サイタマさん、サイタマさんっ……!!


船内へ飛び込んだはいいが、とてつもない広さだ。しかし破壊されたあとが奥へと続いているので、それを辿っていけばサイタマさんへと辿りつけるだろうとひたすら羽を動かしていた。

すると



ドゴォォオンンッ!!!!!!



「キャアァッ!!!」


大きく船が傾いて、ガレキが上からバラバラ落ちてきた。いくつか体にぶつかって擦り切れたりしたが、なんとか天井(今は傾いているので壁だが)にあいた大きな穴から外へと飛び出した。

そこには、黒く焦げ、爛れた上半身のみの亡骸と、それを見つめて思い詰めたような表情をするサイタマさんが居た。




「……サイタマ、さん。」


「……お、あれ?○○?お前なんでここに……つーか、おいこの船落ちるぞ!」

「え、えぇ…わたくしに掴まってください!下へお送りしますわ!」

「わりー!頼むわ!」




サイタマさんの脇の下に腕を差し入れて、そのまま飛び上がる。船は鈍い大きな音を立てながら瓦礫と化したA市へと沈んでいき、そのままブリキの玩具のようにぐしゃりとひしゃげて、沈黙した。

サイタマさんを地上へと降ろすと、そこには船の落下から逃げ切ったヒーローのみなさんがいらっしゃって、こちらへと気付くと駆け寄ってくる。



「よいしょっ……と。あら、アマイマスクさんですわ……。」

「ありがとな○○。」
「いいえっ!サイタマさんのお役に立てるなら///」



「お…君はさっきお茶飲んでたB級の…と、○○ちゃんは無事だったんだね!良かった!」

「はい!ご心配をおかけしました。」

「ちょっと、なんでアンタが上から来るわけ?」




「先生!!」
「おージェノス。」
「ご無事でしたか?!」
「おう。○○が運んでくれたから楽だったぜ。」
「いえ、わたくしは大したことはしてませんわ///」
「そう、ですか…ご無事で何よりです。」
「なんか疲れたわ、腹減った。」
「今晩は家に帰れますでしょうか…?」
「生存者達は他のヒーローに引き渡してきたので、もう我々が出来ることはないでしょう。」
「じゃー早く帰れるな。」




ぶちっ!という心の音を聞いた気がして振り返ると、タツマキさんがサイタマさんをキッ!と睨みつけて仁王立ち(実際は浮いてるんですが)して罵倒し始めた。




「どーやったか知らないけど、1人で船に乗り込んだの?!単独行動して迷惑かかるとか思わないわけ?!B級の分際ででしゃばってんじゃないわよ!あんなのアタシ1人でどうとでも出来たっていうのに……!


このハゲ!ゆでたまご!
アボカド!電球!

雪見だ〇ふく!風船アイス!


「雪見だ〇ふくは可愛いですわね。」

「お、おい、ジェノスなんか言ってやれ…。」

「はい!」


間抜け顔!妖怪!虫!!」






「おいクソガキ、黙って失せろ。

「いいぞいいぞ〜!」


ぶちのめすz」



ドカァン!



「ジェノス?!」

「横向きで腕をまげて、まるでエジプトの壁画のようになってしまいましたわ!!」




「許せない、ガキだなんて…わたしはアンタより年上よ!!!!次はアンタよB級!!!」




ジェノスさんはタツマキさんの怒りを買ってしまい、ガレキへとエジプトの壁画の人物のような形で埋め込まれてしまい、わたくしはなんとか引っ張りだそうと服を掴んで引っ張る。
タツマキさんがサイタマさんへ手を翳すも、バングさんが現れて2言3言話して、タツマキさんはそのままふわーっとどこかへ飛んでいってしまった。




「ふー、ったくS級ってのはなんでこーも問題児が多いんじゃ…。○○ちゃん、道場へはまた今度来るといい。」

「はい!ぜひ伺わせて頂きますわ!」



バングさんは服を振って砂埃をはらうと、わたくしへにっこり微笑んでくださった。そのままピタ、と固まると少し渋い顔をして肩を叩かれる。





「まぁ、その、なんだ。」

「?」

「ガンバ。」

「え?」





「○○ちゃん?!君もここにいたのか…。」

「アマイマスク、さん。」



バングさんを見送って気がつくと、背後にはアマイマスクさんが立っていた。アマイマスクさんは頬についた血をハンカチで拭うとそれをぽいっと捨てて、わたくしの頬へ手を伸ばす。しかし、眉間にシワを寄せて、なんだか怒っている様子で雰囲気がピリピリしている。




「君は特例S級ライセンスなんだぞ?攻撃に巻き込まれて死にでもしたらどうするんだ?

君は戦うヒーローなんじゃない、世の中はそんなものを君に求めてはいない。君はヒーロー協会の財産だ!正義のためにも、まずは身を守ることを優先しろ!!」


ギリィッ…


「っ痛……!」




アマイマスクさんはわたくしの頬を撫でていた手を肩に置くと、話すうちに怒りが増したのかきつく肩を掴まれて指がくいこむ。




「まったく、S級ヒーローの体(てい)たらくにも嫌気がさすな。」


「み、みなさん頑張って下さいましたわ…!そうでなくては、A市だけの被害では済まなかったと思います……!」





「おいお前!A級ヒーローのアマイマスクだな。○○さんから手を離せ。」



「君は…っ!すまない、つい力が入ってしまったようだ。痛かっただろう?」


「ッいえ、平気ですわ。」



アマイマスクさんはハッとして手の力を緩めると、肩をゆるりと撫でて申し訳なさそうにこちらを見つめ、おでこをこつんと当てて後頭部を撫でた。
その際に、ちら、とわたくしの首筋にあるキスマークを確認して。



「ま、同じヒーロー同士でじゃれ合うのも結構だが、ジェノス君、君にはとても期待していたのに。ここになぜB級が居るのかはもうどうでもいいが、ここからは君たちが居ても邪魔になる。早く家に帰れ。」


「……行きましょう、先生、○○さん。」

「そだな。腹減ったし。」



何か言いたげなジェノスさんでしたが、それを飲み込んで背を向けて歩き出す。ジェノスさんに続いてサイタマさんが歩き出したのでわたくしも後を追おうとすると、アマイマスクさんに止められる。頬を親指で強めにぐいっと拭われて、ピリッとした痛みが走る。



「ここ、擦りむいてるよ。」

「あ…さっき落ちてきたガレキで…。」


「…君はもっと自分を大切にした方がいい。それに、顔に傷をこさえてしまっては撮影に影響が出るからね。これは芸能界の先輩としてのお説教だ。それに、無闇にイェルクヴェインの血を使うのもあまり勧めない。」


「う…はい…。」


「……血を使えば、僕がつけたキスマークも消えてしまうだろうからね。つけ直さなくちゃ。

ぢゅ、」


「ひゃっ///?!」



アマイマスクさんはわたくしの髪をかきあげて、自分のキスマークの上にさらに強く吸い付いていっそう濃いキスマークをつけた。
サイタマさんやジェノスさんの前でなんて破廉恥なことを……!ここが街中でなくて良かったです。ファンの人に殺されてしまいそう……。



「……ふぅん、君の飼い主は彼か。」

「え?」

「いや?とにかく、今日はゆっくり休むんだよ。ガレキに気をつけてね。もう怪我を増やさないように。」

「は、はい……!」




アマイマスクさんはわたくしたちとは違う方向へ歩いていった。
わたくしは急いで先を歩いていたサイタマさんとジェノスさんに追いついて、そのまま三人で歩いてZ市へと帰路を急いだ。



「すみません!お待たせしてしまって…!」

「……………。」

「別に歩いてたから気にしてねーぞ。帰って飯だ飯!」



ジェノスさんはサイタマさんの数メートル前を無言でどしどし歩いていて、なんだか近寄り難い雰囲気を醸し出している。思わずサイタマさんの隣で急ぐ足を緩やかに戻す。
サイタマさんはわたくしの歩幅に合わせつつジェノスさんにも合わせてくださって、ガレキを避けつつ歩く。


「(ジェノスさん、機嫌が悪そう…。)」



そう思っていると、サイタマさんがわたくしの頭に手を乗せてそのままゆるゆると頭を撫でてくれる。突然のことに驚きつつも、疲れていたし、嬉しかったしでされるがまま。



「○○、怪我は大丈夫か?」

「はい、擦り傷程度ですし。」

「ん、そっかそっか。」

「?は、はい……。」

「お前の髪ってきれーだよな。」

「あ、ありがとうございます……?」



サイタマさんはそう言いながら後頭部まで手をすべらせると、大きな手で首筋をゆる、と撫でてから、親指で強くゴシゴシと撫でてくれた。
そのまま手を離して、ジェノスさんを追いかけるように2人で自宅へと向かっていった。



















「クク…。さて、○○ちゃんの本当の飼い主はどっちなのかな。キスマークを付けたのはたぶんジェノス……。


だけど、彼も彼で、ひどい顔で僕を睨んでくれたな。」



○○ちゃんの首筋に改めてキスマークをつけたときに感じた、○○ちゃんの背後から僕を殺すように見つめる二つの視線。

ひとつはジェノス君、これでもかと目を見開いて眉間にシワを寄せていた。彼は独占欲が強いようだ、きっと帰ってから○○ちゃんに何かしらするだろうね。

ただもう1人、あれはB級の……サイタマ。

あんな間抜けななんでもなさそうな顔をして、消すつもりのない殺気を飛ばしてくるなんてね。…彼が一番厄介そうだけど、さて、○○ちゃんはどう対処するのかな?



PPPPPPP

「…僕だ。」

『アマイマスクさん、撮影は先延ばしになってしまいました…!すみません!』

「仕方ないよ、今回は被害が甚大だったんだからね。」

『ご自宅までお送りします!既にそちらへ車が到着していますので……』

「頼んだよ。」


黒いバンに乗り込み、崩壊したA市を眺める。
車に揺られながら、ジェノス君の後ろから突き刺すような目を向けてきていた彼をぼんやりと思い出して、口角があがる。

僕はね、ライバルがいればいるほど燃えるタイプなんだよ。今はまだ、彼女に決定する意志がなさそうだから泳がせておく。その間に、彼らはどうでるかな。























「はぁ……疲れましたわ。」

「腹減ったぁー……。」

「今回は、大きな被害でしたからね。お二人共、とても活躍されましたね。」

「んー。とにかく俺は早くうどんが食いたい。」



今日はとても疲れていたので、帰り道にあるいきつけのうどん屋さんで夕飯を済ませることにしたわたくし達は注文を終えてあたたかいお茶をすすりながらうどんがくるのを待っていた。
備え付けられているテレビでは、今回のA市の被害や、活躍したヒーローの名前を読み上げていた。



「っつーかさ、○○。」

「はい?」



「あいつと○○って付き合ってんの?」




バンッ!!!!!



「そんなわけありません!
あんなスカシ野郎となんて!!!

先生、ご冗談は顔だけにしてください!!!」



「よーしジェノス!今日は特別に手合わせしてやるお前 オモテ出ろ。」




突然の質問に驚いてしまったが、ジェノスさんが否定してくださったしわたくしもそれに頷く形で否定する。サイタマさんは聞いてきたわりには興味なさげにふーん、と返すと、何故か置いてある七味やてんぷらつゆのビンをカタカタと動かしている。
わたくしもジェノスさんもお互いにはてなを浮かべながらも、また椅子に座り直して料理を待った。



「あ…あのっ!」

「?はい。」

「あの、○○さん、ですよね?!私めっちゃファンで!握手と、写メとかお願いしてもいいですか?!」



声をかけられて振り返ると、大学生風の女の子2人がスマートフォンを片手にこちらをそわそわと見つめていた。わたくしは快くそれを受け入れて握手をし、インカメラで写真を撮る。女の子は2人でこそこそと話した後にこちらへ向き直ってきた。




「○○さんって、誰が恋人なんですか?!」

「気になります!!!」



「え、えぇっ///?!だだだ誰と言われましても」



「だって、今もこうしてジェノスさんと一緒だし!」

「ジェノスさんって言えばイケメンヒーローランキングでも上位で、すっごく人気あるし!」



「ジェノスさんは、その、とても仲良くして頂いてる方で、ですがわたくしは恋人は現在はおりませんわ……///」



「あ!じゃあ無免ライダーは?!」

「そうそう!口移しで助けるとかもうおとぎ話みたいできゅんきゅんしちゃいます!」



「む、無免ライダーさんはその、前の事件以来お会いしてませんし……。」



「じゃあアマイマスクさん!!」

「ドラマも始まるし、美男美女って感じでめっちゃいいじゃないですかー!!」



「え、いやぁアマイマスクさんは…

ちょっと……苦手((ボソッ))」




「えーーっ!こんなにイケメンに囲まれてるのに!」

「S級とかだと他にもゾンビマンとかぁー!」




女の子2人のマシンガントークにおされて狼狽えていると、後ろから肩をぐいっと引かれて背中がすっぽり包まれる。それは人肌で、ジェノスさんは立ち上がって女の子の対応をしていたわたくしを驚いた顔で見上げているから、これは……



「ほらお前らうどん食ったらとっとと帰れ!俺らのうどんが伸びちまうだろ!後ろでおやっさん待ってんだよ!」

「うわ何こいつ」
「ハゲ!」
「ゆでたまご!」

「うるせーーーーー!!!!!!」



女の子はサイタマさんに悪態をつきつつもジェノスさんを写真に撮るのも忘れずにお店を出ていった。そんなことよりも、わたくしは今サイタマさんに後ろから抱き締められている形なことで頭がいっぱいで、女の子たちに手を振り返すことすら出来ず。

サイタマさんは「ちくしょー!今日はハゲって四回も言われた…。」と嘆きながらわたくしから体を離して、椅子に座る。わたくしもそれに習って椅子に座ると、後ろで待ち構えていた店主さんからうどんを渡される。



「あの子達食べてから2時間もぺちゃくちゃしてたから助かったよ。これ天ぷら、サービスね。」

「おお!やったぜありがとなおやっさん!」


「……○○さん、大丈夫ですか?」


「は、はい///大丈夫ですわ……///。」



「いただきまーす。」

「……頂きます。」

「いた、いただき、ます。」



まだ心臓がバクバク鳴っていて、せっかく美味しいきつねうどんでしたのに、肝心のお揚げの味すらおぼろげにしか感じられないくらいにパニックになっていて、気がついたら食べ終わっていて、気がついたらマンションでした。



「お前大丈夫?熱でもある?」

「い、いいいいえへへへい、へい、へい、平気ですわ//!」

「DJみたいになってるけどほんとかよ。」



サイタマさんに「まだ早いし、何もすることないけど茶でも飲むか?」と言われて、サイタマさんのお部屋へあがる。さっきのこともあってかすごく意識してしまって、部屋に香る男性の香りや見慣れた光景がやけに恥ずかしく思える。

するとジェノスさんがお茶を飲み干してから立ち上がった。



「先生、○○さん、俺はあのクソガキのせいで破損した頭部と顔面の部品を修理しに1度クセーノ博士のところへ向かいます。明日の朝には帰ってこられますから、特売セールは大丈夫ですので。」

「あ、そっか明日はむなげやのセールですわね!今日は金曜日でしたのね…。」

「おお!じゃあ明日は頼むぞ!ひじきが個数制限ねーからな!」


「任せてください!
それでは、また明日の朝に帰ります!」



「道中お気を付けて下さいね、ジェノスさん。」

「はい、○○さんもよく休んで下さいね。」

「ええ。」


「いってらー。」



ジェノスさんはコップを洗うと焼却砲からの温風でしっかり乾かしてから、そのまま家を出ていった。そっか、さすがに顔面に亀裂が入ったままでは不便ですものね。

ジェノスさんが家を出て、ニュースを2人で流し見していたら、気がついたら時刻は夜の8時50分。



「すみません、わたくし長居してしまいましたわ!」

「おー、まぁ別にひとりだしいーけど。あ!今日○○んとこの風呂って借りていいか?疲れたから湯につかりたいけど銭湯までいくのだりぃ……足伸ばしたい……。」


「か、構いませんわ!ではお風呂の用意をしてきますわね!」

「え、任せていいのか?」

「ええ!」

「やったぜーありがとな。意外と、今回は動いたな…月まで行ったし。」



サイタマさんに声を掛けて、急いで自宅へと戻ってお風呂を洗う。
たまにサイタマさんはこの改築しまくったお風呂を借りにくるのですが、今回はなぜだか無駄にシャンプーボトルの底のぬめりや部屋の香りやシーツのふかふかさを気にしたりして、部屋にもアロマを焚いたりしていると、お湯がたまった合図のメロディが流れて、気を引き締めてサイタマさんの自宅へと向かう。



「あの、お風呂の準備が整いましたわ。どうぞ。」

「やったぜー!広い風呂だ……!」

「(お風呂を借りられるだけですわただそれだけ)」

「あ、○○先に入らねぇの?」

「わ、わたくしは仕事のスケジュールチェックもしたくて、なので、あの、お先に、どど、どうぞ!」

「ふーん。じゃあ借りるわ、ありがとな。」




サイタマさんが浴室へ消えたのを確認して、ぶはーーっ!と息をはいて床にへたりこむ。

なぜこんなにもドキドキするのでしょうか?今まで何度か来たことはあるし、それに頭をなでて下さったりもたまにあったじゃありませんの!むしろわたくしから腕に絡み付いたりしてたというのに……!

……でも、やっぱり男性の体をしてて、普段周りの方々は、ぷりぷりプリズナーさんやクロビカリさん、キングさんなどがいらっしゃいましたから、見た目では細めのサイタマさんも、背中に当たった胸筋だったり、肩を掴まれた手は大きくて、ああこの人も男の人なんだ。と再確認してしまって……。
ふわりと香った汗の香りにもきゅんとしてしまって、まるで今のわたくしは生娘のようですわ……。



「煩悩は捨てて、スケジュールチェックですわよ!」



サイタマさんは部屋にはいらっしゃらないし、と服をラフな1枚のスウェットワンピースに着替えて、メガネをかける。
カフェオレをいれて、クッションの上に座って手帳や台本とにらめっこをする。ボールペンでセリフの横に詳細や今日監督から指示されたことを書き込む。手帳にも軽く一言日記を書いてから、うーんと伸びをした当たりで、お風呂場から声がかかった。



「?なんでしょう…リモコンの不調でしょうか?」



マグカップから口を離して、スリッパをはいてわたくしは浴室へと向かった。はぁ……なぜこんなにも緊張してるのでしょうか……?