「ダリ先生」
そう呼ばれて職員室から「はーい」とダリが生徒の方に声を上げる
入っておいでと手招きしたダリにコソコソと生徒が二人入ってきた。
手にはダリが前に渡していた本が数冊あり…
「お?ひょっとして」
「はい!解読完了しました!!!」
「おお〜〜〜随分長かったね!」
お疲れ様〜!
そう言ってダリは何時ものように
ニコリと笑って生徒から書類を受け取る。
確か一月下旬頃だったから大体3か月位か。
メルと前に老人から受け取った6冊程
図書師団に渡して虫食いを直してもらっていた本を受け取る。
「いやとても古いものから新しいものまであったので
ちょっと一番古いのは手こずりまして…」
「あの虫食いも上手く直す先輩ですら1か月かけて
一冊作り直したので。」
「へぇ〜〜そんなに?」
ええそんなに。
「ごめんね、お詫びにうちの師団の子
今年の師団で何人か駆り出して良い様に
許可こっちが出しておくから♪」
流石に資金は渡せないけど
人手が多くて損はないだろう。
そう言ったダリにありがとうございますと
丁寧にお礼を言って席を外す生徒に
何だ何だとロビンやオリアスが寄って来た
「何ですかー?その本」
「やけに古いですね?」
「まぁね、ちょっと歴史書で
良い資料が手に入ったから。」
内容が凄い気になっちゃって♪
そう笑うダリがペラりと
一番古い書物を開くも
「うわっ…なにこれ」
「よめねぇ…」
「古文だからね。読めなくて当然さ」
そう言いながらダリは引き出しにあった
丸い眼鏡を取り出し装着する
古文や通常の文字よりも難解な時は
いつもこのメガネを付けて
本とにらめっこするのが楽しみの一つだ。
何処にあったかなーと言いながらダリは
引き出しから古文解読用の本を一冊手に取る。
部屋に戻ればもっと詳しい本はあるのだが
魔歴史担当としても職場に一冊位は置いてある。
これでもちゃーんと、お仕事するんだよ〜?
「ほらほら、仕事する仕事」
「はーい!」
そう言って野次を逃がし、
今日の授業は昼休みを飛び越えてからなので
このまま資料とにらめっこするためにも
ダリは席を外すべく図書師団から貰った本を片手に
メガネを懐に入れて職員室から出ることにしたのだった
+++++++++++
「…ふぅん?なるほどねぇ〜」
そうペラペラと捲って胡坐をかきつつ
独り言をつぶやくダリが居る場所は
バビルスの屋上である。
そよ風が吹いて心地よい
午前中の終わりは
昼寝に持ってこいである…
のだが、
今回はそうもいかない。
何せメルの、魔樹の記録が残った
唯一の手掛かりになっているのである。
「(古文の方はかなり貴重だな…成る程
元々悪魔が好きな想いが片想いとして実り
その感情が魔力を宿したとされるのか)」
最初の本から調べられた内容として
かなりざっくりではあるが
魔樹の話と少女の祈った話。
一人目は当時願った歳は10歳。最長で25歳。
二人目は当時願った歳は8歳。最長で15歳。
三人目は当時願った歳は13歳。最長で24歳。
四人目は当時願った歳は16歳。最長で19歳。
どれもこれも30歳に行かず生涯を閉じている。
「(おまけに全員の共通点がかなり多い。)」
まず女性であること。
次に親からの愛情を上手く受けきれていないこと。
そして
「悪魔のことに興味を持っていた、こと…か」
あと全員几帳面だったのか心配症だったのか
自分のことに関して事細かく書いてくれている。
その為考察もかなりしやすくて助かる。
全員髪色も姿かたちもメルとは全く似ていないことは分かった。
育ちも地域も違っている…が
「(全員“二ホン”って場所からの出生なのは間違いないと)」
その場所がメルの知っている場所ならビンゴだが…
…ただ
「全員…悪魔に裏切られているのか」
だから、悪周期“悪魔が邪魔をするな”と悪魔に対して攻撃してきたと。
皮肉なものだな…悪魔が好きで仕方がなかったのに
殺したくなる衝動は悪魔のことを毛嫌いしてしまったとは。
メルの身体が乗っ取られていた事も
何となくだが想像がついた。
「(やはり引き抜くことは可能か)」
そう、メルの身体にというか
魂自体に魔樹の根がくっついているだけなのだ。
完成されるとどうなるかは分からないが
全員翼が生えた後開花する前に不合格となって死亡しているらしい。
…翼から生えた樹木に咲く花
その花が生えた後
「(一か月以内に“試験”は始まる)」
そしてその内容は人それぞれ…だが
「(悪魔に触れれば触れる程…難易度は上がっていくと)」
今現状からメルをこのバビルスから遠ざけても
もう手遅れと言った所だろう…非常にまずいな。
こうなるならメルちゃんをそのまま放置して
大人になってから引き取ってくるべきだったか。
…いや、そんなこと昔の僕が出来たわけがない。
というかそれが出来ていたらこんな状態にもなっていないし。
今の状況が良いことか悪いことかは分からない。
ただ、メルちゃんと彼女達との違いは幾つかある
「(まず多くの悪魔に出会い、かつ良い環境を作れている)」
ダリを始めとして、エイトやツムルなど
男性職員だけでなく、メルに好意を持つのは
スージーやモモノキなどの女性職員
イルマ達生徒達も持っているのだ。
そんな多くの悪魔からも愛されている彼女は
今回のケースがどう動くか不明でしかない。
「(次に…開花した年齢が圧倒的に遅い)」
願った歳は恐らく魔樹に願い、覚醒してからの年齢だろう。
そう考えても彼女はどの魔樹達からでも遅すぎる。
だが…前世の年齢で願ったのが確か…
「10?9だったか…」
そう考えたら、まぁ分からなくはない。
いずれにせよ確かに彼女は
かなりのイレギュラーであることは間違いなかった。
全く…本当に手こずらせてくれるよ。
「…ああのお爺さんが言ってたのこの子か?」
そう4代目くらいの子の日記を見て内容をみる…も
どうやらあのお爺さんと恋仲だったらしい。
メルと似たような姿で、性格もドンピシャ。
もう生まれ変わりかと見間違える程の内容に
ダリに攻撃を仕掛けなかったのは
メルの姿が余りにも彼の好いていた者に
似ていたからだろう。
まぁ…深くは見ていないが、
一応欲しい情報はまぁ書いてあった。
ただ
「(全員が同じことを書いていたな)」
“どうして悪魔に生まれてこれなかったの?”
「(メル…君も、そう思ってるんじゃないの?)」
人間で良かった。人間が良いだなんて言ってさ?
本当は…僕と同じ悪魔に生まれたかったんでしょう?
強がって笑ってくれても…意味ないよ。
そんな笑顔で僕を笑わせるくらいなら
いっそのこと泣いて縋ってくれた方がずっと嬉しいよ。
でも…君はとっても頑張り屋さんだから
きっとそんなことはしてくれないんだろうけどね。
沢山我慢して沢山溜め込んだその感情は…
きっと甘美な実を実らせてくれるだろう。
その実を…魔樹は喰らおうとして待っている。
「(誰がその実を喰らわせるか)」
その獲物は、僕の物だ。
例え魔王の者だろうが何だろうが
それは僕の獲物で僕が支配している物だ。
誰一人も渡す訳にはいかない。
「…ひとまずはまぁこれ位で良いか。」
前にエイト先生から報告があったが
アスモデウス君の青い炎に惹かれてたのか
身体を炎に包むように動いていたらしくて。
老人からの情報に
青い彼岸花という話も聞いているし
恐らく青い炎は間違いなく必要になってくる。
…が、それを成功したことは一度もない。
なんなら
“青い彼岸花を咲かせ満月の夜、
満ち足りし聖水零れ落ちる時
彼の者に与えられし
大いなる力を引き継がん。”
「それが魔樹の呪いを解く唯一の方法…か」
可能性があるのは
アスモデウス君の青い炎を
満月の夜に咲かせること。
だが…
「満ちたりし聖水ってなんだ…?
ぱっと見この中には書かれていないし…」
隠語か或いはメルちゃんが
持っている中にヒントがあるか。
それで無かったとしても、
他の子達に協力を仰いだ方が良いかもしれない。
ちょーーーっと
…流石に、一人で動くのには、
時間が余りにも少ない。
チャリっと音を立ててダリは
服から懐中時計を取り出した
時間はまだある…ふむ。
「ひとまず〜っと!」
腰の付け根に重心を置いて
振り子のように身体を揺らした後
勢いを付けたまま
身体を起こして起き上がった。
「彼の所に行くか〜」
+++++++++++
「え?青い花ですか?」
「そ〜そ〜♪バラム先生の教え子である
アスモデウス君が此間使ったのを
エイト先生が褒めてるのを聞いてさ〜?
僕も見てみたいなぁって」
言うのが建前で。
「彼女に
引き剥がす強力な助っ人にと…ね?」
そう目を開けて言うダリに
バラムがぎょっとして固まった後
スッと目を細めてダリの方を向いて答える
「それは…彼女が望むものですか?」
「いーや…どうなるかが
予測不可能ではあるから。
…ただ、このまま行けばもう。」
一緒に居ることは、短いのは分かった。
「持っても今月いっぱいって所」
「っ!?なっ!!!
ソレは本当ですか!?!?」
「本当だよ。
魔樹の知り合いである老人に此間出会って
この文献を大分ざっくり読んだけど、
彼女の余命が予想以上に
早い可能性が高い事が分かった。」
「…詳しくお聞かせ願えますか?」
「いいよ」
+++++++++++
「成る程…確かに、可能性はありますね」
「でしょ」
「…わかりました。
ですがこの話は彼にもしっかり
お伝えした方が良いですし
その許可も彼女から」
「分かってる分かってる。
メルちゃんには話を付けて呼ぶし
アスモデウス君の用事が無ければ
今日にでもお話をと思っているよ。」
「ではもうすぐ授業も終わりますし、
昼休み休憩に少しだけ。」
「嗚呼そうだね。
出来るだけ時間は削った方が良い。」
そう言ったダリはよろしくと
バラムに言って席を外す
その入れ替わりで入間が中に入ってきた。
ダリはイルマと目を合わせるとニコリと笑い
手をひらひらと振って何処かに行くのに
イルマは珍しいですねと話をして
バラムの方を向いた
「バラム、先生?」
どうしたんですか?
顔が青いですが。
そう言ったイルマに
バラムは何でもないよと答えた。
メルの寿命がもう残り僅かであることに
今ゾッとして手が震えていたのだ。
「(…絶対に助けるよ)」
これで死なせたら…
本当に死んでも死にきれない。
彼にも顔合わせが出来ない程、
きっと後悔してしまうから。
+++++++++++
『昼休みですか?』
「うんうん♪バラム先生とアスモデウス君と一緒にご飯食べよ〜♪」
何だそのとんでもなく異質な
いや何がしたい。何が。
そう思いつつも
彼のお願いを無視するわけにもいかない。
なにせ生徒が絡んでいるのだ。
流石に嫌ですで彼が行って
私が居ないのは避けておきたい。
私は分かりましたと言って席を立つ。
今日のメニューを持って
バラムの居る準備室に向かうのだった。
コンコンと音を立てたダリに
どうぞーという声が奥から聞こえる
「失礼します」
そう言ってダリが扉を開けると
もうすでに中にはアスモデウスが
食堂から取ってきていた食べ物を並べて
バラムと隣に座って待ってくれていた
『すいません待たせてしまいましたか?』
「いいや、今アスモデウス君も来てくれた所だから」
『ほっ…なら良かった』
ごめんね。急に呼び出しちゃって。
そう笑うダリにいいえとアスモデウスは首を横に振った。
「こうお呼ばれするのは
何かしら私が力になれると思い至った迄です。
イルマ様もお認めになり
尊敬する悪魔としても
是非ともお力になりたいと思い、
こうして来たのですから。」
『…天使が居るよ?ねぇ天使』
「はいはい、違うからねぇ〜席に座ろうね〜」
そう笑いながらダリは
メルの肩に手を置いて席に座るのに
メルもつられて、アスモデウス君の前に座った。
「それで?話と言うのは」
「単刀直入に言うね。
メルちゃんが魔樹の最終試験に合格する前に
魔樹の呪いから引き剥がすつもり。」
「っ!?!?」
『っええ!?!?!?』
そう驚いたメルとアスモデウスに
ダリはコクリと頷いた
「メル、先日ご老人とお話したのは憶えているかな?」
『へ!?あ、ああ…
あの滅茶苦茶優しいお爺さんですよね?
緑の目の色をした凄い落ち着いた。』
「そうそう。その方が
この本を僕達に渡してくれたんだよ。」
「此方は…中を拝見しても?」
構わないよ。そう言うように
ダリはアスモデウスの目を見た後
本に目線を寄せて手のひらを見せる様に
前に出してコクリと縦に首を振った
アスモデウスはそれに、ペラペラと本をめくる…が
「っ!!こ、れは…古文ですか」
「読めないでしょ!」
「ええ…ですが前に知識として
受けたものから一通りは読めます。」
「おぉ…凄いね、君。」
古文でも種類は途方もなくあって
アスモデウスが勉強していた古文に
とても近しい内容だったようだ。
それで読めると言うのも凄いけど
普通にその近しいものを当てる
君の運もかなりのもんだと思うよ。僕はさぁ。
「老人から話をした内容として
“青い彼岸花を咲かせ満月の夜、
満ち足りし聖水零れ落ちる時
彼の者に与えられし
大いなる力を引き継がん。”
って話を聞いてね。」
それがメルちゃんの魔樹の呪いを解くカギになる。
そう聞いてるからと言ったのに
アスモデウスは安直すぎやしませんか?と首を傾げる。
確かに、見ず知らずの老人からそう素直に
聞いて生命を投げ捨てることになるのは少し馬鹿馬鹿しいと思う。
…だけどね。
「それが、この書類を見なかったら言えることだよ。」
「これは?」
「魔樹になった者達が書いた日記だよ。」
「っ!?!!?」
「そして…全員の共通点は、
30年も経たずに命を引き取っている事だ。」
『っ、え…う、そ…そんな』
「本当…何なら覚醒してから
“試験”に辿り着かずに死亡した者もいるし
“試験”に合格した人は今まで一人も居ない。」
加えて、皆が皆“悪魔になれれば良かった”という始末だ。
其処までは伝えて居なかったが
それでも彼にとって衝撃の事実になっているのは間違いなかった。
「メル、君はどうしたい」
『わ、たし?』
「もし魔樹の呪いから解き放たれたいと言うのなら
全力で僕や僕達バビルスの悪魔は君をフォローするよ。
…勿論、そのまま余生を過ごしたいなら話は別だけど。」
『私が…決めても、いいの?』
「そりゃそうでしょ。君の人生だよ?」
そう言ったバラムにメルはきょろきょろと
バラムやダリ、アスモデウスの顔を見た後
そっと顔を俯いてもじもじし始める。
『…もし、魔樹の呪いが解けちゃったら、迷惑、かけないかな?』
「君から離した時は勿論君に魔力は一切宿っていないだろうね」
『ゔっ…なら!!!』
「でも君に魔力がないからって
興味がないですって
投げ出すような悪魔は
誰一人としていないよ。」
居たら僕が粛清するわ。
そう言い切ったダリに
メルは身体を固まらせて動かなくなる。
『あっ!でも!!私その…』
「何?お荷物になるって??
君この学校に僕達に
どれだけ貢献してると思ってるの?
もうお荷物なの僕達じゃないかなって
最近思って不安がってる教師も
割と居る位なんだよ?」
なんならもうお荷物として
堂々として置いて欲しいよ。
「ほら他に魔樹の呪いから解き放たれた不安はない?」
『う!!でもでも…魔術使えなくなるのは嫌です…』
「…僕の魔力を分けてあげるくらい造作もないよ。
少しずつ溜めて行けば今まで使っている魔術よりかは
精度や威力は多少落ちるかもしれないけど
魔術だって使えるようになるよ。」
『でも…』
「それ以外に何があるの?」
『生徒さん手伝ってもらうのは』
「私達のことであれば何も問題ありません。
メル先生のような素晴らしいお方の力添えになるのであれば
このアスモデウス、本望であります。」
そっと手を胸に置いて軽く会釈するアスモデウスに
ダリは「ね?」とウインクしてメルを見て答える
「な〜んにも不安がることなんてないんだよ」
君の不安は、ぜ〜んぶ僕や皆が拭い去ってあげる。
この場所にこの僕の傍に居てくれるのなら。
そしたら全部全部、君の力にだってなるよ。
そう言ったダリにメルは首を横に振った
『でも!!!でも私は…私、は』
「…例えそうだとしても、僕は君の傍にずっと一緒にいるよ。」
それとも、僕の前からそんなに消えて心を奪っていきたいのかな?
そう言ったダリにメルは首を横にブンブンと勢いよく振る
『…そ、れなら……どうなるか、分からないけど。』
私も…もう、いいから。
そう言ったメルはすっとアスモデウスの方を向いて背筋を伸ばす
『きっと貴方に武術や知識を与えることは出来ないかもしれない。
とってもお荷物になって後悔するかもしれない…でも!』
もう、あの青い世界は
私に必要ないから。
『どうか…どうか出来るのなら、おねがい』
わたしをたすけて
そう消えるように小さな声で言ったメルは
ぎゅっと目を閉じて俯いて言う
それにこたえるかのように
何を仰いますかと言った声にメルはそっと目を開ける
そこには、嬉しそうに微笑んで胸に手を置いて
此方を見ているアスモデウスが居た。
「もちろん、是非とも私で良ければ
ご協力させていただきたいものです。」
『〜〜〜〜〜っ!!!!』
「よーーーし!!!!決まりだね!!」
それじゃ、今から言うこと。
憶えて行ってもらおうか!
そう笑ったダリにメルはアスモデウスと首を傾げた