花違いであなたに出会う




ガチャリと部屋から出た後、身体が宙に浮き、ぐらつく。

「っと、危ない」
『っコルン様!!』
「大丈夫ですか?空から落ちてきましたが」

そうメルが落ちてきたのを
上手くキャッチして聞くコルンに
メルははいとはっきり返事をする。

『すいません、先程まで魔女の呪い部屋
に閉じ込められていまして。』
「嗚呼、そうでしたか、やはり噂は本当、ということですね。」

真剣そうに言ったコルンがすぐに口を紡ぐのを止めた。
それに、メルは首を傾げどうしたのかを聞くと
いやですね、と困惑した顔で聞きだす。


「…ちなみに、その部屋は白くドアの上に
お題の様な物がかかれていませんでしたか?」
『え?ええそうですが』
「…悪い知らせですいません。」

後ろをと言ったコルンが前を向く。
ぎぎぎ、とさび付いたブリキのように
後ろを向いたメルの目線には、


先程と同じような形の世界が広がっていた。




「ちなみに、差し支えなければ何方と居たか、お聞きしても?」
『サワア様と居ました。』
「このような三つほどのお題で?」
『はいそうで…えっコルン様、待って日本語読めるんですか?!!?』
「簡単な内容でしたら、以前アルトが書いていましたので。」

嗚呼なるほど、読み盗んだのか、
そうでなくても賢いコルンのことだ。
きっとルトラールからも日本語を教えて貰えたのだろう。


「とりあえず、メル様お腹は空いておられますか?」
『い、一応…?』
「では先にお食事を作っていきますか。」

立てれます?そう聞いたコルンに、ええとメルは答える。
ゆっくりとおろしてもらい、礼を述べるといいえと答えられる。

「その間に大したことでもない
何となく隠している秘密を話しましょう。」

調理器具の前でメルはハンバーグのレシピを見ていた。
コルンの話に首を縦に振りつつ、
必要な材料を台の上にのせて調理を進めていく。

「メル様からという訳にもいきませんし、私から言っても?」
『え、別にいいですが、良いんですか?』
「勿論、女性にましてや貴方は華樹神様です。
貴方に言わせるなど、このコルン、
天使として恥さらしも同然。」
『いや別にそんな話ではない気が…』
「そうですね、大したことではないですが」
『おっと話が進んだぞこれは。』

メルの話を無視し、うーんと言いいたそうに
明後日の方向に目を向け、顎に手を乗せて考えるコルン。

「…アルトの躓いたところを盗み見てしまったことでしょうか。
此間頑張って洗濯を一人でこなしていたところを目撃しましてね。」

勢い余って歩いたところ、洗濯籠に足を取られ、
こけちゃったところを見てしまったらしい。
確かに、どうでも良いが、少々人に言うには言いにくい。
何となく隠してしまいたくなるものだろう。

そりゃ可愛らしい秘密だなぁとメルは思いながら、ハンバーグを作っていく。

そういえばとハンバーグに何かを入れるメルに、なんですかとコルンが聞く。

『隠し味』
「ほぉ?」
『おばあちゃんが作ってたのを
見様見真似で作ったことがあってね。
それをお母さんに食べて貰いたくて
一時期頑張ったことがあって。』
「それはそれは、お母さまも大層喜びましたよね」
『ううん、食べてないの!』
「え?」


『大したことはない、私の小さな誰にも言ってない秘密。』


メルは微笑み、ちらりとハンバーグのタネを見て言う。

『お母さんその日遅くて食べる気なくて食べなかった。
冷めたハンバーグは後で温めて私が食べたんだよ。』
「それは、本当に、大したことではないのですか?」
『そうだよ、こんなの、こんなの…序の口過ぎる。』

手に力がこもる。それでタネが手からあふれ出る。
それを繰り返して、具が綺麗に混ざってから、
空気を抜くように手の中でタンタンと
音を立てつつもハンバーグの形を作る。

『でもハンバーグに罪もないし、私これ好きなの。
だって私が初めて料理で成功したものだから!』
「…っ」
『お父さんは嬉しそうに食べてくれた。
だからなぁんとでもない普通のことなんだよ。』
「人は、人間は、それを普通と、
言わないのではないのですか。」

温かな家族、食卓を囲む姿をコルンは思い出す。
フェル達と食事をしていた時もそうだ。
メルは、一度たりとも周りを見て食事をしなかった。

それは、そういう食事をしたことがなかったのか、それとも

「家族の食事を、味わいたくないのですか。
それを知った時、その願いが叶わないから。」

ぴたりと止まったメルに、
やはりそうかとコルンは確信した。


メルは何げないと思っているが、
コルンからしたら結構な内容だと思った。

正直天使である自分が、そんな人間のどうでも良い話を
結構だとか思う訳もないのだが、人が人なのだ。

願いの先を見ていた場所が、その途中にあったのなら。
それは、大したことであるのだろうから。

『でも、かちゃりって落としたよ』
「メル様…」
『ほら、こうして蓋をして暫く放置すると出来るよ。』


綺麗でフワフワのハンバーグ


『私の大好きな、ご飯の一つだよ』


飲み込んだのは、ハンバーグか、それとも。

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ごちそうさまでしたと手を合わせたコルンに
お粗末様でしたとメルは答え食器を下げる。
下げ終えた後、綺麗に消えて無くなる。

「残るは、」

花畑から花束を作ってお互いに送りあうもの。


『ほら綺麗ですよコルン様!色とりどり!いやほんと』
「色とりどり過ぎて逆に目が痛くなりません?」

わかるぅと間延びした返答に、
コルンはため息を吐くこともなく、
ただメルの跡をついていく。

ぱたぱたと軽く小走りし、
右へ左へ前とうろうろする。

「これ、そんなにするとこけますよ。」
『大丈夫です、それにこんな沢山あるんですもの。』

コルン様も考えずに好みで作って下さいよと笑うメルに
まぁいいかと思いつつも、何時しかの時を思い出していた。

しゃがみ、その小さな花弁にそっと手を触れる。
葉腋から穂状花序を伸ばし、
苞で何層にも覆われた青紫色の小花が軽く手で触れて揺れる。
花から飛び出た二本の雄蕊が茶色く目立つ花。

「メル様此方を」
『え、いいんですかこんなに!!』
「ええ、貴方に相応しいと思いましたので。」

コルンが見つけたのは3種類の花
束にしてメルにゆっくりと渡した。


『きれい〜!』
「そういえば小さく花言葉を告げろと書かれていますので一つずつ説明を」

まず一つと指を指して話し出すコルン。
もう片方の手は後ろに回し、花を見て説明する。

「此方はルリハナガサと呼ばれる低木の花です。
花言葉は「華憐の極致」」


葉の形は卵から楕円形になっており、
緑が濃く、白い葉脈が目立つも、花よりも目立たないのか、
その花の色が青紫色で余りにも色鮮やかなのか、
葉が際立たせているようにもみえる。


5つの花びらが開くように咲くその花の隣に咲いていたものを指さす。

「次に此方は貴方も良くご存じのはず。」
『ホウセンカですよね』
「ええ」

一年草で夏に咲くもの。
よく小学生の授業で目にする綺麗な花だ。

授業で取り扱われるというのも、枯れることなく
水と日光さえ続けて育てれば、芽吹くのも割と早く、
見た目も分かりやすいという意味でも取り上げられている。

熟した果実に触れると、タネがはじけ飛ぶことからか
理科の授業でよく目にする花でもある。


花は八重咲で、ひらひらとレースの様な花びらが白く光っている。
ぎざぎざの葉っぱが印象的な、しっかりした茎を持って聞く。

「そうですね、花言葉は…「心を開く」
あとは「触れないで」、でしょうか。」
『開くのに触れないで?』
「ええ」

あとはと赤い花に指をさす。
五弁花で、花弁はハートの形をしており、
小刻みに先端が切れているものだ。
撫子の花の形が想像しやすいのかもしれない。
他の花と比べてその間に位置する大きさの花。

放射線状に咲くその花をみて、花言葉はと告げる。

「「二人の秘密」ですかね。
まぁ、と言ってもセアノサスと迷ったんですがね。」
『ああ、その花ですか?
可愛らしい花ですね。私も好きですよ。』

一つ一つの花が小さく、
アジサイの様に広がり束になっているその花。
青紫色で、花の雄蕊が黄色い印象的な花だ。

花言葉は、

「「純朴」「温厚」または「淡い恋心」です。」

『じゅ、純朴って…私そんな素直な人ではないですよ?』

「貴方を素直でないと言えばどうなるんですか。
確かに誤魔化したりはしますが、その心はひたすら真っすぐ。
花が日光を追い求めるように前を見る貴方を、
どうして純朴ではないと言い切れるのです。
余り私を困惑させないで頂きたい。」


『いや逆にどうしてそこまではっきり言えるのか
私の方がなんなら謎で困惑しているのですが。』


そう困惑するメルに、いえいえとコルンは続けて話す。


「それ程、此方はそう見えているのですよ。メル様。」
『うう…じゃ、じゃあ、ありがたく?』
「ええ、受け取って下さい。」

手を前に出すコルンに、
メルはその花をじっくりと改めて見つめる。
青紫色に、白い花色に、赤い色。
花言葉負けをしているような花束に、
メルは笑ってコルンに向き直り言うのだ。

『可愛い花束をありがとうございます。』


嬉しい気持ちを、率直に告げて。
その姿をみて、コルンはほらと思う。



そうやって、貴方は素直に気持ちを伝えるのだから。


「…いえいえ、ではそちらを頂いても?」

そう手を出すコルンにええとメルは言って花束を渡す。
メルもまた、コルンと同じように三種類の花を作った。




「これは…キリシマリンドウにネメシア、それにコバノランタナですか。」

コルンが言ったのは正しく、青紫色と白のキリシマリンドウに
オレンジ色のネメシア、そして桃色のコバノランタナだった。

『ええ、確かリンドウは「正義感」で、
ネメシアは「偽りのない心」
コバノランタナは「厳格」「成長」
という意味があったはずです。』
「…これこそ、私が持ってはいけないものでは?
とてもじゃありませんが、私は持ち合わせて
いないものでは、と思うのですが…」
『いえいえ!そんなことないですよ!!
コルン様はとっても厳格で正義感の強い方だと思ってます!』

正直で、偽りのない心を持って、真摯に相手と会話をする彼を、
私は尊敬しているのだと、メルはいうのだ。

「(本当、他の花言葉を知っているのかどうかで話が変わるのですが。)」

リンドウ科の多年草であるキリシマリンドウは
白と青紫色の鐘型の花を咲かせている。
花の先端は5裂になっており、
前に咲くそれは「勝利」「正義感」を意味する。

ネメシアは朝顔の様な開き方をした花だ。
五弁が唇形で色鮮やかな花を束上に咲かせる。
品種によって一年草や宿根草と変わるもの。
花色はオレンジ色で、葉は少し小ぶりの披針形から卵形をしている。
花言葉は「偽りのない心」「正直」「包容力」

コバノランタナは、ランタナの一種だが、
その花色は変化せず、半つる性の小葉で
淡紅色の小さな花を多数咲かせることから、
「小葉のランタナ」から名前がつけられた説もある。
「優しさ」「進化」「成長」という花言葉。


「尊敬、ねぇ。私は尊敬されるような面持ちではないと思うのですが。
貴方の、ルトラール様のような方こそ、尊敬されるに相応しいというもの。」
『ご謙遜を。充分貴方だって尊敬されるべき人、いや天使ですよ。』

現に私は尊敬していますし。
…はぁ、だから私は貴方を純朴だと言っているんですよ。

そう頭を抱えるコルンにメルは笑って話を流そうとする。


『本当はゼラニウムを入れようと思ったんですが、
思った以上に他の花が強すぎて、控えめな花をと思いましてですね。』
「確かに、どれもこれも、花弁は大きいですからね。
それにしても…花言葉をご存じで?」
『嗚呼、「尊敬」しか私知らなくてですね、他にも意味が?』
「ああいや、知らなければ別にいいのです。」
『えっ待って失礼な花でしたっけ!??!
送っちゃ駄目な花ありましたよね!??!?!』
「いや別にいいと言っているでしょう。」


ゼラニウム
その花の葉はハート形をしており、
葉縁には鋸歯状のぎざぎざした形が印象的なものだ。
手入れが簡単で長く咲き続けるので、
世界各国のホテルや店舗、家庭の窓辺やベランダでよく見られる。
多年草のこの花は、白や赤、桃など様々な色があるこの花、

実は素晴らしい治癒力を持つ薬草と用いられてか、
悪霊を追い払う効果があると信じられ、
玄関に花を植えて魔除けにしていた話を、
フェルから聞いたことがある。

といっても、問題はそっちではなく花言葉の方だ。

赤は「貴方が居て幸せ」黄色は「予期せぬ出会い」
桃は「決意」白は「偽り」「貴方の愛を信じない」
という意味を持ち、白色だけ嫌いな人に贈る花という
噂までついてくる始末の花言葉。

だが、その中でも


「(優柔不断に、決めかねていいのかと、仰るのですかねぇ…。)」


とある子の姿を思い浮かべ、コルンはため息をついた。
以前あわあわとメルが慌てふためいている。
なんとも心を見透かされている気がして、
寧ろこっちの方が慌てふためきたいくらいだ。

その花が、白ではなく、もし桃になった時。

「貴方は、私を許してくれるのでしょうかね。」


例え、貴方の大事な人を一度だけでも殺し、
未来を壊した末裔にもなる、我々天使を。


『コルン様?何かいいました?』
「いいえ、なんでも。
そんなことより鍵の開く音がしましたね。」


行きましょうと歩くコルンに待ってと花束を持って歩くメル。
全く、置いて行けばいいものをと思うも、コルンだって花束を持ったまま歩く。


「こけないでくださいよ」
『だいじょうっぶ!!』
「ああこら!もう…貴方と言う子は」

大丈夫ですか、そう転げたメルに、手を差し伸べる。
花はぐしゃぐしゃになってしまい、ふぇえと半泣きのメルに
コルンは置いていきましょうといっそのこと自分の花も地面に置いた。

「此処から持ち出したものが厄災を産む可能性だってあるのです。
これくらいの花であればそこら辺に咲かせれるでしょうし、
別に私が出したっていい話で」
『の』
「…メル様」
『嫌です。コルン様が、私に、選んでくれたこの花がいいの。』

子供の様に、駄々をこねるメル。
くしゃくしゃになった花束に、そこまで執着するものか。
可憐というよりも、幼げが似合う彼女が。

それを

「ダメですよ。幾ら何でも。
メル様はこの場所に充てられているだけです。」
『うう』

手を強く引っ張り、手を伸ばす彼女を振り切り前を進む。
此処は、外の時間が進まない時の止まった大きな空間だ。
間違っても、外に物を持ち出すなんてことはしてはいけない。

そうして、この空間が作り続けられるとしたら、
蔓延って消しても消しきれない。
そう、一年草のように、枯れてもまた同じ時期に咲く花の様に。


「…出ますよ」

次に出た時は、花を贈ろうとコルンは思った。
あの三種ではなく、今度は、貴方に相応しい、一輪を。