さらば過日の共鳴よ
それから、メルがエフェメラル、華樹神として生活を始めて二か月が経ったある日。
「呪いの部屋、ですか?」
『そう、どうやら魔女の呪いがかかった部屋が今各宇宙で頻発していましてね。』
メルが招集をかけたのは全天使だった。
というのも、破壊神に破壊をとは考えなかったのかと聞かれ
即却下と唱えたのだ。勿論理由がある。
『破壊をしてもしても戻ってくるからたちが悪いんだわこれが。』
「…なるほど、華の影響下のせいか、まるで枯れてもまた咲く
雑草の様な生命力を持っていて破壊しきれないと。」
『んんん、いやまぁそうだけども…!!!』
そうだけども!!!!!
『中立である貴方方は一応大元は華神。
私は現在華樹神の位置にいます。
正直貴方達を巻き込みたくなくて
一人で何とかしようと色々ほんとに
ほんとに色々考えたんですが。』
「何度も言いますね…」
『各現在の華神及び加護天使から
「影響下のありそうな子達に説明しとけ」
と念を複数人に押されまして。』
「仕方がないみたいに言いますね……」
本当に仕方がないのだ。
『まぁやろうと思えば魔女の呪い以上を
上乗せ上書きすりゃいい話なので
出来る話ではあるんだけれどもですね。』
「いやしないで貰っていいですか…?」
『頑張って抑えてます』
「おさえ……」
『話を戻しまして、今回貴方方にお伝えしたいことは
魔女の呪いである空間に飛ばされた経験のある方をと。』
その話で、周りの天使達が見合わせるが、
各々首を振った。
「ちなみに、どのような場所なのですか?」
『白い空間に、ドアが一つ。ドアの上にお題があるんです。
お題に沿わないと一生出られない場所で、気を扱えないとか。』
「それなら第2でありましたね。」
「第9でも」
「第6でもありましたよ。」
「第7では似たような空間があるのは
耳にしましたが、不透明です。」
『おお、案外ありますね……???』
不透明だろうが何だろうが、
似たような空間が出ている時点で困ることだ。
「して、何故それがいけないのですか?」
「お題をクリアすれば普通に出られるのでは」
『いやそれが普通ならばいいんですが…』
「その空間自体に問題があるのですよ。」
「っアルトリア様!!」
その呼び方は止してください
と困ったように笑うアルトリアもといアルト。
口調は昔からしてかなり丁寧になったが、仕事中での話。
メルの背後から歩いてきて、話に参加してきたのだ。
「その空間は華神だった魔女が作ったものです。
その中に普通の人間が居続ければどうなります?」
「…まさか、華神に?」
「その可能性はかなり高いですし、
我々元華神や貴方方天使達が影響されない
という訳もどうやらいかなさそうなので。」
「なるほど、それで警戒及び調査をと。」
招集したのはそういうことだ。
現に幾つかの宇宙では耳にされている。
大神官様には一応召集の許可を得て今会議をしている。
「大神官様とお話をしましたが、
もしその空間に入れば戦闘許可を出しても
良いとの判断を頂きました。」
「っなんと!!」
『ただし、それはあくまでも
出れない状況下であることが前提条件。』
「まぁそりゃあそうですよね。」
「長時間居座るとどのような影響を
及ぼすかわかりません。
事と次第によっては、という判断です。」
その話を共有するという意味でも、
今回集まってもらったということだ。
各天使達はその話を聞いて納得する。
こういった話は実際会ってから話した方がいいからだ。
話がずれたまま、覚えられても困る。
「サワアお兄様やモヒイトさんの方ではどのようなことが?」
「私の方では、相手と会話をすることや食事をして外に出たとお聞きしております。」
「第9では相手と戦う、秘密を暴露する、と言った内容です。」
「結構話が違うのですね。」
「人間レベルでしょうか?」
『いや、恐らくランダムだと思います。』
何かあるのですか?そう聞いたのはコルンだった。
メルがこういった場で断言するのはなかなかない。
『単に情報が少なすぎるというのもあります。
母数が増えればその内容も異なっていくでしょうし。
皆さん人数は気にされました?』
「いいえ」
『今後誰かが巻き込まれた場合数も含んでおいた方がいいでしょう。』
一人で、なんて起きた日には二度と出られない可能性がある。
『(新たな華神を作り出す…天使を餌に、とんでもない悪魔を作り出そうと企む魔女も昔は存在したハズだろうし。)』
いない、わけがない。
願いを叶えられず、淘汰されていった魔女たちの力は計り知れないのだ。
いまでこそ、平和に暮らせているが、
これはあくまでも流れでこうなっているだけで、
その場に出くわしていれば、どうなっていたか。
考えたくない話だ。
「わかりました。一応懸念しておきましょう。」
「それにしても不思議ですね、気を扱えないのですよね?
神々もその話に入るのでしょうか?」
「と、いいますと?」
「例えば…天使ではなく、人間、になるとしたら?」
『……モヒイト』
「失礼、余り触れてはいけないことでしたか?」
『いや、構わないですが…言えば本当になりそうでですね。』
嗚呼、そう、フラグというものだ。
これで確立されたらモヒイトの責任にとはならない。
というか私も割と考えていたことなので、
どっちかっていうとこっちがフラグを立てている気がするが…
「うっ、すみません」
『いや構いません』
「ですが、人間だと猶更厄介ですね。気を扱えない上に感情を持つとは。」
『破壊したくても出来ないというのは、内側から。
外側は何処に生成されているのか未だ未確認です。
見つけ次第、即報告を入れて頂きたい。』
場合によっては
『最悪の場合、全華神と加護天使を招集のち、
封印した後消滅させる儀式を執り行います。』
「…まさか、アレを?」
「あれ?」
そう聞き返したコルンに、アルトが青ざめていた顔をコルンに向けた。
「あっや、あのですね」
「アルトリアさん?お聞きしても????」
「ひえ」
『…華樹神は華神を統べる者。破壊神の破壊規模では話にならないのです。』
「というと?」
『無かったこと、にするとか。』
メルは一度も、してはいないが。
自分をやろうと思ったことは何度かある。
まぁそんなことをして、彼らが許すとは思えない。
『下手すればこっちがなかったことになりかねないヤバイやつです。』
「駄目じゃないですか!!!!!!!」
「やめましょう!?!?!?!」
『だからするかどうかは、最悪の場合です。』
流石に奥の手を即出すなんて真似はしたくない。
禁忌中の禁忌な上にやったことなんて無いに等しい。
それが成功する確率なんてたかが知れているというものだ。
『皆さん気を付けて下さいね。』
そう、私は言った。
そういったのだ。
『だからどうしてフラグってこうも立つんですかねぇ!!!!!!!!!!!』
「飛ばされちゃいましたね。」
『そうですね!!!!!!!ほんとごめんなさい!!!!!!』
「いえいえ」
ニコリと微笑むのは第二宇宙の天使であるサワアだ。
メルは服装こそ華樹神であれど、
その頭には冠どころか腰元の華はない。
「一応天使である、にはありそうですね。」
『…こっちが力を失うパターンは想定外でした。』
天使であるサワアの方は至って通常らしい。
ただ、
「っと、攻撃は全て無効化されていますね。」
『ですよね、ソレ、出してから、かき消されていません?』
「ええ、仰る通り、力を出した瞬間消滅していますね。」
まるで、無かったことにされているみたいに。
「それで、お題なのですが…エフェメラル様はお読みに?」
『なれているから困っているんです!!!!!!!!!!!』
そう、まだ簡単だから良いのだが…
お題は1つではない、3つと言うのが困っている。
『全て書いていることを上から順に言います。
ようこそ、○○しないと出られない部屋へ!
此処は願いが叶わないと出られません。
部屋にいる間は外の時間が進みません。
飲食物など必要最低限は冷蔵庫を開ければ
出てくる仕組みになっています。
それでは以下のお題を3つ叶えて下さい。』
そう、その内容が、だ。
「…メル様?」
『…とりあえず、サワアさん』
「はいなんでしょう。」
『お兄さんは簡単なものから、いや直球に聞きます。
これから滅茶苦茶嫌なことが出てきます。
お兄さんお付き合いは?』
「しておりませんよ。天使ですし。」
まあする必要性がないのは分かっていた。
『いや破壊神様がおるではないですか。』
「アレは仕事上の関係です。貴方でも、カミカゼ様やルトラール様達と恋愛感情を抱くなんてことはしないでしょう?」
『嫌無論そうですが』
「それと同じことです。して、嫌なこととは?」
『うっ』
「メル様?ここを一刻も早く出なければならないのであれば、我々はすぐに情報共有をし、行動に移さねばならないことをご存じですよね?」
『そうですけれどもぉ』
うっと今度はサワアの方が引く。
半泣きの彼女に問い詰めることなど出来ないからだ。
「…では、貴方の出来る範囲からお伝えしていただいても?」
『一応、この中では…お互いが作った料理を間食することですかね。』
「…そんなことですか?」
『いやそんなこととは言いますが、お兄さん出来れば赤とか緑、茶色を基調とした食事を頼みます。』
「それは別に構いませんが…」
調理器具はと周りを見渡す。
この場所には精神と時の部屋の様な入り口はなく、とにかく広く白い空間が広がっている。
強いて違うとすれば、目の前にドアが生成されていて、その上にお題がかかれていること。
ドアの隣には、看板が浮遊しており、分かる文字に生成されて説明書きがなされている。
上のお題は、日本語オンリーというのが、妙に魔女と言うかなんというか。
『とりあえず一般的な調理器具をと考えたら出ますね。』
「おお、此方を使っても?」
『構いませんというか、独りずつ作るよりも強力した方が早い気がします。
食事をするというものですし、簡単な料理をと。』
おもい、私は調理器具を出した隣に冷蔵庫を思い浮かべる
元々ない空間だったが、冷蔵庫を思い浮かべると、其処に出現し
中を見てみると具材が沢山入っているのが見える。
『よし、ひとまず簡単なものを。』
「それは?」
『卵かけごはんというものです。』
白米の上に卵を乗せ、醬油を垂らし、ご飯と共にかき混ぜる。
人によっては先に卵を溶かし、
醤油や砂糖などの調味料を合わせてから
最後にご飯へと書ける場合もある。
今回は時間がないため、少ない量でと思っての簡単なものだ。
『サワア様は』
「では私も似たようなものを。グーデラをロラスに入れ混ぜ合わせたものです。」
そう言って冷蔵庫から取り出した赤い木の実を片手で細かく切り、溶かす。
溶かしたものを、緑色の白米にかけて混ぜ合わせたものだ。
卵かけごはんの容量で、とりあえず椅子と机が出てきたのを機に、二人して作ったものを交換する。
『頂きます』
「頂きます」
手を合わせ、日本人の礼儀を見せたメルにつられたのかサワアも同じ様に呟いてから食べる。
んんとサワアが声を上げた。
「これは美味ですね、程よいグーデラの甘味とロラスの触感がまた…」
『黄色いのが卵、白いのが白米って言います。
その感じだと、赤い木の実が卵ですかね。』
「ええ、グーデラが木の実、貴方の言う卵、というものです。」
そう説明をされ、口に一つ入れる。
これが案外美味しくて目を丸めて驚いた。
『美味しい!!』
「そうでしょう?時々ヘレス様が急いでいる時、
朝食を抜かれることがあるので、そのとき用に
お作りすることが多々ありまして。」
『ああ〜わかる、分かりますその気持ち。
朝凄い忙しくて、でもとりあえず食べときたくて
時短というか、すぐに食べて栄養少しでもって時に
やっちゃうんですよね〜〜しかも美味いときた。』
流石に大量に朝食べると腹を壊すが、
これで焼いてたべるのも美味しいし、
鍋の〆に入れるというのも美味しいのだ。
そうサワアと話をしながらも、食事を楽しみ、綺麗に完食をする。
するとドアの方からカチリという音がしたのを二人して聞く。
「聞こえましたか?」
『ええ、音しましたね。』
「後2回したらこの部屋から出られそうですね。」
食器を洗う必要もなさそうです。
そう言ったサワアに、メルも頷く。
食事を取り終え、鍵が開いた音と同時に、
食べていた食器や調理器具が消え失せたのだ。
「さて、あと二個ですが…メル様」
『ひえ』
「…別に私は貴方とあれば構いません。」
『いやですねでもですね、いやまだこれはマシいやうんマシか?うん???』
「次は何です?」
『…お、お互いにですね。』
「はい」
メルはもじもじと右へ左へと視線を逸らす。
『お、お互いに、お願いを聞く、というものです。』
「…では、話が早いですね。メル様」
『はい?』
「三つ目のお題は何でしょうか?」
お願いですから、教えて貰えませんか?
そうニコリと微笑むサワアに
メルは酷い!!!と半泣きで首を横に振った。
「酷いも何もありません。そんな襲うような話ではないのでしょう?」
『う』
「…まさか、そうなのですか?」
『い、一応そ、その…は、はぐをですね。』
「はぐ?とは」
『おっと????』
ハグを知らない。知りませんね。
あの愛を貫く場所でハグが浸透していないのも
まぁハグ自体愛の表現ではあるものの、
それは地域で違うものでもあるし。
『ハグとは、愛情表現の一種です。こう、抱きしめるやつです。』
「ああ、抱擁のことですか。」
『それですね。』
「…え、それだけですか?」
『いや5分という短いようで長い時間をですよ?
サワア様が私を触れるなんてきっと嫌で』
「いいえ?貴方が良ければ私は触りますが。」
『えっ』
「え?」
とんでもない話が聞こえた気がする。
あと椅子から立って軽く逃げるが、
サワアもまた席を立ち、メルの跡をついていく。
メルはサワアを見つめつつも後ろに下がる。
「私がいつ貴方を嫌いだと仰いましたか?」
『いやえとですね』
「あと貴方からお願いを聞いていないのですが
先にお伝えします。ハグとやらを無かったことにはしませんよ?」
『うっで、でも』
「はぁ…ほら、構いませんから。」
そう言って杖を消し両手を軽く広げるサワアに
メルは胸辺りに手をぎゅっと握り締めたまま、恐る恐る彼に近づく。
大丈夫?本当に?と言いたそうに、前に来る彼女に近づくと
「…分かりました、動きませんから。」
ぴょんと飛び跳ね、とんでもないスピードで距離を取ったのだ。
ちらりとベット横から覗き込むメルに、両手を上げるサワア。
丁度ベットもあるしと腰掛けたサワアがトントンとベットに手を置いた。
『っ』
「貴方の好きなタイミングで来てもらっていいですよ。」
『うう』
「…っくくく」
『なっ、何を笑って』
「ほんと、何もしませんよ。」
そう笑う彼に、メルはわなわなと震えあがる。
もうと言ってサワアの隣に勢いよく座った後、
メルはベットに膝立ち、サワアの肩に手を掛けた。
『こ、こう…?』
「これがハグですか?」
座ったサワアの膝の上に少し座り、
サワアの背中に手を伸ばし、軽く抱き着く姿勢になる。
抱き着いていれば多分大丈夫だとは思う。
メルはそうだよと言うしかなかった。
意外と近くでも緊張するというのに、
自分からハグをするとなると心臓が爆発しそうになる。
『あ、あのね、サワア様』
「はい」
『お、お願いなんだけど』
「ええ」
『こ、こんなことしても、私を嫌いにならないでくれる?』
「………それで、いいのですか?」
そんなことでと目を丸くするサワアに、今度はメルがえっ?と聞き返す番だった。
「そんなこと、鼻からするわけがないでしょう。
寧ろこうして貴方が抱き着きに来てくれたことが
私は嬉しくて仕方がないのですから。」
『えっ?あっちょ』
軽く、少しだけ強めに抱き返すサワアに、
メルの緊張が跳ね上がったのか、身体がこわばり固まる。
どきどきと心臓の脈打つ音が聞こえなくもない。
サワアはクスリと鼻で笑った。
その懸命に前を向いて走り続ける彼女が
自分の為にと言って自分から近づいてきたなんて
可愛らしいことをされて、気分を害するなど。
ましてや、嫌うなんてあり得るわけがないのだから。
自分のことで、周りが見えなくなって困り果てる姿をみて、
嗚呼ダメだなとサワアは気付く。
「(これが短い時間でよかった)」
もし、長い時間一緒に居続けると、どうやってしまうか、分からない。
そうサワアはちらりとメルの方を見る。
メルはそれどころじゃないのか、眉を下げて、口をぎゅっと閉じ
兎に角早く時間が過ぎるのを待っていた。
どきどきと心臓の音が大きくなっていることに
サワアが気付いているなんて、知りもしないで。
「(ほんと、中立なんて忘れてしまいそうになる場所ですね)」
貴方の為なら、この身を捧げてもなんて言葉が出てくるというのに。
カチリと音が鳴った。
外に出られるという音だ。
メル様と言ったサワアに対し、ご、ごめんとメルが言う。
『こ、腰抜けちゃって…』
「…っふふ、分かりました。では失礼しますね。」
『えっ、あっ!』
そう笑ったサワアはメルの足を掬い、姫抱きのまま立ち上がる。
体制が不安定になったメルがぎゅっとサワアの胸板に掴み寄る。
「そのままで構いません。帰りましょう。」
『え、あっでも』
「歩けないのでしょう?ならこのままで構いませんよね?」
『やっ、あの、そ、うだけど。』
役得、とはこういうものなのでしょう?
そうサワアは思いながら、メルをゆっくりと抱きかかえてドアの方へと向かったのだった。
鍵はもう、既に開いていた。