冷たい夢が好き

薄狼の言葉が彼女の口から洩れた
その言葉に私の目は動揺で口も同時に開いたまま
呆然と立っていた


「お前は薄狼で尚且つ未成年者と聞いている
何故こんな場所に住み着いている?」

「何言ってんだ!都佑さんがそんな奴らな訳…ねぇ、よな?」

都佑

その声に私は酷く反応した
心臓が高鳴り後ずさりしてしまう
その足が心が何も変わらない状態に居る事にも
何故か震えが止まらない事も

全て、見透かされた気がして。


恐怖を感じた

言った方が楽になるのか?
彼らを騙していた事になるのか?
嗚呼誰か教えてください。

「薄狼は全宇宙から消される存在。
何故なら崩壊の一文字を背負っている人だからだ。」

私が楽しい時間を過ごせる様な事が出来るのなら
誰か私に教えてください。
何も考えないで笑えた、あの頃が戻るのなら

嗚呼、戻れない。

鉄が土方と同様妾(めかけ)の子なら
私は忌々しい忌子(いみこ)なのだから


もう、望まなくていい。
だってこんなにも

『…それが?私が薄狼の最後の後継者と言ったら?』

こんなにも悲しいのだから


「そ、んな…薄狼、って」

「里に帰って江戸に二度と来るな化け物」

私は守れないの?
こんなにも沢山見せた事も無い術が使えるのに?
何も出来ずに人を傷付けるだけなの?
私はこんなにも、無力だったの?


『なんで?』

声が幼くなってしまう。
嗚呼何で?どうして?私なの?
抑えたくても抑えきれない感情が
滲み溢れ出て来る

嗚呼、誰か私を止めて
いっその事息も止めて


『何で鉄君達を守らせてもくれないの?』

「都佑、さん…」

『傷付けるの?どうして皆痛い事するの?
私は違う私は嗚呼・・・そうか好きだったんだ。』

鉄君や土方さん、沖田さんや近藤さん
真選組の人間が、人が、江戸が
自分の周りに居た人達が

ぬくもりが、温かい光が
空の青さや、夜の冷えた風さえも
私は好きだ

私は

『私は、私が好きなんだ』

首に手をかけ片手で鞘から赤い刀を取り出し
そのまま

腹に突き刺した


その行動には敵である見廻組も目を開いて固まった



『嗚呼、好き好き好き、好きだ、大好き、”だった”、んだ。
あ、痛ぁ、い、なぁ、嗚呼、居たいのに、なあ。』

涙を流しながら痛みに耐える
このまま死んでしまえばいいと思う
近くに来たのは山崎君だった

私の腹から刀を除けて横にし楽にしてくれる
嗚呼、そんな事しなくていいのよ


山崎「何やってんですか!!こんな…え?ウソ」

『嗚呼ごめんね
私はもう、戻れないよ…”都佑ちゃん”』

山崎の胸に手を当てて軽く吹き飛ばす
隊士の方に向けたのでいい感じに傷もつかずに
自分の場所から距離を開けれただろう

私は優しくなんてない。温かいなんてない。
それならこの空いた胸は一体何?
誰か私を止められるのなら止めて欲しい。
どうせ誰も止められず、私だけしか止められないのに。

私だけが止められる
私だけが彼女を観る
その望みだけで良かった
こんな感情思い起こす事なかった


『好き好き、好きだった。
今も、好きなんだ…ごめんね』

君にならもう幾らでも身体も魂も捧げられる
だからごめんなさい。私なんかが愛してしまって。


私(己)が貴方(過去の己)を愛してしまった為に
私(今現在の己)が産まれてしまったのだから。


「副長!駄目です!幾ら打っても聞きません!!」

『当たり前じゃない薄狼は自己再生が高いのよ?』


そっと背後に入り
急所に力を少し加えながら気絶させる

なるべく血は見たくない。
殺したりしたくない。
この身体は私の物じゃないから。
この身体はあの子の物だから。



そうやって、私は私を、
私じゃない者にして息が出来るのだから


銃弾の入った方に刀を使い自身の身体を突き刺す
場所は見ないで撃たれていると、もう面倒になってきて
刀はそのまま地面に落とし消えると

手を胸の前で広げてから合わせ、少し内側にずらす
すると地面から鋭利な石が自分の身体を突き刺した
嗚呼、今が夜で良かったと思う。
血を流し過ぎて自分の吐き気がこれ以上上がらない事に
今の現状が良い事かは、全く考えられなかった


「ば、化け物だ!逃げー」

『真選組を殺そうとした人は逃がさないし殺さない』

その代わり悪夢を観てくればいい。
優しい悪夢、酷く優しい、私が見た悪夢。
100年もずっと、ずっと、望んだ悪夢を。

一瞬で良い、それで良いと思ったけど
やっぱり悪い事だと感じると制御が効き出す
そのせいかある程度人に向けて死なない程度で終わらせれる


手でおでこの髪の毛を触るだけで意識を飛ばし
バタバタと倒れていく隊士に副長と呼ばれた今井が
目を開いて驚いた顔をした

どうやらとんでもない事態を知ったらしい
別に隠しているつもりは最近無かったのだが
知られると厄介な事は確かだった

直ぐに正気に戻ったのか刀を振り出した今井に
都佑は虚ろな目のままで地面に手を当て
地面から鋭利な刀の様な細い牙を自身の前に創り出した


『君も鉄君や山崎君や近藤さんや沖田さんや…土方さんでさえも
あの子を観て笑ってくれる人は居ない。居ないの。
私だけ私だけが愛していれば良い。』

「っ!?(刃が立たない、此れが薄狼?何だこの胸の痛みは)」

『そうだよ!私は化け物だ!!
だからお前を愛する者は誰一人も居ない!!
分かっていた事実を述べられただけなのだから!!!』

赤く目が変わった後今井を風で吹き飛ばす
此れで終わったとは言えない様な状況だ


その時だった

彼女の前に一人の少女が現れていた
何処で迷い込んだのか、此処に居てはならない様な
真っ白なワンピースに身を包んだ子が居た

それには今井や山崎も同じ気持ちになった
「やめてくれ」
然し彼女は暴走中、少女さえも
傷付けるかもしれない事は確かだった


『嗚呼、綺麗だね…可愛らしい子、愛おしかった子
君は君のままで、もう、居られないの。ごめんね。』

目を閉じて涙を流す都佑
それに寄って行こうとする少女を今井が止める
手を取り行くなと、彼女は都佑はお前を殺しかねないと


「いいよ、ころして?」

今井は一瞬何を少女が言ったのか分からなかった
幼い少女が迷わずに口走った言葉がどうかウソであってほしい

都佑の表情が一気に歪む
涙を流し何かを耐える様な姿
いいや、何かに謝罪するような


『ごめんよ…ごめんね。』

「いいよ、いいの。
もう泣かないで?
だいじょうぶだよ!」

私は何時までも此処に居るから。

そう目を閉じた少女に都佑は刀を鞘から取ろうとする処を
山崎がしがみついて離れそうにない事に都佑は地面から
槍を創り足と手に小さなものを突き刺した

声が漏れ、同時に掴まれていた力が抜ける
放すと「やめろ!!」と声が聞こえる
嗚呼、止められるのなら止めて欲しい。

キラキラと見つめている少女
その顔が太陽の下で居られない事が
私は胸が焼けて止まりそうな程に痛みが走る

それでも私の心臓は止まらないのだ


『冷たい夢は、お好き?』

少女の胸にぽっかりと穴が開いた
目の色は都佑の様な虚ろの目になり
何も動かなくなった少女に今井は絶望する

何も罪のない少女を殺したのだ
その現実に今井は怒り都佑に怒鳴る
何故少女を殺したのかと。

それに都佑は寧ろ何故殺さないと言った
狂っている、返しの言葉が。
そう感じたのは後から来た土方や沖田達の耳にも入った



『愛する子を殺して何が悪いの?』

今井「あい、する?」

『あれ?君達、勘違いしてるんじゃないの?
その子は私の身内の子だよ?』

沖田「…何、してんでぃ」

『私の好きな様にして良い子なんだよ?』

身内だからと言って好きにして良いも悪いもないだろう
そう考えたのは沖田だけではなく
其処に耳を澄ませて聞いていた生きる人達もだった

然し彼女はまだ勘違いをしていると笑う
嬉しそうに、少女の身体を見つめて、微笑んだ


だってその子は

『私その者なのだから』


++++

一瞬彼女が何を言っているのか分からなかった
私その者とは彼女の分身と言う事なのだろうか?
それでも手も足もやけにリアルで、この世界に
生きている彼女の妹ではないかと思っていた今井は
頭の中で混乱が渦巻いていた

『その子はもう消えるよ?そのまま放置して良いよ。
でないと君ら全員死んじゃうんだけど?』

今井「仮にこの子がお前自身だとして、何故殺す!
何も罪も無い子を!何故!!」

『今井さん、何かを得る為には何かを捨てねばならない。
私は自分を殺して真選組や江戸の世界を守る方に向けた。
別に何にも問題無いよ?苦しくなんて、無いの。』

そう都佑は言って少女の方に指を鳴らした
するとゆっくりと消えていった少女は目を開いた

『だって何度でもその子は息を吹き返すのだから』

それはつまり都佑自身が
自分の心を殺して息をしていると同じ事だった
何時から自分を殺して力を得ているのかと
喉に出かかった土方の言葉は沖田が代弁するかの様に口を開いた

それに都佑は嬉しそうに笑って首を傾げた
時間なんて言ったら君たちは更に傷付くではないか。
そう困った様に言った後、都佑は刀を鞘に戻した

『薄狼の後継者である。それだけで
勝負はついたよね?今井副長さん?』

今井「…そうだな、私の負けだ」

「副長!!」

今井「相手は自分の心でさえも殺す薄狼だ…
今眠っている隊士でさえも悪夢にうなされ
人質を取られている」

そう、この時間の間都佑は何もしなかった訳では無かった
術を使い自分が見せたい夢をみせ
倒れている人に精神的なダメージを与えていた
これ以上使えば目を覚ました後使い物にならなくなるのは確かだ。

流石に使い物にならなくなるのは嫌なので寸止めにして放置している。
所詮夢の話なのだが、一歩間違えれば魂を抜き取れる。
首筋に刀を突き付けられているものと同じ状態だったのを
今井は察し、自ら刀をしまい込んだ。

すると都佑は軽くため息を吐いた後
手を左上で二回たたくと眠っていた隊士全員が目を覚ます
息が荒く目が血走っているのを観て、直ぐに対処を変えて
正解だったと今井は感じた


『見廻り組の皆さん、次真選組の人間を殺そうとするのなら
薄狼の力全てを使ってでも地獄を見せるつもりなので
其処ら辺理解して動いてくださ、い…ね』


そう都佑は言った後、地面に崩れる様に倒れたのを
瞬時に土方が後ろから抱きしめた
服は銃で撃たれ刀で斬られた後でボロボロになっている
のにも関わらず都佑の肌は綺麗な状態のままになっていた

それは自分に力を使った事、そして都佑が撃たれた
暴走用の銃弾の効果もあった
そんな都佑が暴走したのは土方達の事を想っての事で