サングラスで薄暗くスモークのかかるそれをずらして、裸眼で液晶画面を見つめる。

アマイマスクさんは肘を立てて両手を組み、キリッとした顔で話す。




『...君がもし、本当にこの世界に実在してこの映像を観ているのであれば、速やかにヒーロー協会本部へ出頭してくれ。君の安全は保証するし、怖い思いなどさせはしない。


君の人を救う勇気を、見せてくれ。』





『......ひ、ヒーロー協会は、謎の美女に出頭を願ったということですか?』

『ええ。ヒーロー協会はまだ実在するか疑ってますけど、ね。

ふ...、まぁ、僕に言わせて頂きますと、もし本当にその魔法のような存在が実在するのであれば、ヒーロー協会がとうに見つけていると思いますが。』

『あ、え...で、ではヒーロー協会はその存在を信じてはいないという事ですか?』

『もし...実在するのであれば、きっと来てくれるでしょう。怪人でない限り、人を救う気持ちを持った優しい心の持ち主と信じたいですね。ですが、ヒーロー協会には既に素晴らしいヒーロー達が所属しています。そんな彼らが動いていないということは、まぁ、おとぎ話のようなもの、ではないでしょうか。』



『そう、ですよね...。今まで幾多の災害を乗り越え、救ってくれたヒーローがたくさんいらっしゃるというのに、未だに何の情報もないのは可笑しいですよね。』

『おとぎ話は好きですけれどね。』

『では、ヒーロー協会からの発表の次はいよいよ!アマイマスクさん主演のSF映画''猫の惑星''の告知をして頂きましょう!』







軽快な音楽とともに、液晶画面には柔軟剤入り洗剤のCMが映し出された。

...ヒーロー協会は、わたくしの存在を信じていない...??そんな、都合のいいことが...。

でも、そうですわよね。インターネットを見たところでは、わたくしの存在を過去の事件や文献、噂を引っ張ってきて肯定する人と、あの女子高生は単に無免ライダーを介抱していた人間を見ただけで、無免ライダーは元はそんなにひどい怪我ではなかったのではないか?という話が立ってもいた。当の無免ライダー自身がコメントをしていないことも理由にある。

でも、だとしても、わたくしはこのまま隠れ続けて良いのでしょうか?苦しんでいる人はたくさん居る。怪人が日々現れて負傷しているヒーローだってたくさん居る。それなのに、わたくしは自分のことばかりで誰かを救おうともしていない、卑しい存在。


''人を救う勇気を、見せてくれ''


あの時のアマイマスクさんの声が頭の中を反芻する。わたくしには、沢山の人を救う力がある。それはきっと、わたくししか持っていない力。
わたくしが生き続ける限り、この血が作られ続ける限り、世界の人たちは、病(やまい)や怪我や死を恐れることはなくなる...?



わたくしは、わたくし、は









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