暑い...。

ヴァンパイアは寒いところを好むから、夏はとにかく苦手...。でも洗濯物を干すには外がいいから、絶賛長袖+アームカバー+サングラス+帽子で防御しつつ洗濯物を干している。

この時期だけはどうしても好きになれない。
海だのプールだのっていうけど、直射日光が嫌いすぎて買い物すら億劫だっていうのにテレビをつければ暑苦しくてたまったもんじゃない。

ブラジャーを干していると、ベランダの間仕切りの向こうから凄まじいクラップ音が聞こえだした。


「?サイタマさん??」

「くっそー!蚊めぇ...!あ、おはよう。」

「おはようございます...どうしたんですか??」

「蚊が倒せないッ...!!!」

「蚊?...あぁ、そういえばたしかに...。」



サイタマさんのベランダを覗くとサイタマさんがイライラした様子で宙を見ていた。言われてみればたしかに耳障りな羽音が聞こえる。
サイタマさんは何度か手のひらで叩き潰そうとするのだけど、ことごとく逃がしている。サイタマさんの攻撃で倒されないなんてすごい蚊ですわ...。



「どっちかというと同業者なのでわたくしは被害にあったことがありませんわね...。」

「ぁんだと?!くそー羨ましい!」

「あ、そういえばお客様から頂いた揖保〇糸がありますの。よろしければご一緒致しません?」

「お!いいな!うち来るか??」

「ぜひ!」


洗濯物を干し終えて、私は揖保〇糸と高級めんつゆ、それにデザートに高級スイカを持ってサイタマさんのところへと向かった。











「あー、腹いっぱいだ...。」

「スイカは後にします?」

「なに?!スイカもあるのか!さすが○○だな。食う。」

「うふふ、サイタマさんが喜ばれるなら持ってきて良かったですわ。」



そうめんを食べ終わり、冷やした麦茶をぐいと飲み干すとサイタマさんはとろけた顔でテレビのリモコンを手にした。私はスイカを切りながらお皿に盛っている。サイタマさんはめんどくさがりさんなので、四角く切ってしまいましょう。


『えー、ここで、最近の蚊の大量発生について専門家の方にご説明を頂きましょう。蚊の専門家であり本も出されているカーフェチ氏にお話を伺いましょう!』

『えー、今年の蚊については完全なる新種なため、私にもわかりません。』
『帰れ!!!!』


「うへぇーまじかよー。」

「蚊が多いんですのね、嫌ですわ耳障りだし。はい、スイカです。」

「だよなー。
おっ!食いやすくなってる!ありがとな!」

「喜んで頂けてよかった!」


やっぱりお得意様の金餅(かねもち)さんから頂くものは美味しいですわね。みずみずしいのに水っぽすぎなくて甘い!
サイタマさんも美味しそうにしてくださってるし、(サイタマさんのために)食べ物をおねだりしておいてよかった!


『ただいま内容を変更して臨時ニュースです!!蚊の大群がZ市へ向かっているとの情報があり、近隣住民の方はけして外へ出ないでください!!災害レベルは鬼です!!!』


「え…Z市ってここじゃん...窓閉めなきゃ...。」

「それにしても変ですわね、蚊って団体行動するものでしょうか?」

「想像しただけでかゆみが...!!!」


プ〜ン.........

ピタッ


「あら。サイタマさん蚊が...」

パァン!!!
...プ〜ン

パパァン!!!
.........プ〜ン

「ぬおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」

プ〜ン

「絶対に許さねえ!待て、蚊ァァア!!!!!!!!!!」

「さ、サイタマさん外は危ないですよ!!サイタマさぁぁん!!!」







あれからかなり走り続けているサイタマさん。蚊はふわふわと漂いサイタマさんから逃げまくっている。私は翼を生やしてサイタマさんを追いかける。(ヴァンパイアはご都合主義だから、いろいろと隠してることがあるのです。)
サイタマさんがビルの合間を抜けると、突然広い通りに出た、そこには2人の人影。しかしサイタマさんは怒りに我を忘れているのか止まらない。


「待てコルァーーーーー!!!!!」
「サイタマさぁん!」

「!」


走るサイタマさんに追いついて咄嗟に肩を押さえる、サイタマさんは我に帰って、頭上で広がる黒いモヤを見上げる。


「サイタマさん待って!あの雲…!」
「なに?!あ、なんだあの雲...いや、なんか蠢いて、蚊?!ウワァア...。」




私もあれは気持ち悪いと思う。
トライポフォビアに似通った所があると思いますわ…。




「そこのお前達、あれは意思を持っている。こちらに気付けば襲ってくるぞ!隠れていろ!」

「え。やべぇじゃん、はやく逃げ」



サイタマさんが言うや否や、その黒い塊は1度圧縮されたように集まると、こちらの地面めがけて降り注いできた。わたくしは咄嗟にサイタマさんを翼で包もうとするが、サイタマさんが何かに気づいてわたくしの身体を抱え込む。次の瞬間に、ものすごい熱波と何かが焼ける苦い臭いがあたりに充満した。



「ハッ...!しまった、2人巻き添えに!!」

「いやーすげーなお前。なにそれ、これがほんとの蚊取り閃光、なんつってな。」
「ケホッ…サイタマさんオヤジギャグにも程がありますわよ...。」

「お、○○大丈夫だったか?」
「はい!サイタマさんのお陰で無傷ですわ!」



サイタマさんは服が全て燃えてしまったのか全裸の状態で、そのサイタマさんに抱きしめられて(抱え込まれて)いるものだから、思わずうっとりと胸板に頬ずりをした。(こんな時じゃないとさせてくれませんもの。)

しかし、女性特有の高笑いが聞こえて声のした上空を見る。そこには白黒の斑模様をした妖艶(わたくしには敵いませんが)な女性怪人が浮いていた。どうやらあれが蚊の原因、親玉のよう。彼女は突然姿を消したと同時に青年の背後に突如出現した。




「その子達はもう必要なくなったの...だって、ホラ、こーんなに強くなったんだもの...。」

「!!!」



怪人が囁くと同時に、青年の身体が斜めに切り裂かれる。ほんの少量の血液と、機械のパーツや破れた装甲が宙に散らばる。彼も負けじと腕を振り上げるけど、あっという間に怪人によって身体がバラバラにされていく。ていうか、彼、何処かで見たような気がする。



「次、頭捕ったげる。」

「っここまでか……!」キィィイイイ


「ッ...!それはダメッ...!!」



片足を失って力なく倒れる彼の下に滑り込んでぎゅっと頭を抱きしめる。と同時にサイタマさんが蚊の怪人の横っ面を張り倒してビルへ叩きつけた。



「蚊......うぜぇ。」

「...............ッ!!!!!」



サイタマさんが叩きつけたビルは砕け、あの怪人が保持していた血液なのか真っ赤に染まっている。私は無意識に腕の中の金髪を撫でながらいつもの光景を眺めていた。



「ビル真っ赤...。サイタマさん、今日もありがとうございます。」

「おお、無事だったか。んじゃーまぁ帰るか……このまま誰か来たら俺やべぇし。」

「うふふ、わたくしはそのままでも良いですよ。」
「いや俺変態だから!このままじゃ露出狂だから!」





「ちょっと待った!!!」




「わ、びっくりしましたわ!」


腕の中でじたじた動きながら必死にサイタマさんを見上げる彼。思い出しましたわ!あの時ぶつかった五つ星血液のジェノスさん!でもサイボーグだし切れた身体の内部を見ると、やはり持ってる血液はほんの数ミリリットルですわね…残念。



「俺は単独で正義活動をしているサイボーグ、ジェノスという者だ!!!ぜひ貴方の名前を教えて欲しい!!!」

「え、サイタマだけど?」

「弟子にして頂きたい!!!!」

「あーうん。………でし???」
「さすがサイタマさん!お弟子をとられますのね!」






「(なんかめんどくせーことになったぞ…。)」