過不足なく永遠

薄狼の悪い噂に都佑は少々自分の居場所に困っていた
屯所に帰宅し部屋で寝て目を覚ました後
山崎が部屋の隅で正座しながら眠っていた

『…薄狼は、悪い子じゃないのにな。』

伝説では幾つも悪い事は確かに起こっているのだが
余りにも理不尽な終わり方ばかりだった
薄狼が悪者扱いにされて人間が良い奴にさせられている様で
何故立ち向かわないのだろうと頭を回転させた

直ぐに答えが浮かび、その答えが本物ならば
薄狼の人間は本当に理不尽な人生を送って死んだのだろう。

胸が苦しくなって、顔が歪んでしまう

『自分が悪者になって他人が幸せになれるのなら
薄狼である誇りを持ったまま死ねれば本望…とか
思えばこんな噂も分からなくはないなぁ。』

死刑にしても死なない薄狼

真選組のイメージも悪くなる一方になってしまう
このまま荷物を纏めて記憶を全て消してから
今井さんが言った様に消えてしまえばいい

然しそんな事をすれば土方さんだけでなく
傍で寝ている山崎君達も黙っていないだろう
彼らの好きにさせるのであれば
私はこの場所にまだ居るだけだ。


それから土方さんが入院している事を知ったのは
山崎がそれから自分が目を覚ました事に気付き
事情を話してくれた後だった

銀さんが攘夷志士だった事も聞いたのだが
何故か銀さんらしいと感じたのは誰にも言えない。

目が覚めた時間はその夜から二日も経っていた
直ぐに医者が来て事情を説明してくれた


少女が現れて殺した事も
自分が何なのかも
全て話をしていた頃

医者が急に「そろそろじゃの」と言った


医者「いい加減腹をくくっておれよ
…審判が近づいている証拠じゃ」

山崎「審判?」

『し、…そう、でしょう、ね…分かりました。
いい加減に、しないと駄目でしょうね。』

嗚呼、審判が近づいていたのか
それなら自分の感情が揺れに揺れまくり
性格がコロッと変わったりしたのも頷ける

表情が曇り両腕で身体を抱きしめる

意味が分からない様な顔で近くに居た
近藤が声をかける

近藤「先生、審判って何ですか?」

医者「薄狼の成人期及び薄狼の長としての審判
まぁ簡単に言えば薄狼として生きれるか否かって事じゃよ」

薄狼は元々二つの種族を合わせた者
審判は前世か今世の時間
何方かで生を全う出来るか
その見極めの話である

一番薄狼として、きついであろう時間
それがすぐそこに来ている事を告げられた
都佑は顔を俯ける


『中途半端な気持ちなら直ぐに死ぬ
極端な話薄狼が一番楽に
死ねる唯一の方法ですよ

土方さんや沖田さん銀さんには
必ず言わないで下さいね』

医者「其処ら辺は後々知りそうじゃがのぉ…
まぁよーく考えておけよ?その情報も全て
お前さんの頭の中にあるじゃろうしのぉ。」

前世を持てば、この世界で生きていた自分は消え
本格的に自分の周りに居る全ての人間から自分の記憶が消える

今を持ってしまえば、前世の全てが無かった事になり
薄狼として生き、周りの記憶と薄狼の力を得る

何方かの二択
その何方も、私は望んで居ない。
死ぬ方向でしか、見つめていなかった。

それに近藤は何も言えなかった。
言いたくても、彼女の決める事だ
言った処で審判から逃れる事は出来ないそうで
その現実に、近藤は彼女に後何をして良いのかを考える事にした


+++

それから三日後、土方さんが退院した後の事だ
都佑の噂を知って直ぐに屯所に戻った

土方「んなっ、何でお前が此処に居るんだよ!」

銀時「仕事だよ仕事、お宅のおチビちゃんに呼ばれたんだよ」

土方「チビ…?岡本の事か」

部屋に戻る途中に彼女の部屋に向かっていた
銀時、神楽、新八の三人に出くわした土方
傷は大丈夫かと新八が心配するが
その心配には及ばねぇと先に銀時が言い放った

其処で口論になりそうになったのを
止めた人物が以外にも小さな少女だった
…少女?


『もぅ!二人共何してんですか!お手て繋いでいきますよー!』

土方「ちょっ!待てっ!」

身長が明らかに小さな女に何者かと土方は手を乱暴に外した
少し驚いた顔をしていた女は身長のある程度高い土方から
すれば女の子である神楽よりも低い場所に位置しているのを観る

黒い髪は何故か短く、髪の毛が結えるくらいの長さで
大きな目はぱっちりと開いていた

強いて言うのであれば神楽と沖田の姉である
ミツハを足して二で割った様な顔だ
髪の毛は外にはねている

きょとんとしていた顔がひまわりの様に咲き
笑顔になる
その姿はまるで、幼い少女の様だった



確実に知り合いではない。そう感じ取った土方は
銀時に「こいつは誰だ」と聞くと銀時は「あ、あー…」と
濁った声でそっぽを向いた

『む?土方さんでも流石に分からねぇよなぁー
チ○コちっちぇー人だもんな!』

土方「誰がちっちぇーだ!嗚呼?
ってか何で俺の名前知ってんだよ!」

『え?マジで分からないですか?…嗚呼でも
私こんな雰囲気周りに出した憶えないけどなぁ
まぁ前の姿だから更に分からなくなるのも頷ける事だ!』

そう解決した様な言い方に
とりあえず部屋に入れと言われて足で
片方の太もも裏をけられた土方

其処には沖田や鉄達も自由に座っていた
その部屋の人間が居ない事に土方は首を傾げる

土方「近藤さん、岡本は何処か知らねぇか?」

近藤「え?あ、いやーそのトシ、良く聞いてくれ。
実はな、その隣に居る小さな子、居るだろ?」

『ああん?なんなやーコラー、私そんな
小さな、ち、小さな…くないな。ちっちぇーな?』

真顔で神楽を観て頷いた少女
土方の斜め後ろに居た少女の方に
軽く新八が「口悪いですよ…」とツッコミを入れる


土方「嗚呼こいつか、近藤さんの知り合いなのか?」

沖田「そいつが都佑でさぁ」

土方「あ?あいつはもっと背高かっただろ、何、言って…」

『むぅ…どーせ私は身長低かったもーん!
今から説明するから!すわれやぃ!!』

少女の様な姿の子が土方の腕を掴み下に卸す
その力の強さと一瞬手が赤くなった事に
土方は目を開いて驚きを表した


左から沖田、近藤、鉄、山崎、新八、神楽、銀時、土方を
観れる、机の後ろに仁王立ちで立った少女
プリプリと怒っている様に見えるのだが
可愛らしい印象が強かった


『私の名前は岡本都佑、身長は148pで体重は38前後
羽黒未夜としての身体から今前世の”都佑”としての身体に
なり替わっている最中の件で集めさせて頂きました!!』

土方「…は、はぁああああああ!?」

小柄な、と言うよりかはかなりスレンダーに見える
その姿に銀時は「12?」と鼻をほじりながら聞くと
都佑はさらりと『22ですね』と10も違う
答えに銀時のほじっていた鼻から鼻血がドポドポと出た


まぁ汚い事はさておき、都佑の姿からして明らかに
幼児体系…処か神楽よりも身長が低い状況には神楽も驚いていた

『私前世では食が細くてねー
幼少期で食べなかったのと
親の遺伝もあって大分細いのよー。』

沖田「今回はその話だけじゃねぃんでしょう?」

そう目が変わった沖田に察しが良いなぁと
都佑は上から下を見下ろして笑う


『薄狼の事も結構知られているので
今日はちょっと一つのお話しでもしようかと』

土方「話?」

『おう、君らがなりたいなんて思わないだろうけど
念の為薄狼になる秘訣を教えておこうと思って』

銀時「おいおいおい、そんなの教えたら
俺達全員なれそうじゃねぇーかよ」

ところがどっこいよっこらしょーいち。
そうも上手くいかないのだよ。

『薄狼に成るにはまず”過不足無い永遠の夢”を得る事。
それはとてもじゃないけど普通の人間が持って
生きていける様な代物じゃない。』

新八「あのー…何故その様な大事な事を僕らに?」

『幾つかあるけど、一番の理由は
”成った時の対処法”を教えて置きたいと思って。
どうせ私が死んだら跡継ぎの後継者を探されそうだから
その時に除外できる様にね』

一番の理由は其処だけだ。
仮に私が殺害されて命を投げ飛ばしたとしよう
其処に居た人間で私の大事な人達にも値する者が
次の生贄になる可能性が非常に高い

真選組の人間は私の事を仲間だと言ってくれた
それなら私は彼らを守る術を教えてやろうではないか
万事屋の人だって時々世話になるし、私は
とても大事な人達だと認知してしまっているので
此処の場所に居ても問題ない人間としてくくっている


兎に角、薄狼が別の人間を巻き込む可能性の話を今している

まぁその条件が異常なので当てはまる様な事は無いだろうけども
念には念を入れよという言葉もある。
言って置いて損は無いだろう


『”過不足無い永遠の夢”それ即ち”二度と叶わない夢”
手を伸ばし届かない場所にある夢を何度でも想い出せ
その夢で心を創っている者が当てはまるんだけどー』

幾つか条件がある

・夢を持っている事
・過去を過去として考えられない事
・二度と叶わない事


『まぁその他、月の夜である事、
心が真っ白若しくは真っ黒になっている事
幾つか条件がある話です』

山崎「えらく条件ありますね…」

『でもこれ簡単な話さ、”叶わない夢を持ち続けられる人間”
であれば”誰でも薄狼になれる”って事なんですよ』

新八「あれ?でも薄狼って狼族の中でも
少数じゃなかったですよね?」

その通り。
薄狼は朝狼や夜狼よりも生存率や出産率共に桁違いに少ない
朝狼・夜狼・薄狼の順で10とするならば
5・4・1の割合になっている位だ


神楽「滅茶苦茶少ないネ、あれ?でも都佑は?」

『私がその1の割合に入っちゃってるのよねー
何でも100年に一度の奇跡なんて言われてるけど』

新八「何か凄い話になってないですか!?」

『ううん、奇跡=厄災っていうイメージになってるからね?
薄狼は代々厄災が起きる時に未然に防ぐ為に産まれて来る人間なの』

銀時「ん?それなら薄狼の噂は間違いって事じゃねぇのか?」

屯所内でも僅かに耳にする話だが
江戸中では「薄狼は悪い奴らだ」と言う事だ
確かに暴走すりゃ地面は腐敗し指や腕を横に振るだけで
指先から上の物は粉々に消えて無くなってしまう
途方もない威力を持つ種族でもある

然しそれはあくまでも”暴走した時だけ”なのだ


『皆が笑えられるのなら悪者にだって
なってやるのが薄狼のモットーでもあるから
根も葉もない噂が立つのはしゃぁない。』

近藤「それも放っておくって事か?」

それ以外に何がおありで?

『人間が言った言葉だ。何を受け止める必要がある?
まぁ受け止めて傷付いて涙を流す子が居るのであれば
私は別に世界を殺してもいいんだけれども』

山崎「さらっと怖い事言わないで下さいよ…」

案外本気だったりする。
だからこそ怖い事なんて言われるんだろうけど。
まぁしゃあない。

『薄狼は私だけになった。
今更里に帰って成人期を迎えるのは嫌だし
此処で成人期を迎える事にしようと思っている』

土方「成人期?成人とかじゃなくてか?」

『んー成人期に入れるもんなら入ってみろって確率なんだよね。
正直審判の時期に死ぬ事も考えている位だし…』

沖田「死ぬ?いやいや、大袈裟な話…ですよねぃ?」

余りの真剣な顔に片言になりかける沖田
審判の話を粗方すると、彼らの顔が一気に青ざめた
話をしないと言っていたな?

あれは嘘だ。


新八「いやいやいや!なら、都佑さんはもう、長く」

それに銀時が声をあげる
余り良い会話ではない事を察したのだろう
新八が都佑に謝った

都佑は特に何も感じなく、「別にいいよ」と笑って答えた


『唯一何も苦も無く死ねる時が来てる。
私で終わればこんな苦しみも無くなるのかなぁー
っても感じてるんだけど…なんだかなぁ』

嫌だ。って思えるような感覚が芽生えているのだ
まだ、生きたい。彼らの姿を観て居たい。
後ろからでも、隣や前に居なくても、何処でもいいから

この江戸に居たいと思える。

『だから、私は死なない。
けど前世は好きだし今世も忘れたくない。』

土方「片方しか選べねぇんだろ?」

『いや?無くはない。』

二択は三択になり、全く違う四択目を選択したい
それは幾ら何でもあんまりじゃないかと思う事


『此間大量の資料を清書したんだけどさぁー
其処に一つ方法が載ってたのよ』

前世と今世の混合方法
それは前世の記憶も今世の記憶も持ち続け
永久を得る方法であり、その試練は過酷に限る。
ただでさえ人数が居ない薄狼なのにも関わらず
その方法を使うのは余りにも無謀。

死ぬに等しい選択でもある。


『互いの感情を認め合う事、そうすりゃ
今迄以上の力は手に入り
下手すりゃ神楽ちゃん以上の存在になりかねない』

神楽「夜兎よりもアルカ?」

『記述によれば空高い術から海よりも深き術があるってさ
多分海も空も自由に扱えるようになるって事だろうて』

新八「何でもありになるって事ですか?
でもそれって凄いじゃないですか!」

『んー?そうかな?』

私は寧ろ何も力も無い人間の方がまだ良いと思う。
何も出来ずに無力であった人間の時間が
今も心の奥で笑いあって生きている位

私は前世(人で在った頃)の自分が好きなのだ


『薄狼は悪い奴らでは無い事は確か
でもね良い噂に変えなくて良いって言いたかったの』

新八「え?何で、ですか…」

『人は自分の出来る範囲以上を恐怖と置き換えて息が出来る
その恐怖対象が私達(薄狼)だっただけに過ぎないし』

こんな感情を持ち続ける事が出来る事だけでも
私は化け物と異常だと感じてしまう位なのだから

『君らには知って欲しかった…知られて、驚いて
そのまま私を軽蔑してしまえばいいと思った。』

神楽「都佑…」

『そうすりゃ首を絞めて笑えられたのになぁ
昔の様に、笑えられた筈なのになぁ』

人の言葉は刃物である
自分の身体が例え幾らでも替えが効こうとも
心は傷付き痛みを発していく

『居場所なんて無い、誰も私を観なくて良い。
唯私だけが知っていれば良い、だからどうか笑って。
その場所だけで、私だけを観て居れば良い。』

この感情は狂っている
それだけは彼らも知っている事だろう
黒いなんてもんじゃない
色なんて分からないドロドロしたものだ

でも水に溶ければ手に触れず流れていく
嗚呼、どうかこの感情が亡くなれば良い
無くなった後、私はどんな感情を持っているのだろうか

そんな現実が、来た時に私はどうするのだろうか
知りたいと思えた。知りたいと思う。


『今の私が前世の一番苦しかった自分を観て居れば良い
あの子は眠って静かに微笑んで居れば良い。もうそれで良い。』

私はもう幸せだ。
だからどうかあの子も幸せにしてほしい。
そんな幸せなんて、二度と来ない事も
何も生まれない、馬鹿げた事になっている事も

私は知っていて、望んで居る


銀時「…それで良い様には全く見えねぇけどな」

『勿論良い訳ないじゃないですかーやだー』

新八「全く違う意見出てますけど!?」


叶わない望みを持ち続けてしまう
これが薄狼である
この望みが尽きる時こそ
我ら(薄狼)が死ぬ時にもなろう

書物にもそう書かれていた
まぁ気持ちは分からなくも無い


土方「つまり、アレか?お前ら薄狼は
他人にグダグダ言われて過去に縋らねぇと
生きれねぇって事か」

山崎「副長!幾ら何でもそんな言い方!!」

そうだよ。
彼の言う通りだ。
私たちはそうやって息をしている
誰かの言葉に後ろを振り向いて
笑って笑って笑って

泣いている

私は彼女を涙を流させる事しか出来ない
だって私がそう望んでしまったのだから
だって彼女もそう望んだのだから

『逆に言えば此れが弱点なんだよ?
私って何でこうも他人にべらべら喋るんだろう!
何故かって?それが私だからだよ!』


私は彼女を愛している
彼女も私を愛している
それで良くないけれど
それで良い様にするの


そうすれば、二人はきっと笑ってくれるから。
結局は自分の一番成りたい場所に想いを馳せる
変われる訳がない
だって
変わる事を諦めた人間なのだから


そんな私でも土方さん達に出会って
何故か変わろうと思う気持ちが芽生えて来た
このままでは駄目だ、でもこのままで居たい

どうか永久に、以上も以下も無い場所に
ふわふわと浮かんで眠って何も考えないで
その場所で息をするだけで良かった。


『薄狼は臆病者だよ、君らが嫌いとしている種族だ。』

全てを崩壊させる事の出来る種族
このまま土方さん達が捕まえてもなんら問題ない事案である
彼らになら、私の命を捧げても、良いなんて
言えばきっと、殴ってくれるのだろうけど。

私は大きなため息を吐いて彼らの目を流しながら見た
綺麗な魂を持つ、目をしている。
見廻組が言っていた言葉をふと思い出した山崎に
都佑は興味を持った顔で向く


”薄狼は長期に渡って特定の場所に居ない”

それは書物にも書かれていた事だ


『基本短くて3か月、長くて1年位しか留まらないってさ』

沖田「ん?確か俺らって1年以上の付き合いですよねぃ?」

『薄狼が留まるのを嫌いとしているのは
審判の時に愛する人を殺す人間が他人にならない為とされている』

土方「…は?」

審判の内容はこうだ

始めに自分の身体が前世の身体と同じ様になる
其処から1週間の間何処かで幻が現れる
それは自分が一番愛して止まない人

その人間が薄暮の時間に目の前に立ってくる
するとその時間から朝方迄ほぼ闘いっぱなしだ
精神力、集中力、決断力と色々な物を質問してくる

幻は触れる事も出来る上に自身の感情が変われば
直ぐに別の人間に変化し、声だって変わる
愛している人を殺す迄、審判の時間は終わらない

何度でも何度でも、傷を付けても目の前に蘇ってくる
それは醒めない悪夢とも呼ばれている程に
残酷で悲しく辛い胸の痛みを抱えながらも
闘わなければ、生き残れない

神楽「何それ、そんなの、嫌アル」

人は普通、そんな反応だ
普通なら嫌で堪らなくなり自害するだろう
それは薄狼の身体となれば許されない

自分から殺す事も出来なければ
他人から殺される事も許されないのだ

なのに、そんな嫌な審判を前に
薄狼の人間に説明をすると皆同じ事を口に出す


『嗚呼やっと会えるんだって』

その声は土方達の耳に酷く優しく聞こえた
都佑は空の見える場所を観ながら
愛おしそうに、微笑んでいた

目が、顔が、心が、唯々其処には居ない
誰かの幸せを望んで居る様な、優しい物に

一体誰がこんな試練を彼女に与えるのだろうか?
幾ら何でも死んでも死にきれない身体に
精神ダメージをこれ以上に無い程受ける

嫌な筈なのにも関わらず、寧ろ受けいれ楽しみにする
その顔が、余りにも残酷な現実に見えた
土方は目を逸らした


『会えない人間に触れて喜怒哀楽を目に見えるんだよ?
夢でも幻でも誰かの夢でも無い。愛した人に会える』

それが例え、最後に殺さないとならない事であろうとも
薄狼は全員、術を知るとそう、笑うそうだ。
私がこうやって、嬉し過ぎて喜びを噛みしめている様に

其処には居ない、何処にも何処にもいる訳の無い
存在しては成らない人間に出会うのだから


新八「辛く、無いんですか?」

辛い?嗚呼、そりゃあ辛いよ。
だって愛する人を殺さねばならないのだから
だから私は”己を愛する”のだ

『誰も傷付ける事なく自分を愛せれば自分だけで終わる
自分が求め自分で決着つけて
はい、さようなら。』

だから私は”自分を愛する”のだ
全ては他人を傷付けない為


大好きなあの子の笑顔の為に


それは私の決意の表れでもある
私はこの身体が大好きだ
私は過去の自分も今も大好きだ
だから全部ひっくるめて、護りたい


『私は私が好きだから、君らの元で息が出来るの』

それは確実に好きに入れない境界線
土方さん達を好きになんて、成せない
だって私は、”殺して問題ない自分を愛している”のだから

現実は余りにも残酷だ
私の言葉に反応して殴ったのは
意外にも神楽だった

神楽「…うナヨ、何でそんな事、言うノヨ。
なら!都佑は?何も救われないじゃないヨ!!」

救われる?
嗚呼、私は救われたかったのか?
泥沼になった場所から手を取られて
そのまま引き上げられて抱きしめられたかった?

嗚呼、それが夢なら
私は望んだだろう

『神楽ちゃん、救われるなんて望んでいたら駄目だよ
人は望みを希う。届かない場所から手を伸ばして』

全てが救われたら神様なんて要らないじゃないか。
私みたいな、どうしようもない人が居るから
神様は息が出来るのだろ?

『君らが、私の幸せを望むのなら…そりゃあ、無理な話だよ?』

神楽「んな事無いヨ!初めから諦めんナヨ!!」

『じゃあ!どうすりゃあいいんだよ!!』

声が荒げ自分でも驚き自分の情に蓋が出来ない
嗚呼、これも審判前の行動なのですか?
嗚呼、これも全部、受け止めねばならないのですか?


『この痛みは?この苦しみは?何処にも行けない
行かない行けるわけが無い!何故かって?』

私の望んで居る人達は既に”亡くなった人間”なのだから

そりゃあ死んだ人間が目の前に現れたらうれしいだろう?
まぁそんなことで怒っている神楽ちゃんじゃないくらい
私だって分かるんだけれども


『死んで、はいさようなら。
で終われば私は此処で息すらしてないよ。
この感情を死んでも在るから、私は、救われない。』

救われては成らない人間なのだから。
私はクズで何も出来ない無力な馬鹿のついた人間だ。
だから救われなくて手をさし伸ばされなくて

愛されなくて丁度良い人間なのだ


なのに彼らは私を無条件に愛してくれる
彼らこそ、優しいにふさわしいのでは無いのか?
私は、救われたいんじゃあないの。

違うの

違うのよ


『(前世の自分が救われたいだけなんだ)』


嗚呼

何も違わないじゃないか




私は救われたいだけなのだ。



嬉しそうに笑った少女が
ふわりと浮かび昼間の風に消えた