「須藤(すどう)さんっ……、私じゃ、私じゃダメなんですか?!マナミ先輩は、須藤さんの気持ちを知ってて部長とッ……!!」

「……それでも、僕は……、うわっ!」


どさっ


「……私が、忘れさせてあげます。あんな人。」

「山下くん、やめるんだ、僕は」
「私の方が、須藤さんを愛してます。証明します……。」






「はいカーーーット!!い〜い演技だよ○○ちゃん!アマイマスクさんはこの後も撮影がありますので、○○さんはお先に!お疲れ様ね!」

「はい、ありがとうございました!」




今日はドラマのクランクイン。

わたくしはアマイマスクさんの上に跨って、自分で3つシャツのボタンをあけて肌をさらけ出し、アマイマスクさんの首筋に顔をうずめた所で撮影が終わった。これは3週間後のドラマの内容だ。初回からこんなシーン盛りだくさんな夜9時からのドラマで、女同士のドロドロとした攻防や、少し大人向けで過激なシーンが多く爽やかイメージのアマイマスクさんの露出が多いことなどから今期 注目度バツグンの期待度大なドラマ。

撮影が終わり立ち上がろうとすると、背中をぐいと引かれて立ち上がれない。アマイマスクさんはわたくしの腰をゆるりと撫でて、髪をひと房手に取ると口付けをした。






「お疲れ様、○○ちゃん。」

「あ…お、お疲れ様ですわアマイマスクさん!次の撮影があるのに、わたくしったら、うふふ、ごめんなさい。(唇のコンシーラーが髪に付くじゃありませんのッ!!)」


「僕はずっとこのままでも良いんだけどな。スゥ…うん、優しいフリージアの香りだ。君の瞳を見てると、吸い込まれそうだよ。」


「アマイマスクさんの瞳もとても綺麗ですわ。(いいから早く退かせてくださいません?!)」






あーーー!!!もう!!!

わたくしはこの後 バングさんという方にお呼ばれして道場へ飛ばなくてはならないと言うのに、この、男は、いっつも、性懲りも、無く!!!

ニコニコの仮面を付けつつイライラゲージが溜まっていく中で、わたくしたちの雰囲気を見て誰も止めに入らない。というか、アマイマスクさんの機嫌を損ねると撮影に影響がでるから邪魔できませんのよ。
芸能界に入ってからというもの何故か同じ番組や作品に出ることが多いけれど、その度にいろいろと誘ってくるこの人を交わしまくっていたけれど、とうとうドラマのメインキャストで被るなんて…ついてませんわ。




「……ん?」

「(?)どうかされましたの?」



「……君にはどうやら、嫉妬深い飼い主がいるようだね…。」




「え…………あっ///!」





きききき昨日ジェノスさんにつけられたうなじのキスマークですわ!!厄介な人に見つかってしまいましたわ……。

慌てて手のひらでうなじを覆う。アマイマスクさんは不機嫌な顔でそれを撫でると、ニヤリと口角をあげて、わたくしの腰から手を離した。そのまま手を引かれて控え室へと連れていかれる。




「少し疲れたから、5分休憩をくれないか?」

「(AD)わかりました、アマイマスクさん!ではまた呼びに行きますね!」

「頼んだよ。」


「えっ、あの、わたくしもですの?」


「何言ってるんだい?君はもう帰り支度しなきゃだろ?ちょっとしたプレゼントをあげるんだよ。

……君の飼い主へ(ボソッ)」


「? 何か…っていうか、あのそこわたくしの控え室…。」




アマイマスクさんに手を引かれて、○○・イェルクヴェイン様と掲示してある部屋のドアを開いてそのまま部屋へと通される。
アマイマスクさんはこっちを振り返って微笑むと、わたくしの肩を掴んでくるっと回し後ろを向かせた。立ったまま壁に手をつく形になってしまい、髪をふわりとかきあげてうなじを露出させるアマイマスクさんに抵抗出来ない。ずっと強い力で肩を押さえ込まれているからだ。




「ッ、何を…!」

「衣装さん、タグ切り忘れてたみたいだよ。君の髪が長くてよかった。」

「え?!(服のタグがつきっぱなしでしたの//?!)」

「いちおう後で確認しておくよ、でもきっと大丈夫だ。約束があるんだろ?行かなくちゃ。力…強かったかな?痛くないかい?」




アマイマスクさんは背中のカーディガンから垂れるタグを切って下さり、肩を押さえる力を弱めて、わたくしを正面に向かせて下さった。
わたくしったら、画面上の印象だけでこの人を怖がって、お誘いがしつこいからってイライラして……でも、本当は親切でとても優しい方だと言うのに……。わたくしはなんて嫌な人間だったんでしょうか……。




「あ、ありがとうございます…すみませんわたくしったら…。」

「良いんだよ、''あんなこと''もあったし、僕を警戒するのは仕方ないさ。ただ……、」

「 ? 」



「あんまりウロウロしてると、野良猫だと勘違いしてしまうよ。」





「っ?!ンフ、ふ、ぁ…んふっ//!」

「ちゅ、ン……っは、君の飼い主に、伝えておくといい。追いかけ過ぎると逃げられるよって、ね。」


ヂュッ、


「わっ///?!」

「さ、僕は行くよ。お疲れ様、○○ちゃん。」




自分の浅はかさを悔いて謝罪をすると、アマイマスクさんはわたくしに突然深く口付けて舌を絡めてきた。口のはしから垂れた唾液を指でぬぐって、くちびるを離す。
ジェノスさんとは違う引き込んで口内をさわさわと擦る性的なキスは思考さえ奪ってしまう。わたくしはぼうっとしてしまって、アマイマスクさんがうなじのキスマークの反対側に強く吸い付いてきて、そこにも新たな花が咲いたのだと理解するのに少しかかった。

アマイマスクさんはわたくしが言い返す前に颯爽と控え室を出ていってしまい、やられっぱなしで意気消沈したわたくしはショボショボしながら私服へと袖を通した。


うう……スキャンダルよりなにより、ジェノスさんに見つかるのが一番怖い……。












【上空】




パタパタパタ……

「はぁ、時間が押してしまいましたわ……、ん?」



ちょこちょこ使ってはいたのだけれど、わたくしの存在が世間的にも知れ渡ってからは臆することなくイェルクヴェイン特有の能力を使いまくれるので、あの事件にも少しだけ感謝です。

背中から翼を生やして空を飛びながら移動していると、ポケットに入れていた携帯が震えたのを感じて通話ボタンを押す。かけてきたのはヒーロー協会だった。




「はぁ…また呼び出しですの?あーん、もう!せっかくサイタマさんにお会い出来るはずでしたのに!

(ピッ)もしもーし!」


『S級ヒーロー全員を招集する、すぐにヒーロー協会へ来てくれ給え、フラワーヴィーナス。これは緊急招集で、拒否権は無いぞ。』

「……わかりました……。」




ここの所多忙で、少し前にやっと自宅へ帰ってサイタマさんにお会いして(ジェノスさんに抱かれて…)今日再びサイタマさんに会える!と思ったのに、ヒーロー協会は本当にわたくしからサイタマさんを遠ざけるのがお好きなようですわ。

わたくしは携帯を乱暴につっこんでイヤホンを装着すると、まだ世間には未発表のデビュー曲の音楽を聴きながら踵をかえし、ヒーロー協会を目指した。(まさかキャバ嬢からここまで転身するなんて自分でも鼻で笑いそうになりますけど)

ヒーロー協会本 の前で地面に着地すると、そこには童帝くんが歩いていた。彼はわたくしを見つけて駆け寄ってくる。




「○○さん!」

ギュッ!

「まぁ、童帝くん!学校は?」

「S級ヒーロー特権で早退。ねー、この前 僕が作ったスーツどうだった?」

「とても着心地が良かったですわ!伸び縮みしてくださるし、衝撃や斬撃にも強くて!」

「良かったァ!」




わたくしがあの事件の後、正式にヒーローとしてヒーロー協会に迎えられることが決まった日に、まだ回復を待って入院していた所、真っ先に病室へ会いに来て普段泣かない彼がわんわん泣きながら謝罪をしてくれた。

『僕は貴女を騙してあそこへ入れたんだ!』と。

それから、彼なりの罪滅ぼしなのかわたくしのヒーロースーツを自作して下さっている。

童帝くんと話しながら階段をあがっていると、後ろから声をかけられた。





「あ?そこにいンのは童帝と……っ!○○さんじゃないッスか。こ、こんちわ……。」

「金属バットさん!お久しぶりですわ!」

「ちっす……。」



「(こいつ○○さんの前だと大人しいんだよね。ほかのヤツには使わないのに敬語だし。)」




「あの、妹が喜んでました…サインとケーキ、ありがとうございました。」

「それは良かった!また作ったらお渡しさせてください。」
「は、ハイ。」




金属バットさんは、まだ高校生ながら金属バット1本で戦うとても強い男の子。ですが、妹思いの優しいお兄ちゃんなのです。

金属バットさんと初めてお会いしたのは、芸能界に入ってからすぐの時に起こった怪人騒ぎの時。どら焼きが好きすぎてどら焼きになった怪人が人々をミンチにしてあんにしてやる!と騒いでいた時に、食べ歩きロケでそこに居たので参戦したのです。
ですが金属バットさんもたまたまいらっしゃったようで、あっという間に倒してしまい、そこで仲良くなったのです。礼儀正しくてとてもいい人ですわ。



「もうほかのヤツも来てんのかァ?」
「近くの市を担当されてる方はいらっしゃるかもしれませんわね。」
「あの人いるかなー?ブラスト。」
「居ねぇだろアイツは。俺だって顔も知らねぇしな。」
「(メタルナイトさんも…居ないのでしょうね。)」




3人で階段をのぼり、エレベーターで最上階へと向かう。長い長いエレベーターに耐えて会議室に到着したわたくし達はそれぞれが空いた席へと座った。
その場に整列してらしたのは、

豚神さん、
番犬マンさん、
駆動騎士さん、
超合金クロビカリさん(ネーミングが…)に、
タンクトップマスターさん、
ぷりぷりプリズナーさん、
キングさん、
閃光のフラッシュさんと、
ゾンビマンさん。

わたくしは空いていたゾンビマンさんの隣へ着席して、会議が始まるまで挨拶をして過ごすことにした。




【視点change】




「○○、久しぶりだね。」
「お久しぶりですね番犬マンさん!あそこを離れるのは久しいのでは?」
「うん。」
「……もふもふしていいです?」
「……いいよ。」
もふっ
「はぁ〜、ずっと抱きしめていたいですわ……。」
「シャンプーしてきた。」
「いい香りです。」
(それ中身 ただの男だからな。)




「フラワーヴィーナスか……。初めて見る。あの時は舎弟が悪かった。」
「はじめまして、タンクトップマスターさん。あの事は仕方ありませんわ、わたくしだってあれが現れたら攻撃してしまいます。どうかお気になさらないで。○○・イェルクヴェインと申しますわ。」
「タンクトップマスターだ、よろしく。」

(そういえば獣化したあいつを攻撃したのはこいつの舎弟だったな。その攻撃すら回復させてしまうとは…恐ろしい能力だ。)



「あら、キングさんは、先日ぶりですわね!」
「……あぁ。(ドッドッドッドッドッ)」
「(キングエンジンが…御機嫌が悪いのかしら…?)」
「(○○氏…リアルFFキャラが目の前に居る……。)」

(やはり人類最強の男、か。あまり馴れ合うつもりは無いようだな。)




「○○ちゃん!今日も俺は輝いているかい?!」
「輝いてますわ、真っ黒に!」
「よし!!!」

(いや意味がry)


「豚神さんも、はじめまして。」
「もぐ、もぐ、もぐ、もぐ」
「そういえばここの近くに新しいハンバーガー屋さんが出来たらしいんですの、行かれました?」
「(ピクッ)」
「うふふ(反応する所が可愛いですわね。)」

(お前はハンバーガーしか食わねえのかよつーかいつまで食ってんだよ)




「…○○、旅の先で見つけたものだ。お前に似合うと思った。」
「まぁ、アメジストのリング…!頂いていいんですの?」
「良い、ただし、身に着けておけ。」
「ありがとうございます、フラッシュさん。大切に致しますわ。」

(……まるで客とキャバ嬢だな。)




「(ジーーーーーー)」
「駆動騎士さんもはじめまして。」
「あぁ。(これが噂のイェルクヴェインか…なるほど、確かに花を宿している。その治癒力は素晴らしい物だと聞くが…。)」

(こいつはまだまともそうだ、駆動騎士も得体が知れねぇが…。)




「○○ちゃん!!」
ギュウッ!
「ぐふっ?!ぷ、プリズナーさん、死んじゃうっッ……!」
「おっとすまない、つい高ぶってしまった。あれから体は大丈夫か?」
「はい!元気いっぱいです!」
「それは良かった、所で来週暇はあるか?その、か、彼氏にプレゼントをしたいんだが…付き合ってくれないだろうか?」
「まぁ!スケジュールを確認しますわ!わかったらLI〇Eを送ります!」

(まぁ、こいつはどっちかっつーと…いや男だよな、ウン)







「(こいつら、ここへ遊びに来たつもりか。)」



目の前でいろんなS級ヒーローとじゃれ合っているのは、数週間前に現れた海人族騒ぎの時に露見した、ヒーロー協会の切り札。不老不死のチカラをもたらす悪魔、イェルクヴェイン。

まー悪魔って名がつくくらいだ。あの獣の姿は形容しがたいものだった。

だが、不老不死だかなんだか知らねぇが、その血には治癒力があると聞く。1人の女を実験体のモルモットみたいにしたヒーロー協会が受けたイメージダウン。それを、A級1位のアマイマスクみたいな扱いにして、世間から見事に払拭したようだ。
街を歩けばこいつを起用したCMや化粧品、食品に至るまで、いろいろな所に顔を覗かせる。

……確かに、見かけは綺麗だ。今まで見てきたどの人間よりも。

だが、あれだけのことをされておいて、何故こうも悠々としていられる?俺だったら、憎んで、その力を使ってヒーロー協会を滅茶苦茶にしてやる。腹の下に何かを隠しているか、よっぽどのお人好しなのか。





「えと、ゾンビマンさんも、はじめましてですわね。」

「……そうだな。」

「○○ですわ、よろしくお願いいたします。」



差し出された手をちら、と見る。細くて、虫すら殺せなさそうな華奢な手だ。小指にはさっき閃光のフラッシュから貰っていた指輪が光っていて、爪は何かを塗ってあるのかつやつやとした光沢を放っている。

少し躊躇(ためら)ったが、差し出されたその手を握り返してやると、そいつはふにゃっと笑った。




「…ああ。」

「はいっ!」



その時にふわりと香ったフリージアの香りと、ふにゃりと微笑む女神の顔に少し眩暈がした。

……ダメだ、こいつは。

何がダメかって、こいつは居心地が良すぎる。その態度も、雰囲気も、声も、香りも。こりゃ、S級ヒーローのヤローどもがこぞって集るワケだ。

離れていった手に少しの寂しさを覚えて、そんな感情を出した自分にも恥ずかしさを覚えて口元を手で覆う。クソッ、俺としたことがなんだこれは。

ちょうどタイミングよく誰かが会議室へと入ってきた、あれは……シルバーファングとタツマキ、アトミック侍にジェノス……と、あのハゲはなんだ?確か……B級に昇格したばかりのサイタマ、か。




「先生、こちらへ」
「お、サンキュー。あれ?○○じゃん。」

「さ、サイタマさん///!!」

ガタッ、
カラカラカラカラ...





……あ?

サイタマが○○の名前を呼んだら、○○は顔を真っ赤にして席を立ち上がると俺の隣から椅子を押して反対側まで回ってしまった。
そのままジェノスとサイタマに挟まれるように席に着く。

なんだ?なぜ特例S級の○○がB級に?というかなんだこの感情は。少し、イラッとしたか?……あっ、クソ!ジェノスがこっちを見てほくそ笑いやがった。なんなんだまったく!




「バングさん、初めまして○○です。」

「ジェノスくんやサイタマくんから話は聞いてるよ。バングだ、よろしこ。それにしても、君は本当にサイタマくんに懐いてるな…。」

「サイタマさんはわたくしのヒーローですもの!ね、サイタマさん?」

「お茶くれる?」
「わたくしがただいまご用意致しますわ!!」




なんだあれは。夫婦か。あと心なしかジェノスのテンションが下がってきているがあれはいいのか?
あのハゲのどこに惹かれているのかは知らんが、今はそれよりもここまでのS級ヒーロー集めるに至った経緯が気になる。それほどまでに重要なことなのか。




「おお、みんな集まってくれたな。私はヒーロー協会のシッチという。ブラストとメタルナイトは連絡がつかずいくら待ってもらちがあかないので、会議を始めるとする!」




……やっとか。

さて、今度はどんな災害が来るのか……。



B級の男、サイタマに擦り寄るようにしている○○をちら、と見てから、会議に集中しろ。と自分を叱り、シッチの声に意識を集中させた。