「知ってる?」
「なにを?」

「今さ、C級にすげー強い奴がいるんだって。」

「ああ、聞いたことあるよ。」
「この前の隕石もそうだって。」
「でも(笑)C級って(笑)」

「何が相手でもワンパンで倒しちゃうんだろ?」
「ぜってー嘘だよ」
「弱い怪人を倒して強くなった気になりたいんだろ(笑)」







「結局、本当に頼れるヒーローなんて居ないんだよ。」






























『本当に大切なものの危機にさえ気づけない』



あれから、それなりに普段通りの日常を送ろうとしてはいたが、俺もジェノスも気分は沈んだままだった。今どうなってるんだ?○○は無事なのか?でも、たぶんメタルナイトとやらの話を聞く限り、快適な状況じゃねーのは予想できる。

あれから帰ってきたジェノスと話したが、二人共の予想としては、○○は自分でヒーロー協会本部へと向かったのだろう。ということだった。

意外にもヒーロー協会からメディアへの圧力が相当に強かったのか、イェルクヴェインについて報道されたのは3日と無かったらしく、A級ヒーロー1位のやつの人気効果もあったのか世間がそれを忘れるまで俺達は何も知らなかった。正直、無様だ。



「……なんで、俺に言わなかったんだ。」



ジェノスに俺の順位が一気に5位まであがったと聞き、2人で落ち込んでいるのもしょうに合わないし、町がすげーことになってるって聞いたからぶらぶらとあてもなく歩いていた。

……なんで俺に言わなかったかなんて、わかる。俺は○○と1番長い時間一緒に居たんだから、あいつが優しいヤツだってことも知ってる。俺達に言えば、きっと止められると思ったんだろう。

家にジェノスが帰ってきてから、2人で報道されたニュースの映像をユアチューブで初めて目にした。





『ほんとに居たとすれば、ぜひその魔法の血を世界に提供すべきだろう!だって、世の中には今でさえ死にかけてる人もいるんだよ?ただでさえ怪人がいる世の中なのにそいつは誰も助けてないんだ。そーゆー力がありながら!』
『何かァ、それって逃げてんじゃね?そんなスゲー力あんのに隠れてるとかスゲー卑怯だと思うんッスよ。』
『父がガンで闘病してるんです。力のある人がヒーローになるように、その人も誰かを助けるべきです。私としては、名乗り出ないのは許せないです。』




『...君がもし、本当にこの世界に実在してこの映像を観ているのであれば、速やかにヒーロー協会本部へ出頭してくれ。君の安全は保証するし、怖い思いなどさせはしない。


君の人を救う勇気を、見せてくれ。』






「こんなもの、○○さんが見れば、自分で動くに決まっている……!」

「...たぶん、あいつの性格とかも知ってたんだろうな。一般人が掲示板であんだけ個人情報持てる時代なんだ。ヒーロー協会は調べてからやったんだろ。」

「その上での揉み消し...きっと、世間に知られてはイメージダウンなどの問題が起こりかねるんでしょう。一刻も早く、○○さんを探します。」





ジェノスはああ言ったけど、どこを探すべきなんだろうか。というよりも、自分で決めた○○の決断を、俺達がまたフイにしてもいいんだろうか。

……俺だって、また3人で飯食ったりしたいさ。楽しかったんだ、あの日常が。○○がいなくなってから、スモークがかかったみたいに日々が色褪せて見える。なんだってんだよ。パニ、ソニックと一緒に居たのは、まぁ、別にいいよ。俺関係無いし。


とぼとぼ歩いていると、後ろから声をかけられた。なんか聞いたことのあるような...えーっと......。




「誰だっけ?」

「ヒーロー、タンクトップタイガーだ!忘れるな!」

「いちいち覚えてねぇよ。」



「ふん!よくもノコノコと出てこられたもんだな!あの隕石を、お前がS級ヒーローと協力して破壊したって?え?ウ・ソ・を・つ・け!!!!」



「あれくらいなら今までもやって来てるぞ。虎とか鬼とか知らねーけど。」

「この後に及んでまぁーーーだハッタリを突き通すのか?!」



ガレキの上から声をかけられて振り返ると、そこに居たのはパ...ソニックが街で暴れた時に俺に言い掛かりをつけてきた男だった。あれが鬼だか虎だか知らねーけど、それだけ順位が動く災害だったんだろう。

ったくめんどくせーな...。ホントの事なんだからしょーがねーだろ...。

とか思っていたら、もう一人似たようなやつが現れて、俺の目の前にジャンプで着地した。




「ヒーロー、タンクトップブラックホール参上!!!!!!」

「アニキィ!!!!!!」



ブラックホールって...黒いタンクトップ着てるだけじゃん。



「お前がサイタマかぁ!!S級ヒーローの金魚の糞をして手柄をわけてもらい順位を上げているというインチキ野郎は!そんなことをして恥ずかしくないのか?おぉ?」

「あ?なんだそりゃ。」

「C級ヒーローん中じゃあお前は嫌われモンだぜ!こんな短期間で5位になるなんてインチキしかありえねぇ!なぁアニキィ!」

「おぉ!弟よ!」



なんだコイツら...暑苦しすぎるだろ。うーん、こういう奴らもヒーローの中には居るんだな。つーか、俺を呼び止めて参上するのはいいんだが、結局どーしたいだコイツら。



「お前ら俺をどーしたいの?」

「アァ?そりゃあもうヒーロー活動が出来ないようにボコボコに」
「待て弟よ。こういうずる賢い奴はそんなことをしてもいずれは再び繰り返す。こういう奴には、精神的にクる方法が1番だ。......1番残酷な方法が、な。














お前かあーーーーー!!!!!!

この町をメチャクチャにした
ヒーローっていうのはぁーーーーー!!!!!!!!!!!!」



「(クッ...なんてでけぇ声!これなら町中に響き渡る!さすがアニキ!この町にはこいつに怒りの矛先を向けるやつもいる!)」



「この町をこんなにして、何とも思わないのか?!お前が出しゃばらなければ他のヒーローがうまくやってくれたかもしれないのにィ?!

みんなを救った気で悦に浸っているのかなぁー?!

お前のせいで家や職場がなくなってドン底になった人たちがいるのに!?だから堂々と呑気に散歩なんか出来るのかなああああ??!同じヒーローとして、恥ずかしいなああああ!!!!!!」




...何言ってんだコイツ?

黒いタンクトップのやつの声が町中に響いて、ガレキの撤去作業や潰れた家に荷物を取りに来た人たちがこちらを覗き込む。
黒いタンクトップは尚も大声で叫びつづけているが、1人の住人がそれに賛同を示してから、大きな合唱へと変わる。




「そうだ、お前のせいだよ...。」

「...!!聞こえたかぁ?!この町の、悲痛な叫びがぁ!!」


「そうよ、アンタがおかしなことしなきゃ、こんな所まで被害は出なかったわよ!」
「俺の家を返せ!!」
「仕事がなくなってどうやって生きていけばいいんだ?!」


「(ふん、食いついた!)責任を取ろうと思わないのかァ?!この大惨事を起こした責任を!!ヒーローなんて辞めるべきだろぉ?!」


「やめろ!」
「アンタなんかヒーロー失格よ!」


「やめろ!」
「やめろ!」
「やめろ!」
「やめろ!」


「…………。」












(視点change)

町の様子を見に外へと出掛けたところ、サイタマくんが歩いてるのを見つけた。が、あれはC級ヒーローのタンクトップタイガーか…捕まっておるのう。更にタンクトップブラックホールまでもが現れて、サイタマくんを精神的に貶めようと周りの人間達をも巻き込み始めた。

サイタマくん、君は間違いなくこの町の命を救った。じゃが、それの周囲の反応がこれじゃ。これが現実。
自分たちの中に溜まっている鬱憤を、誰かに向けて叩きつけることで解消しようとする。みんな目の前のことで手一杯で、真実を見るほどの余裕が無い。視界が狭まってしまうのじゃ。

君は強い、良いヒーローになるじゃろう。
だからこそ、腐ってゆくのは見たくない。

ここで辞めるのも、ひとつの選択。




「(仕上げだァ!)おおーーっと?!今こいつ、おかしな動きをしたぞお!」

「は?何言って」

「まさか気に入らない人間には危害を加えようと言うのか?!この町を破壊したように?!そおーーーはさせん!この、ヒーロー タンクトップブラックホールと」

「ヒーロー、タンクトップタイガーが!!」


「「お前の暴挙を許しはしなァーーーい!!!」」




……愚かな。

新人つぶしのついでに売名行為に出たか。喧嘩を売った相手が悪かったな。そんなだから、B級どまりなんじゃよ、若造よ。

帰ろ。




(視点change)


「俺達兄弟がお前の捻じ曲がったヒーロー根性、叩き直してやる!!ガオオッ!!!」

「いけぇ弟よ!」


ボグッ!
ドチャッ!


「…………え?」



なんかよくわかんねーことをペラペラ話されたけど、まぁそういう奴らなんだろう。タンクトップタイガーがこっちへ向かってきたので、軽く振り払うと遠くまで飛んでいき、鈍い音を立てて地面に落ちた。



「潰す!!!」

……ぎゅっ!

「?!?!あ、いで、ででででで!!!!
ぎゃああああ!!!」



え、え?



「いだいいいいいい!!!ごべんなざいゆるじでええええ!!!」

「いやいや...冗談だろ?」



次に向かってきたタンクトップブラックホールの両手を握ると、そんなに力を入れてるわけでもないのに、突然苦しみ叫び出した。
周りの人たちのコールもしん、と静まり返っている。



「勘弁じで下ざい!!嘘吐きました!!!嘘ついてごべんなざいいいい!!!」

「...嘘じゃねーよ。」




「…え?」





「嘘じゃねー!!隕石壊したのは俺だ!!!文句がありゃ言ってみろ!!」


「...お、お前のせいで家が」

「るせーーーー!!!隕石に言えボケ!!俺はお前らの評価が欲しくてヒーローやってんじゃねえ!!だが俺は間違ったことはしていない!!お前らの被害なんか知ったこっちゃねえ!!他に文句あるやつは言え!勝手に憎めこのハゲ!!!」


「...ハゲはお前だろ」

「うるっせぇえーーーー!!!」



ったく、めんどくせえ!恨みたきゃ勝手に恨んでろ!好きに言え!俺は別にちやほやされたいわけでも、順位をあげたいわけでもねーーんだよ!!!
俺の雄叫びにやる気をなくしたのか、住民達はそれぞれ疲れきった表情で散っていった。いや疲れてんの俺だから。お前らじゃねーから。

地面に突っ伏して泣いてるタンクトップブラックホールが少し気の毒になって、病院に連れていこうかと近づく。



「ひいっ!うう、ずびばぜんでじだぁっ!!」
「や、もういいからそんな痛てぇなら病院に」


ヒュッ!!!
パシッ!


「...なんだこりゃ?...薔薇?」

「う、うぎゃああああ!!!」

「あ?!」



突然背後から気配がして、それを掴む。それは鋭い刺のついた薔薇だった。なんだこりゃ。しかもなんか黒いぞこの薔薇。
それを見ていると、背後から悲鳴。どうやらタンクトップブラックホールのようだ。振り向くと、タンクトップブラックホールは身体から血を流しながらのたうち回っている。



「うう、あ、アニキィ?!」
「な、なんだこれはぁあ!!!」

「動くな待ってろ!!」


ブチッ、ブチブチッ!!


「うう...!」
「アニキィ!だ、大丈夫か?!」

「怪人か?地面から生えてきた……。」



咄嗟にタンクトップブラックホールに駆け寄って体に巻き付くそれを引きちぎる。それは、コンクリートを突き破って生えていた薔薇の蔓(つる)だった。タンクトップブラックホールの皮膚をその刺で切り裂きながらギリギリと締め付けていく。
全てを引きちぎって、コンクリートに生えている根元をつかんで引っ張りあげる。すると、コンクリートを突き破って拳ほどの大きさの薔薇が姿を現した。それも花弁は真っ黒で、花を拳で握りつぶすと伸びていた蔓は力を失ったようにべちゃりと地面に落ちた。



「なんだこりゃ...。」

「か、怪人か?」

「いや、おさまったみてーだけど...。」



めそめそと泣きながら身体から血を流すタンクトップブラックホールを、タンクトップタイガーが抱えてその場を去っていった。
俺は手の中で枯れていく黒い薔薇を見て、なにやら嫌な予感を感じ取ったが、しばらくそこでうろうろしていても何も起こらなかったので、一時家に帰ることにした。
結局、○○の手がかりも掴めずに罵倒されただけだったな……まぁいいけど……。




それから数日、ヒーロー協会にはおかしな苦情が多数寄せられた。

黒い薔薇が、人々を度々襲うのだという。それは不思議なことに、俺についての悪意を持っていた人間ばかりだという。一時期、俺にはそういう能力があるのだと噂されたが、C級(笑)のインチキヒーローの俺のことだから、そういう能力を持ってるやつに依頼したんじゃないかってことでその噂は流れた。

一体なんだったんだ?まったく。

































「(サイタマさん)」





「(サイタマさん、わたくしの、大切なひと)」



















「(サイタマさんを傷つける人は)」




「(みんなわたくしが)」






















「(消して差し上げますわ。)」
















貴方を傷つける人達は


みんな

















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