あれから、ぷりぷりプリズナーがぶち破った穴から出てきた俺は機動隊が現れる前に瞬時に監獄を脱獄した。ぷりぷりプリズナーとやらに着いてきたはいいが、街には人の気配が全くない。どうやら避難警報が出たようだ。
と、突然目の前のぷりぷりプリズナーが進路を変更する。何かあったのか?
「これは...イナズマックスちゃんだな。」
「あらぁ?...ン〜、良い肉ね。新しい兵隊さんかしらぁ?」
「強い気配をビンビン感じる...良い!!」
ぷりぷりプリズナーは投げ飛ばされてビルから飛び出してきたヒーローをキャッチして抱え、そっと屋根のある地面に寝かせる。
こいつはA級20位のイナズマックス。火薬仕込みのスニーカーでの威力ある蹴りが特徴。フン、どうやら奴の好みの男だったようだ。ぷりぷりプリズナーは目の前で仁王立ちする奇妙な姿の怪人に向き直る。
「A級11位スティンガーちゃん、A級20位イナズマックスちゃん...。どちらも気になる男子だった。そんな2人を壊したお前は許せん!!今最も気になる男子のジェノスちゃんに抜かれ最下位にはなってしまったが、俺もS級ヒーローだ。お前を懲らしめてやる!」
「あら、じゃ〜期待しちゃおうかしら。」
「まずは半分の力で様子を見てやる、フンッ!!!」
ビリビリッ!!!
「!!!!!!!!」
「………? おい、どうし」
「あああああああああああ彼氏から貰った手編みのセーターがあああああああああ!!!!!!おおおおおおおおおおおおおお前だけは許せんんん!!!!!」
「…あなた、なかなか…楽しそうね。」
「(もはや怪人も何も関係がないな。)」
「じゃ、ちょっと本気出しちゃう。」
ゴッ...!!
「…………!!!」
ドゴッ!!!
「……あら。効いたわ、少しね。」
ぷりぷりプリズナーが全身に力をこめると、その巨体には少し小さめだったのかぴちぴちのハートのセーターが鈍い音を立てて破けた。
ぷりぷりプリズナーはそれに対して酷く怒りを露にして震えている。というかお前 彼氏がいるのか……。
エンジェルスタイルとかいうふざけた姿になったぷりぷりプリズナーを視界に入れないように怪人を見やる。
全裸になったぷりぷりプリズナーを見て怪人がぷりぷりプリズナーに殴りかかる、が、ぷりぷりプリズナーも即座に右フックを繰り出す。
互いに一撃をくらった。お互いに平気そうな顔をしている。しかし、強がってはいるが怪人にはあまり効いていないようだ。それに対してぷりぷりプリズナーへのダメージは充分だったようで、重心がふらふらしている。
「俺も効いた、少しな。」
「ウフフ、楽しいわぁ。」
「(これが災害レベル鬼とS級ヒーローの戦い?だだの殴り合いではないか。)」
「わたしももっと楽しみたくなっちゃった。でもちょっと待ってね、大事なお花を潰すわけにはいかないの。」
そう言った怪人が後ろ手に隠していたものを見た俺は驚愕した。そこにはあの日、意識を失う時まで俺が見届けた〇〇が、あの時と変わらぬ姿のまま水槽の中にいたからだ。なぜあそこに〇〇が?!というか、俺が忍び込むのも苦労したあの分厚い装置をどうやって……?!あれはS級ヒーローのメタルナイトが制作したものだぞ!!
ぷりぷりプリズナーはちら、とそれを見て首をかしげた。やはり他のS級ヒーローは何も知らないのか。
「そこのプリティな女子はなんだ?」
「ウフフ、人間は何も知らないのね。
神の血族、不老不死と癒しの力を持つバケモノ。彼女の心臓が欲しくて地上に出てきたの。でも、思ったよりも骨のある人に会えて嬉し''かった''わ。」
「(……酸素チューブか?どうやらまだ生きているようだ、胸が上下している。)プリティな女子にも手をかけるとは...更に許せん!過去形とは、俺もなめられているようだ。」
「わたしも暇じゃないの、もう遊びは終わりよ。」
ガレキに立てかけるように〇〇の入った水槽を置くと、怪人は即座にぷりぷりプリズナーの懐へ入って拳を撃ち込んだ。俺ならば見切ることが出来たスピードも、ぷりぷりプリズナーには見切れなかったようで、腕、鳩尾(みぞおち)、頬、顎、それぞれに数発食らう。既にもう意識などほぼ無いだろうが、怪人は大きく飛んだぷりぷりプリズナーに狙いを定めて肘を引く。
「パンチっていうのはね...相手を殺すつもりで、1発1発殺意を込めて打つのよ……こんな風に、ね。」
ドドドドドドドッ!!!!!!!
ドッゴォ……ン……!!!!
「……お前は何者なんだ?」
「わたしは深海を統べる海人族の王、深海王。あなたもわたしに歯向かってみる?」
「……フン、貴様1人で地上を支配できるとでも?深海で静かに暮らしていれば良かったものを。…俺はヒーローではないが、ついでだ。貴様を駆除してやろう。それと、そいつは俺の女だ。みすみす渡さん。」
「あらそ、じゃあ死んでいいわよ。」
ヒュッ
「風刃脚!!!!」
「っ……!」
「お前は俺と戦うには遅すぎる!!嬉しいぞ深海王、お前と戦えば戦うほどに、俺は自分の強さを再確認する!!!」
「...ウフッ、ウフフフハハハァ……!!!」
「クハッ、どうした?ついにおかしくなッ」
ビュルビュルッ!
「ックソ!!」
「何 言っちゃってんの?ウフフ、雨が降ってきたでしょ?それがとっても気持ちいいのよ。」
ちっ、少し油断した。奴の口からは鋭い牙を持った触手が現れたが、即座にそれを奴の顎を使って噛み切らせてやった。……が、おかしい、さっきよりもスピードもパワーもあがっている!俺の攻撃にも先ほどよりも怯まない!!いや、むしろ効いていないのか?!
ビルの上から深海王の攻撃を避けるために地面に着地する、と、深海王はバキバキと音を立てて身体を変形させていく。それはとうとう先ほどの深海王の姿の、ゆうに6倍もの大きさへと変わっていた。
このスピードとパワーでは〇〇を助けることが出来ない。俺が深海王に負ける要素は……。
「風刃脚!!」
ペシッ
「あなたの攻撃、ぜーんぜん痛くないわぁ。」
「(くっ、まったく効いていない...威力が足りないのか。これでは勝てん!武器を取りに一時退却だ!!)」
「ほーら捕まえ……アラ?」
「深海王、次に会う時が貴様の最後だ。その女、それまで手出しをすることは許さん。」
シャッ
「あら、逃げちゃった。……ま、いいわ、雑魚はほっときましょ。あなた、〇〇って名前なのね、ウフフ、さぁ行きましょう。向こうにたくさんの餌の匂いがするわぁ。」
「(……、コポ……。)」
ぺた、ぺた、ぺた
奴は〇〇の心臓を食らうと言っていた。不老不死の力を欲しがっているのか……早くせねば〇〇がやられかねん。
バケツをひっくり返したような土砂降りの中、俺は深海王から逃れるために衣服を犠牲にしたために全裸で町を歩いていた。
「!!おい、そこのお前!避難警報を聞いていなかったのか?!」
「?……ヒーローか。」
こいつは知っている。S級ヒーローの鬼サイボーグだな。サイタマの弟子と名乗る金魚の糞。むかつくのは、度々〇〇に飯を食わせて貰っていた男だということ。〇〇に好意を持っているやつだ。……結果 守れもせずむしろ気づくことすら出来なかったボンクラなやつが、あの深海王と戦えるはずがない。
鬼サイボーグはこちらへと近付いてきたが、俺は今イラついている。長く話していると殺してしまいそうだ。
「フン、正義ごっこをやってるヒーローなんかでは深海王は倒せない。本当に守りたいものも守れるわけがない。」
「ッ?!」
今はこいつはいい!早くせねば〇〇が……!ええい!なぜ武器庫を離れた場所に置いてしまったのだ!!!俺は全速力で走り抜けた。
(視点change)
なんだあの露出狂の変質者は。
とにかく、サイタマ先生とはぐれてしまった俺は目的が同じな為に海人族とやらを探していた。サーチ機能をフルに使って周囲を探る。多数の熱量を感知した。これは……まずい!災害避難所!!そこへ巨大な何かが近づいているのもわかった。
俺は急いで雨の中走り出す。
災害避難所が目先に見えた時、そこには巨大な緑色をした怪人、海人族が災害避難所の壁を壊して中へ侵入した所だった。スーツケースのボタンを押し、アーマーを装着して、ガラスを蹴破り災害避難所へと入る。
……なるほど、中にいたヒーローもみんなやられたのか。
「なぁに?あなたもヒーローとかいうやつなの?」
「お前を排除する。」
ブースト点火!!
思い切り海人族の頬へと拳を打ち込むと、海人族はそのまま吹き飛んで災害避難所の壁をぶち抜いて外へと飛び出していった。災害避難所の人間は皆、俺を見て泣いている。...なるほど、余程の危機だったようだな。
投げ飛ばした時、同時に何かがパリッとひび割れる音がした。が、それに気を取られてしまった。
ブチィッ!!
ドガガガガガガガガ!!!!!!!!
「キレたわ。アンタ、本気で殺してあげる。」
「また油断...俺も学習がヘタだな。」
海人族があのままやられたものだと思った俺は、海人族が放ってきた拳に気がつくことが出来ず、腕を引きちぎられて壁に衝突する。顔面の半分と右腕が破損してしまった。油断した。
立ち上がり、体制を整える。これ程の威力、俺だけでどうにか出来るだろうか……。
「動けるものは今すぐシェルターを出ろ!!俺がやられないとも限らない!!!!」
「一匹もぉおおお逃がさなぁああい!!!!!!」
どうやら本気でキレたようだ。俺が叫んだ一言で、シェルターは大混乱となる。海人族をシェルターから出さないように、その場で海人族を殴るが、向こうも強大な力を持っているようだ。だがこのままなら住民が逃げ出す時間くらいは稼げ
「お兄ちゃんがんばれぇーーーー!!!」
「うるさいわねぇ。ガキは溶けてなさい。」ブピュッ
「……!!」
ビシャアッ!
ジュ...ジュウ……
……くそ、片腕が落ちた。もう両腕が使えない。背中も溶け落ちて立ち上がることすら出来なくなってしまった。もう戦える術がない……。
深海王が口から吐き出した液から、少女を庇い全身にそれを浴びてしまう。溶解液だったのか、特別素材の頭部以外は次第に形を崩してゆく。
背後から髪を鷲掴みされ、そのままシェルターの外へと投げ飛ばされる。雨の降っているコンクリートに身体を打ち付けて、顔を上げると、見えたものがあった。それは地面に対して横に倒れている大きなガラスの筒。
……なんだあれは?巨大な、水槽……?
いや、違う
嘘だ そんな……!!!
「〇〇、さん……!!!!」
「あんた1人ならあんな溶解液かわせたはずなのに、ガキ1人守るために自滅するなんてバカねぇ。」
「キサマッ、あれは…なんだ!!!!」
「ン〜?あれはねぇ、神のもたらした奇跡よ。あれの心臓を食べて、わたしは不老不死となるのよ。」
「あれ……なに?水槽?」
「お、女の人がいるっ!」
「おいあれ女神だよ!3ちゃん掲示板でスレ立ってただろ!」
「実在したのか……!」
「あのちょっとニュースになったおとぎ話の?!」
「いっぱい管が...なんか、可哀想...。」
「心臓を食えば不老不死になれるだって?!」
「生きてるのか?」
「ヒーロー協会のマークが彫ってある、あれは、ヒーロー協会がやったのか?」
「そんな、非人道的だわ!」
「いやでも、不老不死なんだろ?」
「どっかのおバカな人間が独り占めしようとしたみたいだけど、この前の隕石でシェルターが壊れてたからついでに貰って来ちゃった。」
「キサマ……ッ!その人に指1本でも触れてみろ!俺がお前を排除してやる!!!」
「ウフフフフ!!その芋虫みたいな身体で何をするっていうのかしらぁ〜?もういいわよアンタ。死んじゃって。」
くそ!!くそ!!!目の前に〇〇さんがいるのに、あんな、痛々しい姿でッ……!あなたは、あなたはずっと、居なくなってからもう1ヶ月、ずっとその装置の中で生かされ続けていたんですね。あなたのあの優しい手に、俺が唇を落としたうなじに、至るところから血液を採取するためのチューブが通り、中を〇〇さんの血が走って赤黒く染めている。
あの時 俺が何も気がつけなかったから、俺が〇〇さんから手を離したからッ……!!
海人族がこちらへ向き直って、トドメをさそうと腕を伸ばしてくる。
くそ、俺は、また何も救えなかったのか……!!!
「ジャスティスクラッシュ!!!!!」
ガシャンッ
「……ハア?」
「正義の自転車乗り、無免ライダー参上!!!」
海人族が俺に手をかけようとしたその時、軽い鉄の音と共に現れたのはC級1位の無免ライダー。
馬鹿な、C級ヒーローでは歯が立たない!!!早く逃げるんだ!!!無免ライダーは拳を繰り出すが、それはいとも簡単に受け止められてそのまま身体を地面に叩きつけられる。しかし無免ライダーは何度叩きのめされようと向かっていく。体はもうボロボロだろう。最後の1発で動かなくなった無免ライダーを尻目に、再び海人族がこちらへと向かってくる。
「トドメさすの遅れちゃってごめんねぇ、じゃあ死ん」
「じゃ、じゃすてぃす、たっく、る……!!!」
べたっ
「はぁ??」
「あううぅぅ...。」
無免ライダー...。
もう虫の息かと思ったが、再び立ち上がって海人族の背中にへばりつく。それもうざったそうに振り払われるが、彼は諦めない。
何度も何度も、ふらふらと海人族へ向かっていく。もう血だらけだ。ゴーグルは割れて、ヘルメットにもヒビが入っている。
「弱いってことなんて、自分が、一番良く、わかってるんだ...。
俺じゃB級で通用しない...、自分が弱いってことは……俺じゃ、お前に勝てないなんてこと、わかってるんだよぉ……ッ!!」
「なぁ〜にボソボソ言ってんのよ、命乞い?」
「でも、やるしか、ないんだ。
俺しかいないんだ...!
勝てる勝てないじゃなく、
俺は今ここで
お前に立ち向かわなきゃいけないんだ!!!!」
「ハァ〜、もう飽きたんだけど。」
ボグッ!!
…………!!!!
これが、ヒーローなんだと俺は感じた。たとえ絶望的な状況でも、それを待っている人たちがいるならば、立ち向かい続ける。彼こそがヒーローだと思った。絶望的な状況でも立ち向かうその勇姿に心奪われたシェルターの人間達の応援する声が聞こえる。
しかし、海人族はそんな無免ライダーを殴り飛ばした。声援が止み、静まり返る中で聞こえたあの人の声。
ドサッ
「よく頑張った。ナイスファイト。」
「……あ、そこ、に」
「ん?」
「彼女、が、いる...んだ...!ガフッ!たす、助け、」
「…………〇〇?」
「んもう!まーたヒーロー?
もういいわよ次から次へと。虫か何か?」
サイタマ先生……。
殴り飛ばされた無免ライダーを受け止めるサイタマ先生が居た。たどり着けたんですね……ああ、良かった……。
シェルターの人間達は現れたC級ヒーローというランク付けのサイタマ先生に諦めを見出している。しかし、サイタマ先生が来たからには、もう……。
俺は身体をモゾモゾ動かすがいっこうに進まない。サイタマ先生は無免ライダーを寝かせると俺に気が付いて駆け寄ってきた。
「お、おぉっ?!ジェノス大丈夫か!お前それ生きてんのか?!」
「せん、せい……!〇〇、さん、が……。」
「 ああ、見た。良かった、死んでなくて。」
「たす、け……。」
「おう、この海珍族とやらをぶっ飛ばしたら、助ける!」
「聞こえてるのよ!!!!」
ボコッ!
「……(ギロッ)」
「フシューッ!!!わたしね、今とぉ〜っても機嫌が悪いの。ここから一匹も逃がさないし、あのお花も誰にもあげない。アンタはムカツクから、とっとと死んじゃって。」
「……〇〇を、俺がみすみす渡すわけねーだろ。」
サイタマ先生は、海人族を睨みつけ、真正面に対峙した。深海王はメキメキと音を立てて再びシェルターを壊した時と同じ巨大なモンスターへと姿を変えた。
そんな中、俺は視界の端に見えた異変を捉えていた。
ピシッ、パキ、パキキ...
「…………〇〇、さん?」
「ゴボッ……ゴボボッ、ゴポ……!」
〇〇さんの居る水槽の中が、真っ黒な何かで埋め尽くされ始めているのを見た。それはガラスを圧迫し、同時に、〇〇さんの美しい姿をも覆い隠すように増えていた。
あれは、黒い薔薇、なのか?
サイタマ先生が海人族を倒した破壊音。
それと同時に見えたのは、
目を開いた〇〇さんの、
白く濁った瞳だった。
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