「ここがヒーロー協会本部...。」
俺は連絡を受けてすぐにヒーロー協会へと向かった。S級ヒーローが全員収集されるなんてことは、どうやら災害レベルの高い事件のようだ。
ヒーロー協会本部は巨大な四角い黒曜石のようにギラギラと光って、そこへ行くには何段もある巨大な階段を登らなければならなかった。
俺はそれを登り終えて玄関ホールに入ると、ふと違和感を感じる。
(...ヒーロー協会に人の気配がない?)
「君は…ジェノスだな。」
「!」
「ワシはバングという者じゃ。よろしこ。」
近づいてきた老人は、S級ヒーロー3位のバング。本物の実力者だ。だが他のヒーローの姿が見当たらない。
俺がキョロキョロしていると、それを理解したようにバングがやれやれと首を振る。
「本部の者はみぃーんな避難しちまっとる。他のヒーローも、場所が遠かったり、まぁめんどくさがってこない薄情者もおるが、それぞれ理由があるんじゃろう。」
「避難?ヒーロー協会の人間もか?」
「ああ。S級ヒーローが収集を受ける時なんざ、無理難題を押し付けられるくらいじゃからのう。ヒーロー協会としては、これで事が片付けばヒーロー協会の株も上がり寄付金も増える。それを見越しておるんじゃろうが、ま、今回は意味がなかったようじゃの。」
「無理難題?」
「今から35分後に、超巨大隕石がここへ落ちてくる。ワシらにそれをどーにかしろと来たもんだ。」
「隕石だと?!?!」
バングはゆっくりと玄関ホールの出入口から空を見やると、じぃっと目を細めた。と同時にヒーロー協会の避難警報が流れたが、こんな時間からじゃもう避難なんて無理だ!それに、その直径からすればこの街どころか周辺の街まで完全に更地になる。
俺はとにかく高いビルへと移動しようと思いついた。
と、その前に。
「バング、ココ最近で薄紫の髪をした、美しい女性を見なかったか?その人を探している、一週間以上連絡が取れていない。」
「...イェルクヴェインの姫君のことかのう?」
「!! 知っているのか?!」
「所在は知らん、が。どうやらメタルナイトと童帝くんのみにS級ヒーローとしての依頼があったようじゃ。ワシらはそれを知らされておらん。極秘事項だったようでの。...何かを作っていたようだ、ということしかワシには分かりかねる。」
「...作っていた?」
「ま、とにかく、今は隕石だな。」
「...バング、お前は逃げないのか?」
「バング''さん''じゃ。老人は労るもんじゃよ若造。...ワシは先祖代々続く道場がある、ここを離れるわけにはいかん。
バッ!
スウゥゥ……!!
龍水岩砕拳!!!知ってる?
......行ったか。」
バングが何か言っていた気がしたが、事は急を要する。動かないつもりなら無理に連れ出すわけにも行くまい。俺は街の中でも大きく地面が安定しているビルの屋上へと飛びうつった。
○○さんは一体どこに?メタルナイトと童帝といえば、メカニックで有名なS級ヒーローだ。そんな2人が集められるとはよっぽど大掛かりなものらしい。しかもそれを他のヒーローには伝えていないとなると、更にきな臭いな。
タッ、
「な、あれが隕石だと...?!」
手頃なビルに乗った時、頭上には雲がおかしな形を作っていた。その中にまだ近くへと到達していない隕石が隠れているのだろう。Z市にはサイタマ先生も、もしかしたら○○さんもいるかもしれない。
ここは、食い止めなければならない!!!
(ヒュゴォオオオ!!!!!)
「?!」
(ズズゥン...)
「あれは...!!!!」
物凄い風切り音がして頭上の走るそれを追いかけると、そこには鉄のアーマーを纏ったサイボーグが現れた。こんなものが作れるのは1人だけだろう。
俺はそれに近づき、横から声をかけた。
「お前は、ボフォイだな!」
「そういうお前は新入りのジェノスか。」
「お前に二三聞きたいことがある。」
「こんな時にか。なんだ?」
「童帝と共に極秘で制作していたものとはなんだ?」
「...ふん、どこかにネズミがいるようだな。いいだろう、既に完成して中身もあるものだ。教えてやろう。」
「中身だと?」
「あれはこの先数1000年自動で動き続ける機械だ。人目に触れないところにある、それを守るシェルターも俺が作ったものだ。誰にも壊せはしない。中身については極秘事項だ。
...それと、普段はヒーローネームで呼び合うものだ。メタルナイトと呼べ。」
数1000年動く装置...?
まさか
「クッ、メタルナイト!!それの中身とは」
「談笑は終わりだ、俺は新型兵器を試すためだけに来た。隕石とは好都合。」
「ッ...!」
数1000年動く装置だと?そんなもの、考えたくもないが、数1000年の時を生きることが出来る○○さんが消えたことに辻褄が合いすぎる。中身があるとは、まさか○○さんは、そこへ...?
俺は腕の焼却砲を起動させ構える。が、メタルナイトの放ったミサイルは弾道ミサイル。俺が無闇に焼却砲を放てばかえって邪魔になってしまう。
しかし、メタルナイトの弾道ミサイルでも隕石は破壊できなかった。メタルナイトは「改良が必要だな。」と呟いて俺の静止を聞かず飛び去っていった。
クソッ!どうすればいい?!
「迷いが見えるのう。」
「!バング!まだ避難していないのか!!」
「ワシはここを離れんと言ったじゃろう。」
「クッ...!メタルナイトの弾道ミサイルでも砕けなかった、どうすればいい...!!」
「お主はまだ失敗を考えるには若すぎる。適当でええんじゃ適当で。ほどよく力を抜いた方がよい事もある。」
適当...。そうだ、サイタマ先生はいつも心に余裕をお持ちだ。何事にも動じない、そのゆらぎのない精神。俺にはそれが無い。全てを完璧にしようとしてしまう。だが、今の状況では全てを無傷で終わらせるなんて無理だ。だったら...!!
「下がっていろバング!!」
「ほ。」
俺はパーカーをやぶいて、胸からコアを取り出し腕のアーマーへ装着する。これで俺の最大限の力を引き出すことが出来るだろう。二次被害や細かいことは気にしない!この一撃に俺の今の全力を捧げる!!!
ここで、終わろうとも。
キイィィーーーーーーン……バシュッ!
ドゴォォオオオオ!!!!!!
「ぐあああああああ!!!!!!」
隕石に直撃したレーザーから重みが伝わる。だが押しても押してもびくともしない。クソッ、駄目だ!この力でどうにかなるような物ではない!!!
「ぐぐぐ...!駄目だ!破壊できるようなものではない!!」
「いや、じゃが隕石が勢いを落としているようにも見える!」
「本当か!!!」
「あ、いや気のせいじゃった!」
「クソジジイめ!!!!!!!」
コアの動力が切れそうだ。
ここが俺の墓場か。
力が抜けて、地面に膝をつく。もう体を動かせるほどの力も残ってはいない。残り9秒、あとは、逃げろと伝えることしか出来ない。
「残り9秒...逃げろ、バングさん...。」
終わった。俺はこんなところで、仇すら見つけられず、○○さんを救うことも出来ずに...。
○○さん...最後にもう一度、あなたに触れたかった。俺は、あなたの、こと、が
「こいつ頼んだぜ、じいさん。」
「.........!!!」
「な、なんじゃね君は?!」
「俺はヒーローをやっているものだ。避難してなじいさん。」
ああ、サイタマ先生。
先生でも、もしかしたら破壊が難しいかもしれません。ですが、不思議ですね。なんだか、なんとかなりそうな気すら、しますよ。
「俺の町に、」
サイタマ先生が勢いをつけて屋上の地面を蹴る。その衝撃でビル全体が波打ち揺れる。サイタマ先生はそのまま上空へと勢いよく飛び、隕石に向かっていく。
「落ちてんじゃ、
ねえーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ドゴォオオオオオオン!!!!!!
サイタマ先生の一撃で、隕石はそのまま細かく砕けた。さすがサイタマ先生。あなたはやはりとても強い。その拳には、神が宿っているかのようです。
サイタマ先生はそのまま落ちていき、きっと地面にでも着地していることだろう。
しかし、サイタマ先生が粉砕した隕石は、それぞれ細かく砕け小さな隕石となって街に降り注ぎ、建物や道を破壊してゆく。俺達が乗っているビルも傾き出した。
「ほっほ、動きたくても動けんじゃろ。そのままじゃ、守っちゃる。」
「くっ...!」
間近で初めて見る龍水岩砕拳。素手で小さな隕石を叩き落としていく。そして傾き出したビルから俺を抱えて避難をしてくれた。
先生は下で待ってくれていたようで、クセーノ博士の使いの修理回収ロボットが来るまで共にヒーロー協会本部へと向かった。
「ふう...クサイ博士んとこ行けばまた動けるようになんのか?」
「はい。今回はコアに負荷をかけすぎたので、コアの力さえ補充すれば、すぐに戻れます。今回はパーツの破損はないので。それとサイタマ先生、クセーノ博士、です。」
「ふーんすげーんだなクサイ博士って。」
「クセーノ博士です。」
「ほっほ、仲がいいのう。」
「あ。そーいや誰だっけ?」
「ワシはバング、という者じゃ。よろしくな、サイタマ君。」
「彼はS級3位のヒーローです。」
「ふーん、よろしく。」
サイタマ先生とバングが握手を交わす中、俺は先ほどメタルナイトと話した内容を考えていた。
数1000年自動で動き続ける機械、
中身はある、
○○さんは不老不死の種族、
その血は人の傷を癒す、
もう一週間以上連絡が取れていない
巨大掲示板での女神の謎
...考えたくはない。が、きっと○○さんは捕らえられた、もしくは自分から進んで...。
「そういやジェノス。」
「!は、はい!」
「○○のことなんだけど。」
「俺もメタルナイトに話を聞きました。どうやらメカニックのS級ヒーロー童帝と2人で極秘任務としてとある機械を作らされていたようです。...数1000年自動で動き続ける機械で、既に完成して......中身はもうある、と...。」
「...家を出る前に見てた掲示板の下の方にさ、○○がヒーロー協会本部の近くの喫茶店で目撃されてたんだよ。パニックと一緒に。」
「パニック...、おお、あの忍者男か。奴は既になんども脱獄をするもんじゃから、ヒーロー協会管理下の監獄へ入れられたと聞いたが...。」
「げ!まじかよ!くそー話聞きたかったのになぁ。」
パニック...サイタマ先生が以前はなされていた、ソニックという男だろうか。頭痛が痛いのような馬鹿丸出しな名前の男。なぜそいつと○○さんが?それに、○○さんがヒーロー協会本部の近くで目撃されたとなると、もう...。
俺は動かない体に苛立ちを覚えてギリリと歯軋りをした。俺の体が動いたならば、すぐにでもメタルナイトを追いかけてやるというのにッ...!
「...○○さんが、ヒーロー協会本部のそばで...。」
「......少し話が見えてきたのう。イェルクヴェインは不老不死じゃろう。わしの家にある古い文献にも記述があったなぁ。
ヒーロー協会は彼女の癒しの血を管理するつもりなんじゃろう。そして、既に彼女を手に入れておる。」
「問題は、○○が苦しい思いをしてないかだな。あいつ泣き虫だからなー。」
「もう1つ、問題があります。今回の件で、俺はメタルナイトの技術を目にしました。メタルナイトと童帝が2人で作り上げたそれを守るためのシェルター自体もメタルナイトが制作したようなので、そう簡単には破れないかと...。」
「...とにかく、俺は俺でいろいろ探してみるから、ジェノスはまず体動くようにしてこいよ。あとジェノスを連れてきてくれてありがとなバング。」
「ほっほ!イイもんを見せてもらったからのう。どれ、ワシの方も、その○○ちゃんの情報を探してみよう。」
話が終わったすぐ、クセーノ博士からのロボットが到着して、俺はそのまま研究所まで連れていかれた。サイタマ先生は帰宅し、バングもその場を後にした。
○○さんは、今どうなっているのか。
辛い思いを、痛い思いをしていないだろうか。
俺にはわかる、きっと、あの人は優しいから、自分からヒーロー協会本部へと向かったのだろう。あの夜、3人で食事をした時の表情はさよならの顔だった。俺が気付いていれば良かった。あの時抱きしめた○○さんを、離さなければ良かった。
今の俺ではあなたを救えない、でも、必ず助けます。せめて今は、あなたが無事でいてくれれば...!
【〇市】
「ここまで隕石が飛んでくるとは...。」
「おーい!みんなガレキの下を確認して歩いてくれ!」
「ママぁー!!」
「大丈夫よ、歩いておうちに帰りましょうね。」
サイタマが破壊した隕石の破片が散り、各町に甚大な被害をもたらした。しかし、あのままあの隕石が落ちれば全てが無になったというのだが、民衆は目の前の被害で手一杯だった。交通機関は全て停止。帰宅難民が溢れかえる中、誰も気が付かないところで、それは起きていた。
ジ、ジジ、ジ...
『緊急事態発生、緊急事態発生』
『予備電力ニ切リ替エマス。最優先箇所以外ヲ開放シマス。』
バシュッ
ゴポポッ...、ブクブク、コポッ...
『シェルター80%の破損率を確認』
「(痛い...苦しいイ......。)」
「(あの人に会イたい)」
「(アァ)」
「(聞コエル、アノ人ヲ悪ク言わなイデ)」
「(アノ人ヘ向ケラレル醜イ感情)」
「(許サナイ)」
「(アノ人ヲ傷ツケルスベテガ)」
「( 憎 イ。 )」
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