「サイタマさーん?いかがされました?」



サイタマさんにお風呂をお貸しして、スケジュールや台本を見ていた時に浴室から「○○ー?」とわたくしを呼ぶサイタマさんの声が。
スリッパを履いて浴室へ向かっていくと、すりガラス越しに浴槽につかるサイタマさんの姿がぼんやりと浮かんでいる。ドアの前で立ち止まると、サイタマさんからもこちらが伺えたのか何やら言いにくそうな声が聞こえてくる。



「あー…、お、……んー。」

「? どうされました?」

「いや、……その、○○は、は、入らねーの……?」

「 ? 」



入る?どこへ?



「(やっべーまじどーやって誘えばいいかわっかんねぇ!!!)いや、あの、ホラ、お前んちの風呂デケーし、その、い、い、一緒に、は、入ってやろーかなって…○○、前に入りたがったりしてた、し。今日くらい……いいかなってよ……。」


「………………えッ?!///」


「(あれやべーこれミスったかな…!

いやでも前は風呂に無理やり
入ったりしてきてたし!)」



「(ななななぜ突然そんなお誘いを?!
いやですがこれは千載一遇のチャンスでは?!

でも、そんな、は、恥ずかしくて…
なんと答えていいのやら…!)」




突然のサイタマさんからのお誘いに驚いてしまったけれど、これほどに甘美な誘惑は御座いません!!で、ですが、なぜ突然に……?今までは絶対に嫌がっていらっしゃったのに…。

お互いにしばらく無言になってしまって、ですがこのまま黙ってしまうのはよくありません。せっかくお誘い下さったサイタマさんの気持ちを無碍にしてしまうやもしれない!


よ、よしっ!






「(やべー俺キモかったかな)……や、あの、疲れてそうだったし、今日は甘えてもいいんだぜー的な感じだったけど、ま、まぁ無理にとは


(カラ…)


…………ッ//!」



「…あの、し、失礼します…。」



意を決して、衣服を脱いだらタオルを巻いて浴室のドアを開けた。サイタマさんは浴槽のふちにもたれ掛かるようにしていたけれど、こちらを見るなりテレビがある方向へと体を動かして反対方向を向いてしまいました。ま、まずはそうね…どうしましょ…でもお風呂だし、メイクを落として髪を洗って、うん…ふ、普段通りに!普段通りに!






(視点change)





今日わかったことがいくつかあった。

まず一つは、俺は月まで飛んでも平気だってこと。
もう一つは、○○はすげーモテるんだなってこと。

もう一つが、俺が○○に対して思っていた『可愛い妹』みたいなイメージが、ほんとは誤魔化しだったってことだ。


出会ってからまだ1年くらいか。俺はあの時、買い物の帰りに歩いてた。俺の家はZ市の危険区域だから、人の多い通りから外れて、路地裏を通って安全区域と分けるフェンスの方向へと歩いていた時だった。先の方から声が聞こえて、男女だったもんだから痴話喧嘩か?くらいにしか考えてなかったんだが、どうやらそうじゃないらしい。男が女に覆いかぶさって服を破いているのが目に入って、思わず駆け出した。加減したつもりだったんだが、一発入れたら吹き飛ばしちまって捕まえることも出来なかった。



『おい!お前大丈夫か?とりあえずこれかけとけよ。あいつはぶっ飛ば……あれ?あ、どっか飛んでっちまった…。』



『……ん、ふ、う……わっ、あぁあぁぁぁん!!!!』


『うおっ?!な、泣くなよ……。』


『うぇっ、えっ!…ん''わ''ぁあぁぁぁ!!びぇぇえぇぇ!!!!』



『(子供みたいに泣く奴だな…。)えーと…どうすりゃいいんだ……つーかお前家は?

『う''わ''ぁぁあ''ぁぁぁん!!!!!』


どーすりゃいいんだよ俺は…とりあえずウチくるか?なんか、風呂とか、入りたいだろうしお前家言わないし泣き止まねーし。』

『ん''っ、い、いぐっ!』

『よし、じゃ、一応俺から離れんなよ。』
(ガシッ!!!!)
『あ''い''……!』

『……もう好きにしろよ……。』



襲われてた女に着てたパーカーを被せたら、女はキョトンとした顔でこっちを見てから、デケー声で大泣きしだした。そりゃーもう子供がスーパーで駄々こねるレベルで。女に声をかけても家は言わねーしここまま警察でも来てしまったら俺が犯罪者に思われかねない!とにかく、まぁなんつーか……こういうのは風呂に入れてった方がいいんじゃねーかなってことで、それを伝えると女は化粧がドロドロに溶けて、まるで呪怨の伽椰子みてーな顔をしてる。真っ黒い涙を流しながら俺にすがりついてきた。あーあー腕が…黒く…。

仕方なくおんぶして家に連れて行って、タオルと俺のTシャツとパーカーとジャージを渡して風呂場に押し込む。しばらくは呪怨なみに目の下真っ黒にしててすげー怖かったんだけど、ほっとくとシャワーの音がして、俺はほっと一息ついた。コーヒーを啜ってると、ユニットバスのドアが開く控えめな音がした。



(カチャ…)

『お、出た……か…………。』

『…あ、あの、お恥ずかしい所をお見せしましたわ。助けて下さってありがとうございます、お風呂まで貸して下さって…。』




……誰?!?!

いやいやいやいやいやどーーー見たって伽椰子じゃねぇじゃん!四つん這いで階段を降りてきそうだった女はどこ行ったんだよ?!むしろ貞子すら髪の毛にキューティクル戻して前髪分けさせたらこんな風になんのかよ?!

いや、なんつうか……こんな綺麗な生き物っているんだな…。昔やってたファイナルファンタジスタのキャラクターみてーだ。

ガチガチに固められてポニーテールにしていたくるくる髪はふんわりとしてゆるくうねっているし、肌は真っ白で、風呂上りだからか少し赤みがさしている。変にツヤツヤしてた唇はぷるぷるしつつもしっとりと湿っているし、目の周りを縁どっていた黒いラインは消えて、本来のサラッとした瞳に戻っている。



『……お、おぉ…。』

『申し遅れました、わたくし○○・イェルクヴェインと申します、元怪人で、今は○○という店でキャバ嬢をしています。』

『あ、えーと、サイタマです、趣味でヒーローやってます。…………え?怪人?』

『いえ!元、です!もう怪人はやめて普通に一般人として暮らしていますし、危ない思想も持っていません。むしろ、あんなふうにどんくさいから、怪人をクビになったようなものですもの…。』



女…○○は、でけーヒールの靴を履いてたから分かんなかったが実際は俺の口に頭が来るくらいの身長で、俺が貸した服がダボダボになってジャージは裾が幾重にも折り曲げられている。

とにかく、まずは落ち着いたみてーだし茶でも入れるか…。



『……で、お前家は?』

『家はZ市の安全区域にあるマンションに住んでいますわ!サイタマさんはここでお1人ですの?』

『あー確かに俺以外に住人見たことねーわ。』

『ではお隣も空いてますの?』

『むしろここら一帯誰もいねーよ。』

『まぁ!でしたら近々お世話になりますわ!』

『? あぁ…うん。』



まさかこの時はこの言葉が本当になるなんて思わなかったけど、その日は俺が無理矢理○○を俺の布団に寝かしつけて

『サイタマさんもこちらへ!』『いや行かねーからな!なんだその眼差し何を期待してんだよ』『それはもちろんサイタマさんとの熱いペッティ『言わせねーよ!!!』

俺も○○の布団の横に寝転んで、その日は二人ともぐっすり眠った。朝 起きたら○○は更に早起きしてたらしく買い物を済ませて朝食を作っていた。久しぶりに食ったしっかりとした和食がすげー上手くて、褒めちぎると○○は恥ずかしそうに微笑んで肩をすくませた。それから○○を安全区域まで送り届けて、その日は(ちょっとパトロールして)家でダラダラして一日が終わった。




つぎの日、


ドガガガガガガガガガガ!!!!!!!
ギュィーーーーィィーーー!!!!!!!
バッコンバッコン!!!!!!!



『な、なんだァ?!』

『コンコン、サイタマさーーん!昨日ぶりですわ、○○です!騒がしくしてしまいすみません、工事は夕方には終わるそうなので申し訳ないのですがお待ちください!』

『な、は?工事?』

『はいっ!今日から、隣人としてお世話になりますわ!サイタマさんっ!』




……は?り、隣人?

そう告げると、○○は俺に支度をさせて出掛けさせた。丸1日引っ張り回されて(まー普段の俺じゃ入れねーような店やレストランに連れ回されたんだがな。)、夜の7時頃にマンションに帰ると俺の家の2個隣のドアが無くなって、二件並んでいた部屋が1部屋になっていた。

中を見させて貰うとそりゃーもう俺の家とはえらい違いで、まず壁紙が薄いサーモンピンク、カウンター式のキッチンに、リビング、その奥に寝室があって、風呂はユニットバスじゃなく、浴槽の壁にはテレビが嵌め込まれてる。

……なんだこりゃ。



『大家さんに直談判して、2つをくっつけましたの!あの…サイタマさんが良ければ、お部屋を更にくっつけることも可能ですのよ…//?(ポッ)』

『いやいやいやいや遠慮します。』

『そ、そうですか…。あ!バスルームは特に力を入れて設計しましたの!サイタマさんでも脚を伸ばせるようになってますから、お湯に浸かりたい時はぜひぜひ使ってくださいませ!サイタマさんなら私物化して頂いてかまいませんし、わたくしが直々にお背中をお流ししますわ!……もちろん、その、先も……あっ//なんてふしだらな//!』

『(それはいいな)』



まーこんな感じで突然に隣家を改造して、引っ越してきたわけだ。そっからはもう俺が家にいるのもあるがことある事にサイタマさんサイタマさんって……。煩わしいとは不思議と思わなかったけど、このマンションは完全に俺と○○だけの世界で、そこにジェノスが入ってきて、○○がS級ヒーローになって……次第に○○が他へ意識を向けだした辺りから、俺の心の中には言い表せないモヤモヤしたものが蓄積されていった。それがなんなのかはよくわかってなかったけど、今日、あのサラサラ髪の奴が○○の首筋にキスをしてたのを見て、そのモヤモヤが一気に増えた。だから気づいた。

これは嫉妬心ってやつなんだって。

正直、○○はいつまでも俺の後ろをキャンキャン言いながら追いかけてくるんだろう、俺しか目に入ってねーんだろう。って思ってた。でもそうじゃねー。○○には知り合いが増えて、男で、その男はみんな○○を見てて……。

でも、待てよ?

○○は今は芸能人なわけだから、変に手を出すとヤベーのか?つーか初めてのスキャンダルがハゲとかあいつ可哀想じゃねえか?!でもここまできたらもう引けねーぞ!!いやでもこれがもうスキャンダルか……。



サアァァ……、キュッ
「……さ、サイタマさん?」

「(ドキッ)お、おう。」

「……わ、わたくしも、その、入ってもよろしいですか?」

「……おう。」