偶然過去の金字塔

彼らが協力をしようと
心がけてくれる事はとても有り難い話だった

でも、私はどうしたら良いのか分からない。

『あーあ、暇…暇で死ぬかもしれない』

ゴロゴロと天気の良い昼下がり
布団も干してやることも無くなって
手持ち無沙汰になっていた頃だ

修行をしようかと思ったのだが
医者からは余り激しい運動をするなと言われている
血を疼かせてはいけない話なのか
余りよくわかっていない自分の種族に
少し、違和感を感じた


『自分が人間だと思ってる、様な?』

姿は確かに普通の女性だ。
そりゃ私だって女でありちゃんとあるものはある
まぁサラシを付けて居たのもあり胸の肉はほぼ無かったに
等しかったのだが、最近普通の恰好をしても良いと言われて
部屋の中に居る時だけに留まって外行きの恰好をして生活をしていた

外出すりゃ私の姿の噂も立つだろうし
何より他人にこんな見っとも無い姿を見せたくなかった
…みっともない?何が?

『…真選組として、動きたいからなんだろうな。』

足枷になっているとは、思ってもいなかった
私個人として素を出すとすれば、それはもうきっと

『(用無しの子だと思われそうで怖いのか)』

昔の姿はイマイチ憶えていないのだが
感情を少しだけ意識すると…まぁ
普通の女の子の様な感覚や恐怖感を知る

土方さん達と会話している時も
身体は憶えているらしく、気軽に触られると
前世で何を体験したのか知らないが
かなり動揺したり驚いたりするので
最近は彼らにも気を遣わせてしまっているのであって

『…こりゃ駄目だよー、爺さん』

冷たくあしらおうとすれば胸が痛みだす
まるで「他人を優しく扱わねばならない」
と言いきかされている様で、気分は悪かった。

なのに、一日、二日と接していると
不思議と満更でもないと感じる様にもなって来たのは事実だ

ブラジャーを付けてワンピースを着て髪の毛を梳(と)かせば
少し身長の高い女の子の完成だ…けど

『なんでこんな格好しようとしてんだよ私ってやつは…../////』

慣れなのか知らないけどいや確かに可愛い子だったよ?
前世の話です。それは。今は?今の話だよ?
身長も高く可愛いには程遠いし、何より胸が無い。

『いや前も胸無かったけど…あれなんだろう、痛いや』

もう自分の身体を余り見たくも無い
冷や汗が流れて自分の状態がかなり変化しまくっているのに
正直頭が追い付いていなくて、これは夢なんじゃないかと

『ゆ、め?』

そうだ、夢だ。
土方さん達に出会った夢とでも思えばいい。
夢の人間なら別に本来の自分で居てもなんらおかしくない。

でもその夢のひとまでも嫌われたら?


『…何で嫌われたくない情が出るんだよ』

この感情を私は知っている。
でもこんな気持ちは持ち続けて良いとは言えない。
真選組の人間としても

羽黒未夜としても
名前は変わったが、それでも過去の話ではないか。
何故今になって叶わせよう、だ。

『(前(前世)で叶わなかったらそりゃ無謀な話じゃないか)』

とりあえず薄狼についての情報が欲しい事は確かだ
今は余り人に会いたくないが、情報の方が優先出来る。
目を瞑って眉が寄っているのを口で抑えながら部屋から足を出した


薄狼の事を知っている人間は医者位だが
文献がある話が前に出ていたのを忘れていた
まぁそのまま靴を履いて外に出て一人で医者の元に向かった私


勿論医者の方に出向くと軽く叱られました
どうやら術の効果が今半減されているらしい

『どういう事ですか?』

柏木「そのままじゃよ、闘えば分かるが…
お前さん前世でどんな性格をしていた?」

優しい。の一言だった。
私が感じた一瞬の感情は、彼女(前世の己)は優しいと思った。
それは血の浴びる場所で生き残れない人で

嗚呼、そうか。私は真選組の人間として居たいのか。


柏木「…迷いが出る今は人も殺めんじゃろう。
文献は伝説のも含めると結構あるんじゃが」

『読みます』

柏木「いや、古い字もあって解読しながらじゃないと」

『読ませてください』

何故か、燃えて来た。
羽黒の中の血が、疼いた。


それから柏木さんを説得して
何とか文献をコピーした物を屯所に送らせ
部屋の中は本や紙で軽く埋まりそうだった


山崎「こんな量読むんですか!?」

『煩い黙れ出てけ』

山崎「酷い」

ほんとだよ。何してんだ私は。
量が量だけの上に解読していかねばならない
文字を新しく自分字ではあるが紙に書き写す
と言っても最近出てた鉛筆を使ってだが

筆?筆はちょっと慣れない…
軽く書けるのが鉛筆等筆以外のものだった。
服装も元々洋服に近いし、どうやら私は
前世で外国の人間だったらしい…と思ったのだが
まぁその話は後日しよう。


『…一週間でやってみるか』

大きなため息を吐いた後気合を入れる為に声を出した
「よし」の一言で身体は軽くなり下にあった物から
机に置き一つ一つ書いていく

古文とも呼ばれる字で、余りにも読めそうにない物は
丸をして映し紙にも飛ばして置き資料を漁っていると
横から声がかかった


『んだよ!やんのかこらぁ!!』

土方「おう、なんだよこりゃ」

綺麗に血が引く音がした。
あらー綺麗ねー便所の音かしらー。
ってちげぇ…ちげぇよ

ギギギと音を立てて土方の方に顔を向ける
少し半ギレしている土方に私は少々動揺したが
大丈夫…と言い聞かせながら資料の方に目を向けた


『こ、これはその…』

土方「絶対安静の人間が何勝手に
外出て部屋に籠ってんだ?嗚呼?」

『私の!!…やりた、い、事…なので』


薄狼の伝説でも残っているだけで凄いのだ
自分が解明しないで何になる
何も出来ないまま部屋で眠っているだけは嫌だ

だから動いた
自分の足で手で頭で、動きたいと思えた。

こんな感情、私はこの世界で一度も味わった事がない
なのに心が憶えている。理解が追い付かなかった。

土方「そう、か…わりぃ。医者は?」

『許可してくれたけど…煮詰めない様になって』

土方「嗚呼、そうしろ。」

そういって彼は頭を撫でてそのまま私の部屋から出て行った
その後、私はブツブツと唱えながら作業に励んだ

+++

山崎「都佑さん山崎です。
入りますよー?失礼しまー…え?」

『ん?嗚呼、お茶入れてくれたの?
悪いけど外で飲ませてくれる?』

そう少し驚いた表情をした都佑であったのだが
実際驚いたのは山崎の方だった
あの大量にあった山がかなり整頓され
半分人が出入りしなさそうな場所に置かれ
大きな字で「微妙」「保留」「わけわかめ」なんて
意味の分からない字で積まれている物を分別していた

山崎「えーっと…あの量は一体どうしたんですか?」

『嗚呼、出来た物から処分してるの。
山崎君が来る前にとちょっと本気だしてみたら
案外スムーズに捗っちゃってさぁほら見てよコレ』

そういって出したのは部屋の外に近かった場所にあるごみ箱
その中は既に入り切らずに山から溢れだして収集が付かなくなっていた

山崎が最初に来た時間から速くも四時間は経過していたのだが
そのたった四時間で軽く本一冊分の量を仕上げたらしい。
200枚程ありそうな物をコピーとは言えど簡単に扱って良いのかと
山崎は思いながらも都佑の仕事の速さには驚いた。

それに気づいたのか都佑は此れ位序の口だよ。
なんて声を高く上げてお茶をすするものなので
山崎は少しどもった

山崎「えっ、アレで?」

『私元々興味がある物には集中出来るんだけどね
加えて昔本が好きだったのもあってそれがかけ合わさったから
此れ位のスピードで出来るってわけだよ』

山崎「いやいやいや!とんでもないスピードじゃないですか…」

『そう?意識さえすりゃ皆此れ位出来るよ』

そんな量ではない気がする。
そう思った山崎は軽く彼女の事を見直した
此れ位出来るのなら仕事もすれば良いのにと

山崎「それで?何かわかりましたか?」

『…分かった事君らに話すとお思いで?』

山崎「え?話ちゃ駄目なんですか?」

そう動揺した山崎に都佑は
心の中で大きく「無理だろ」と叫んだ


記述にあった事が恐ろしい内容で
柏木さんからお札を貰っているのだが
その札を部屋に張り付けている間は
私以外の人間が部屋の情報を得る事は出来ない様になっている

術が使えない私の為にと柏木さんが
知り合いの伝手を使いそんな物も用意してくれたのだ
頭下がらなくなってきたなぁと感じながらも
正直嬉しい誤算だったりする


一つ目に目が入った要件が「世界が滅びる種族」と書かれていた事だ


『(朝狼と夜狼、そして薄狼の関係性や
その他人間と神の関係とか術の合言葉とか
とんでもねぇ物が書かれているなんて言えねぇよなぁ)』

一番今解読していて怖いと感じたのは
小さな少女の夢から始まったという伝説の話だ
続きがまだありそうだった上に長いだろうと思った私は
別の術関係の方にも手を出そうとしていた時に山崎が入って来たのだ

急いで山崎を部屋の中に入らせない様にし、外で茶を飲み休憩に入った

山崎「医者にも話せない内容なんですか?」

『嗚呼ーどうだろ、出来れば話したくない内容ではあったなぁ』

胸糞悪い言葉も出てきて、正直腹が立っていたのもある。
嫌な話をわざわざ報告なんてしたくも無いだろう。
と言うか私が嫌だ。結果話したくない。

山崎「具体的な物とかも言えないんですか?」

『…少女が目の前で愛する人を失った伝説が残ってる
それを今解読してるんだけど』

山崎「は?何ですかそれ…」

私だって素っ頓狂な声が出たよ。
書いた後読んだらまぁとんでもない話だ


『自分の所為で殺されて絶望を抱いた後空が一面真っ黒に染まったらしい
髪色は夕焼けが終わった後薄暮の様な時間帯の色をして、目の色は赤く染まっていたらしい
其処から”薄狼”の名前が付けられたって言う一番古い文献には載っている』

少女との記述なので恐らく6歳から10歳位の子だろう
愛する人とは恐らくだが家族の人間にも言えそうな言い回しだった
少女の目の前で家族が庇った、それを目に焼き付けた

絶望を味わった少女が周りに大きな厄災を振りまいた話だ
それ以来薄狼を上の人間に立たせ怒り狂わせない様にしている事で
均衡を保っているとの話に少々頷ける事もあった

術を使える人間としての話でもあったし
これはあくまでも記述からの推測であるが
薄狼は幼少期の時代に大きな感情の”揺れ”を起こし
その”揺れの幅”が関係しているのでは無いだろうか。

簡単に言えば小さい頃に大きな
トラウマを感じた事を引き金になっているとの話だ
少女の感情やその他の詳しい話が浮上しないのが
ちょっと後味悪いのだけれども。

それに山崎は「そんな、むごい」と憐れんでいた


『少女はその後何をしたのかまだ分からないけど
薄狼が狂えば世界を崩壊する事も出来る事は確かだよ。
医者が言っていたのは多分この文献の様にならない為』

血を観て怒り絶望し狂ってしまえば確かに
術の幅は広がるだろうし威力もとんでもない事になりそうだ
現に私だって山崎を切りかかった奴を殺そうと意識が飛んだ事もある

戻った時にはかなり驚いた顔をされていたのも
私は鮮明に覚えてしまっていた
その現実がある以上、私は余り闘わない方が良いと言われる事も
文献を読んで理解して、ようやく意味が分かった。


『恐ろしい話はまだありそうだけど、それでも知らないとね』

山崎「なんで…何で其処までするんですか?
知らなくても良い話だってあるんじゃ」

『知らなかっただけで済まされるのは嫌なの』

それは自分だけでなく昔の私も感じた事だ
前世が何でも、この世界で産まれたからには
郷に従えと言ったことわざもある

この世界の事を知り自分の持つ物と
別の世界の事を加えて知れば良い自分が出来る気がした。
私の勘は当たっている事だろうし
それに

『狼族の実情を、私は知らない』

一番怖かったのは文献を知れば知る程
私の過去に全く記憶されていない事だった
確かに幼少期は孤独に過ごした事は憶えているのだが
それ以外殆ど憶えておらず、周りで言う
「記憶喪失」の部類に当てはまっていた

その現実を知りたくなかったのもあり
今迄人に当たる事が多かったのだが
今回自分の過去処か前世迄戻っていくことになった

このきっかけで自分が全部変わっていくのだろうかと
この現実が、良い物に変わるのではと
知らない事で何かを捨てそうな気がして
それはいけない。駄目だとどこかで思える様になっている

これは私の中ではかなりの進歩なのだ
人を思い遣る様なやり方は、私は出来ない
なのにやってのけて見せているのだ
なんだこれは。どんな状況なのだ。

頭はパニックでもあったが
だからこそ冷静になれた気がする


私が知らない私を知る


此れが今出来る解決策になると、私は感じ取った