あの日から、○○は五日経っても帰ってこなかった。ジェノスによれば、俺達の前ではから元気で、本当は友人が亡くなったらしくひどく落ち込んでいたらしい。

...あんとき、気を使わせちまったかな。

○○の高すぎない落ち着いたアルトの声が懐かしく感じ始めた頃、俺は目の前の状況を考えないように目の前の漫画に意識を集中していた。




.........やたらとでかい荷物を持ったジェノスが、こっちを見たままずっと部屋の入口に立っている。


いや、でか過ぎだろ...
つかなんでずっと立ってんのコイツ...




「先生。」

「.........なに...。」

「ここに住んでもいいですか?」

「うん、絶対だめ。」



ドサッ!



「部屋代払います。」

「ちゃんと歯ブラシ持ってきたか?」





仕方ない、可愛い弟子の頼みならな。

俺は人生で初めての札束の重みを感じながら自分に言い聞かせていた。
ジェノスは自分の荷物を整理しだしたので、俺はまたたたんだ布団に上半身を預けてマンガを読む。これ新刊いつだっけなぁ。



「そういえば、先生。」

「んー?」

「あれから5日が経ちましたが、C級ヒーローは1週間ヒーロー活動の報告がなくてはヒーロー名簿から除名されるとありましたが、大丈夫ですか?」



「............え?!?!」



「C級ヒーローは数も多く水準も低いため、使えない者から除名していくようです。」

「え、え?!いや、でもココ最近すげー平和だったし!」

「テレビで報道されるような事件はテロや避難が必要な大災害で、C級ヒーローが相手にするのは銀行強盗や窃盗犯が主だそうです。サラリーマンの飛び込み営業のように活発かつ自主的に活動をして成果を残さなくては生き残ることは難しく、挫折して転職する人が多いのだとか。」


「やっっべぇええ!!!!
あと2日しかねーじゃねーか!!!!」



ジェノスに言われて一瞬思考がホワイトアウトしたが、今日を入れてあと2日しかねーじゃねーか!!セミナーなんてガム食っててなんも覚えてねえよ!しかもだらだら過ごしたせいでもう昼過ぎだぞ!!!!

俺は急いでパジャマを脱ぎ捨ててヒーロースーツを着る。

ジェノスがついてくるとか言ったけど、S級のこいつが一緒じゃあ俺の手柄だと思われなくなっちまう!
適当に理由をつけて(もう後半は自分でも何言ってんのかわかんなかったけど)無理矢理にジェノスを納得させて街へ出る。

市街地から田園風景広がるド田舎まで駆けずり回った。

だが、街は至って平和だった。




ま、焦っても仕方ねーし明日もあるもんな。

俺は家に帰ると、ジェノスが作ってくれてた夕飯を食ってその日は寝た。あのデカイリュックの中身は布団一式も入ってたらしい。(サイボーグって寝るんだな...。)



で、次の日。








「あわわわわわ...今日も平和だああああ...。」



街はめっちゃくちゃ平和だった。
もう平和を謳うCMかよってレベルで。

街は買い物をしたりデートをしたりする幸せそうな人達で溢れ帰り、のんびりとした午後の空気が流れている中で俺だけが切羽詰まった様子だった。
もう少し広い範囲を探そうと身を翻した時、何かが飛んでくる気配がして振り返る。




ビュッ!

「(バシッ)...なんだこれ?」

「久しぶりだな...サイタマ!!!!」



なんか飛んできたから指で掴んだら、漫画で見たクナイだった。誰だよそんなあぶねーもん投げてくるやつは。と思っていたら、目の前に黒ずくめの男が現れた。えーと、誰だっけな。見たことあんなー、誰だっけな・えーと、なんつったっけ......あ。



「関節のパニック!!!」

「音速のソニックだ.........!!!!!」



あーそんな名前だったかな。覚えてねーや。

ったくよー!俺は忙しいんだよ!
何なんださっきから!

パニッ...ソニックはどうやら俺をライバルと勝手に認定したらしく物凄く絡んでくる。俺は事件を探さなくてはならない状態なのに、こいつがいちゃ探せねえじゃねえか!!



「ククク、サイタマ...今日はお前を殺」
「悪いけど今急いでるからまた今度な。」

「...は......?」



あーもー。どっかで事件起きないかな...いやまぁ平和なのはいいんだけどさ。

と思っていたら、ソニックが追撃をしてきてイライラしすぎてあいつの刀を(また)折っちまった。流石に俺も今は余裕が無い。せっかく頑張った試験がフイになっちまうかもしれねーんだ。



「今 忙しいって言ってんだろ!ボケ!


.........殴 る ぞ 。」











「おぉおい!そこのお前ェ!!!!!」




……だあああああああ!!!!!
何なんだよったく!!!

一際でけー声をかけられて振り返ると、そこにはソニックを指さす女の子と、その隣にタンクトップを着た男が立っていた。どうやらさっきの雄叫びはタンクトップらしい。



「お前かァ!不審な人物というのは!!ヒーロー、タンクトップタイガー参上!!」


「...ぷくくっ、おいソニック!お前こんな所で暴れようとしてるから不審者扱いされてやんの。いっぺん退治されて頭冷やせよ。」


がしっ!


「お前だよ。ハゲ。」

「......は?」

「その人、昨日から怖い顔して街中走り回ってて怪しいんです!!!」



...ええええええええええ!!!!!

いやいやいや!俺かよ!!

タンクトップタイガーとやらは俺の頭をつかんで俺を見下ろしている。なんでだよ!俺わりと活躍してるだろ!つーか寧ろお前が誰なんだよ!
頭に乗せられた腕を振り払って反抗する。タンクトップタイガーは俺を小馬鹿にした様子で見下ろしている。



「俺もヒーローだ!割と活躍してんだろ!ヒーローサイタマだ!!...C級最下位だけど...。」

「お前など知らん。」

「あ、そっすか...。」

「とにかくお前に迷惑をしてる人がいるんだ。C級最下位のお前が、C級6位の俺に楯突く気か?おかしな行動をされちゃ困るんだよ。他のヒーローの評判まで下げるつもりなのかなお前は?」



「見て!タンクトップタイガーよ!」
「本物だ!」
「ちょ、写メ写メ!」


「…ふふん。やはり、C級6位ともなると有名にもなる、か...さあどうする?ここで消え失せろと言っているんだが、従わないなら俺とここで戦って、俺の引き立て役にでもなるか?」

「あのな、俺は今 忙し」



「爆裂手裏剣」
「!!!」

ドカァン!!!!



タンクトップタイガーと俺が話していると、後ろから何かが飛んできてそのままタンクトップタイガーへと直撃した。
タンクトップタイガーは煙を出してところどころ焦げた状態で、自分でも何が起こったのかすらわかっていない様子だった。



「おぼ...。」ドサッ


「…おい。何やってんだよ。ソニック。」

「フン、邪魔だったから寝てもらっただけだ。」


「キャァァアアア!!!!」
「なんだ何の騒ぎだ!」
「タンクトップタイガーがやられた!」
「爆弾よ!」



「そうかそうか、お前もヒーローなどというくだらん肩書きを持っていたな。だったら...否が応にでも俺と戦わざるを得ん状況にしてやる!!サイタマ!!!」



ソニックはそう叫び瞬時に空中へ飛ぶと、そのまま中型の手裏剣を4つ投げつけてきた。

このまま俺に向かってくると思ったそれは軌道を変えてビルや車にぶちあたり、大きな爆発を起こす。街中は一瞬にして大騒ぎとなり、車のクラクションや瓦礫の崩れ落ちる轟音、人々の悲鳴で埋め尽くされた。

ったくよー!俺が急いでる時に限ってなんでこんなことが起こるんだ!!!

泣いてる子供を車から庇うように木をぐいっと倒して、車を受け止めさせる。子供はそのままガレキとは反対方向へ走っていった。



「サイタマ!お前もヒーローなんだろう?くだらん肩書きの為に、俺と戦え!!」


ドゴォン!!


「おい!やめろよ!」


「キャァァ!!」
「おかーさーーん!」
「逃げろぉお!」


「やめろって!!ソニック!!!」

「……ヒーローなんてものは、本当に守りたいものも守れん!お前は本当に大切なものの存在の危機にさえ気付けない!!」

「え、何のことだよ。」

「自分でッ...考えるんだな!!!!」



ソニックが投げつけてきた手裏剣を指で受け止めて地面に落とす。大切なもの?なんだそりゃ?俺は今は悪いヤツを探すのに精一杯なんだよ!
よくわかんねーこと言うし何なんだこいつは!
俺は焦りまくって忘れていたが、悪いヤツって言うのは、人が困ることをするヤツのことだ。


あれ?悪いヤツ...。

あ、




「ここにいた。」

ドシッ!!

「ぎゃぶ!!!!!」



飛び回っているソニックよ背後に回って、ソニックをチョップする。ソニックは蛙をつぶしたような声を出して地面にうつ伏せにめり込んだ。
俺は(ジェノスに持たされた)携帯を取り出して、ヒーロー協会の番号へと電話をかける。ツーコールで繋がった電話に、今のことを報告しないとな。これでなんとかC級残留だ。



「ふう...これで仕事をしたことになるのかな。あ、もしもし?俺 サイタマだけど。うん、C級の。〇市で今 暴れてるやつ退治したから。これ仕事したことになるよな?」



ヒーロー協会へ電話をして、かけつけた機動隊がソニックを拘束して連れていくのを見届けてスッキリした気持ちで家に帰る。

ただ、ひとつ気になるのはソニックが言ってたことだ。




『本当に大切なものの危機にさえ気づけない!!』




...あれ、どういう意味だ?
本当に大切なもの...。

思い返すと少しモヤッとした気持ちが現れたので、それ以上は考えないようにして家に帰った。家に帰ると、ジェノスが『人助けの本』『仏の教えるよい行い』『ヒーローとは?』って名前の本を読み漁っていたので、今日はなんとなく気分的にそうだったから、俺が飯を作って二人で食った。


...本当に大切なもの、か。



脳裏にちらついた笑顔が、その日は布団に入ってしばらくしてもまぶたの裏から消えなかった。









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