「ね〜ぇ〜お願いだって〜!やってよ〜〜!!」
『い〜や〜で〜す〜!!!』
例え上からの命令だとしてもこれだけは譲れない。
と言うか貴方。上なら
私の努力分かって言ってますよね?
そうある日の昼下がり、またかと言いそうに
オリアス・オズワールは苦笑いを噛みしめながら
職員室の上がる声に顔を机の方に深く向け落とす。
現在、月に何度か訪れる
恒例の修羅場が始まりました。
えー実況解説は私、
占星術教師のオリアス・オズワールが
務めさせていただきます。
…と、言うのもですね
嫌だと先程から頑なに拒否をしている
彼女の名前は安名メル。
数年前から勤務をしている事務員の子で
髪の色は紺色で後ろに一つ結わえた
何処にでも居そうな女性悪魔である。
何故か決まりに決まって
ダリ先生に書類を手渡す際、
生徒のテスト前や教員の補充が必要な時に
「教師になってよ〜!」と催促されている。
最初は『はいはい』で
割と冷たくあしらっていたのだが
本性が現れて来たのか
意識しているのか知らないが
最近ぐっと堪えた後
『いやです』とそっぽを向いている。
多分ソレが原因になってると思うんだけど…
いやこれ伝えた方が良いよね?
いやでもあんまり巻き込まれたくはない
のではあるが…
…正直面白いから放置しているから
言わないんだけどね!!
にしてもどうして彼女が頑なに教師にならないで
事務員として働いているのか
割と気になる所ではある。
正直話すと言っても書類の不備がある時位で
『オリアス先生〜すいませんちょっとお時間あります?』
ああそうそうこんな感じに。
それではまたの機会を。
そう何処かの誰かに向けて脳内実況をしていた
オリアスの元に実況されていた張本人がやってきた。
パタパタと足音を立てて来る彼女は
少し焦り気味でほんの少しだけ息を切らしている。
先程から慌ただしい時間を過ごしているのは分かった。
オリアスは帽子を整えながら彼女の名前を呼んだ。
「はいはい、なぁに?
安名先生、俺に何の御用かな?」
『すいませんちょっと
来週の悪周期休みの件で
お聞きしたい事が。』
「…俺の?」
そうそうとコクコク頷く彼女が、
書類ついでに聞いて来て。
と、先程話していた
教師統括のダリ先生から言伝だそうだ。
…いや別にさ、こっち話しかけたら
いいじゃんと思っていたが
気付いたら彼の姿はなく、
どうやら次の授業に出かけたらしい。
「あー……いいよ。何?」
『えっと、ちょちょっと待って下さいね』
聞いておいてすいません
と、そう言いながら
彼女は束ねていた書類を何枚か上に重ね
『どれだっけ〜あれ?待って?』と言いつつ探す。
『ああありました!すいませんコレの件で
お聞きしたくて…その、あのですね…
何処からどう見ても判子無くて。』
「ああ…ほんとだ」
そう苦しそうに言う
彼女から手渡された用紙を見る
何時もは綺麗に押せているのだが
どうやらこの時見抜かっていたらしい。
ごめんね〜と言いながら受け取った書類に
判子を押して彼女に渡す。
するといいえとんでもないと首を横に振った。
あ、そうだ。丁度先程から
気になっていたことを聞いてみよう。
「君も相変わらず大変だね〜」
『えっ?何がですか??』
そう連絡用紙を見ながら隣の机に置き
こたえるメルに
オリアスは「いや、さっきの」と答える。
気付いたのかハッと言いながら顔を上げる
うん。別に気付くのは良いんだけどさ。
…とりあえず、その用紙に書いてる文字
ちょっと歪んだけど大丈夫?
『あぁ!いやほんっっと勘弁して欲しいんですよ
ダリ先生毎度のことで言うから身構えちゃったり
ああすいませんコレ愚痴ですねお忙しいのに』
「ええ?何々?愚痴なら聞くよ?」
丁度立て込んだ書類は終わって手も空いている。
授業も次の次で割と仕事が飛び込んでこなければ。だ。
オリアスは帽子をつつきながら
メルにニヤニヤと笑みを見せて聞く。
そっと隣の椅子を引いて彼女が座れるようにすると
いやいやと首を振る彼女。
……なんだか面白そうなので
此処は強気に出た方が良いだろう。
「さっきの愚痴でも良いから〜。
ほらほら早くしないと
ダリ先生帰って来ちゃうよ?」
『うぅ…実は、こういややっぱり』
…あれ、そんなに伝えづらいのか?
そう考えたオリアスは
やっぱり無理に引き止めるのは可哀想か。
と、思っていた矢先だった。
机に向かった身体を彼女の方に
くるりと向けることになる。
『じ、実は私…勉強まっっったく出来ないんです!!!』
「………ん?」
『なのにダリ先生教師やってみない?
って冗談でも言ってくるから
勉強できない教師が居てたまるもんですかって。』
「…え?待って?ちょっと待って君さ?
それだけで教師してないの???」
君、言うて結構、生徒と絡んでたりするよね?
そう言ったオリアスに
『ええ』とメルはこくり頷いた。
彼女は担当科目がないにも関わらず
割と悪魔の目を引くらしく
挨拶している間に女子生徒と仲良くなり
話している所を目にしたりする。
彼女曰く、素で対応したら割と近寄ってくるので
なるべく抑え気味に対応しているとのことだ。
いやまぁ、そっちも色々
聞きたい事があるが…
まぁ今は良い。
「勉強できないって言っても限度があるでしょ…」
『その限度が頭おかしいんですよ。
…なんなら今回の一年生のテスト
解いてみせましょうか?』
これでも勉強してるんですよ。
そう言ったメルにオリアスは
丁度今回の一年生のテストがあったので
そう言うならと修正前のテストを彼女に渡す。
時間多分10分もあれば出来る筈の
超簡単に仕上げてしまった没テストである。
正直捨てる予定で書いていた為
少し乱雑に記載していたので
読めなければ聞いて欲しい位だ。
直接書いても大丈夫なものだから
気にしないで良いよと言って
彼女を傍に居させることにしたが…
彼女もバビルスの職員だ。
「あっひょっとして今忙しい?」
事務とは言えど流石に数十分傍に居させるのには悪いと思う。
そう考えて伝えた言葉にメルは首をブンブンと横に振って
椅子を回して身体ごとオリアスの方に向けて会話を始める。
『えっ?あ、いえ…今日特に降って沸いて
出てこない限り忙しくないですよ?』
なら良いか。
そう息を吐きながらオリアスは
「分からかったり読めなかったら
いつでも聞いてね」
そう伝えて頷いた彼女の姿を後にし
自分の机に身体を向けた。
…そしてかれこれ30分経過、した。
途中経過としてというか
もう分かる悪魔は
秒で解ける筈の内容なのだが…
「…安名先生?大丈夫?」
そう聞くとびくりと身体を跳ねさせた後
くしゃりとテストを掴んで
だだだだ大丈夫ですと答える。
うん…。そうだね。
間違いなく大丈夫じゃないね。
「ほら貸して?みるから。」
そうオリアスが手を差し出すのに
彼女は首をブンブンと横に振りながら
オリアスの作った答案用紙を渡す。
『うう…絶対合ってる筈、はずぅ』
そう泣き声で言うメルに
オリアスは流石に大丈夫でしょと
言ってくしゃくしゃになった答案を
いざ広げてみる…が
内容を…だ
上から下、下から上に何度も見て
身体から熱が消えていくのを感じる。
ああ〜……これはーー…うぅん。
……確かに、駄目かもしれない。
そう言ったのが心の声だけだったら良かったが
どうやら彼女にも聞こえていたらしい。
ですよね!!!と机を叩いたのにちょっと驚いた。
『あう…オリアス先生そのテスト
滅茶苦茶ハチャメチャに簡単ですよね?』
「えっ?分かったの??」
『勘ですけど、オリアス先生の仕草的に
これ位は大丈夫でしょう
って言いたそうな感じだったので。』
えっそこまで分かって
何で全部間違えるの????
そう半目で見るオリアスに
やめろそんな目で見るなとメルから言われ
ごめんごめんと笑ってみせた。
『…あっ!!!いやでも、ううん』
「ん?どうかした?思い出した?」
テストの答え。
そう言ったオリアスに
いやそっちじゃなくて
とメルが唸った後
やっぱやめときますねとメルは言った。
『此処まで酷いから私
ダリ先生から拒否ってるんですよ。』
「……一応勉強方法聞いても?」
『いいですよ』
そう言った彼女から勉強方法を一通り聞くが…
まぁ合っている。
彼女自身苦手も分かっているし
当てはまっているのだが…
「まぁ…うん、頑張って?」
と言わないといけない位には絶望的である。
全くそれ以上は丸暗記コースしかないのだが
彼女はその丸暗記が苦手らしい。
「まさか全部な訳ないでしょ?一つくらいは」
『空想生物学…位は満点ですけどね』
「ほらあるじゃん!
…あっもしかして?」
『そうです。
空想生物学したら?
とか言われるんですよ…』
「え?って言うか何で其処まで
頑なになってまでしてしないの?」
そう今まで思っていたことを聞いてみる。
この勢いなら
彼女は口を割ってくれると思っていた。
『それは…その、内緒、です?』
「何でそう疑問形なの…」
『いや〜何となくですよ。
それに割と今の環境居心地よくて好きなんです。
生徒さんも少しだけ
声かけてくれる子がいるだけのこの感じが。』
そう和む彼女に
何処か見た覚えが感じる。
あれ、なんだろう。
『それじゃ証明出来たって事で
私はお暇しますね。』
「えっ?ああ、うん。」
『へへ、オリアス先生からも
言っておいて下さいよ!』
そう言って帰って行った彼女とは別の方向から
「オリアス先生ー」と声を掛けられ
驚き、身体が少し上がる。
いやいや今日慌ただしいね。
「オリアス先生安名先生とイチャイチャして〜」
「イチャイっ!って、ちょ…あのさぁ〜
人聞きの悪い事言うね…ツムル先生。」
そう赤髪の彼、精神医学担当の
ムルムル・ツムル先生がこっちにやってきた。
ノートを持ちながら来たと言うことは
担当の生徒からの忘れ物を渡しに来たのか
それともついでに話にきたのか。
どちらでもありえそうなのでちょっと困るが
まぁ深く気にしなくてもいいだろう。
「安名先生の噂知らなかったんですか?」
「噂?」
あっそれマジで知らなさそうだなと言ったツムルに
オリアスは何々?と聞く。
「安名先生実は超完璧で
裏の仕事全部彼女に任せてるって。」
「…何その何処から沸いたか分かんない噂」
彼女の耳に入ったら間違いなく否定されるだろう。
それ程テストの内容をみたら分からなかった。
オリアスはくしゃくしゃになって
置いて行った答案を持ったまま
ツムルの話を聞く
「なんでも生徒がマルバス先生を
ありえない所から二度見たって」
「…え?何それ怖い。」
丁度その日は拷問学が東の校舎であったらしいのだが
西校舎でマルバス先生とメル先生が
歩いているのを目撃した生徒がいるらしく
その生徒と授業のあった者で言い合いしていたらしいのだ。
そこから派生が生まれ生まれて
メル先生と絡むと身体奪われるとか
変な噂もあるらしく…まぁ
流石にそっちはすぐに訂正させたらしい。
「にしても謎多き先生ですよ。
彼女仕事は出来るし魔術も
あのカルエゴ先生が
首を縦に振る位上手らしいですからね。」
「えっ!?カルエゴ卿が!?」
そう驚くのは見回りに帰ってきたイフリート先生だった
いやー寮でも割とワイワイするが
職員室でも賑やかになるな。
「らしいですよ。
なんでも無詠唱で高位魔術使えるとか
…まぁ噂ではですが。」
「へぇ〜!気になるなぁ。」
「生徒に親しくなれるし勉強出来なくても
其処までの技術あるなら実技すればいいのに…」
「それが首振ってくれないんだよね〜」
ダリ先生!そう言ったツムルに
ダリは「よっ」と言って声をかける。
何話してるの?
メル先生の噂話を、オリアス先生に教えてたんですと
ツムル先生がオリアスの方を向いて指を指して言うと
ダリが「ほぉ?」と片目を開けて聞く。
なんだ?何か気になることあったのか?
「僕も混ぜて混ぜて〜!」
「ダリ先生、メル先生嫌がってるのに
何で言い続けるんですか?」
「え?彼女嫌がってないよ。」
「え?」
「もし彼女が嫌がるなーら、そうだな
…まず距離が開いて頭かきむしるよ。」
「そう、なんですか?」
「うん!割とヤバい所まで
追い詰めちゃったときあったから!!」
それ大丈夫なんですか!?と言ったツムルに
いやぁあの時はマジ申し訳なかったよと
ケラケラ笑うダリ。
どうやらそれ以上は
彼女の様子を見ながら
からかっているようだ。
「にしても噂って何?また出たの?」
「また?結構あるんですか?」
「まぁね。」
「今回はマルバス先生を別の所で見たとか噂が」
「あぁ〜…なんだ何時ものか。」
「いつもの!?」
それ、今回マルバス先生だっただけで
俺の時や他の先生の時もあるんだよね。
そう言ったダリがオリアスの方を向いて答える
「あ、彼女実は超完璧で裏の仕事してるって噂も」
「あ〜…まぁ『ダーリーせぇーんせぇーー???』あっやっべ」
噂してたら本人来ちゃった!そう言うダリに
メルは噂の元凶貴方でしょと叱るメル。
それにツムルがハイハイと手を上げる。
「メル先生その話本当なんですか!?」
『うっ…いやぁそれは』
「はいはい、メルちゃん
嫌がってるから此処で終わり〜」
頭の後ろをぼりぼりかきながら目を逸らせるメル
えっ何で分かるの。そう言ったメルだったが
はぁいとみんながバラバラに分かれていくのに
不思議で頭の中が一杯になる。
「そうだメルちゃん
これ、バラム先生に届けて来てくれない?」
『分かりました。
じゃあ行ってきます。』
そう言って書類を手で触れるメルに
お願いねとウインクされて答えるダリに
にっこり笑顔で小走りながら職員室を出て行った。
++++++++++++++++++
『“幻想の箱庭”』
そう言ったメルの隣には
先程触れたダリが傍に現れる。
『全く、ダリ先生ったら
私の家系魔術知ってて
噂広めちゃってるでしょ…』
彼らには余り内緒にしているつもりはないのだが
実は私の家系魔術はもう絶滅したはずのものである。
幻想の箱庭
それは触れた者であれば長ければ長い程
同じような姿を生き写しの様に
姿を作り出すことが出来るものだ。
写生のように描かれた姿に
少しドキッとする。
実は私、幼い頃から一人で歩くのが怖くて
…こうやって練習も兼ねて家系魔術を
使用させてもらっている。
まぁその幼い頃の記憶も正直曖昧で
一番鮮明なのは今から5年前
バビルスの理事長であるサリバン様から
拾って貰った時からのことで。
満月の日とかたまーにではあるが
過去の記憶が戻ったり戻らなかったりする。
本当に不思議なんだが
…まぁ深く考えない方が良いだろう。
それにキャッキャするのも割と楽しいし。
ちなみに理事長からは許可を得ているし、
何ならばらしても良いんだよ?
って言われているが…まだ心の整理がつかない。
この事を知っているのは理事長だけで。
ダリ先生は薄っすら気付いているけど
私が言うのを待ってくれている感じがした。
『君も声が出たらいいんだけど
…長く居続けたら声出るのかな?』
いや試したいけど、流石に悪いわ。
そう思ったメルは
ため息を吐きながらとぼとぼと歩く。
薄暗くなっている校舎に
一人ではちょっと心細いのだ。
何時もはやってみたい
とは思いつつも、勇気が出せず
こうやって作り出した幻想で満足している。
ダリの手を取り手をブンブン振って歩くメル
『ふふっ!わ〜い!へへ!』
ダリ先生を作り出して嬉しそうに笑う。
…本当は彼が話しかけてくれるのは好きなのだ。
バビルスに初めて来た時、
彼が私の恐怖を拭い去ってくれて。
それ以来私の中でヒーローである。
だから正直もっと仲良くなってみたいとは思うが…
あんな風に絡んでいるとどうしても彼にバレると
後が怖い気がして。
『あ〜一度でも良いからこうやってさ?
お手手繋いで軽く歩いてみたいよねぇ〜』
まぁ無理だよな。私嫌がってるし。うん。
「うんうん。嫌も嫌よも好きの内ってね!!
仲良くしたいならそう言ってくれれば
いつだってしてあげるのに〜」
『いや〜でもお手手繋ぐ位まで仲良くなれる訳ないですし〜』
「いいよ?手繋いであげようか?」
『そうですよね〜手繋いでっ!?!?!?』
ん゙っ!?!?!!?!?!!?
…やっ♪
そう言ってメルの
歩いていた方向の後ろから声が聞こえ
ばっと後ろを見ると、
そこからダリ本人が歩いて来ていた。
『っななななななななななな!!!!!』
「へぇ?噂は本当だった…んだね?おっと」
『っ!!』
こらこら逃げない逃げない。
そう人差し指を
左右にメトロノームの様に動かし
ちっちっちと舌を鳴らして
ダリはメルの行く手を止める。
メルはど真ん中を歩けず
基本左の脇を歩いていた為
前に出て腕で行く手を阻めばいい。
『っなななんのことでしょう?』
「さっき出してたでしょ。僕のこと。」
『〜っ、出して、ないですよ
気のせいじゃないですか。』
「仲良くしたいって言ってくれてたのに?」
『…空耳ですよ』
「…手繋いでたのに?」
『…誰にも、まだ、言わないで下さいね?』
いいよ。そこ入ろうか。
そう言ったダリにメルはコクリと頷いた。