『だぁかぁらぁ!!!

その言い方!辞めなさいよ!!!!』



バシッ!!!

『いぎっ!!う、!!』

『一人称が自分の名前だなんて、馬鹿っぽくて、田舎臭くて、甘ったれてイラッとする、私 大ッ嫌い。早く治さないと私がルシウスに怒られるの!!


……言うことは?』

『ご、ごめんなさい…。』



あれから、早数百年の月日が流れた。当日、人間で言えば4歳くらいだったわたくしの体も、12歳程の少女と呼べる年齢にまで育っていた。

わたくしはあの4人に連れられ、数を減らしつつある吸血鬼を集めた一つの古城で日々を過ごしていた。


わたくしの手をムチで打つのは『ケイティ』様。

彼女はロシアで生まれた吸血鬼らしい。
寒い国に反するように、真っ赤な髪に真っ赤なルージュ、真っ赤な目を持つ全身真っ赤な女性で、つり上がった目はいつも誰かを理由をつけて痛ぶろうとキョロキョロしている。
彼女はわたくしの事がとても気に入らないようだった。ここの長の男性に構われているのが気に食わないそうで、彼がわたくしの口調を貴族の淑女としてのものに直せとケイティ様へ言付けた為に、彼女はわたくしをぶつ為にマナー全般をわたくしへ教えている。


まず、この城について教えられたことがいくつかあった。

一、上流貴族としての言葉遣いをすること
一、各マナーを覚えること
一、人間を殺す事に慣れること
一、ルシウス様の部屋には近付かないこと
一、誰かの前で泣かないこと
一、誰にも逆らわないこと




『アンタが生かされてるのなんて、そのきったない体に流れてる胡散臭い血だけが理由なんだから私の前をウロチョロしないでよね。』

『はい、申し訳ございません、ケイティ様。』

『さっさとヤ、れ。何度も失敗してるから、私もそろそろ飽きてきたわよ。』

『はい...』



じりっ……


『やっ、やめて...お願い、げほ、お願いします!!』

『ごめんなさい、ごめんなさい...!』

『やめて!やめてください!!!』



古城の1室、古い牢屋は地下にありヒンヤリとしている。わたくしは毎日ここで、【人を殺す訓練】をさせられていた。

目の前には鎖に繋がれた女性。
まだ若い、25歳くらいだろうか
お腹が大きいところを見ると、身篭っているらしい。
わたくしの手にはナイフ。ケイティ様は、彼女の声帯を破壊しろ、とわたくしに命令をした。人間に隠れて吸血行為をする上で、人間にバレる原因は悲鳴が最多だからだ。

彼女は命乞いをし続けている、ここ3日間も。喉は枯れて、顔はげっそりとこけている。わたくしが彼女を刺す勇気がないから、彼女は3日間も命乞いをしなくてはならなくなったのだ。



『やめて、ゼェ、ゼェ、やめで...!』

『アッハ!ほらァ、アンタがさっさとしないから辛そうよ〜?教えたでしょオ、ここを、一突きすんのよ。ナイフ抜くんじゃないわよ、血が溢れるから。』



ケイティ様は背後からわたくしの喉を掴むとその真っ赤に塗った爪で喉の1点を突いた。女性はガチガチ歯を鳴らして部屋の壁にぴったりと背をつけている。
対してわたくしは、ナイフを持ったまま身動きが出来ずにいる。

いつもそう、わたくしはナイフを手にはすれど、それを人へ向けたことは無い。



『…...ッチ、はぁーあ!私 ダイエットしてるのにィ。』

『ま、待って!!』

ズッ...!!!

『げ、お......!!!』



ケイティ様は酷くつまらなさそうに伸びをして、鋭く伸ばした爪で女性の喉を突き刺すとまるでフォークで肉を食べるように女性を持ち上げて首にかぶりついた。
血を吸われ、声を発することも出来ない彼女は、わたくしを目玉がこぼれそうなくらい見開いた眼球で見つめて口をパクパク動かした。

たすけて、と言っている。

でも、もう既に助からない。体は水分を無くし、皮膚はベコベコと凹み始めている。女性は緩やかに白目を向くとそのまま動かなくなった。



『ん、ぷはぁ...!やっぱ妊婦は血が濃くておいしーい。生理もこないから生臭くないし。.........アンタ、また食事抜きね。いい加減覚えてよねぇ、痩せさせたらルシウスに怒られちゃう。


邪魔、どけ。』

ドカッ!
『うあ''ッ!!』



ピンヒールが脇腹に突き刺さって痛い。ケイティ様はわたくしの脇腹を蹴りあげて退かすと、掃除をわたくしに言付けてそのまま牢屋を出ていった。
これで何人目だろうか?わたくしが目の前で誰かを殺されたのは。いつも殺せないで終わる。そして、ケイティ様が殺してしまう。

流れる血すらも残さないほど吸い尽くされた女性の体を部屋の端にある木の板へと引きずる。人間から血液という水分が根こそぎ無くなるとこんなにも軽いのかとぞっとした。女性を一瞥して、脇にある取っ手を強く押し込む。すると木の板が勢いよく開いて、女性の遺体は地下より更に下の暗闇へと落ちていった。

この穴の底には、なり損ないがいるのだと聞いた。なんのなり損ないなのかはわからないが、時たま下で何かを食べるような咀嚼音がする。


『……う、ふ…グスッ、ひっ……。』

コンコン、
『○○?』

『ヒッ...る、ルシウス様...、!』

『...あぁ、またケイティに手ひどくやられたのかい?...でもね、我々が生き抜く為には必要なことだ、君には辛いかもしれないが、そのうち慣れて普通になる。だから次は頑張りなさい。』



ドアを開けたルシウス様はわたくしを見て苦笑いをすると、そっと1度だけ頭を撫でて、髪をひと房掬い口付けて部屋を出ていかれた。

彼は、このヴァンパイアのいる城の中で最も恐れられている人物だ。その理由は昔から彼を知っている人でないとわからないそうだが、雰囲気が、彼が現れるとがらっと変わる。それだけで、逆らってはいけない人物だと認識させられてしまう。

ルシウス様は、イェルクヴェインの血が4分の1流れているらしく、片目にだけイェルクヴェインの証である花があった。
純潔のイェルクヴェインである父様の世話係をずっとしてきたから、兄弟のようなものだと言っていた。だからこそ、わたくしを生かさねばならないと。

わたくしはルシウス様が怖かった、それは、その存在だけが理由ではない。いつもわたくしは、夜になると彼に殺されかけるからだ。あの時は彼は狂気に満ちている。でも、それと同時に与えられる快感にも目覚め始めていた自分も怖くて堪らないのだ。

昨晩を思い出してそっと自分の首筋に触れた、そこには喉を隠すように高い襟のブラウスがあるだけ。

今夜も、
憂鬱で仕方がない。




















『あ''っ…つ、うう、うっ!』

『はぁ、はは、は...!!○○もっと顔を、こちらへ見せて......あ''ぁ''...美しい、兄さんと同じ目、はぁ、兄さん、兄さん!!あぁ、兄さんッ...!!!』

『げッ...ぇお!げぇ、!!!』


決して立ち入っては行けないルシウス様の部屋。その理由は、きっと、わたくししか知らない。

ルシウス様は、外では格式高い吸血鬼集団の現リーダーとして気品ある紳士として振舞って入るが、実のところはただの変態である。

わたくしの父、イヴァンを狂ったように愛しているのだ。父様の大きな肖像画がわたくしを見下ろして、その真下にある250センチはあろう巨大な鏡の前で、父様と同じ白銀ショートヘアのカツラを被らされた自分の姿が写る。




毎晩のようにルシウス様はわたくしを部屋にこっそりと呼び出し、父様の昔来ていたというシャツを着せ、白銀のショートヘアのカツラをかぶせ、鏡の前で犯すのだ。

本来 それをいれる場所ではないところに、たぎった自分のそれを激しく出し入れして尻に腰を打ち付ける。初めは痛くて痛くて仕方なかったが、慣れとは怖いもので、排泄感にも似たような、臓器を直接犯されるような感覚に快感を見出していた。

彼はいつも、自分とわたくし(もとい父様)の顔が見えるようにバックの体位で鏡を見ながら犯す。彼はサディストでぺドであり、ナルシストなのだ。その状態で紐で首を絞めて、嗚咽し泣いている幼き父様の顔にひどく興奮するのだという。



『はぁっはぁっ!兄さん、はは、兄さん...兄さんを俺が凌辱している、兄さんが俺のいいなりになってる、アハ、アハハ!!』

『お''ぇっ...!る、じうず、ざば...!!!』

『声を出すな!!!!』


バシッ!
『うぅっ』

『...はぁ、はぁ...。ああ、すまない○○、でも、今この時は、俺のことはルシウスと呼ぶんだ...出来るね?痛くしてすまなかったね...さぁ目を閉じて。君は○○じゃないんだ...。』



ルシウス様はわたくしの顔を強く張り手して、そのあとまた律動を開始した。
ここに来て、体が成長し、性行為に耐えられるようになってから毎晩のように犯されるけど、ただやられるだけでなく、収穫はそこそこあった。

わたくしはこの部屋に(みんなに見つからないようにだが)出入りを許可されている。そこで見つけたのは、ルシウス様の狂ったような父様への愛を綴った日記と、わたくしの先祖、イェルクヴェインについての記述がある書物だった。





【イェルクヴェイン‐花の妖精‐】

神がその存在を創り賜うたその時から存在する古代から続く血筋。アダムとイヴの血液が絡み合い、それを吸ったアサギスイセン(フリージア)の花を蝙蝠が齧ったことにより、その血筋が生まれた。

その涙は傷を癒し、血液と涙は花を咲かせる。唾液は甘美な蜜となり極上の恍惚を与えると言われている。
2300年の時を超え生きるとその背には翼を与えることを許される。

自らの生命の危機に陥った時、覚醒を起こして意識を失う。その後 目を覚ました時には超人的な力を手にし、全てのものを破壊すると言われている。

植物を操り、自然と心を通わせることが出来る。
血液の選り好みが激しく、体は病に弱いことが特徴。





わたくしはこのイェルクヴェインの血筋なのだとルシウス様は仰っていた。他の吸血鬼は、イェルクヴェインを守護するだけの存在なんだと。

ルシウス様は元は純血のイェルクヴェインである父様の付き人だった。父様の祖父が孕ませた他の吸血鬼の子供、その人が更に他の吸血鬼と子を成しているので、ルシウス様にはイェルクヴェインの血が1/4はいっている。
その為、父様の付き人として幼き頃から傍で世話を焼いていたが、いつしか敬う気持ちが恋心へと変わり、そして醜い嫉妬と独占欲へと変貌したのだろうと思う。



わたくしはきっとこの先も、ルシウス様の性のはけ口となり、ケイティ様のストレス発散の道具になって、同僚に虐められながら、そのうちに死ぬんだと思っていた。





『やめて、いやだ!いやだ!!』
『黙ってろ!お前がルシウス様にケツ穴捧げてんのも知ってんだぜ。人間や虫すら殺せねぇクソの血に、どんな価値があるってんだ?』

『所詮ただの夜枷でしょ?仕事出来ないくせにちやほやしてもらって、お尻まで許しちゃうんだからきっと変態なのよね?こーいうの好きよね?』

『やめて、いや、そこはまだ何もされてないの!お願いします、やめて!!!』

『うっそマジ?...ルシウス様ってちょっと...ふふ、やばいよね(笑)んまぁ、いいや。なんかお前むかつくからやられちゃって。』

『やめて...やめて......ッ!!!』




破瓜(はか)をしたのも、こんなくだらないことが理由だった。
ルシウス様に犯されはしても、これだけは、この先誰か愛する人が出来たらと守ってきていたのに、女とあれば、攻撃の矛先はこちらへ向かうのも自然なことだろう。

毎昼ムチで打たれ、毎夕輪姦され、深夜はルシウス様に犯される。そんな人生で、わたくしはこの命を終えるのだと、そう思っていた。

―――――しかし、わたくしがこの城に移り住んで、何度も外へ人間を狩りにいかされては誰ひとりとして狩ることが出来ずに帰ってきて、とうとう手を出してこなかった動力からも虐められ始めた時からx百年目、人間の世界が大きく発展し、ヒーローというものが登場し始めた時に運命は大きく歯車を動かした。






『ルシウス様が...倒された?』

『グスッ...そうよ、私も、やられそうになった...。ハゲのよくわかんない男、ダッサイ服来てた。ルシウスは..い、1発で...う、ううっ、うわああああん!』



その日の夜、大広間では城中の吸血鬼が集まり、暖炉の前でボロボロになったケイティ様を囲んでいた。現存している吸血鬼の中でも最強と歌われたルシウス様がたった1発でやられた?そんなまさか。

でも、ケイティ様は誰よりもルシウス様を慕っていたし、嘘をつくとも思えない。

既に何人かの吸血鬼はここにも来るのではないかと荷造りをして城を出る準備をしている。でも、城を出たところで裏切り者とみなされ門で待ち構えてるルシウス様のひとつ下の弟であるジル様に殺されてしまうのだけど。



『あの長男がやられるってことはつえー奴なんだろうな。

ま、それよか今は次の当主を決める時だろ。
○○、そこどけ。』

『アイザック様...。』



人混みが割れ、そこから現れたのはルシウス様の2番目の弟のアイザック様、髪を三つ編みにしている彼だ。体は小さいが頭が切れるし、わたくしとしては、まだあの兄弟の中ではいい人だと、思う。



『アイザック...!!!!自分の兄が死んだっていうのに、なんて薄情なやつなの?!』

『ハハッ、兄さんは自分の力に驕った結果だろ。だが確かに兄さんは強かった。そんな兄さんがやられちまう相手なんだ。ちょっとは今の俺達の体制も建て直すべきだろ。ジル兄さんはまぁ、ちっとアレだし、ここは俺でいいよな??』

『はぁ?!なんであんたみたいなクソチビに!!』
『殺すぞババア。』



一触即発の状態で、みんなが今から始まると思われた喧嘩から身を遠ざけ始めた時。アイザック様は気だるそうにこっちをぐるっと見て、これまた気だるそうにわたくしの名前を呼んだ。



『は、はい...?』

『お前、私物はどれほどある?人間の世界についてどれくらい知ってる?潜入して暮らせる程度か?』


『...私物は、ボストンバッグに入り切るくらいです、潜入して暮らすのは問題ありません...。で、でも、役に立てるかどうかは』
『無駄口はいらねぇ。そっか、じゃあ荷物まとめてもっかいここに来い。』



そう告げるとアイザック様はルシウス様の部屋へと向かい、その後ろを足を引きずりながらケイティ様がぎゃあぎゃあと騒ぎながら追い掛けている。わたくしは周りの吸血鬼たちからの刺すような視線から逃げるように自室へと戻った。

ひとつだけ持っていた大きめのボストンバッグ。それに、歯ブラシや少ない服や家族の写真をいれたロケットを詰め込む。ボストンバッグの3分の1しか埋められなかったが、私物は概ね詰め込んだ。わたくしのここでの暮らしなど、痕跡はたったこれっぽっちなのだ。

荷物を詰めて大広間へ戻ると、皆が恐々とした様子で暖炉の前を注視している。



『お、来たか。こっちにこい。お前に命令を下す。』

『...?は、はい...。』



人混みが割れ、眼前に広がったのは、血溜まりの中で顔を腫らし至るところから出血して倒れているケイティ様だった。やはりルシウス様の弟、ケイティ様もそれなりの実力者だったけど、勝てなかったのね。
アイザック様は暖炉の前に置かれているチェアに腰掛けて、組んだ足をぶらぶら揺らしている。



『俺は考えた。兄さんみたいな古臭い規律を捨てて、これからは時代に逆らわず生きてゆくべきだと。』

『......はぁ...。』

『そこで、俺達はまず世界を広げるべきと考えた。同胞を増やすべきなんだ。地底人でも悪魔でもよくわかんねぇ怪人でもいい。だが取引をするにしても俺達は弱い。正直、怪人と呼ばれる部類の中では弱小種族だ。だが幸いにも俺達は人間に似た姿をしている。人に紛れて生きていけるんだ。



『に、人間に紛れて?』
『いやだ、くさそうだわ。』
『高貴なわたくしたちが人間と同じ暮らしを?』



……俺達は、今までこの狭い城の中でさえも規律を乱し、上下関係を作り、強者が弱者を虐げてきた。

が、そーいうの俺キライだしそれがあるだけでいらない心配や不安、疑心が現れて、結果仲間の結束が脆くなる。


ってわけで、お前 クビな。』

『は......?』

『仕事出来ないからクビ。あとこの城も出てけ。みんなの士気が落ちるから。』







『え、あ、あの、あの、』

『聞こえなかった?じゃあ言い方変えてやるよ。お前が都合よくウジウジと弱虫でいるから、お前を虐げることによって間違った自信を芽生えさせて色んなもんを疎かにするヴァカが増えるからお前は目障り。

だからこっから消えろ。』



アイザック様はわたくしを毎日輪姦し、それを傍から見て笑っていた若い吸血鬼達をじろりと睨むと近くに居たジル様に言伝をして周りの吸血鬼を近くに集めだした。
ジル様はアイザック様に頷くと、わたくしの方へと近づいてきて、わたくしの体を俵のように抱えあげた。



『ひっ!!!あ、じる、様!あの、』

『アイザックは優しい。俺はアイザックしか信じない。だから、アイザックがお前を城から出せと言うなら従う。』

『......わたくしの、ため、に?』

『わからん。だが、アイザックは知っていた。全て。ここからはひとりで生きろ。戻ってくるな。』



ジル様は門を越えて城の正門まで来るとわたくしを降ろし、背を向け歩き出した。



『あの、アイザック様に、お礼を...!!!』

『すまなかったと、アイザックは言っていた。あの時、村人の家畜を殺したのはルシウスから命令を受けた、イアンによく似た背丈の吸血鬼だ。ルシウスは手に入らないならと、お前達を殺してしまおうと。

だがお前は幼いイヴァンによく似ていた、だから殺さなかった。』


『……全部、仕組まれて、た?』

『……ルシウスには俺達も勝てなかった、だがもうあいつはいない。これからはお前は自由だ。



すまなかった。』



『.........!!!!』





ジル様はそう呟いて、その熊のような巨体を揺らしながら城へと消えていった。

アイザック様は、わたくしを助けてくれたのだろうか。すまなかったとは、何に対してなのだろうか?騙したこと?見て見ぬ振りをしていたこと?それを聞こうにも、正門は固く閉ざされ、もう戻ることは許されなかった。

それから、ロンドンを出て商船に潜り込み、いろんな国を通った。時には色仕掛けで国の上層部の人間へ近づき、眠ったところに吸血行為をして(やっぱり不味かった)虜にし、国境を越えたり戸籍を入手したりして過ごし、いつしか日本へとたどり着いていた。

そろそろ腰を落ち着けたいと思い、知り合った(虜にした)人間に職を紹介してもらった。それが今の仕事である。






以来、ずっと平和な暮らしを噛み締めて生きている。

今はサイタマさんの隣人にもなれたし、日本は何より平和だし、もうあんな日々には戻らずに済むのだと思うと今でも涙が出そうだ。
アイザック様はあれからどうなったのか、ほんとうにやられてしまったのか。もし、わたくしのようにまだ生きて暮らしているのなら、心からのお礼を伝えたい。あの方のお陰で、わたくしは悪夢から解き放たれたのだから。




「ねー○○ちゃん、今日アタシの担当のバースデーなんだけど、一緒にきてくれない〜?」

「わたくし、ホストはちょっと苦手で...。」


「お願いっ!前にウチのハロウィンの写メ見せたら、○○ちゃんが妹に似てるから連れてきてって言われて、その代わりに今日は最初から席ついてくれるの!!!お願いお願いーーー!!!」




キャバの同僚の女性が目の前で両手を合わせてキラキラした目でこちらを見つめている。
ホストかぁ...騒がしいし、ああいう男性には特に魅力を感じませんから、つまらないし行きたくないんですのよね...。

でも、この方も同僚ですし、ハロウィンの際には衣装も貸してくださいましたから...。



「(勝手な約束を...でも仕方ありませんわね。)わかりました、でもわたくしは最後までは居ませんよ?眠いですもの。」

「きゃーん!ありがとおー!!」

























「で、お元気でしたのね、アイザック様。」

「まぁな。俺ぜってーまだ死にたくねぇし、話せばわかりそうな男だったのに、あそこが全滅したのもケイティがルシウスの仇ィ!っつって攻撃仕掛けて、見た目で舐めてかかったやつらが1発でやられただけだから。」



同僚がハマっていたホストを見た時は驚いた。が、アイザック様はわたくしを知っていたようでトイレに席を立った時に引き止められた。
アイザック様はジル様を連れて破壊される城を尻目に逃げていたそうで。アイザック様はホストへ、ジル様は巨体を活かしてシークレットサービスをしているそう。都市にあるカネモチーノヒルズに兄弟2人で住んでいるのだという。



「...まぁ、何はともあれ、あの時はありがとうございました。わたくしは、貴方に救われたんですのよ。」

「......ま、あーなったのも、俺らのせいだしな。こっちこそ、悪かった。...と、あんま遅いと機嫌損ねるから、いくわ。」

「ええ、彼女ももう酔っ払っていらっしゃるし、わたくしもこのままお暇(おいとま)します。」

「また時間あればウチこいよ。ジルが会いたがってる。じゃーな。」



アイザック様はわたくしの頭をガシガシと撫でると、自分を待つ人のところへと戻っていった。
アイザック様は今の方が生き生きとしてらっしゃる。きっと、彼もあの欲と憎悪が渦巻く城に嫌気がさしていたのでしょうね。


わたくしはマフラーを巻きなおすと、ドアマンへ会釈して寒空の下へと出た。


帰ったら、あのボストンバッグの底にあるロケットを開こう。そしてそこの片側に、再開した兄2人の写真が入れられるように調整をしようと誓ったのだった。



長くなったけど、これがわたくしの今までの半生で御座います。