はじまり
ぜんかいのあらすじ
エンドロールを枯らしたまま生きながらえたエフェメラル。
その世界は、一体どうなるのでしょうか。
本編とは少し違いますが、似たような言葉を少々留めました。
では、どうぞ、ご覧ください。瞬く間に、消え溶ける、ひと時を。
エフェメラル
『ねぇ、信じていたのに。返してよ、私の想いを。華を、約束を。』
『…そっか、これで、いいんだ。
嗚呼そっか、待ってるんだ、私。』
『いつか終わるその日まで。私は貴方を待ち続けましょう。』
『ね、忘れて良いんだよ?もう、大丈夫だから。』
『…初めまして、私の名前は、メリディエムと申します。
(だって貴方は、エフェメラル。なんて名前、知らないでしょう?)』
サワア
「また、僕のことを好きになってくれるでしょう?」
「どうか、ひと時の、夢幻を見させて下さい。
私とずっと、一緒に居てくれるのでしょう?」
「貴方の望む、その日まで。
僕はずっと、此処で待ち続けて差し上げましょう。」
「…私は貴方を忘れたりしませんよ。」
「初めまして、私の名はサワアと申します。
(エフェメラル?はて、一体何方のことでしょうか?)」
コルン
「いや其処迄聞いてないですし、見てもないです。」
「キレが格段と良くなりましたね。日々の修練の賜物でしょうか。」
「…私にあのような下品な言葉を口頭でこの場で言えと。」
「なんです、魔法のようになんでも叶うと貴方が仰られて居たではないですか。」
「…使わないということは、拒絶ということを意味するんですよ。…この馬鹿弟子が。」
ウイス
「説明をして頂ければ放して差し上げましょう。」
「気を練ることは愚か立つことも漸くの筈ですが…
一体こんな時間に何をこそこそ動いていらっしゃるので?」
「動かないで下さい。見苦しいですよ。」
「覚えている、訳では、ないのですね。」
「…貴方は、それが、この地に舞い降りた理由だ、とでもいうのですか。」
コニック
「貴方は笑っている方が、ずっと可愛らしいですから。」
「謝らなくていいのです。
貴方が沢山頑張ってくれたから、
私は貴方をお守りすることが
出来たというものですから。」
「お優しいのですね、貴方というお人は、本当に。」
「………貴方あれ程のことをしておいて未だに照れてどうするんですか。」
モヒイト
「…何ですか、その含みのある笑いは。」
「…いや本当に何してるんですか。」
「そうは思いませんがねぇ?」
「素直に受け止めてくれる貴方だからこそ。
何度教えても良いと言ってくれるのですから。」
クス
「私達、とても、仲良しなんです。」
「カンパーリさん。一種の夢遊病者に何を言っても無駄と言う者ですよ。」
「其処には居ませんよ」
カンパーリ
「何唐突に貶されねばならないのですか。」
「私としては非常に遺憾なんですがねえ。」
「…、このままいけば戻れないで後悔するのは貴方の方ですよ?」
「…ソレを進めたら、もう、二度と会えなくなることを。」
ヘレス
「…余りこう言いたくはないが、お前頑固じゃな。」
「それにしても喧嘩する程仲が良いとは言うもんじゃなあ?」
「…お、おう、た、確かにわらわはヘレスじゃが…」
「…メルのことをなんも分かっとらんから
そういうことが言えるんじゃ。」
大神官様
「あの方のお子ですから。」
「ただ、それだけの、関係性だけ、なのですから」
「言い切る迄好きになさって結構です」
「…ええ、勿論。貴方が私を、
見つけてくれたその日には。
私が貴方を褒めて差し上げましょう。」
「どうか、その日を楽しみに。」
全王様
「きっとまだ、寝惚けているんだね。」
「ふふ、そうそう、メルってお寝坊さんだから。」
「早く遊ぼう、ずっとずっと。」
華神達
「待って、親方空から天使の子が。」
「…あの地がエンドロールの向こう側なら。
此処はアンコールの幕開けと言った処でしょうね?」
「言ってるでしょう?ルールは絶対。
何が何でも、守らねばならないものだと。」
「貴方の導べに則って。ルールを教えて?その楽章を。」
「これはあんたの、間違いなく、あんたが作った、物語だ。」
「それは優しい狭間の時間。ひと時の、うたた寝した時間。
…なぁ、エフェメラル。演奏会、本当はお前と共に、
音を奏でたかったんだよ。あの日あの場所あの時だけでも。」
とある華神
「音を奏でよう、どうか、その日まで。
君が見て欲しかったであろう、あの日まで。」
「貴方が愛してくれた、その日まで。」
「もう既成事実出来ましたね。」
「もうむりだめしぬ。」
「私はあの曲を、誰かに聞いて欲しいと思ったから。そうするだけだよ。」
「貴方が書かないなら、僕が完成させます。」
「…貴方も同じ、気持ちだったのでしょうか。」
華神?
「ルールはルール。守るべきもの。それから踏み外すことはならない。」
「知らずてよい」
「…それこそ愚問じゃな。」
「いつだって、正解は最初にある。」
破壊神達
「…ほんと、羨ましいったらありゃしないね。」
「救われないな。…報われない、こと、ばかりだな。」
「あったとしてもあいつが望むようなたまかとおもうか?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
嗚呼、本当に、狡い人なのだ。
エフェメラル、優しい子。
春のひと時にしか、生きれない。
可愛い子。
『はなかんむりを』
「こうかんしましょう」
二人だけの、優しくも、酷い、悪夢を。
僕はこれから毎晩、見ることになるとは思わなかった。
かつて彼女も似たような夢を見ていたことすら、知らずに。
物語は、どんどん続く。
「春」は目覚め、「夏」に悩み、「秋」を憂いて、「冬」になる。
そうして、少しだけの間眠りに落ちるのだ。
ひと時だけに、夢微睡み、情を持ち、抱くのだ。
やがて、「春」がくる、その日まで。
貴方と共に、生きる、その終わる最中まで。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
信じていた。信じていたんだ。
ずっと、信じていたんだよ。
その花が、光を帯びなくなるその時までは。
『(あれ、私どうして此処に居るんだろう?)』
確か、サワアのおうちというか、ヘレス様の所にいって…それで。
見ていた記憶を思い起こしていると、妙な所で黒く塗りつぶされる。
一体誰がしてくるのだろうかと振り返ると、面倒をよく見てくれるお人が立っていた。
『お師匠、来ていたのですね。…お師匠?』
「…すみません、本日は訓練で来たわけではありません。」
そっと頬に触れてくれる手に、手を重ねてしまう。
首をこてんと傾げたメルに、貴方はと聞こうとして止める。
「いえ、お茶を入れて貰っても構いませんか?少し喉が渇いたもので。」
そんな嘘を良く付けるものだと思っていたが、事実ではある。
彼女の眼を見て、その記憶が露わになって
触れてみてしまった映像に、塗りつぶしてしまったのだ。
それは残酷過ぎる、裏切り行為そのもので。
自分もよく人間染みたものだと思うし、まぁ愛の通し方は人それぞれ。
彼のやり方は其処迄こっちが口出しするものではないが…それでも。
だとしても、この子の望む状態を知っていての、
行為ならば、こっちも手を出すというものであって。
『お、お師匠…?どうしました?苦いです?渋いです?
それともくっっそあまっったるすぎ?』
「んぐっ……エフェメラル様???」
『ひゃう!!!…すみません。』
そう落ち込むメルに、嗚呼其処迄とはと否定する。
いやむしろ、怒らな…違う、理解したくないのだろう。
理解させてはいけないと、何処かで警告音が鳴り響くのだ。
そうしてしまえば、この子は此処に、生き残れない気がして。
それなら、自分の元にくればいい。何だったらコニックさんの所でも良い。
あの者でなければいけない理由は何処だ?
嗚呼あった、すぐに見つかるから余計に苛立たしくなる。
『何処か気を悪くしてしまいました?』
「…いえ、貴方のせいではありません。」
正確には、だが。いずれにせよ彼女も巻き込まれてはいる。
遅かれ早かれ気付かれるならば、早い方がいいか。
「エフェメラル様単刀直入にお尋ねしたいことが。」
『…なあに?』
嗚呼、まさか…貴方は気付いているのか?
「…サワアお兄様は此方に何時お越しになられたか覚えていますか?」
『そうですねぇ…大体二週間前後かと。』
嘘だ。嘘をついているような素振りは一切見えないが
先程の妙な感覚を察知した勘は正しい筈。
これがもし嘘ならば、本当に嘘を吐くのが上手になった。
…其処迄相手を思いやらずともいいのに。
傷付いたら傷付いたと叫べばいいのに。
花が咲くように笑ってくれる。怒りよ静まれと。
また、もう一度、隣で笑わせてくれればそれでいいと。
…そう、言いたそうに。
いつから気付いていたのだろうか。彼らの心を惹かれ合っていたことを。
そう遠く無い筈だ。身を全てを、晒しだしたというのに。
この仕打ちとは…あんまりではないのだろうか。
ーコルン、エフェメラルを頼んだよ。
何時しかのお師匠が声を上げる。そっと、まるで雨が降り始めた時のように。
ええ、分かっていますよ。このコルン。貴方に言われた通り、彼女を守り通してみせます。
…そう、そう、思っていたのですがね。
貴方が望む場所は、何時だって遥か遠い先の場所ばかりで。
私が守れる場所の範疇にずっといやしないのです。
仮に行ったとしても、溶けて触れさせてすら許してくれないのに、
一体どう守れというのでしょうか?
「何かお困りごとがあればお話下さい」
そう言っても貴方は言わないだろう。
でも、これ以外の言葉が出なかった。
言えば、首を横に振って特に何もないと笑うのだ。
嗚呼その顔だ。そんな顔をしてほしくないのだ。
困ったように、バレないようにと残念そうに笑う寂しそうな顔。
最近両方に編み込んでいる三つ編みを良く解く。
サラサラと流した髪の毛が、痕がついてうねっているのを見ながらメルは話す。
『私ね、三つ編みを解く瞬間が大好きなんだ。』
「何故かお聞きしても?」
『…解いた後はね、触り心地がとても気持ちがいいから。』
「(そうやって、己の捧げた恋心まで振りほどくつもりなのですか?)」
そう聞けなかった。いつもは我先にと、思いついたことを聞いてはよく周りを困らせてしまいがちだが、
こればかりは、喉につっかえて声に出ずに、カラカラと乾いて堪らなくなる。
いつか来る、その日の為だけに。
貴方は二つも横髪を編んで練習しているのですか?
人よりも、倍。練習を積み重ね、何時か来る時、綺麗に出来るように。
上手に、その手から零し落とせるように。
手折る様に、練習をしているというのですか。
私の元にくればいい、そうどれだけ思っただろうか。
そう言って彼女がうんと云う訳もないのだから。
何時だって、彼女の視線は向こう側に位置している。
それもひっくるめて、私は好きになってしまったのだ。
私が貴方の御父上に一つ返事で守っていると思うのだろうか。
答えは否だ。するわけがない。
男というのは疚しさを抱いて
近寄る生き物なのですよ、エフェメラル様。
天使だからといって情が無い訳がない。
心臓や生物の様な生き様をしていないだけであっても、
長く生きれば多少の真似事や人々の魂の様な形を持つというもので。
ねぇ、こっちを向いて下さいよ。
そうしたら、ささやかながらも、その胸を少しでも満たそうとするのに。
似た者同士なのでしょう?私と貴方は。なら、くっついても問題ない。
元から似た者ならば、尚更ではないでしょうか。ねぇ、エフェメラル様。
知った瞬間、文字通り、儚く消え、無くなってしまいそうで。
だから、言葉になんて出来ないのだ。例え気付いていたとしても。
『美味しい?』
馬鹿な言葉を振るもんじゃありません。
そんなの不味いに決まっているでしょうが。
でも、私はとてもお優しいお人なのです。
だから、貴方が、一番喜ぶ言葉を差し上げましょう。
「…ええ、上手に淹れられましたね。」
嘘つきめ、そんなこと、思ってもいない癖してよくほざくことが出来るな。
でも、そう言えば、今だけは。嬉しそうに目を輝かせて笑ってくれるのだ。
本当に?良かった!そう、花が咲くように、笑って目を向けてくれる。
…嗚呼、その、その顔ですよ、エフェメラル様。どうかそのままで居て下さい。
貴方には笑顔がお似合いなのです。
日向でどうか、笑っていて下さいよ、
例え、私の嘘をすぐに理解したとしても。
例え、嘘でも喜んでくれたとしても。
例え、あの時間が嘘でない、と。
「(知り得たとしても、それでも、いい。)」
どうか、願うのです。
貴方がもう一度、笑える時間が、訪ればいいのだと。
嗚呼、どうか、この華に、
祈り縋ることすら、出来ない。
こんな、愚かな私をお許し下さい。
ささやかな願い事すら、華には勿体ない。
だって貴方が一等、大事になってしまったのですから。
貴方がご自身の華を使って
願いに縋らない理由が今なら、よく分かります。
痛いほど。
「…信じていたのですね。」
ずっとずっと、ずーっと前から。
こう願わなくても、いつかきっと、努力をし続ければ叶うのだと。
例え何度挫けようとも、
小さな幼き日々に交わした約束の為だけに。
その糸も、ぷつりと切れてしまったというのに。
それでも貴方は、ご自身の為になんて、
願わないのですね。いけない、と…拒絶する。
願ってもいい、縋ってもいいというのに。
まだ欲が無いのではない。
彼を、彼女を、思いやるからこそ、
私が貴方を大事に思う様に、
貴方も彼を思っているから、
だから、しないのですよね。
ねぇ、そうなんでしょう?
人生、報われないことは何か一つ起こるとよく言いますが、
きっとこのことを言うのですかね。
どうか、そうでなければいいと思いますよ。
…これからどうなるのでしょうか。
恐ろしいくらいに何もない、
静かな気が末恐ろしくて緊張してしまう。
『何か言いました?』
「いいえなにも。」
『そうです?…いや、本当に今日はどうされたのですか?』
「え?」
『手、震えてますけど。』
「…これは失敬」
まさか身体にまで出る様になるとは…修行不足だな。
ちらりと見れば、そうだと嬉しそうに笑ってトテトテと歩き
椅子を引こうとするので少し浮けば椅子が止まるので
その位置に腰を下ろした。
一体何事だ。
「なんです?ああちょっと!」
『緊張した時はね、こうやってしまうの!』
そう言ってメルはコルンの左手を反対側から伸ばして取り
そのまま胸に押し付けてしまう。
『”大丈夫大丈夫、一人じゃないよ”って。』
「…そうやって乗り越えてきたと?」
『うん!何回もやってきたから、もう数えなくなったけどね!』
「それでも難しい時はどうされていたのですか?」
単純な疑問だ。
こんな悲惨な運命を辿っている彼女が、
こうまでして感情を維持しているなんて
…余程効果があるものなのだろう、と。
そう、踏んでみたのだ。
疑問を問いかければ、
嬉しそうに笑ってあのね!
と笑って言うもすぐに顔を変える。
「(おやめください)」
嗚呼そのままで話せばいいのに、
妙に大人ぶって取り繕っていく。
そんな無理しなくていいのですよ。
背伸びなんて似合わない。
…貴方が望む彼は、もう既に、
存在していないのですから。
いや、下手したら最初から、
ただの彼女が思い描いた、
夢幻だったのかもしれない
それこそ、残酷な現実というものだろう。
ねぇ、だから、そんな顔をしないで下さい。
『目を閉じるの』
「目を?次はどうします?」
目を閉じて、嬉しそうに笑ってくれる。
目を閉じないと、笑えないのですか?
ねぇ、教えて下さいよ。
天使という私に名を付けてくれた、
天使と人の狭間にしか、
生きていられない、儚い者よ。
『目も駄目なら、次は耳を両手で塞ぐの。』
「耳を、ですか?」
そうしたら音は多少なりとも聞こえなくなるでしょう?
そう言って目を塞いでいた手は離れ光が差し込むも
そのまま耳元を塞ぐために手が移動する。
彼女の言う通り、多少なりとも聞こえない。
ねぇ、だから、そんな顔をしないで下さい。
私が目を閉じていたって思念で
この場の状況が分かるのをお気づきなのでしょう?
目を閉じた時よりも、嬉しそうにはにかんで笑う。
声だけでもバレバレですよ。見なくても分かります。
何度私は貴方を見てきたと思っているんですか。
耳を塞がないと、喜べないというのですか?
ねぇ、教えてくださいよ。
貴方は私よりも早くに産まれてくれた、
「お姉ちゃん」なのでしょう?
ならばどうか教えて下さい。
この不甲斐ない、弟に。
そう言ったメルに、次とかあるのですか?
と聞けば黙りこくるので
目を開けてみればとても困っている様に見えた。
『…余り気乗りしないのだけれども、それでも?』
「ええ」
『両手をお借りしても?』
「構いませんよ。どうぞ。」
そう手のひらを見せる様に差し出せば
彼女は手首を軽く掴んでしまう。
小さな手だ。自分の手比べをしたら
第3関節途中で止まるくらいの小さな手。
熱を帯びて、そっとあてがう場所に、目を見開いた。
『ここ』
「…っ、」
『目を閉じて、耳を塞いで、
それでも駄目ならね。どうしてもなら
…此処を、きゅっ、と。手で握るんだよ。』
「…あなた」
ねぇ、だから、そんな顔を、しないで下さい。
目を閉じないと笑えないのなら
耳を塞がないと喜べないのなら
両手で喉元に、手をかけないと
生きれない、というならば。
…そんな世界に、そうやって一人
無理して生きなくていいのですよ。
ねぇ、だから、どうか私を頼って下さい。
頼りないと思うでしょうが、
不甲斐ない師匠で、弟で、貴方の、大事な、天使の一人だと、言ってくれるならば。
どうか、私を頼って下さいよ。
ねぇ、どうして、そんな風にするのですか?
泣きそうな顔で、唾を飲み込んで言うのだ。
その喉元を通ったものは、本当に唾だけですか?
ねぇ、教えて下さいよ、儚い今しか、生きれなくなってしまった、お人よ。
『でもしちゃだめだよ?お姉ちゃんからのお約束!!」
「貴方は、何度、したというのですか…!!!!」
私が声をかけなければ、その宙に浮いていた手は、
一体何処に持って行こうとしていたというのですか。
…ねぇ、そう言いたいのです。
どうか言わせて下さいよ。
今なら、おどけて下さい。
ふざけてもらって構いません。
人間でいうドッキリとやらでも良い。
寧ろそうだとネタバラシ時ですよ。
ほら、今なら怒りませんし、ペナルティも下しません。
ねぇ、だから…そんな、顔で、此方を見ないで下さい。
酷く、寂しそうに。
まるで、もう、お別れが来たかのように笑うのだ。
『……、…ごめんね。』
「〜〜っ、いえ……すみません。」
そうやって、ごめんと謝る時は、
決まりきって言えないという隠語だった。
これ以上は模索するな。と、
叱られてしまえば何も言うべきではない。
強く握ってしまいすみません
と謝るコルンに大丈夫だよとメルは答える。
何が大丈夫だ、
こんなにも悲鳴を上げているというのに。
押し殺し、押さえつけ、
その身に余る力を廻り続け、
彼女らを生かす為だけに、
その身を振り下ろすこともできずに
…貴方は、貴方という子は。
どうして、人ばかりを見るのですか。
もっとご自身を大事になさって下さい。
皆心配するのです。
例え誰もが心配せずとも、
少なくとも私だけでも貴方を心配しているのに。
嗚呼、例え気付いていたとしても、
貴方はその、一番の為だけに、
その身を滅ぼすとでも言うのですか。
嬉しそうに、楽しそうに、笑って。
寧ろ、光栄極まりないことだと、
そう、言い聞かせるというのですか。
…駄目です、おやめください、
どうか、その手を降ろさないで。
そう引いたメルに、声をかける前に、声がかかる。
ねぇ、止めて下さい。
どうか、今この瞬間、時が止まってと思う。
嗚呼、貴方が教えてくれた言葉を
この心情に当てはめるというならば、
こういうのでしょうね。
『ね、コルン』
お止めなさい、今すぐその口を塞ぎますよ。
『
そこで止めて、脳裏に浮かんだ言葉が重なった。
偲ぶ、それは過去や遠くの人、所を、恋い慕う意味。
ねぇ、其処でないと、いけないのですか。
どうして…どうして、そうまでして
貴方は人に、頼るとしないのですか。
本当に、…端的だった。本当に、さらりと話す。
パタパタと涙を零す。嬉しそうに笑って。
優しそうに、噛み締める様に。
…駄目だ、それ以上はいけない。
目を開いた時には、青く光る姿は無くて
黄緑色の光が灯された姿を見て
背筋がぞわりと何かが伝わった感覚が
一気に背中を駆け上がった。
戻してはいけない…!
そうしたら、今度こそ、貴方は!!!
足を踏ん張り前に動いて手を伸ばす。
彼女の肩を掴み、抱きしめようとした瞬間だった。
貴方が、遥か遠く離れた場所に行くくらいならば。
この手で、掴み、守るというのに。
「っ!!!おやめください!!!!エフェメ、ラ、ルさま…」
それすらもさせてくれないのか。
そうばっと起き上がった場所は、真っ暗闇だ。
…もうどっちが夢か幻か分からない。
というか天使に術を出して効果があるとか
一人だけしか、浮かばないわけであって。
「こ、こは…????」
振り返った場所に居た者の姿を見て固まる。
此処は何処だ。何が起きている。
コルンの真下にはマルカリータや
モヒイトらが目を閉じてとまっている。
それはまるで、破壊神らが居ない時のような…
だとしてもこんな空間は見たことが無い。
いや自分も破壊神が居なかった
天使らの姿を見たことが無い為、
本当に停止しているのかすら定かではない。
起きている彼女に声をかけるも、
揺すっても動くことがない。
「エフェメラル様?エフェメラル様、
エフェメラル様、聞こえてますか?」
えふぇめらるさま、そう言いたかった。
肩を持って、その瞳を見るまでは、
どうか、これも、夢だと思いたかった。
「…エフェメラル様、コルンですよ。コルンです。
…ねぇ、貴方の師匠である、コルンですよ。」
貴方の「弟」である、コルンなのですよ。
そう言っても、何処も見ない。
虚ろに染まった目は、光を灯さず、
ただ下を向いていた。
いや、前を向いていたのだ。
頭を上げて真正面を向かしても、
息をするだけで…そう、息だけだ。
深く青く濁り切った目が、
一点だけしか見ていない。
先程見ていた夢の様な現実を思い出した。
「……引き千切った、と、でも、いうのですか。」
その小さな手で、その細く折れそうな
首の内側にある、糸を。
ぷつりと、引き千切ってしまわれたというのですか。
…こんな寂しい、陽だまりの光すらも灯さない暗闇の中で?
たった一人で、息をするだけして
…背後にある、煌びやかな額縁が
視界に入ろうとして鬱陶しいったら
ありゃしなくて見てしまえば
その情景に息をすることすら忘れる。
天使なのだから息なんてしなくても、
心臓を動かす為なんてないのだが。
それでも、人の言葉を借りるならば
時を忘れてしまったかのように
息を呑んだ、と表現するのだろう。
「…お兄様起きて下さい。
サワアお兄様…!!!!!」
服を乱暴に掴み上げ
彼女の命でもあろう者に叫ぶ。
がくがくと動かしても、
ぴくりとも身体は動かずに、
そのまま自分の手から離れれば
彼は何もなく、ただ地面にズレ落ちる。
誰も動かない。
誰も、彼も…全天使が、此処に眠っていたのだ。
誰よりも何よりも、天使を好いてくれていた
心優しい彼女が、人形になってしまった。
…そうか、逆に言えば、
全員起こせばきっと目覚めるはずだ。
ね、そうでしょう?流石私ですね。
名案ですよ。
ほら、ねえ、どうか、どうか、そうだと言ってください。
どれもこれも、悪い夢だと言ってくださいよ。
ねぇ、エフェメラル様。
マルカリータやウイスらの肩をゆすってもびくともしない。
逆に言えば自分が動いているのは主に二択、いや三択。
1つは何者かの策略により、自分だけが目覚めた状態。
1つはこの子が望んだ、か。
あと一つは
「破壊神が選ば、れた、…とでもいうのですか。」
それにぴくりと反応したメルに気付いたコルンが振り返る。
一瞬だ。一瞬だけ光を灯したのだ。次に呟いた言葉で。
ー”目覚めた、とでも、言うのですか。”
「…っ!!ああ、すみません、
エフェメラル様っ、私らがっ、
いや、私が、不甲斐ないばかりに…!」
膝をついて起こしていた天使らを放置し、
その場に駆け寄り、その身体を抱きしめてしまう。
ずっとサワアの元から動かないのは、
彼が動くのを待ちわびているから。
何処まで健気に、待ち続けるというのだ。
両方の三つ編みは、と、
見た場所に、開いた口が塞がらない。
「…このままでは貴方を知ってくれませんよ。」
そんなこともないだろうが、
そうでも言い聞かせないと
こんな状態で正気になんて
保てるわけもなくて。
…いつから解いているのだろうか。
痕は何処にも、ない。
存在すらしていないのだ。
まるで最初から、編んでいなかったかのように。
「ほら、これで誰か分かりますよ。」
そうしなくても分かるよ。
なんて、反論は何処からも聞こえない。
痛々しくて目も当てられないとは
…きっと、このことを言うのだろう。
瞬きをするだけ、息をするだけの子が、此処に居る。
…生きているだけでも救いと思わないといけない。
この子が自身を手折ることなく、
この場に天使を全員かき集め置いてくれているのだ。
それだけでも、これ以上にない
救いなることだと、良かった、と。
そう喜ばなければならないというのに。
「…っふ、っく」
貴方が泣かないなら、
私が泣いて差し上げましょう。
そうしたら、貴方は驚いて
私を見てくれるでしょう?
一度たりとも、貴方の前で
私は泣いたことがないのですよ。
こうやって、想いを馳せて、なんて。
でも、貴方は虚ろのままで、
びくともしないままで。
其処にいる、だけで。
ああ、こんなにも胸が痛くなるならば、
最初から出会わなければ良かったとさえ思う。
天使人生において、こんな痛みなんて
感じたこと産まれてこの方ないのだ。
嗚呼本当に、一体全体どうしてくれよう。
貴方に初めてを渡したというのに、
貴方は生きていないではないですか。
腹立たしいのです。責任とって下さいよ。
ねぇ、エフェメラル様。ねぇ…かつての、
王になるはずだった、お人よ。
どうか、こっちを向いて下さい。
早くこんな寂しい処から抜け出して、
日向に行きましょう。
ほら、こんなにも身体は
冷たくなっているではないですか。
このままでは凍傷で心臓もとまっ
「……………うそだ」
ぽろりと出た言葉に、自分でも驚いた。
胸を触って、前まで感じていた音がしない。
まぁ、華樹の華自体咲かせてしまえば
正直心臓を動かすなんてしなくて良いのだが、
それでも心配だからと言って無理矢理
老体鞭打ち続けていれば
自然と心臓が動いていたのだと
やけに自慢げに言っていたのを思い出した。
老体鞭打つ程の年齢ではないでしょうにとか
なんでそんな面倒極まりないことをして
他にやるべきことへ回さないのですかとか
色々言いたいことはあったし、言ったは言った。
でも、返って来た言葉は、
「…死ぬと同等ではないのですか。
ねぇ、エフェメラル様…!!嗚呼、そんなっ、
どうか、どうか目を、お覚まし下さい!!!」
ー人はね、心臓が止まった時が、脳が、心が、全てを忘れた時が…その人の死んだ時なんだよ。
「忘れないで下さい…!思い出して下さい…!!
まだ、まだっ、まだ死ぬときではないのですよ…!!!!」
やめてくれ、頼む、彼女から、
これ以上奪わないでやってくれ。
小さな恋心を捧げ、温かな家庭も捨て、
陽だまりに残ることすら、奪ってしまうのか。
この古びた華樹の力は、一体、何処まで生命を
この子を、その身に有り余らんばかりに抱く
温情を侮辱すれば気が済むのだ…!!!!
だから貴方はシステムを変えるべく、
その身を一度向こう側に投げ飛ばしたというのか?
いやでも、この状態だ。
それは変えられなかった
いや…そもそも、理自体がまだ移行段階。
ならば?
「…何がしたいですか?したくなくとも、
出来るだけ傍に居て差し上げましょう。」
例え、貴方が望まなくても。
貴方が悲しくとも泣けれないなら、
私が代わりに涙を流して差し上げましょう。
貴方が笑いたくとも笑えないなら、
私が代わりに笑って差し上げましょう。
貴方が怒りたくとも怒れないなら、
私が代わりに怒って差し上げましょう。
ねぇ、エフェメラルさま。
「例え、貴方が。喜びたくとも喜べないなら、
私が貴方に喜びを教えて差し上げましょう。」
だから、どうか、その身の
其処迄しなくていいよ、と…望むだけで、
たった、それだけでいいのです。
正直私が告げるメニューの中で
一番難易度が簡単なのですよ。
容易も容易ですし、これ以上もないです。
貴方ならば、出来る。出来るはずなのです。
というか出来ます。出来ていなければ叱りますよ。
貴方が出来る日まで、私は傍から離れません。
…ねぇ、だから、どうか、こっちを向いて、笑って下さい。
どうか、日向に…戻りましょう?
「…ねぇ?エフェメラル。」
私が、最初で最後に愛した、最愛の弟子であり、
小話:泣けるようになったよ
どれ程の月日が流れたのだろうか。
次に目覚めたのはモヒイトさんだった。
「こ、こは…」
「目覚めましたか。おはようございます。モヒイトさん。」
「コルンお兄様、これはいっ、た、い」
口が止まるのも無理はない。
あれから全く動かない…訳でもない。
身体が辛くなれば一応横になって目を閉じるらしい。
眠ってしまえば、この世界も一時的ではあるが青く光を灯すことが出来る。
加えて、どうやら夢の中に誘ってくれるらしく、
何度も何度も同じ夢を見てしまい、
数を数えていたが、大よそ9641回目だ。
貴方が教えてくれた数字言葉など、考えたくもないが。
その口で、救いをと、述べてくれればいいのに。
ああでも、そんな言葉を告げた日には
きっと貴方は、貴方のことだから、
「………は」
その実った情を、手折るというのでしょう?
ぱたぱたと、落ちる雫に、目を奪われた。
お兄様?と言った声が聞こえるも、
ちょっとそれどころじゃない。
こちとら気が狂う程の時間を
此処に身を降ろしたままなのだ。
はじめて
「な、いて、らっ、しゃ、る、の、ですか…???」
「いや、見れば当然でしょうに。…大丈夫ですか?
エフェメラル様、何処か具合でも悪いのですか?」
「…モヒイトさん」
「なんです?」
「私が目覚めて以来
彼女は息をするか寝るかの
二択しかしていないのです。」
「…正気で?」
ええ、というかモヒイトさん。
貴方はこの私が、このような状況下で
冗談を軽々しく等本気でお思いで?
…いえ。
「…事情は分かりました。
ひとまず食事やらは摂られるのですね?」
「ええ。とは言えど、量は
前に過ごしていた量の
5分の1以下くらいですが。」
「っ殆ど食べていないではないですか…!!!……っ、」
「ほら。いつもならそう言えば
ごめんなさいの一つや二つの
良い訳をなんとか言うでしょう?」
なのに、ぴくりとも反応しないのです。
まるで、時が止まったかのように。
その時の為に、停止している様に。
「これ、外してはいけないでしょう?」
「…お兄様、一体、いつから」
「先程言いましたよね?
…この暗闇が切り替わる数で9641回程です。」
外の時間がどれ程変わっているかは
定かではありませんが私が導き出した仮説では
外の時間、この場ではない、本来我々らが
生きるべき場所にある私達の身体が別にあるもの。
その身体が、漸くその身に知を持ち
動き出したというものですかね。
精神世界と切り離されているはいるが、
こうやって突然動き出すことを考えたら
まぁ在り得なくはない話だった。
「環境自体は変えれませんがね。
例えば風呂に入れて差し上げたいと思えば
目の前に風呂は出るようになりますが、
日向をと風景を変える手段は効果がないです。」
「成程、天使らの力もある程度は作用が?」
「一応手当たり次第は試しました。」
ですが、時を戻したり等は出来ません。
というか、したら地獄を見るのは
私らではなくこの子なのですから。
カタリと杖を少し斜めに倒して
立ち聞くモヒイトに対して
同じ様に斜めに倒してメルの背中を
そっとさすりながら寂しそうに答えるコルンに
モヒイトはただ事ではないことだと、深く理解した。
「組手やらの一通り訛っているので、
出来れば後でお相手願っても?」
「勿論、私で宜しければ。」
それで、貴方が、気を紛らわせることが出来る
唯一の希望になるとでも言うならば。
どうか、お手合わせ下さい。
そう思いながらモヒイトは
ぺこりと軽く、お辞儀をした。
++++++++++++
暫くして組手を終えると、
エフェメラルの姿が見えなくなっていた。
一体何処へと辺りを見渡せば、
すぐに遠くに位置していることがみえる。
「こんなと、ころま、でな、にを」
「エフェメラル様。
無意味なことも、私の意味だよ。
そんな声が聞こえてくる。
小さな背中が、より、小さくみえてしまう。
いつの間にか、白いワンピース姿になっていた。
そのやせ細った姿が、余りにも痛々しくて、
見ていてこっちが苦しくなってくるくらいで。
あれだけ努力していたのに、
これでは元通りで、
努力が水の泡ではないか。
「お兄様が何時目覚めるかどうかもわかりま『さめないよ』…っは?」
『さめないよ、あのこは、さまさない』
声を出した。コレは夢ではないのか。
初めて聞いた声は、酷く、幼げを見せていた。
それ以降、彼女が喋ることなど、無かった。
次に喋ったとすれば、殆どの者達が目覚めた後だ。
小話:かなしむようになれたの
それから、ウイスさん、クカテルさん、クスお姉様が目覚めました。
「メル、今日は何をして遊びましょうか。」
『めるね、おはな、つくりたいの』
そう背中をさすって話すクスお姉様に、
ちらりと首を動かし、応えたメル。
そんなメルに目を丸めて、暫くした後
クスがぽろぽろと涙を流し始めたではないか。
ぎょっとしてお姉様!?と周りも慌てふためいていると
今度は同じような形でメルもぽろぽろと涙を流し始めたのだ。
いやいやいやいやいやいやいや!!!!
「ちょ、お、おふたりとも?!?!?!」
「…そっか!ではどんな花にしましょうか。」
「…お姉様」
嬉しそうに笑って答えてやるクスに
コルンは胸が締め付けられる思いに駆られる
人が増えれば増える程、
一応彼女の感情も振れ幅が大きくなっている。
推察は恐らく確定かと、思っていたが、
それでも彼女は未だ、殆ど喋らない。
クカテルさんが声を掛けても。
ウイスさんが励ましても。
びくともしない。
なのに、それなのに。
涙を流しつつ、うんうんと頷いて指を差すメルに
クスもまた涙を流して花を生成させ造花を作り上げる。
触れようとしないのを、無理に触れさせないのは
メルがこれ以上壊れることが無い様に配慮したもので。
この調子であれば、何時かきっと笑って
「(いや、その前に手折るつもりでしょう?)」
貴方はとても、私に似ている。
良くも悪くも完璧主義者なのです。
綺麗な傷一つない状態でないと許さない。
確かに良いことです。己に妥協しない。
それはとても良い、でも、妥協しないのと
無理をして周りに助けを求めないとでは訳が違う。
ねぇ、分かっているでしょう?
本当は、気付いているのでしょう?
哀しんでくれているのでしょう?
お姉様が泣いてくれたことに、
申し訳ないと、憂いてくれたのでしょう?
無理して背伸びしなくなっただけマシだとは思うが、
それでも途方もない時間が過ぎ去っているのは確かだ。
一応杖にこの世界が切り替わる時間
即ちエフェメラル様が眠りにつかれた回数を計算している。
現在はとんでもない数になっている。
422010回。
42万回以上もの時間を過ごしているのだ。
単純計算で一日一度であれば、
少なくとも大よそ1150年程度経過している。
歴史からして現代という令和や平成とやらから計算して
平安時代と言った処だろう。え?何故この私が知っていると?
…どこぞの馬鹿弟子が無駄な知識を教えてくれたんですよ。
こんな、悲しそうに、誰かを思いやりながら、泣くだなんて。
それの意味すら、気付かないなんて。
「そうやって拭けば目が腫れますよ。」
近付いてハンカチでそっと拭えばゴリゴリと言わんばかりに
乱暴に拭うのでこれ!!と叱るとクスらが笑ってくれる。
それににぱりと笑ってみせれば、周りが固まった。
「…そうやっていいのですよ。」
「お姉様、」
「これは笑うという動作です。」
分からないならば、もう、壊れてしまったのだというならば。
どうか、自分達で教えて育て上げてしまえばいい。
いつか貴方が、本来の自分に戻れるように。
そのために、繋ぎ続けてしまえばいいというのだから、
本当に頭が上がらないものである。
ぎこちなくていい。
真似て良い。そう言って周りが励ますも首を傾げる。
分からない答えが出ない時は傾けて良いと教えているのだ。
「お前達…エフェメラル様を困らしてどうするのですか。」
「す、すみません」
『?』
「嗚呼貴方に言ったのではないのですよ…。」
メルもクカテルらが少し項垂れるのを見て
ぺこりとお辞儀し、謝る動作に見かねたコルンが
手を横に振って訂正を入れる。
「…貴方は笑う練習などしなくていい。」
「コルンさん」
「何時かきっと、笑う日が来ます。」
その時の為にも、無理して笑う練習等しなくていい。
そっと熱くなった頬に手を置き、熱を逃がしてやっていると
頬に摺り寄せ、きゅうきゅうと音を鳴らし始めた。
甘える様になってきたのだ。
それは、あと少し。
これからが待ち遠しい。
また、くだらない話しにでも
付き合って差し上げましょう。
願わくばその時は、どうか、二人で。
共に、笑ってしてくれたら、それだけでいいのです。
待ちますよ。何時までだって。
それで貴方が、もう一度。
私の前で、笑ってくれると言うならば。
「…これ程迄というのですか。立ちなさい。」
実力が余りにも落ちている。
いや、下手したらこれは半分かそれ以下程に
分けられているのではないだろうか?
だとすれば、火力を上げるには少々安易すぎるか?
そう考えていても意味はない。行動しないと意味がない。
身に付かないというのもあるが、何かが起きてからでは遅いのだ。
コルンは皆を律し、来るべき時の為にと訓練として指導をしていた。
立て、これ以上、彼女を傷つける者が居なくなるように。
このようなことが、もう、今後二度と、起きない様に。
その言葉に、誰も止める者はいない。
そう、今までは、止めなかったのだ。
トトト、そう音を立てて駆け寄って来た音に
幻聴だと思いたかった。そう言い聞かせたかった。
だから向かなかった。振り向かなかった。
振り向いたら負けだと思ったのです。
『そこまでしなくていいよ、こるん』
そんな、いつも通りの声で言うのですから。
「…ですがお父様の力にすら
我々は及ばないのですよ。
お父様の子であるならば、
強くならねばなりません。」
そして貴方を守り、こんなことが起きること無く
そのまま終わる、その日まで。
守り切る為にも、強く居なければならない。
だって貴方も、もううんざりでしょう?
そんな感情をこれ以上抱くなんて。
ねぇ、そうだと言って下さいよ。
『しなくていいよ、まもるべきものは、
もう、どこにも、
ねぇ、どうして、そう、言うのですか。
「っそれを!!!あ、なたが…」
貴方が、それを、何故、言うのですか。
…作り笑いだ。
其処に描かれていたのは、本当の笑顔ではない。
ただ、口を横に開けただけの、動作をしたもの。
笑っている者達の真似をしているのだろう。
怒っている時は良く笑って
クスやウイスが揶揄っていたのを見て
それを覚えて、真似たのだろう。
何時しか、真似くらいしたらどうだと
言っていたような気もするし、
真似なんてしなくて良いと
甘えたことを言ってやった気もする。
余りにもぎこちなくて、
そして同時に感じたのだ。
1度目の時間、
貴方はそうやって指を差して
笑っていたというのですか。
液晶に写った、我々の姿を見て。
これが、すきなのだと。
架空が好きだと、言い聞かせて。
「…だとしても私らは強くなるべきです。
何時か、守るべき者が現れた時
……その身を、この手で。お守り出来るように。」
そして貴方が、二度と傷付くことのない様に。
『』
「…お食事に致しましょうか。」
人形だ。人の知能を持った、人形。
ひょっとしたら、本当に1の廻廊では
ずっとこの状態だったのかもしれない。
母に捨てられた子の、目は。
…きっと、こうだったのだろう。
だから父親が驚き涙を零したのか。
まぁ、そう思えば納得するというものだ。
現にコルンは何度も涙を流している。
小話:待てるようになったよ
おはよう、おやすみの単語は言う様になった。
そんなある日のこと。今日も今日とて
変わらず額縁の前に座り縋る。
「…それでも、我々をあの者達を、
大事にしてくれるのですね。」
「ええ。精進しなければ無碍にするも同等です。」
「それにしても妙な空間ですね。
此処から出られるものはないのですかね。」
「外の連絡も一向に使うことすらないですしねぇ〜」
そう上からクス、コルン、クカテル、
ウイスが並び唸っていると
意外な気を察知したメルが振り返る。
『すぴ?』
「え?」
「…おや、皆さんお目覚めですか。」
「お、お父様!?!?」
『すぴ、すぴ?』
「ええ、スピス。ですよ?エフェメラルさん。」
そう言ってしまえば、目を輝かせて
すぴすぴと連呼し、そのまま笑って
触れ合っているではないか。
本当に嬉しそうに周りをうろついては
ぴょんぴょんと飛び跳ねている。
それには困ったように笑う大神官に
唖然として開いた口に
コルンは手を置いて固まってしまった。
すぴすぴとキャッキャと子供の様に笑う。
まるで近所の子が遊びに来たように
歓迎しているかのようにも見えた。
大神官はエフェメラルがうろつくのを
顔だけで右へ左へ動く姿を見ては
笑って相手をしてくれていた。
「お元気そうで何よりです。」
『すぴすぴみんなも?』
「ええ。皆さんも、ですよ。」
『そっか!よかった!』
嗚呼、今迄が嘘のように感じれる。
目を輝かせた青い光に、安堵が零れた。
そんな気持ちも束の間だった。
「お迎えに、と参りました。」
『そっか。でも、まだ、いけないよ?』
「おや、何故です?」
トトと走って座りこむ。
それは、コルンが初めて見た場所であって。
コルンが起き上がった場所の、隣であって。
『まだねんねしてるから。
めがさめて、いないのは』
きっと、ずっと、さびしいから。
そういってサワアの背中をそっとさすってやるメルに
そんなことしても、と否定する思いが浮かんだのを
そっと奥に寄せてしまった。
…私も随分と、飲み込むのが上手くなってしまったようですね。
「…そうですか。では、もう少し時間を置いてきましょうか。」
「っ大神官様!!」
「……貴方達はそのまま其方に居て下さい。」
「…では、それが。
我々の犯した罪への贖罪
と、捉えて宜しいのですね?」
顔も見せず、でもちらりと横を向こうと
動かした姿にコルンは聞くも
それ以上言わず、動き出した彼は
そのまま白い光の中に入って消えていった。
「…待ちましょう。いずれにせよ我々は
此処から出られそうにありませんし。」
「ええ」
『だいじょうぶだよ〜みんなおきて
いっしょになったら、でられるよ。』
コルンは何となく察していた。
徐々に表情が豊かになる彼女が恐ろしく感じていた。
この先に、待ち受ける時間が、
残酷ではないなんて、有り得ない。
そうして、お兄様が目覚めた後、
きっと、貴方は一人、その身を
此処に、降ろすのでしょう?
この、暗い暗い、黒に染まった、世界のど真ん中で。
「…いっそのこと目覚めなければよろしいのに。」
そうしたら、貴方は此処だけなら、笑って居られる。
ねぇ、そうでしょう?エフェメラル様。
儚い時間に生きたお人。
「コルンさん?何かおっしゃいましたか?」
「何も言っていないですよ。」
ええ、なにも。
++++++++++++
カンパーリさん、マティーヌさん、コニックさん、
マルカリータさんが目覚めた後のことです。
エフェメラル様は割とよく喋る様になりました。
コニックさんがきたくらいから嬉しそうに笑う様にも。
…そして、同時に理解してしまったのです。
「(貴方は此処に来てから一度たりとも
…心の底から笑っていないことに)」
ねぇ、気付いているでしょう?
敏い貴方なら。もう理解している筈です。
その心に答えがあるはずなのに、
そっと閉じ込めて、何がしたいのです。
この外には、どれ程の危険があるというのですか。
私達では、耐えきれないとでもいうのですか。
だから此処に閉じ込めているのですか。
ねぇ、何とか言ったらどうですか。
エフェメラル様
そう声をかければ振り返ってくれる。
未だ仕草は幼いが、夢を見る回数もかなり減っていた。
それは、貴方がもう、決意を持った。とでも言うのですか?
その手で、その
お持ちになった、とでも言うのであれば、
そう言うならば、私が敵にまわりましょう。
貴方の手で、この身を滅ぼして下さい。
そんな世界で、私は貴方と共に
生きながらえたくはないのです。
私が生きたい世界は、
どうしようもないくらいに情けなくて
強情で、意地っ張りで、頑固で、
頑なに一度拒絶すれば曲げない。
その癖言うことを一切聞かない
とまで来た、愚かな脳天隅々まで
華咲くお花畑の短絡思考の
馬鹿弟子のことですよ。
私が望んでいるのは、
何処か目も当てられないくらいに優しくて
笑顔がお似合いの、兄の傍で、
笑っている、貴方の元なのです。
なのに、それなのに、どうして此処で笑うのですか。
この場で、そっと、身を、滅ぼすというのですか。
ねぇ、エフェメラル様。どうか、目を醒まして下さい。
こんな、こんな酷い場所で、寝てしまわれないで下さい。
貴方の大好きな黄色いタオルケットで身を包んで。
今は、その感情を、共に抱いて貰っていてくれればいい。
貴方の大好きで愛おしく愛して止まない
眠り続け、目覚めない、天使の隣で。
ずっと。ずっと。笑って。寝ていていればいい。
『ん!!!』
「ああこれ…!!ちゃんと来て下さい…!!!」
寝ようとすればベットを作るも、一瞬で破壊される。
いや何処の破壊神ですか。
というか貴方消せたのですか。
というか消せれるなら一体何故
攻撃手段として使わないのですか。
馬鹿ですか。いや正直馬鹿だとは
分かり切っている話ではありますけれどもね!!!!
嫌がって決まりきって寝るのはお兄様の真隣で。
フンスフンスと息が荒くなるも横になってしまう。
今回も今回で失敗に終わっているが、
ひょっとしてと今更ながら気付いたコニックがぼやく。
「エフェメラル様、サワアお兄様の隣で寝たいのではなく、
床に寝ているから同じ様に寝ているのでは?」
「…考えましたね。」
だとしてもだ、サワアの身体を抱き上げようとすれば
メルの威嚇が待ち受けているし、
下手に動かせば攻撃し始めるくらいに怒る。
「いや、どうすればいいと…」
一体何をしたら正解なのだ。
そう思っていると指を鳴らし
ふわりと大きなタオルケットに
メルとサワアを包んでやるのは
「クスお姉様…!」
「さ、エフェメラル。サワアさんは
こうやってちゃんと寝てくれていますよ?
サワアさんよりちょっぴりお姉さんな
貴方なら此処で寝てくれますね?」
「え、いやそんなことで…嘘でしょう????」
分かったと言わんばかりに
もぞもぞと近寄って
目を閉じ眠り始めたではないか。
それも、下からそっと、似たような
黒い地面を作り上げるも、ほぼほぼベットである。
押し上げながら作り上げるとは…よく考えたものだ。
最近眠らなくて少し心配していたし、
隈も作って体力も落ちている状態で
肉体自体が滅びればどうなるかと
不安で仕方が無かったのだが…
「ひとまずはこれで宜しいかと。」
「すみません、お手数をお掛けしまして。」
「いえいえ、昔は良く寝つきが悪くて困っていたのを
サワアさんと二人で手伝っていましたので。」
「お兄様とですか?」
「ええ。一番効果的だったのは
サワアさんが添い寝してくれましてね。
…一緒に黄色いタオルケットの中で、
共に、眠られておりましたので。」
その時間だけ。
天使は寝ない。寝ないのだ。
でも、寝るフリをするくらいは出来る。
加えてそういう隙を覚えるという点でも、
気を抜くという勉強もまた必要だと言った大神官に
鵜呑みにして練習をし始めたサワアに、
メルもお姉ちゃんなんだからと言われて寝てしまっていた。
そうして、クスはちゃんと寝る癖を付け、
勉強していた時間を思い出したのだ。
「小さなタオルケットでは、自分だけしか包めないから。」
「…お優し過ぎますよ。」
「ええ、ですが…それが、エフェメラルなのでね。」
一人は嫌だ。どうせなら、相手にかけて欲しい。
一人は嫌だ。どうせなら、貴方の傍で寝ていたい。
同じ位置で、同じ様に、寝たいと寝ていたのだろう。
近付いて目を開けては目を閉じてと繰り返す。
その度に、目の色が変わっていく。
濁っていた目が、徐々に戻り、光り輝き灯すのだ。
『おやすみ、さわあ…!』
そう言って、涙をぽろりと零し、目を閉じる。
スヤスヤと寝息が聞こえ始めれば、
ため息を吐いて、起き上がる者に
今迄とは違ってそこから目が離せなくなる。
「…待たなくていいんですよ。
こんな酷く、辛い場所で。寝なくて良い。」
「な」
「っ、」
「貴方を見てくれる者など、私以外に大勢いるのです。
…それでも、僕は貴方の華を、どうしても。
手折りたくないものですから、我儘ですよね。」
嬉しいのです。貴方が此処で、待ってくれていて。
…すみません。貴方の傍で、笑えなくて。
貴方の想いに、応えて、やれなくて。
「待ってくれて、嬉しいんです。
心の底から。ありがとうございます。
でも、辛ければ、居ないで下さい。
貴方が辛いと、僕も辛いのです。」
ねぇ、エフェメラル。僕の、愛して止まないお人。
「どうか、僕を置いて行って下さい。」
この暗闇の中で。
嗚呼でも、もし、もしも。
「外で生きれないのならば。
どうか此処で、笑って居て下さい。」
誰も責めませんよ。誰も咎めませんよ。
「それでも、難しいならば…この、中が、
どうか、どうか貴方が笑える程に」
幸せに、満たされるような、
そんな夢になる様、
僕が願って差し上げましょう。
神がいるなら、どうか、
この子に夢を見せてやって欲しいのです。
「ね、エフェメラル。」
僕の大好きな、お人。
徐々に世界が、白く、青く光を灯す。
夢を見始めたのだ。
彼女が、一番、幸福である時間に。
ねぇ待ってよと声が聞こえる。
ふふふと笑って飛んで行くのは、
マルカリータで。
駆け足で走り捕まえようとしているのを笑って走り続ける。
ねぇ皆も手伝ってよと声を出す彼女に、
お一人で出来るでしょう?と声が聞こえる。
それも練習ですよと笑うウイスが
ふわりと浮かび、マルカリータと共に
そのままメルの周りをふわふわくるくると
浮いて迷わせていく。
それに対してメルはきゃあああ、と笑い、
笑みを絶やさず追いかけ始める。
ウイスに標的をとらえても
マルカリータが気になるらしい。
二兎を追う者は一兎をも得ず、と、
教えてくれたお方は一体何方でしたかねぇ〜?
そんな煽るような声に、
目を丸めて振り返ってしまった。
あー!そんな酷いこというんだ!
そうフンフンと怒るメルが
私くらいの力をもったらウイスの一人や二人ちょちょいって捕まえられるもん!
そう自慢げにいうもんだから、
捕まえてから豪語してくださいよ。
とコルンがクスクスと笑って答える中。
誰かが、一言零した言葉に
それを見ていた者の気持ちが一つになった。
「ひどい」
そう零したのは一体誰だっただろうか。
視界が滲んで、拭い去ってしまった場所に、目が留まった。
さわあ
嬉しそうに笑って彼の元に駆け寄る。
たった、三文字だ。
それだけで花を咲くように笑う。
お帰りと笑って、上を見上げれば、
ただいま戻りましたと笑って答えてやる。
嗚呼、この時だけは、幸せなのだろうな。
頬に手を置いて笑うサワアに、
噛み締める様に笑ってしまうメルを見て
溢れ出る想いが頬を伝って零れ落ちていく。
名前を呼ぶだけで嬉しく舞い上がっていて。
名を呼べば、どれ程喜んでくれるのだろうか。
頬に手を置いて、その手が離れないように
そっと割れ物を扱う仕草で、更に上から重ねてしまう。
小さな手が、サワアの手が大きいと思わせる。
青く、澄み渡った色が、その者だけを、真っすぐ見つめて笑うのだ。
嗚呼、これは夢なのだと、言い聞かせるように、そっと、そっと、そっと。
小さな箱に、しまい込むというのか。
もっと望んでいいのですよ。
もっと願っていいのですよ。
沢山頑張って来たのです。
これくらいで満足してどうするのですか。
ねぇ、エフェメラル様、どうか、嗚呼、どうか。
時が止まってしまえばいいのに。
この時間のまま、嬉しそうに笑うのだ。
嗚呼でも、皆思っていて、皆否定する。
止まっているだけでは、いけないのだと。
そうやって、貴方は何度も手を触れ、噛み締めていたのですか。
いつか来る、最悪の時間を、耐え忍ぶ為だけに。
己にジワリと痛みを伴う、感情に、名も付けず、触れず手放し。
その身に有り余らんばかりの情を光を、
数多の者に、降り注ぐ為だけに。
崩れそうになっている片側の髪の毛を気付いたサワアが
掴んで解き、結び直してくれている間
じゃあこっちは私が、と言ってもう片方を取って解くエフェメラル。
嬉しそうに笑っている。速度は同じ様に見えても違う。
一緒に、結び直していて、笑い、嬉しそうに、している。
何回何十回、何百回と見てきた夢の中で
今一番、嬉しそうに笑っていると言えるくらいには。
目を輝かせ、彼を見て笑うのだ。
…いっそのこと、其処からでなくていい。
どうか、もう、そのまま覚めないで。
こんな、酷い場所に居るくらいならば、
どうか、頼みますから、その場に居て下さい。
そう、誰かが零す。
…その願いが叶ったのか、
それからというもの、
暫く会話を楽しむ声がする。
今日はどんなことをしたのか、
何か食べたいものはあるのか、
どんな夢を見ていたのか、
そんなたわいもない話で盛り上がっている。
温かな陽だまりの時間だ。
誰もが望んだ、誰もが祈り願った時間が
今此処に、映し出されていて。
嬉しそうに、はしゃいで、笑って。笑みが絶えない。
何処までも青い、小さな箱庭の、樹の下で。
天使らの中に囲まれ笑う、子が、目を向けた。
前を向いて、声がした方に、向いたのだ。
その言葉は、彼女の名ではなかった。
ウイスと声にウイスや他の子達もその場を見る。
帰るぞと言って来た破壊神に、お時間ですねと起き上がる。
また来ますと言って髪にキスを落として手を振って帰るウイスに
続々と破壊神が来て持ち場の天使らも腰を上げて帰り始める。
やめて、そんな言葉が零れだす。
嫌な予感を察知したのだろう。
このまま止まればいい、もう醒めて良い。
これ以上はいけないと寝ていた身体を
起こそうとして、声がかかる。
此処で起こせば、一体彼女はどんな気持ちになるだろうか?
この続きに縋ろうと身を落としてしまわないだろうか?
そう言えば誰もが止まる。
本当は止めてやりたいし、徐々に消える天使らに
明日は何をしようかとぼやく
彼女の言葉が痛々しくて聞くにも堪えない。
今を見なくなったのだ。
今を見たら、きっと、泣いてしまうから。
泣いてしまえば、誰もが此処に残ってしまうから。
それだけは、どうか、それだけは、したくなかったから。
サワア!
その言葉に煩いですよと一叱りを入れた人の隣で居た子の顔を、
この時一体誰が見ていたのだろうか、想像したというのだろうか。
たった、三文字で、その三文字だけで。
酷く、悲しそうに、色が失ったというのだから。
まるで今迄が夢だったかのように、落ち込む目。
それは、今も見ていた、
この暗闇の中に居る彼女その者の瞳
そっくり瓜二つであって。
夢が終わると思ったのか、
それとも、もう、帰ってしまうと知ったからか。
また来ますねと頬にキスを落として
帰るサワアに、メルはうんと笑って
触れていた手に触れ笑い、そっと手放す。
背中を向けたサワアに、
呼んでいたヘレスの姿が
隠れた瞬間だった。
メルが声に出さず、紡いだ言葉に、息を呑んだ。
…いかないで
気になったのか、サワアが後ろを振り返ると
またね!と言って嬉しそうに笑って手を振るメルが居た。
気のせいかと思ったサワアがぺこりとお辞儀をし
今度こそヘレスと共に消えて行ってから、数分後のことだった。
「っ、」
笑っていた顔が、一気に崩れた。少し上を向いていた顔を
そっと下に向け、声を押し殺し泣き始めてしまったのだ。
たった、五文字だ。それすらも、言えなかったのか。
いや違う、言えないのではない、言いたくなかったのだろう。
言えばきっと、長く此処に居てくれるだろうと、
分かり切っていたからこそ、
彼女はその身に、そっと、そっと、そっと。
抱きかかえたとでも、いうのだろうか。
沢山、我儘を言っていた。
だから躾だと、言い聞かせて叱っていたこともある。
勿論彼女もやり過ぎていたことは反省するし、
ちゃんと出来るように努力を欠かさなかった。
だから、周りも優しく、手厚くしていた。
それも全部分かる彼女だから、だから。
でも、本当に叶えたかった、我儘を
貴方はこうやってひた隠しにして生きていたのですか。
何時かこの力が、何処かで役に立つように。
犠牲にするために、その感情を生贄にするつもりで。
「何時も帰る時は、こうやって泣いていたのでしょうか」
言えば居てくれただろうに、願えば甘やかしたのに。
いかないで、……なんて、
たった、五文字の言葉すらも、
貴方は飲み込んでしまったのか。
「…ずっと帰らない、とあればガイドではありませんからね。」
「ウイスさん…」
「少し酷いことをしてしまっていたのですね。我々は。」
「…人が多ければ多い程、
寂しさも募ることが多かったでしょうね。」
その場で座り込み、泣き続ける彼女に、
そっと寄り添うように天使らが彼女を囲む。
何処も見ていない。それは見えていないからだろう。
大神官が彼女の事を「寂しがり屋」だと言っていたのは本当であったのだ。
お姉ちゃんになったんだからそんなことないと笑っていたのは、強気だった。
本当は誰よりも何よりも寂しさを抱え、助けを求めていたというのに。
廻廊から帰って来たということは、
それ程周囲の者を欺き
願いを一つ持ち続けた者だというのだろうか。
だとしたら、帰らなくてよかった。
何処かで挫けて、終わらせた方が、
ずっとずっと、幸福だっただろうに。
なのに、あんな姿をみたら、そうも言えなかった。
会って、嬉しそうに笑って、頬に置いた手に触れ、
花が咲くように、笑みを零す、あの顔を知ったら。
声を出さずに、笑って、目に手を触れ拭った後、
ボロボロとまた流しながらも耳に手を掛ける。
それにおやめなさい!とコルンが声を出した。
「コルンさん?」
「…っ!!!」
首に手を掛け、大丈夫と声が零れる。
ーだいじょうぶ、ひとりじゃ、ひとりじゃ、ないよ?
「……っ、それは、大丈夫ではないのですよ…!!!」
人が帰るたびに、そう言い聞かせていたのか。
大人になったから、皆、寂しがるなんてしないから。
だからコレは、嘘なのだと。言い聞かせていたのか。
ーうそつき
違う、そんなわけがない。それは、貴方が感じた心だ。
立派な、気持ちなのだ。感情であるのだ。
踏みつぶさないで、壊さないで。どうか、頼むから。
此処に居る、此処に居るんですよ。
例え離れていても、貴方のお傍に、居るんです。
ただでさえプライドの高い天使が
プライドも捨て、貴方の欲しいものに手を掛け
傍に居てもいいかと縋る程に想いを持つなんて
一人ですらとんでもない意外な出来事だというのに。
貴方というお人は、
天使全員をそう、思わせる程の想いを
抱いてくれているのを、
ねぇ、分かっているのですか?
ねぇ、エフェメラル様。
そっと手を胸に当て、
上から指を一つずつ握って確かめ、
一つに束ね握る場所に手が出るも、
何もしない。
首を横に振って駄目だよと声に出さずに笑う。
目を閉じて、一体、何処を見て笑っているのだろうか。
起き上がった彼女はぐずりつつも
赤くなった目を温かいタオルで
優しく包み込んで元に戻してしまう。
ねぇ、引き千切らなかったのは、どうしてですか?
本当は、その場で何度も、引き千切りたかったのでしょう?
この時が、どうか、続きますようにと。
そんな願いを、想い馳せ、そっと、喉元で止め、飲み込んで。
今度は自分が、額縁の中に、生きる様に。
それすらも、貴方は、手を伸ばさなかったのですか。
「貴方が臆病者で良かった。」
「コルンさん?」
「貴方が寂しがり屋で良かった。」
臆病者だから、次に行く時間が長くなる。
その場でとどまるから、
その分こっちが気付く確率も高くなるから。
寂しがり屋だから、人に会わない時の時間が短くなる。
そうやって触れている間、何時しか来る一人の時間に
気付き憂いを纏う姿を見る機会が、少しでも多くなるから。
「待ちますよ、何時までも。」
貴方が、笑えられる、その日まで。
貴方が誰よりも、一番だと言った私が。
貴方の為だけに、プライドを捨て去って。
「
そうしゃがみ、膝まづいて手を差し伸べる
笑って手を前に出して、メルは応えたのだ。
ー
小話:春を
それから月日は流れ、
サワアが目を醒ますことはなかった。
それどころか
「っコニックさん!?」
急にコニックが停止したのだ。
それから徐々に天使らが突然停止し始める。
メルの顔色が漸く色づき、前を見始めた矢先にだ。
「彼女は」
「寝かせて来ました。」
少し離れた位置で話をする。
円卓を作り出し、何時かの会議を想い起させた。
「コルンさんの見解が正しいでしょうね。」
外に生きている自分達と、
此処に居る自分達の身体が
繋がっているという仮説だ。
それには頷くしかない。
「急にコニックさんが倒れたとあれば…
ひょっとしたら此処から出るのは全員が目覚めた時ですかね?」
「いや、流石にそれは安直過ぎかと。」
「そうですか?ですが、彼女の眼は人が増える程光を灯しているではないですか。」
現に此処最近は非常に幸せな夢ばかりを見るようになった。
それが、コルンは酷く恐ろしく感じていたのだ。
こういうのは悪いが、正直まだ涙を流し、縋っていたほうがいい。
そうしたら願いを持ち、華を維持するのも出来る。
でも、彼女らはかつて言っていたのだ。
「願いを忘れなければいいのですが」
幸せの中に溺れ落ち、そのまま本来の願いをすり替えるというものだ。
一応エフェメラル自体、何度かそのすり替えは成功してはいるものの、
それでも奇跡的なものであって、
技か何かと勘違いしない方がいいとまで言われた始末である。
「ひとまず現状は日記を付けて置くということで。」
「誰が見るか起きるか分かりませんからね。」
まるで其処には置くつもりで開いた空間に本を設置する。
一応4冊作り、1つはメルの見ていた夢を数える為のものだ。
1つはこの世界がどうなっているかの説明。何が出来るかとかの話。
1つはこの世界で起きた出来事を簡易に書き記している。
そしてもう1つは…
「まさかコルンお兄様から旅日記なるものの提案がでるとは」
「なんです悪いですか?」
「いや意外過ぎて何処からの情報か困惑しきってるんですよ。」
「一応先にばらしておきますがエフェメラル様とアルトリア様からですよ。」
あの二人、仲が良すぎて人が来ても
話が止まらない時は止まりませんからね。
「前に旅行していた時に宿泊していた施設に
旅日記なるものをお聞きしていた話を思い出したのです。」
「そんなものがあったのですか。」
ええ
「この場所についての愚痴本とでも言った方が正しいでしょうがね。
主に何をしたのか、何処から来たのかとか記して頂きたい。」
「では最初の方に我々も記しておきましょうか。」
「ページも増やせるように張り紙を貼っておきましょうか。」
では私は此方を、そう手分けして移動する天使らに
何をしているのかとメルが気になって来てしまった。
いつの間に起きていたのだろうか。
「そうだ、メルさ〜ん。今からこれに
皆さんで言葉を綴ろうと思っているのですが、
宜しければご一緒にどうです?」
「っな!!」
『いいの?』
「…構いませんよ。ですが、先にお食事を済ましてしまいましょう。」
えーと愚痴を垂れ始めるメルに、
いいからと手で背中を押してやる。
それはこの暗い世界でなければ、
いつも通りの対応とも見て取れて。
「おや、それはなんです?
ひょっとして噂に聞く日本語とやらですか?」
「ちょ!?!?!?」
『お〜ういっさんよくご存知で〜〜』
そうにやりと笑みを浮かべる彼女に、
きょとんとしたウイスだったがすぐに取り繕う。
ある意味この二人も似た者同士なのだ。
取り繕うのが、非常に上手い。
だからこそ、見ていて苦しくなる。
貴方の為ならば、偽善に成り上がってしまいましょう。
それで、貴方がずっと、笑ってくれるのであれば。
「…ええ、そう言えば私の名前はどのようにお書きするのです?」
「あっそれでしたら私めも」
「私も構いませんか?」
『びえ』
「っこれお前達!!!調子に乗ってどうするのですか!!!!」
困らせる等して、何がしたいのですかと怒るコルンに
怒ったと周りが散りに散っていく。空に飛んで行く周りに
きょろきょろと辺りをみて困るメルに全くといって近寄って答える。
「すみません、お困りならば私めが代筆代わりになりますよ。
あやつらがまた騒ぐならばこの兄であるコルンが躾致しますので。」
『あ、ああ…!そ、そんなことしなくても…!!』
「なりません!!全く、貴方はいつもそうなのです!!」
そうやって弟妹を、甘やかし、に、甘やかし、て…
「…だから、こんなことに、なるんですよ。」
『…ごめんね。泣かせちゃって。』
「………ないてません。」
『っふふ、っふふふふ』
「なんです?」
『そうだね、泣いてないね?』
ほら、またそうやって、甘やかす。
小さな子。お父様よりも細く小さい。
頼りない、か弱いお子。お師匠のお子。
ねぇ、お願いです。
どうか、置いていかないで下さい。
置いていくなら、連れて行って下さい。
傍に、居させてくれるだけでいいのです。
嗚呼でも、貴方はそう、思ったのですね。
あの日あの時、お兄様に言えなかった
たった五文字だけの、言葉を飲み込んだ。
あの瞬間に、気付いてしまったというのですか。
「いつか」
『ん?』
「いつか全員が眠って、104回もの時間が過ぎて
お父様がお迎えに来られたら、どうか記憶を消して
この地から旅立って行ってもらえませんでしょうか。」
「っコルンさん!!!」
皆じゃなくていいの?
…ええ、いいのです。
「我々全員なんて、貴方には、
少々荷が重すぎるのですから。」
『…馬鹿ね、そんなこと、しないのに。』
「…嘘つきですね。そうする癖に。」
ああ、体温が戻っていく。
此処に、生きてくれていると再確認出来て、
本気で泣きそうになってくるのをぐっとこらえる。
まだ泣くには早過ぎる。
泣くなら、向こうで、
共に歩み始めた時くらいに
お預けしてしまわないといけない。
『104回なんて物足りない。』
「え?」
『千年続いて、それでも覚めないなら許しましょ。』
「…狡いですよ。」
その間に、誰か一人はきっと、此処に戻ってくる。
千年も宇宙が空白なんて幾ら何でも長すぎるのだ。
それは、もう、貴方があの地に戻るつもりがないと
そう、言っているようなもので。
ねぇ、エフェメラル様。
なら、ひと時だけ、甘い夢をどうか見させて下さいよ。
儚い時間にしか生きれなくなったお人よ。
こんな、暗く、寂しい世界に
一人、取り残されてしまったお人よ。
過去に縋って、もう、歩めなくなってしまった
何処にも行けない、可哀想な、お人よ。
どうか、死んでもいいと答えて下さい。
『狡くていいよ。』
だって、お父さんに似たのだから。
そう笑ってくれる。
嗚呼、本当に、親子共々狡過ぎる。
何かの罪になれるのではないだろうか。
「…なら後でたっっぷりと、
ルトラール様から褒美を
頂いてしまわれないと
やってられませんね。」
『えーーーー有り金叩かせる?』
「とりあえず何処でそんな言葉を覚えて来ました??
誰です?この場に居る者の誰かですよね?
今なら怒らないので言いなさい。今すぐに。」
そう言えばきゃっきゃと笑って嫌がる素振りをするメル。
嫌と言っても、拒絶ではない。遊んでいてくれる。
嗚呼、その顔ですよ、エフェメラル様。
そうやって、ずっとずっと、此処で笑えばいい。
そうして、もしも、もしもその日が来た時には。
貴方がどうか、笑って、前を見ていられるように。
私達は此処で、貴方と共に、暮らして差し上げるというのですから。
まったく、贅沢な願いなんですよ?
停止していようがいまいが、ずっとずっと、共に入れるだなんて。
そんなこと、有り得る訳がないというのですからね。
「(愛してる、だなんて。
この私がそんな生ぬるい言葉で
終わらせる訳がないでしょう?)」