「今回は、君たちに地球を守って貰いたい!!!」
地球を守る??
バングの道場を出て、サイタマ先生と一緒にヒーロー協会へと向かうと、そこにはあれ以来久しぶりに顔を合わせる○○さんが居た。
○○さんはこちらを見ると顔を明るくさせて、ゾンビマンの隣から椅子を押して俺達の方まで来てくれた。
自然な流れで、サイタマ先生と俺で○○さんを挟んで座ると、拍子抜けしたような表情のゾンビマンが目に入る。
……フ、残念だったなゾンビマン。
○○さんは俺とサイタマ先生には目がないんだ。
ゾンビマンはこちらの視線に気づいて少し眉を寄せるとぶすっとした様子で頬杖をついた。
○○さんはサイタマ先生へお茶を出して(俺は断った)、サイタマ先生の隣でうやうやしく世話をやいている。
まぁ、俺は別に○○さんの全てを知っていますから、何も嫉妬心などは抱いていない。
俺を哀れんだ目のゾンビマンなんて見えない。
会議が始まり、緊迫した空気が流れ、言われた言葉がこれだった。唐突過ぎてなんとも分かりにくい。
だが、どうやら大預言者シババワが(のど飴を喉につまらせて死んだ際に)最期に書き残したメモの内容が問題の核のようだ。
「これが!!読めるか?!?!」
「地球が……」 『ヤバイ?!?!』
「……なにそれくだらないなぁ、僕 塾あるから帰っていい?」
確かに。童帝のセリフにみんなが賛同しているようで、場の張り詰めた空気がガタガタと崩れていく。それもそうだ、これじゃあ何も読み取れはしない。
だが、どうやら大預言者シババワの予言は100%的中して来たらしく、半年以内に必ず地球の危機がやってくるのだという。
○○さんが不安そうな顔でホログラムの紙面を見つめている。○○さんは治癒などが得意なだけで、戦闘はまだ未知数だ。S級ヒーローと言えども、やはり怖いのだろう。
「○○さん、あなたは何があっても俺が守ります。」
「ありがとうございます、ジェノスさん…。ですが、地球の危機とは、どのようなものなのでしょうか…。」
「自然災害や、強大な怪人などと予測は出来ますが……。」
「半年以内にってことは、明日かもしれねーし、今日かもしれねーな。」
サイタマ先生の発言に、皆がそちらを向いた。シッチはどうやらはじめてサイタマ先生を見るのか、何故ここにいるんだという顔をしている。
「ふむ、まぁ確かにそうだが……君は誰だ?」
「……来てよかった。」
ドォンッ!!!!
「キャアッ?!」
(ぐらっ)
「おっと、大丈夫か?」
「は、はい、サイタマさん……!」
突然の襲撃に建物が揺れる。
これは、この建物が攻撃されている?!
衝撃に転びそうになった○○さんをサイタマ先生が受け止めて、全員揺れに備えて体制を整える。シッチはテーブル液晶を見て叫び声をあげる。
「ななななななんということだ?!?!
い、一瞬でA市が無くなってしまった……?!?!」
「そんな……では、逃げ遅れた人も一緒に消えてしまいましたの?!!」
「むぅ…なんつー破壊力じゃ……。」
テーブルの液晶には、A市丸ごとに赤い線が引かれ、何千人という犠牲者の数や交通機関などの麻痺などの予測がズラリと表示されていた。街をまるごと一瞬で消し去ってしまうとは……あの隕石に匹敵するほどの力を持っているということか。
「とにかく外に出て敵がどんなやつなのか見なきゃいけないよ。」
「わたくしが行きます!!!こんなの、酷すぎますわ!」
「っ!!いけません○○さん!まだどんな敵かもわからない!貴方では無理です!!」
○○さんは怒りのあまり少し獣化していて、角を生やして爪は鋭く伸び、履いていたヒールからも鋭い爪がつま先を突き破って飛び出している。
「ったく。○○、お前ここにいろよ。外はあぶねーから。」
「そんなッサイタマさんまで!
わたくしもS級ヒーローの端くれ、市民の仇を取ります!離してくださいジェノスさん!!こんな、一瞬で何百人もッ!!!」
「はぁ…ジェノス、こいつ聞かねえから捕まえとけよ。」
「はい、先生!!」
「や、離してください!!A市の市民がッ!許せません!!!」
目からぽろぽろ涙をこぼしながら暴れる○○さんを後ろから抱きしめて動きを封じる。気がつくと、隣にいたサイタマ先生の姿は消えて、かわりに天井から風が入ってきていた。
メタルナイトが作ったというこの建物の壁すら、サイタマ先生にはなんの意味もないというのか……。
「あれ?攻撃にあたって穴があいたのかな?とにかく、僕達も一旦外に出ようよ。」
「ふむ!アトミック侍、シルバーファング、ぷりぷりプリズナー、金属バットの4人は既に下へ降りたようだ!ほかの奴らは見当たらないが……。」
「これだけ人数がいれば必要ないと判断したんだろう。俺達も上へ出よう。」
童帝、超合金クロビカリ、キングがそれぞれ会話をしている最中に、俺はとあることに気がついた。……○○さんの首筋に、新しいうっ血跡がある。しかもこれは、俺がつけた場所の正反対。
○○さんは暴れることを諦めて、唇を噛み締めて震えている。俺の腕の中で。
童帝がランドセルから伸ばしたアームで、サイタマ先生の開けた穴から屋上へと出る。それに続いて超合金クロビカリ、キングと上へ上がっていく。
「ぐすっ…わ、わたくしも外へ出ます。確認しないと……。」
「はい…。ところで○○さん。」
「?はい、グスッ、何でしょうジェノスさん。」
「この首筋、なんですか?」
スッ……
「ヒッ!」
「……まぁ、いいですよ。あとでたっぷりと話を聞きますから。…たっぷりと、ね、○○さん。」
「ひゃ、じぇの……あ…あの、あう、あ……///」
「ちょっと!そこでイチャついてないでさっさと上に来なさいよ!!」
「チッ、(クソガキめ…。)」
「ごごごごめんなさい!すぐ行きますわ!!!」
○○さんに首筋のことを指摘して、そのまま耳を軽く食(は)む。○○さんは真っ赤になってなんとか腕から逃げ出そうとするけど、そう簡単に逃がすわけがない。
そのままゆるく腰を撫でた辺りで、さっきサイタマ先生に食ってかかっていたS級2位のタツマキに邪魔をされ、渋々離れる。
「よいしょ……っと。」
「アンタ、特例でS級になったからってチヤホヤされていい気になってんじゃないの?!今は戦いの最中なんだから、しっかりしなさいよね!!」
「す、すみません……!」
「アンタ、人を治すくらいしか出来ないんならとっととそっちの作業に移れば?!」
「はうぅ……。」
小さいタツマキが○○さんにいちゃもんをつけているが、少し笑える構図だ。
それよりも、屋上に出てから見上げたそれはあまりにも巨大だった。街一つはありそうな宇宙船と、眼下には瓦礫の山になったA市の残骸が広がり、下でアトミック侍やシルバーファングたちが戦っているのが見える。
「ふん!戦えるもんならやってみなさいよ!」
「わ、わたくしは獣化しないと力が出なくて……。」
「だったら早くやんなさいよ!!」
「ううっ……!」
○○さんが少し可哀想に思えたが、○○さんの戦闘能力については俺も興味があった。他のやつらもそうなのか、じっ…と○○さんを見つめている。
「じゃ、あの離れてて下さいませ……んっ。」
メキメキ、メギョッ!!
ベキ、バキゴキ……!!!
「あ、あのぅ…獣化しました……。」
「あ、あんた……意外とグロい変身の仕方するのね……!」
「こ、これがイェルクヴェインの獣化……!」
「あの時とは違ってちょっと綺麗になってる!へぇー、じゃあこれが○○さんの真の姿ってわけか。」
「(○○氏は召喚獣みたいだな…。属性は氷かな…ブリザガ!なんちゃって…笑)」
○○さんがぐっと体を強ばらせると、○○さんの体は骨が軋む嫌な音を立てて変形していった。そして今 俺達の目の前にいるのは、あの時と同じ大きなビルに相当する大きさの獣。
ひとつ違うのは、あの時のような醜い姿ではなく、薄紫の長髪を流した、白い毛並みの角が生えた狼のような姿ということ。それがオドオドしながらこちらを伺っているのだから、変な可愛さがある。
「○○さんの本当の姿は、やはり美しいのですね。」
「そんな…ただの大きな犬ですわ……。」
「触っても?」
「は、はい……。」
「わ!わ!僕も触りたい!!」
「俺もいいかな……?」
「うむ!いい毛並みだな!」
○○さんの腰のあたりを撫でると、ふわふわとした毛並みに腕が埋まる。俺に続いて童帝やキング、超合金クロビカリが○○さんに触れるも、その柔らかさにみんな無心で撫で続けるようになってしまう。
「ッたく!!!アンタたち今はそーいう時じゃないでしょ!!ちょっとどきなさい!とにかく下に降りるわよ!!」
「そういいながらなぜお前は○○さんの頭に登るんだ!」
「あら、ふわふわ…。ふ、ふん!しょーがないからアンタ達も下ろしてあげるわよ!一気に運ぶからみんな乗りなさい!」
「そんなクルマみたいに…まぁ、いいや!僕は自分の装置で先に下へ飛ぶよ。」
タツマキはぶつくさいいながらも○○さんの頭に登るとふかふかを楽しんでいる。童帝がランドセルから小型のプロペラを伸ばして下へと降りていくのを横目に俺達が○○さんの背中に登ると、○○さんの体が緑に光ってふわっと浮き上がりそのまま下へと降りていく。
○○さんは首根っこをつままれた猫のような状態でふわふわと下へ降りていき、足を地面につけると重さでガレキが音を立てる。
ズズウゥン……!!!!
「師匠!下がってください、敵です!」
「怪人かァ…?次から次へと来やがってよォ…。」
「む?このプリティなわんちゃんは…これは○○ちゃんだ!上で獣化したのか。」
「アー、特例S級の嬢ちゃんか。」
「ふむ…大きなイヌみたいで、ワシは好きだぞ。」
「いやシルバーファング、こりゃ狼だろ。」
「変わらんだろ。」
「いいや狼だ!!」
「どっちでもえーわい。」
「ハッキリさせるかァ?!」
「師匠!今はそういう時ではありません!!」
下に居たアトミック侍が突如現れた巨大な獣に刀を引き抜いたが、ぷりぷりプリズナーが前に出てそれを阻止する。
俺達は○○さんの背中から飛び降りると、目の前にいる肉の塊のような怪人に気がついた。怪人は○○さんをぼーっと見つめてから、シルバーファングを拳で吹き飛ばす。シルバーファングはガレキにぶつかり続け、大きな亀裂を残して壁にたたきつけられた。
「いかん!シルバーファング!!!」
「なんだお前…でかいイヌだ……
「犬ではありませんわ!」
…まぁいい……新しいオモチャが降ってきただけだ!!お前はそのまま船でペットにしてやる!ヴハハハハ!!!!」
「バング!大丈夫か?!」
ガラッ、パラパラ……
「ふぃ〜、長いこと運動しとらんといかんな…肩こりがやっと取れたわ……。」
「?!生きているだと!!」
「おい、お前の相手はこっちにもいるぞ…『アトミック斬!!!!』」
シルバーファングは上着を脱ぎ、肩を回しながら近づいてくる。さすがはS級3位…あれくらいではかすり傷すらつかないというのか……!!
アトミック侍が敵の体を粉々にすると、散らばった肉片は再び集まり形を成す。しかし、シルバーファングによってガラス玉を破壊されると、周りに散らばっているのと同じように溶けて崩れ落ちた。
そんな中、タツマキがガレキを超能力で浮かして船へとひたすらぶつけ続けていた。
ズドドドドォォン……!!
「そこそこ当ててんのに落ちないわね。」
「この船は相当に頑丈なんですね…。わたくしは、ガレキに埋まった市民がいらっしゃらないか探りますわ!」
「探るってどーやってやるのよ?」
「自然の力を借ります!えいっ!」
「(リアルでえいって言う人 初めて見たわ。)」
○○さんがその黒い鋭い爪の生えた手を広げて、ガレキの下に埋める。そのまま○○さんが黙りこくるのを見つめていると、地平線のガレキが少しずつ動いていることに気がついた。
ガレキは次第に何かに押し出されるようにして動き出し、そこから木のツタで出来た巨大な鳥かごのようなものがたくさん出現し出した。中には人間や動物が入っていて、大小様々な形がある。
「○○さん…これは…?」
「わたくしの手のひらから地面を通して、このA市一体の生き物を探しているんですの。ガレキで怪我をしないようにツタで保護して地上へ押し出しています。」
「すごいぞ○○ちゃん!これで生存者を探し出せるぞ!」
「ふぅん…そんな使い方もあんのね。」
「素晴らしい能力だ…!」
みんなが○○さんを賞賛する中、○○さんは耳をへにゃりと曲げて、ぽろぽろと泣き出した。体が大きいためか、その涙の粒はバケツ一杯の水と同じくらいの量があり、地面にぶつかるとバシャバシャ音を立てる。それが落ちたところからふわりと花が咲き始め、○○さんの周りは小さな花畑になった。
「なっなんで泣いてんのよ?!」
「ウッ……呼吸をしてない人は探し出せないんです…生命エネルギーで探しているから…A市の人口に対して…鳥かごの量が少なすぎるんです…!!!!」
「○○ちゃん……。」
確かに、A市の人口は数百人。だが、目視できる鳥かごの数はざっと見ても30と少し。それだけしか、生き残っていないということだ。このガレキ、宇宙船の破壊力じゃ、10生き残っても充分に奇跡と呼べる数だ。
だが、○○さんは優しい。無理だとわかっていても、みんなを救いたかったんだろう。しばらくして鳥かごの出現が止んでも、まだひたすらに探し続けている。だが、もうこれ以上は誰も何も見つからないだろう。
○○さんの腕に手をかけて、○○さんを見上げる。
「もう、諦めましょう。…○○さん、それでも、誰も救えないよりも素晴らしいことです。俺に出来ることはありませんか?」
「ジェノスさん……。」
○○さんが地中から腕を引き抜いてから、○○さん、俺や童帝、超合金クロビカリ、ぷりぷりプリズナーで手分けをして鳥かごの中の人間や動物を運んでいる間に、先ほどの怪人の処理は終わったようだった。
「さっきから結構な数のガレキをあててるのに上手くいかないわね。」
「ですが、先程から砲撃が止まりましたわ!タツマキさんの攻撃で怯んだのでしょう。」
「ふん!ま、私に任せればそのくらいは簡単よ。」
「…………。」
「どうかされましたか?ジェノスさん…。」
「たぶん、あそこにはサイタマ先生が行っておられます。中で何が行われているのか……。」
「さっ、サイタマさんが?!そんな、危険ですわ!!わたくしも行きます!お怪我をなされていれば治癒出来るやもしれません!!」
「なっ、○○さん?!」
バサバサッ
「ジェノスさんは下をお願いします!!わたくしはサイタマさんをお連れして戻りますわ!!」
しまった!俺としたことが口を滑らせてしまった……!
○○さんは瞬時に獣化を解くと、背中に黒い翼を生やして飛び去ってしまう。俺は伝う壁も何もなく、ただただそれを呆然と見上げていた。
タツマキが気付けばいいのだが、どうやら反対側への攻撃のために移動していて○○さんは死角らしく、タツマキは気づくことがなかった。
○○さんはそのまま翼をはためかせて、船体の亀裂の入った隙間へと入り込んで見えなくなってしまった。
「ん、ジェノスちゃん!○○ちゃんはどこへ行ったんだ?」
「船内へと行ってしまった。」
「な、なんだって?!」
「(……先生、どうか…○○さんと合流してください!)」
何も出来ない自分が歯痒くて、握った拳を傍のガレキに叩きつけた。こんな時でさえ、○○さんを守れるのは俺ではなく先生なのだと。深海王の時も、今回も。
俺はいつになれば○○さんの心の拠り所になれるのか…一番の、心の拠り所に。
今もなお続けて響く破壊音に、不安を感じた。
その不安とは、先生や○○さんの身を案じることではなく、『○○さんを先生に取られてしまうのではないか』という、醜い欲望から成る不安だった。
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