彼女は、一体何者なんだろうか。

クセーノ博士から貰ったこの身体にも、ほんの少量の血液循環機能がついている。と言ってもスペアが効くものだし、これもそのうち無くして貰おうと思っていた機能だった。

「ジェノスもいつか愛する女性が現れるやもしれんじゃろう」とクセーノ博士が仰られて、俺は彼の決定に従ったのだが、俺は今は狂サイボーグを探してるし、女に現を抜かす暇などはない、はずなのだが…。




昨日は巨大な怪人が現れたとの情報を手にして俺は奴の手掛かりが掴めるのではないかと急ぎD市へと向かっていた。

外へ出て暫く走ると目の前にビルよりも巨大な男が現れた。そうか、あれが災害の…ことの流れを見ていると、奴をああいう肉体へと変化させた研究者はあっけなく死んだようだ。しかも間違って。くだらない。

しかし、その数分後には突如 巨大怪人の頭が割れてそのままB市へと倒れ込んだ。誰がやったか知らないが、たぶんヒーロー協会のヒーローだろう。

B市はそのまま怪人の下敷きとなり、地図から消滅した。(ちなみに俺の住処は今のところB市であったためにねぐらが無くなってしまったようだった。)



「とんだ二度手間だったな。」



このままではいけない。俺は俺の人生を破壊した奴を探さなくてはならない、だがこのままでは駄目だ。もっと情報を、強さを、手にしないと…。

そう思っていた時だった。



ガシャ!
「あっ!」

「!」


曲がり角で女とぶつかってしまったようだ。女は反動でぐらついたが、咄嗟に体を支えると俺の腕を掴んで体制を整えた。
紫の髪がふわふわとうねっている、背の小さい女。鼻腔にはフリージアの香りが漂い、小柄な体型には似合わない胸元をさらけ出した服を着ていて、クセーノ博士の言葉を思い出して思わず顔を背ける。



「すまない、大丈夫か?」

「ッ…いいえ平気ですわ、こちらこそ前を見ていなかったようね、ごめんなさい。」

「…………//!」

「ごめんなさいね、支えてくださってありがとう。」



顔を上げた女の顔は、これまで見てきたどの女よりもそそられるものがあった。正直、生身の体だった頃もそのような色恋などは興味がなかったのだが、今までは復讐に駆られ、女に現を抜かすことなど無かった。だが、この人は美しいとそう思った。

白い肌に大きい瞳、長くのびたまつげの中から見える目は燃える炎のような、深いワインのような色が揺らめいていて、中には水中花のように花が見える。赤く色づいた唇はぽってりしていて酷く柔らかそうだと思った。



「……いや、俺の方こそすまなかった。」

「あの、わたくし人探しをしていまして、黄色いヒーロースーツを着たスキンヘッドの男性を見かけられなかった?」

「いや、み、見かけていないがッ…?」



しまった、クセーノ博士から

「感情が高ぶると鼻血が出るようにしておいたからこれでラブコメも楽しめるぞ!」

とかなんとか要らない機能を頂いたのだった。

しかし些か感情の高ぶりで鼻血を出すなんて非現実的な機能をつけられたものだ。

たら、と流れてくる血を感じてそう思っていると、女の顔がぐんと近づいて、俺の鼻を舐めた。



「なッ………?!」

「ん、んん?…美味しい!!」

「は?」


見かけによらずこの女はやばいのではないか。初対面の人間の血液を舐めとって美味いだなんて正気の沙汰ではない。まさかこの女…人間ではない、のか?怪人が蔓延るこの世だ、ありえない話でもないだろう。

しかし、些か悪い気もしない。

というよりも、どちらかと言えば心拍数があがりきっているのも事実。俺がこんなことで狼狽えるとは。まだまだ修行が足りないのではないだろうか?



「あなた、お名前を教えて下さらない?わたくし達きっとこれも何かの御縁ですわ、ぜひ食料…お、お友達になりませんこと?!」

「いや、俺、は、」



女の頬は紅潮して瞳は潤み、追い討ちをかけるように赤い舌がそのぽってりした唇をぺろりと舐める。女の瞳から目が離せない、俺は、彼女を手に入れたいという気持ちが全身を支配するのを感じた。このままどこかへ連れ去ってしまおうか、この俺がそうとさえ思ってしまうこの女はハッと何かを思い出したように俺から離れて照れたように微笑んだ。ああ、それさえも愛おしく感じる。




「えっと、ごめんなさい。うふふ、わたくし元怪人でして、吸血鬼のような生き物ですの。だからつい…。」

「怪人、だと?」



やはり人間では無かったか。今まで女型の怪人も少なからず戦ってきたが、こんなにも美しい怪人は初めてだ。
だが怪人は怪人、おかしな真似をすれば、この手で……。



「いえ!あの、元怪人、ですわ。今は普通に生活をするただの女ですの。元々力も弱くて、クビにされたようなものですから。この辺りによくいらっしゃるの?」



……確かに、非力なように思える。それに、幽かな殺気すらも感じない。

それよりも、女にこれだけ接触されて未だに心(コア)拍が上がりきっている自分を恥じる。でも、このままただぶつかっただけでは終わらせたくない。どうやら彼女は急いでいるようだった。せめて、繋がりを持ちたい。そう思ったのだが、




「ま、まぁ確かにそうだが…怪人が現れるところへ行く、俺は単独でヒーロー活動をしている……それよりッ」

「まぁ!じゃあまたお会い出来ますわね!わたくしは〇〇と言いますの。あなたのお名前を伺ってもよろしいですか?」

「俺は、ジェノス、だが」
「ジェノスさん!またぜひお会いしましょう!突然ごめんなさい、それではまた!」

「あ、待っ…おい!」




先ほどの大胆な行動は何だったのか?女、○○、は俺に一方的にまくし立てるとそのまま走り去ってしまった。しかし追いかけようとは思わなかった、きっと俺と彼女は近いうちにまた会えると何故だかそう思ったからだ。

それよりも、女ひとりにここまで掻き乱される自分を恥ずかしく思ったので、考えを振り払うようにその場を急ぎ足で離れた。


その後、俺と彼女はやはり再開を果たすことになる。




.