週末のおでかけに向けて新しく服でも買おうかと学校終わりにショッピングモールで買い物を終えたところで、すっかり日も落ち遅めの時間になってしまった。お腹も減ってきたので遅めの夜ご飯でも食べようとちょっと寄り道して再びポアロへとやって来た。

カランコロンー
「いらっしゃいませ!お好きなお席どうぞ!」
店に入ると梓さんが元気に迎えてくれる。夕飯にはちょっと遅めの時間だからか店内は割と空いていた。一人だしと奥のカウンター席に腰掛けて何を食べようかとメニューを眺める。お冷を運んできてくれた梓さんにオムライスとカフェラテを注文する。店内には客が数人と梓さんのみで、静かな店内にゆったりとBGMが響きとても心地よい。どうやら今日は安室さんはいないみたい。残念な反面ちょっとほっとする。勿論かっこいいし推しとして好きなんだけど、実際近くにいるとどうしたらいいかわからないし普通に心臓に悪い。今の私は見れたら見れたで嬉しいけどいなかったらそれはそれで、という心境だ。というわけなので今日の目的の買い物はできたし十分。あとはゆっくりご飯食べて帰ろう。

「おまたせしました。オムライスとカフェラテです。」
「わ、美味しそう!ありがとうございます」
卵ふわふわでめっちゃおいしそう!さっそく食べようとして梓さんがまだ横でこちらをじっと見ていることに気づく。
「あの…?」
「えっと、違ったらすいません、先週コナンくんたちと来てくれた方ですよね?」
「…はい!すごい1回だけなのによく覚えてますね。あ、子供たちが知らない人といたから気になったとかですか?」
「やっぱり!いえそれもあるんですけど、安室さんが話しかけてしかも名刺まで渡してるの珍しかったので気になってつい話しかけちゃいました。すいません。」
「そうでしたか。全然大丈夫ですよ。でも安室さんも子供たちが心配で気になっただけだと思いますよ。」
キラキラした目でこちらを見る彼女にそんなんじゃないとやんわりと否定を入れつつ返す。梓さんそういう話好きそうだもんなあ。
「今日はいらっしゃらないみたいなので今度本人に聞いてみてください」
「ちょっと聞いてみたんですけど軽く流されちゃって。それと今日は…ってすいません話しすぎました!料理冷めちゃいますよね!召し上がってください!」
「いえ!じゃあいただきますね。」
何か言いかけてたけどまあいっか。せっかくの美味しい料理が冷めちゃう前に食べよう。

しばらくして、オムライスもおいしいな〜どの料理もおいしそうだからせっかくなら制覇したいな〜、なんて考えながら食べていると入り口のドアベルが鳴って誰かが入ってくる。入り口は死角で見えず、内容は聞き取れないが梓さんが会話している様子だったので業者の人とかかな、なんて思いつつオムライスを食べ終えカフェラテを飲み一息つき、せっかくだしデザートも頼もうかな、なんてメニューを眺める。注文しようと梓さんがいるだろうカウンターの方を見て、固まった。え、なんで安室さんがいるの??

手を上げかけた状態で固まっているとこちらに気づいた安室さんと目が合う。
「こんばんは、ご注文ですか?」
「あ、はい、このチーズケーキを一つお願いします…」
「はい、かしこまりました」

にこりと微笑んで準備を始めた横顔を見つめる。びっくりした…。もしかしてさっき入ってきたのって安室さんだったのか。全然気づかなかった。会うのは2回目だけどイケメンがすごい、心臓に悪い。ずっと見てると気づかれてしまいそうなので気をそらそうと適当にスマホで週末に行く遊園地のことでも調べてみる。
結構大きめのとこみたい。ジェットコースターとか観覧車とか色々ありそう。うわ、お化け屋敷とかもある。高いのは好きだけどお化け屋敷とか入ったことないな…まあみんなが行きたいところについていけばいいよね、出会って日の浅い人たちと行くのはちょっと緊張するけどみんな良い人たちだしきっと大丈夫。
「おまたせしました。こちらチーズケーキとホットコーヒーです。」
「え、あのコーヒーは頼んでな…」
注文と違う品に横にいる安室さんを見上げてそう言うと安室さんが人差し指を口に当てるような仕草で営業スマイルをする。
「名前さんですよね?また来てくれて嬉しかったのでサービスです。この前飲んでらしたのでお好きなのかと思ったのですがご迷惑でした?」
「いえ、そんな!コーヒー好きなので嬉しいです。じゃあ、有難く頂きますね。」
「良かった。ではごゆっくり。」

デザートも食べ終えゆっくりコーヒーを味わっているといつの間にか店内が私だけになって、静かな店内に安室さんが作業する音だけが響く。結構ゆっくりしちゃったな、と思ったところではたと気づく。あれ今何時?全然時間気にしてなかったけど、お店時間何時までだっけ?というか終電!!バタバタと急いでスマホで時間を確認すると22時を少し回ったところだった。よかった、帰りの電車はまだ大丈夫そう。帰ろうと出口に向かうと扉にかかっている看板に営業中と書いてある。あれ?営業中がこっち向いてるってことは…?
「もしかして閉店時間過ぎてます…?」
おそるおそるレジに立っている安室さんに訊ねる。
「いえ大丈夫ですよ。…少しだけですので」
「!!やっぱりすぎてるじゃないですか!すいません全然気づかなくて!というか声かけて下さいよ!」
「はは。すいません、リラックスされてるようでしたので邪魔したくなくて。それに僕も明日の準備とかしてたので気にしないでください。」
「本当にすいません、ありがとうございます…」
ただでさえ忙しい降谷さんの時間を奪ってしまった申し訳無さに凹みつつお会計を済ます。
「ところでなんですけど、おうちここら辺ですか?結構遅くなっちゃいましたが時間大丈夫ですかね?」
「あ!」
そうだった、申し訳無さで完全に忘れてた。時間を確認すると結構ギリギリになっていた。
「急げばまだ大丈夫だと思います!色々とすいません。」
ごちそうさまでした、と急いで店を出ようとしたところで「ちょっと待って」と呼び止められる。
「もう遅い時間ですし急いで何かあったら大変ですしよければ僕車あるんで送っていきますよ。」
「いやそれは流石に悪いです!!」
彼の突然の申し出に申し訳ないと一旦断るもギリギリの時刻に焦りが出てくる。どうしよう、一応歩けない距離ではないけど、この時間だと流石に止めといたほうがいいかな。最悪タクシー…。差し迫った状況にどうしようか迷うけど、状況と断りづらさとそれから好奇心とで気持ちを決めて安室さんを見る。

「ほんとに、いいんですか?」
「はい。コーヒー勧めたの僕ですしね。遠慮しないでください。」
「じゃあお言葉に甘えて…お願いします」
「承知しました。では閉店作業して表に車回すので少し店の前で待っててもらっていいですか?」
「わかりました。お願いします。」
外に出ると夏の生暖かい風が頬を撫でる。見上げた空はどんよりと曇っててしばらくしたら雨が降り出しそうだ。そういえば夜から雨って言ってたかも。傘持ってきてないけどまあ大丈夫だろう。でも送ってもらえてラッキーだったかも。なんてことを考えながら待ってると画面越しに何度も見た彼の愛車、白のRX-7が目の前に止まり、車の中から声をかけられ助手席に乗り込む。
どうやら閉店作業もほぼ終わってて後は閉めるだけだったらしい。さっきは仕事があったと言ってたがやっぱり私が無駄に待たせていたんだろうなとまたちょっと凹んだ。

「すいません、お待たせしました。」
「いえ、こちらこそすいませんお願いします。」
「お家どの方向ですか?」
「杯戸駅の近くなのでそっちの方にお願いします」
「杯戸駅ですね、わかりました。」
では出発します、そう言って静かに車が発進する。暗闇に街灯が灯った静かな住宅街を車が進む。夢にまで見た、憧れの人の車の助手席に乗っているという事実に緊張してしまって落ち着かず窓の景色を眺める。無言のまましばらく外を眺めていた視線をそっと隣の彼に向ける。ハンドルを握り街灯に照らされる横顔に思わず見惚れる。車といい運転する姿といい似合いすぎている。ほんとに、これはかっこよすぎる。夢かそこだけ違う世界なんじゃないかと思うくらい、ずるい。なんて思いつつ気づかれる前にと視線を外に戻す。すると隣から聞こえた「ふっ」と軽く笑った声に再び彼を見ると一瞬目があった瞳に思わずドキッとしてしまう。
「そんなに緊張しないで大丈夫ですよ。取って食いはしないので。」
まあほぼ初対面の男にこんなこと言われても信じられないかもしれないですけど。
そう言って笑った彼にまた見惚れそうになる。
「いえそんな!安室さん良い人そうだしそんなこと思ってないです!緊張してたのはちょっと人見知りというか、人の車に二人きりで乗ることあんまりないので」
それだけです、と言うとそれなら良かったと彼はまた笑った。
「ところで、駅にはもうすぐつきそうですがお家どこらへんですか?近くです?」
「あ、ちょっと離れてますけど歩けるくらいなので駅で降ろしてもらえれば大丈夫です!」
「流石にこんな時間に女の子一人で歩かせる訳にはいきませんよ。家まで送ります。それに、こんな天気ですしね」
少しでも彼の時間を邪魔しないようにと断るが彼の推しの強さに負けそうになる。と同時にフロントガラスにぽつりと雨粒が落ちてきた始めた。
「重ね重ねすいませんが家までお願いしていいですか…?」
「もちろんです。さっきも言いましたが本当に遠慮しなくていいですからね。」
「ありがとうございます…」
次第に強くなっていく雨に断るのを諦める。その後は家までの道案内をして、当たり障りのない会話をしているうちに自宅のアパートに到着した。
「家ここです。本当に助かりました。ありがとうございました。」
そう言って車から降りようとしたとき、「名前さん」と、名前を呼ばれて右手を掴まれる。びっくりして振り向くと思ったより近くにあった彼の顔に心臓が跳ねる。
「余計なお世話かもしれませんが、今回は僕だからいいですけど、あまり親しくない男の人と二人きりになったり自宅教えたりしないほうがいいですよ。あと遅い時間に出歩くのも危ないです。」
誘ったの僕なので強く言えないですけど、そう言って少し悪戯っぽく笑った。
距離の近さに加えて少女漫画で出てくるんじゃないかというようなセリフに、そんなつもりないのに一気に触れている腕から顔まで熱くなる。
何とか「気をつけます…」と返事を絞り出すと安室さんは満足そうに頷いて離れていった。「じゃあまたお店来てくださいね。おやすみなさい。」そう言った彼の言葉にもう一度お礼を言って車を降りる。
私がアパートの入り口まで着いたのを確認すると彼はこちらに軽く手を振って車を発進させた。ザァー…と降りしきる雨音の中、遠ざかっていくエンジン音が聞こえなくなってもなお顔と腕の熱は残っていた。

一歩近づく


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