「や、やった!ヒーローが来たぞ!」
「でも、C級ヒーロー...か……。」
「あれ、C級2位のやつだろ?噂も聞いてる!」
「さっき殴られなかった?」
「気のせいだろ、あんな奴が立ってられるわけない。」
「絶望的な状況は変わらない、か。」
無免ライダーを先に行かせて、俺は走っていた。大きな歓声が止むと同時にそこへたどり着いて、倒れる無免ライダーをキャッチする。
すげーかっこよかった。
ヒーロー、って感じだったぜ。
ボロボロの無免ライダーが震える声で俺に伝えた。視線の先には、デカイ水槽と、その中でたくさんの管に繋がれて眠る○○の姿。
お前、なんだよ、それ。
なんでそんな、いっぱい。
それ、血か?腕とか、首とかから伸びてる赤黒いチューブの中は○○の血なのか?目ぇあけろよ。なんだよこれ。
よく観察すると、口にあるマスクからなのかわかんねーけど、一応呼吸はしてるみたいだ。良かった。すぐにその狭いとこから出してやる。待ってろ。
「あなた、私の殴打で倒れないなんてやるわね。今までのゴミとは明らかに違う。」
「…………。」
「わたしは深海王、海の王。海は万物の源であり、わたしはその王であるから全生態系ピラミッドの頂点に立つ存在……。
そんな私に楯突いたというこ」
「あーはいはい分かったわかった
いいから早くかかってこい。」
ボッ!!!!
ボグッ!!!!!!!!
「話がなげーんだよ。」
「ッッッうおおおおおおおお!!!!」
「すげー!!見たかよ!!
ワンパンだぜワンパン!!!!」
「かっっこいいいいい!!!!」
「やった!!!助かったんだ!!!!」
話が長くてイライラしたから殴ったら倒しちまった。さて、俺は○○を……。
「いンやぁ、実はそんな強い怪人じゃなかったんじゃね?(笑)」
「……そ、そんなわけないだろ、お前も見ただろ?」
「いやいやいや!だってさァ、あいつC級だろ?C級のヒーローが1発で倒しちゃうとか、他のヒーローどんだけ(笑)弱いって(笑)ぶっちゃけ肩書きなんてカンケーないんだね!他のヒーローったら無駄死にだよねぇ!」
「ッ...お前!!!やめろよ!!!!」
「なななっなんでオレが怒られんの?!協会はみんなの寄付で成り立ってんでしょ?!だったら守ってもらってトーゼンじゃん!!!時間稼ぎなんて誰でも出来るし!!
他のヒーローなんか
何の意味もなかったじゃん!!!」
「あっはっはっは!!いやー、他のヒーローがギリギリまでコイツを追い詰めてくれたお陰ですげー楽に倒せた!!」
「(……先生……。)」
「実は遅刻してきたけどちょーどいいタイミングだったぜ!あ、お前らちゃんと俺が最後に仕留めたって広めとけよ!!ただ遅刻してきただけとか書いたらぶっ飛ばすぞ!!」
「あれ……あいつ……サイタマだ。」
「あ!ほら、隕石事件で話題になったインチキの」
「すげー勢いで順位あげてるんだろ?嘘くせえ。」
「お前ら他のヒーローの手当てしとけよ!ここで死なれたら今後俺が利用出来なくなるだろ。」
「あいつっ……!」
「やっぱインチキなんだよ!」
「なんて奴だ!」
「まったく、他のヒーローに感謝しなきゃな。」
「(……先生、先生がその道を選ぶというなら俺は口を出しません。でも、果たして大衆を敵に回して、ヒーロー活動が出来るのか...俺はそれが心配です。もしあなたが追い詰められるようなことがあれば、その時は、俺が……。)」
お、雨やんだな。
良かった良かった。ここまで濡れてちゃかわんねーけどな。さて、ほっといちまったけど○○を出してやらねーと。
俺は振り返って、○○を助けようと水槽のあった所を見る。が、あれ?なんだこりゃ……。黒い何かが、水槽から飛び出して地面に広がっていた。っていうか、水槽、割れてる……?黒い薔薇がめっちゃ溢れてるけど、これどっかで……...。
「ぎゃああああああああああ!!!!!!」
「なっ、なんだ?!」
「うわあああああ!!!」
「なんだあれは?!」
「ば、化け物だ!!!」
全員が俺の背後を指さして叫んでいる。ジェノスも目を見開いて、俺の後ろを見つめている。
すると、俺の視界が暗くなった。影になったんだ。何か大きなものが俺の後ろに立ったみたいに。
俺はそれを確認しようと振り返る。
そこに居たのは、ドロドロとしたヘドロを垂れ流しながら揺れている、巨大な顔。
「ザァ……バ……ア''ァ……!!!」
ドカァン!!!!
「キャァアァア!!!!」
「やめ、やめてくれぇええ!!!」
四階建てビルと同じくらいの大きさの顔が俺を見つめていて思わず固まっていると、数人の悲鳴が上がった。悲鳴が聞こえたシェルターを見ると、黒い刺のついた蔓がシェルターの中の人たちを縛り上げている。刺が肌にくい込んで血を流し泣きわめく人々。
俺が急いでそっちへ向かっていくと、シェルターの中に居たのか現れたC級ヒーローやB級ヒーロー数人も集まりその蔓を切っていく。
これ、どっかで見た……あ、隕石のときか。黒いタンクトップを縛り上げてたあの薔薇だ!!!
「それは花を潰せば収まるぞ!!」
「これかっ!」
「うりゃあ!!」
「なんなんだ!あれは!?」
「海人族の生き残りか?!」
「っていうか、なんて醜いの……?!」
「あんなに醜い生き物初めて見た……。」
「う、ヴォェッ……!!!」
「き、気持ち悪い……。」
俺の背後に現れたその怪物は、四階建てビルくらいは長さのある頭をしていて、ボサボサの長髪が地面まで垂れていた。顔は長く馬のような龍のような……。白くぶよぶよした皮膚に、どろっと窪んだ目。垣間見得る牙は鋭い。瞳に光は無く、濁った赤とも黒ともとれる色をしている。口や腕からは絶え間なく黒い液体を垂れ流し、それが落ちた地面には黒い花が咲いていく。
「ザ……、ァア''ア''……!!!!」
ドカァンッ!!
「先生!逃げてください!こいつは先生を狙っているようです!!」
「みてーだなっ!」
怪物は俺めがけて腕を伸ばしてくる。その腕は細くガリガリで、骨に皮がかろうじて巻かれているようだ。爪は赤黒く伸びていて、俺をつかみ損なったままガリガリとコンクリートに傷を作っていく。
それをひょいひょい避けながらシェルターを離れると、中にあった蔓を全て始末したのか、中にいたヒーロー達が地面に降りてきた。
「俺達も戦うぜ!」
「こいつ、動きがノロイし弱そうだ!!」
「あれ?お前らどっかで……ま、いいや。俺はジェノスと無免ライダーどっかやらねーと。」
俺は出てきた2人に見覚えはあれど思い出せなかったので、2人に怪物を任せて地面に倒れてる無免ライダーとジェノスが潰されないように避難させようと移動した。
「この醜いバケモノめ!!」
「このヒーロー、タンクトップタイガーと!」
「ヒーロー、タンクトップブラックホールが退治してやる!!!!」
「その鼻っ柱、へし折ってやる!!ガオオ!!!」
バキッ!!!!
「グゥォオオオオオオ!!!!」
「き、効いてるぞアニキ!こいつ弱い!!」
「握力200キロで、お前の手を粉々に砕いてやろう!!」
ギュッ、
バキッ!バキバキバキッ!!!
「ギャオオオオォォォ!!!!!!!」
「がんばれタンクトップブラックホール!」
「そんな気持ち悪いのやっつけちゃってー!」
「いけー!タンクトップタイガー!」
タンクトップの二人組の攻撃をうけて、その怪物はのたうち回っている。それでちらっと見えたが、背中にはボロボロの布切れみたいな翼が垂れ下がっていた。尻尾もあるようだ。
頭部から背中へ流れる髪の毛らしきものは黒いヨダレだかなんだかで汚れててよくわからねーが、紫のような色をしている。
「……あれは、一体何なのでしょうか?」
「わかんね。海人族の生き残りじゃねえ?とにかく、お前と無免ライダーを離さないとな。」
「○○さんはっ?!」
「さぁ、いなくなったから逃げたんじゃねーか?」
「……そう、ですか……。」
「……何?」
「いえ、先生が...ック、し、深海王を倒す時、水槽の中が黒いもので満たされて、○○さんの目が開くのを、見たような気が……。」
目が覚めたのか?それなら、尚更自分で逃げたんじゃねーか。良かった。
俺が片手をジェノスに、もう片手を無免ライダーへと回した時に、大きな音を立ててヘリコプターがやってきた。それにはヒーロー協会のマークである鷹が描かれており、それぞれ4機が下部に大きな槍のようなものを装着している。
『こちらはヒーロー協会です!その怪物はこちらで捕獲する!近くにいる者は離れなさい!!』
「ほ、捕獲だって?」
「くそぅ!俺達がランキングを上げるチャンスだというのに!」
『大型槍を発射する!離れなさい!!』
ヒーロー協会のヘリコプターは、並んで飛んでいた隊列を崩して上空に四角を作るように並び直すと、ウィーン、という機械音を出して槍を地上へと向けた。
俺はそれに巻き込まれないように急いで走るが、怪物は俺に気が付いて腕を伸ばしてくる。
ドカァン...!!
ドゴォオン……!!
「ったくなんなんだよお前!!」
「ヴヴヴォオオ……!!!!」
ビチャビチャッ!!
「うわっ!ヨダレ口に入った!ぺっ!ぺっ!」
「……う、」
「あれ、無免ライダー気がついたのか?」
「……降ろしてくれサイタマくん、ありがとう。」
「お、おお…。お前、体 平気なのか?」
走ってる途中、伸ばされた腕を避けると怪物は俺を見て鳴く。と同時に口から垂れていたヨダレのような黒い液体が大きな水玉となって降り注ぎ口の中に入ってしまう。
すると無免ライダーがハッと目を覚まして、起き上がった。あれ?こいつ結構重傷なんじゃねーの?
無免ライダーは殴られたなんて思わせない足取りで地面に立つと、俺の肩を掴んで揺さぶる。
「サイタマくん、これは怪物なんかじゃない!」
「は?」
「これは''彼女''だ!!!」
「……は?」
『第一槍(だいいっそう)、発射!!』
ボヒュッ!
グサッ!!!!
「ヴヴォォオオオオオオオオオオ!!!!!!」
「は、何言って、おま」
「さっきこの怪物の液体が口に入ったんだ!それはとても甘くて、それから体の痛みが消え去った!!これは彼女の癒しの血だ!!」
「……無免ライダー、お前は、これが、○○さんだと言うのか?」
「間違いなく彼女だ!!なぜ、このような姿になったのかはわからないが、俺は1度この血に救われた、だからわかる!」
いや、いやいやいや!嘘だろ、だって○○は、
細くて、
色が白くて、
紫の、髪、で
怪物の髪は、紫のような色をしている
イェルクヴェインの血は花を咲かせ傷を癒す
「ヴォァ''…ギャギィ………ザイ……、ザ、ァ……」
「……○○?」
「ザィ、ダマ、ザ……!!」
「……………………!!!!!!!!!」
○○なのか?今、俺の名前を、呼んだ。
ジェノスを無免ライダーに預けて、脇腹に黒い鉄の槍を突き立てる怪物に近づく。怪物は赤黒い目玉から真っ黒な液体をぼたぼたと地面に落としていく。
怪物は俺に向かってそっと両手を伸ばして、その両手に包まれそうになったその時、
『第二槍(だいにそう)、発射!!!』
グザッ……!!!!
「グギャァァアアァアァア!!!!!!!」
俺を包み込もうとしていた手は痛みから強く開かれ、叫んだ口からは血液が飛び散る。次の槍は腰へと突き刺さった。槍が刺さった箇所からは黒い血がドバドバと噴き出して、地面に流れたそこには真っ黒い花が咲いていく。
もう上半身を起こす力も無くなったのか、ぐらりと体が揺れてから、○○は血だまりの中へと頭を落とした。血だまりの中は咲いてきた黒い花で埋め尽くされ始めていて、当たりには、俺達が嗅ぎなれた○○の、甘くて爽やかな香りが漂った。
「やめろ!!こいつは敵なんかじゃねーーー!!!」
大声を張り上げても、ヘリコプターには届かない。シェルターの人たちの歓声とヘリコプターのプロペラ音にかき消されて、何も届かない。やめろ、やめてくれ。こいつは○○なんだ。俺達の、隣に住んでて、誰にだって優しくて、だから、だからッ……。
俺は近くのガレキを掴むと、発射された3本目の槍を叩き折った。
(視点change)
大量の血液を流しながらひゅうひゅうと荒い呼吸を繰り返す目の前の生き物。それは、この世のものとは思えないような醜い風貌をしていて、シェルターに居た何人かがあまりの外見に嘔吐していたのを見た。それくらいに醜い生き物だ。
だけど、ああ、知っている、この花の香りも、血液に濡れていないところから見える薄紫の髪も、俺は、ちゃんと覚えている。
俺を抱えている無免ライダーを急かして、地面に倒れている生き物の顔へと近づく。赤黒い目玉からは黒い水を垂れ流していて、微かに見える瞳孔がこちらを見たのを確認して、俺は声をかけた。
「……○○さん、なの...ですか?」
「ヒュ……グギァ...カヒュ……
ジェ...ノ……ザ、………ァ''……。」
「ッ……あ、ァア……!!!
う……ぐ、うあ、ァ……ッ!!!」
……クセーノ博士は他にも要らない機能を搭載していたみたいだ。
懐かしい感覚だ、小さな頃にはしゃいで転んだあの時以来忘れていた。鼻がツンとして、視界がぼやける。目からは透明の液体が流れ出して、歯を食いしばっていないと大声をあげてしまいそうだ。
今 俺に両腕のパーツがあれば、力いっぱいあなたを抱き締めるのに。
傍に無免ライダーが居ることも忘れて、俺は身体をよじって○○さんへ近づくとその大きな目から流れる黒い涙に濡れることも構わずに、その白い頬に額を押し付けて泣いた。
すみません、すみません。俺は、貴方を守れなかった。今あなたを抱きしめることすら、出来ない。
辛かったでしょう、苦しかったでしょう。
ずっと1人で、耐え続けていたんですね。
(視点change)
「いいぞ!ヒーロー協会!」
「やれやれ!」
「さっさと殺しちまえ!!」
民衆はシェルターから空を飛ぶヒーロー協会のヘリコプターへと声援を送っている。ああ、そうだろう。だって、傍から見れば怪物とヒーロー達だ。
だが、本当は違うんだ。初めて彼女を目にした時に、こんなにも美しい人間がいるのかと驚いた。それと同時に、みるみるうちに体の痛みや苦しさが消えたことに驚いた。
あれから俺は色んな取材を断って、ヒーロー活動をしつつもひたすら図書館や大学の民俗学の教授へと走って彼女のことを調べた。
イェルクヴェイン
神が与えた奇跡。
傷を癒す血は大地に命を与える。
2300年を生きるイェルクヴェインは覚醒をし、この世の不浄となる存在を消すための力を手に入れる。一定の憎しみや苦しみなどの感情、所謂ストレスを抱えると獣へと姿を変え、欲望のままに動く怪物となる。
あなたは○○と言うんだな。貴方が欲しているものはなんだ。どうすれば、あなたをその憎しみの姿から変えてあげられる?
俺には、今にも目を閉じてしまいそうな○○さんと、そんな彼女にすがり付いて涙する、S級ヒーローの鬼サイボーグを見つめるしか出来なかった。
(視点change)
「ギャ..……ガフッ!!!」
バキッ!
「おい!C級ヒーローがなんで邪魔すんだよ!」
「やっちまえー!!」
「早くそんなやつ倒してよ!」
「インチキ野郎だから頼んでもしょーがねーよ!」
……誰にも声は届かねぇし、俺には○○をどうやったら元に戻せるかなんてわからねえ。ただ今は、ヒーロー協会のやつらがしてくる攻撃を防いでやるくらいしか。
お前は、どれだけ痛かったんだ?
どれだけ辛い思いを押し殺して俺達から離れた?
たくさん泣いたんだろうな。
○○は泣き虫だもんな。
寂しがりだから、1人は怖かったろ。
……助けてやれなくてごめん。こんなんヒーローじゃねえよ。1番守ってやりたい奴を守れないなんて。ソニックの言う通りだ。
「……。」
『ヒーロー、サイタマくん!そこを退きなさい!』
「…………。」
『聞こえているのか?!そこを離れなさい!!』
俺ができることって、なんだ?
何をしてやれるんだ?
ヘリコプターはもう俺に2本の槍を折られたために、手持ち無沙汰に空中を飛んでいる。俺は槍を壊すために持っていたガレキを投げ捨てると、まわりのヤジを無視して、○○の頭の方へと歩く。
もう朦朧としているのか、半分瞼が閉じている○○と、そんな○○にすがりつきながら泣き声を我慢するジェノス、それを悔しそうに拳を握って見つめる無免ライダーを見て、そっとジェノスの横に立った。
「おい、あいつら何してんだ?」
「怪物が死んだかどうかの確認じゃないの?」
「ていうか、無免ライダー、立ってるけど?!」
「な、なんで?!」
「あ、鬼サイボーグが...泣いてる……。」
「ちょっと待てよ、状況が、よく……。」
「なんか、守ってる、ぽくね?」
「あれは怪物なんじゃないの?」
ごめんな。お前の痛みに気づいてやれなくて。ずっと辛かったよな、でも俺らが心配するから、言わないで我慢してたんだよな。
もういいよ。お前は充分頑張った。
だから、な。
もういいんだ。
「ごめんな、○○。」
「……………サイタマ、さん。」
ジェノスに習うように、膝をついて○○の頬へと手を伸ばす。そっと頬を撫でてやると、○○は緩やかに微笑んだ。ゆっくりと瞼を降ろして、緩やかに色が透き通っていく瞳を完全に閉じて、○○は全身の力を抜いた。
「う、...ふ、くッ……!」
「……ごめんな、○○。」
助けてやれなくて、
気づいてやれなくて、ごめんな。
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