朝はいつも絶叫から始まった




それから、メリアはメルのサポートに徹底した。
メルはメリアのサポートをしたがるも、ウイスに止められる。
スカウトしたのはメリアではなくメルの方なのだから。

迷惑をかけていると思うなら、
自分の周りをしっかりしなさいと言うウイスに
メルは素直に従い、組手の手解きを受けていた。

「もう少し腰を上げなさい」
『こう?』
「いえ、それは背中です。」
『ええじゃあこう???』
「…メルさん、ひょっとしてふざけてます?」
『すいません!!!!ウイスさん!!!!
腰って位置がわかりません!!!!!』
「ぶっ」
「笑い事ではありませんよ、メリアさん。」


そう睨むウイスに、いやだってとメリアは笑った。
正直に手を挙げて目を閉じて白状した彼女の清々しさに
笑う以外方法が思いつかなかったのだ。
メルはメルであわあわしているし、と、
ウイスは手を後ろに持っていき、ため息を零す。

その間にメリアは近づいてメルの腰元を触る。
メルはメルで腕を上にあげて水平にしつつ、下を見ていた。

メルに自分の生きていた時間を数えさせようともしたが、
そもそもメリアと出会った時間がつい数日前のことで
言葉を何故覚えているのかも分からない不明な点が多い。

というか多すぎて、収拾がつかないため、
メルの目覚めた時間はメリアと出会った時から換算している。
部位を知らないのもまた仕方がないと言い聞かせるしかない。

「(見た目の年齢は同じ程ですかねぇ?)」

ビーデルと同い年と言うことは、今現在だと25歳程度だと聞いている。
まぁ精神と時の部屋等を使っている為、正確な年齢とはかけ離れているが。

それにしては幼い印象をみせる。衣服のせいではないはず。
悟空の様な純粋無垢で「疑念」という概念自体知らない訳でもない。
現にメルは「臆病」で、人を見て判断してから動く。
その時点で「疑う」ということは出来ているのだ。

メリアが頭から足までの場所を教えながら手を置いているのを見つつ
メルも同じ動作をしていて、見ている分は可愛らしいとは思う。

目をぱちくりさせ、首を傾げつつも理解をしようとはしている。
理解の速度が少々遅すぎる気がしなくもないが、
まぁ目覚めて数日なら話は別だろう。

いずれにせよ、彼女はこれから存在しうる多くの神々と
恐ろしい程長い付き合いになるのは確定事項であるのだから。

「(嗚呼成程、知っている情報と外の情報が違って困惑しているだけ…ん?)」
「メルさん」

そう脳内で考えていた一つの導きに、ウイスがそっと近づく。
なんですか?と首どころか身体ごと軽く曲げて聞いている彼女に
少し失礼しますと手を頭の上においた。

「…んん………んん??」
『????』
「ん〜〜〜〜〜〜〜」
「何してるんだ」
「…いえ、すいません、メリアさん頭をお借りしても?」
「え?ええ…」
「……ビルス様失礼します。」
「ああ!?なにをぐっ」

無理矢理捕まえて頭を掴みん〜と空を見上げるウイス。
何に気付いたのかも言わず、苦しそうにしていたビルスを解放し
駄目ですねぇと両手を上げて肩を下ろし言う。

「メルさんのみさかのぼりが不可能です。」
「さかのぼり?さかあがりとかの?」
「メリアさんのご想像しているのとは違いますよ。
遡りとは、貴方達が経験した人生そのものを見れるという事です。」
『はわ、天使って凄い』
「天使の姿を想像されている
メルさんの脳内程でしたら見れるのですがねぇ〜〜〜〜」

さらっと酷いこと言ってない?ねぇというビルスに
笑ってウイスは流す。

「それってまずいことなの?」
「かなりまずいですね。
ビルス様だけでなく界王神ら、
そして我々天使の中ですら見れるもの。
何かしらの呪い、か何かの働きか、それとも」

彼女のみ、知らない時空の存在に位置しているのか。

そう言ったウイスに、メルは少し怖くなったのか
胸に手を置いて少し下がる。

「ま、その話も後々する予定ですし。」
『のちのち?』
「ひと月半程になるでしょうか?一応目途は経ちましたので。」
「嗚呼会合的な話のアレですよね。」
『えっ神様沢山?』
「ええ、来られますよ。貴方方の特に、メルさん。」

貴方の為に。そう言ったウイスに、メルは目をキラキラとさせる。
本当に、想像することと、見た脳内の姿はたやすいというのに。
いざ彼女の人生そのものを見ようとすると弾かれる。

これ以上見てくれるなと、威嚇や忠告、いや警告にも見えた。
何にせよ大神官様に報告案件で間違いないのは事実である。

「メルってまさか殺されないよね???」
「まさか!ただでさえ貴重な存在です。
まぁ色々調べられる可能性は無きにしも非ずですが。」
『ひえ!!!』
「するとしてもこうして頭に手を置いて調べる程度ですよ。」

悟空さんらの様な事はしませんので。
そう言ったウイスに、メルはほっと胸を撫でおろす。
余程怖かったのだろうと思う。
まぁ目覚めて数日であの距離は確かに堪えるだろう。

続きしようと言ったメリアに、メルはこくりと頷く。
腰の位置にやってきてからメルの身体が不器用になったのを
ウイスは見逃すわけもなかった。

「もう、メルったら。腰って此処のことよ?此処。」
『え、これおしりじゃないの!!!!』
「っははははは駄目だ私駄目!!!」
「(腰元に蕾があったはずですが…)
メリアさん、メルさんの腰元に何かありませんか?」
「え?ん〜ない、ね。」
「貴方の元にも?」
「んん。ない…かな?」
「つぼみがどうしたんだ。」
「文字通り華神は華を咲かせる神。
蕾を付けていないということは、
人間の状態と変わらないはずなんですよ。」

なので、尚更おかしい。加えて、今回の決定打となったのも、
腰元にあった蕾を見つけたからというもの。
まぁメルというイレギュラーの存在もまた然りなのであるが。

「メルさん」
『なんですか?』
「腰元以外は分かります?」
『はい!ちょっとだけ胸と手が違和感ありますが、分からない程度ではないので。』
「…でしたら、分からない処を腰と思えばよろしいのでは?」

あ、という声に、今度はウイスがクスクスと笑った。
それじゃん!というメルの声に、メリアはそれはそうだけどと言う。

「それ本当にいいのかなぁ」
「今ならいいと思いますよ。話も進みませんし。」
『わあ』
「ん?待ってまさか気すら知らないとか言わないよね???」
『きい?』

想像的中して欲しくなかったな。
そう項垂れるビルスに、ウイスは嬉しそうに笑う。

「まぁ気を操れない訳がないでしょう。見た処少々習得には難がありますが、一度覚えたらすぐに出来そうな方ですし。」
『…がんばり、ます!』
「ええ、そうして頂けると助かります。」
「お前の弟子よりかは素直だしな。」
「ええええ、貴方を含めてね。」
「んぐ」
「ええ、ビルス様ウイスさんがお師匠様なの!?」
「私よりず〜っとお強いですよ?」

そう言うウイスに、最早悪口にしか聞こえんと
ビルスは胡坐をかいて宙に浮きつつ手に顎を乗せて言う。

「いえいえ!」
「ちなみに、正直に言うとどれくらい?」
「そうですねぇ、メリアさんは悟空さん達がそもそも地球人ではないことをご存知で?」
「ええ、セルや魔人ブウの存在も知っています。」

ビーデルの元に居ましたのでと言う彼女に、でしたらと話が進む。

「悟空さんらがサイヤ人であることも。」
「超サイヤ人の形態もご存じですか。」
「まぁ其処しか逆に知りませんね。」
「強さに関しましては、気を知れ出したらにいたしましょう。
先に伝えておきますが、悟空さんの強さが6とすれば
ビルス様は10。私は15程です。」
「いんやくっっっそ強くないです???」

気付いたメリアに、メルは未だ気付かない。
気付かないのにも関わらず、人間の本質だけでなく
神々の存在に気付いてついていく。

無知なのか、正直過ぎるのか、分からない。

『きってなあに?』
「気とは誰もが潜在的に持つ体内エネルギーの比喩表現です。
まぁ簡単に言いますと、貴方の身体の中にある力ですねぇ。」
『はわ、皆持ってるんですか?』
「ええ、貴方も私も。メリアさんやビルス様もね。」
『同じ気?』
「少々異なりますが、そうですねぇ…ま、大丈夫ですか。」

少し早いが良いだろうと告げたウイスがメルの方に向き合って
人差し指を立てていいですか?と言う。


「気とは体内エネルギーだけでなく、精神力にも値します。」
『精神』
「ええ、集中し、その力を操り増減することも可能です。
まぁ悟空さん達は気を高め、ある一定ラインを越えた処に、
名称を付けていらっしゃりますが。」
「それが超サイヤ人ってことよね。」
「そうです。勿論操るということにも集中力を伴いますが、
それ以上に体内にあるエネルギーは限られています。」

例えば、コップを取り出したウイスがそっと水をそそぐ。

「これが身体とします。気は水ですね。
水が一杯になるとどうなります?」
『こぼれる』
「そうですね、同じ様に膨大過ぎる気は身体を破裂させます。」
『〜〜〜〜!!!!!!』
「ウイスさん…メルを怖がらせたいの?」
「おほほほほ!!!ご安心下さい、そうそう柔な身体に仕上げていません。」

私を誰だとお思いで?天使さん!そうですよ〜
そうメルのノリが分かってきたウイスがおどける。

「鍛錬すれば強力かつ膨大な気に変化するから、其処迄考えなくていいってことだよ。」
「ですがこれにも欠点が付きまといます。」
『あ、その水零しちゃうってことですよね?』
「ええええ、その通り。力を放てば水は落ちて戻ってきません。」

自分の身体に自分で注ぎ込むしか方法がありません。
ですので、体力面だけでなく、
気という別の力を回復する速度も関係してくるのです。

説明をするウイスに、メルは首をぶんぶんと振る。

「まぁ歴戦の猛者であれば、相当な極限状態でない限り激しく消耗しても支障はないでしょう。
全て使い果たしたとしても、短時間で復活する程無尽蔵の気を扱えるなら、欠点もなくなる。」
「メルは其処の素質があると見抜いてスカウトを?」
「確実ではありませんが、可能性が非常に高く感じれましたので。」

ただでさえ未知数の存在なのだ。
寧ろコレを放置するのが恐ろしいというもの。
メリアは人間であり、メルもメリアの中に居る。
それはつまり、放置していても数十年で消える命だ。

だが、この魂の数、どう考えても放置して消えるのを
待つより手元で管理した方が早い気がした。

もう一人の、メルの存在も気になるというもので。

『もう一人のメルさんは気を扱えたんですか?』
「ええ、かなり手慣れていましたよ。ビルス様程まで伸びませんでしたが。」
「ありゃ小さかったからねぇ。育てば僕なんぞ余裕で越しただろうね。」
「おや、珍しい。ビルス様がご謙遜なさるとは。」
「あの小ささでウイスの姿を見れるって相当でしょ。」

それこそ、天使の生まれ変わりなんてね。
そう言ったビルスに、メルの表情が少し曇る。

「ま、莫大な気を急激にコントロールする術や技を使用すると、
遅発性乱気症を発症することがありますが。」
『ちはつ?』
「気の感覚が分からなくなり、打つことが出来ないことです。
正確には打ち方を忘れたりと、前段階で色々ありますが。」
『はいはい!』
「はいどうぞ」
『その気っていうのは、どんなことが出来るんですか?』
「そうですねぇ、相手の力の特定をすることから、防御、攻撃、状況判断等様々です。
ちなみにメリアさん、貴方の方でいう舞空術というのはご存知です?」
「ええ、一応」

そう言ってふわり身体を浮かばせたメリアに、メルがぎょっとする。
そう言えば周りもふわふわ浮いていたが。

『えっ?!?!?!?!!空飛んでる!!!!!!!!!』
「このように、気を身体に纏い、空を飛ぶことも可能です。」
『えっ!!!!私も出来ます?!?!?!?』
「扱いを充分出来れば、ですが。」
「ものによれば身体ぶつけてぺしゃんことかなるだろうけどね。」
『えっこわ…やらんとこ。』
「ビルス様」
「いや言っておかないとやりかねないでしょ。この感じ。」

そうですねぇ、確かにとウイスが答える。
尻尾がゆらゆら揺れるのに集中が逸れたメルが
じっと尻尾を見て顔を少し揺らす。

「では気功を撃つことは?」
「小さいですが、出来なくはないです。」
「…少し手解きをしても?」
「はい」

メルはビルスに任せるとして、ウイスは交代させ、メリアの事を見ることにした。
桃色髪を左右に三つ編みしてまとめている彼女の目が此方を睨む。

「どこからでも構いませんよ。」
「…っはあああ!!」
「メルさんよりかは格段にキレがありますねぇ。
気の量は彼女に劣りますが、仕上げればそこそこ。」
「った、やあ!!」

殴りかかったり、足を取ろうとしたりと忙しないメリアに、悠々と解説するウイス。

「撃ってきても死にません。何してもいいですよ。」
「なら、遠慮、なくっ!!」
「っと、後ろから打ち出しても丸見えですよ?」

ほらと、言ってウイスの背後に飛んできた気を軽く指を立てるだけで消し去った。
驚き固まったメリアに、ウイスが背後に飛んでくる。

「その一瞬が、仇になることにもなります。」
「…精進します。」
「おほほほほ!!!よろしくお願いしますね?」
「ところでメルは」
「ビルス様の尻尾がえらく気にったようでして。」

此方を無視して遊んでます。そう言うウイスにメリアが滑り込む。

「ちょっと!頑張ってやったのに何で見てないのよ!!!」
『わ〜しっぽ!!しっぽ!!!!』
「え、待って無視なの?嘘でしょ??」
「本当に周りが見えなくなるんですねぇ。」

ウイスやメリアが近くに行って話をしてもガン無視。
あんまりにも見るので本当は揺らしたくないのだが
仕方がなく揺らしているビルスには感謝するしかない。

「…駄目だね、見えてない。」
『?』
「ん?どうしました?」

何かに気付いたメルが後ろを振り返り身体を起こして立ち尽くす。
その場所は誰も居ない。森の中を見ている。

『…』

口にしようとして止めてを繰り返すメル。
手を動かそうとして、止める。
ゆっくりと胸に手を当てて身体を曲げ、首を横に振った。

まるで諦めるように。ゆっくりと。

『…なんでもないです。』
「なんでもないことないでしょ。」
『いいよ』
「でも」
『いいの』
「…なら、いいけど。」

寂しそうに笑って言う彼女は、明らかなんでもないわけがない。
読もうとしてもモヤがかかって全く見えない。
恐らく記憶を思い起こしているのだろう。

「…では、メリアさんこれに付いてこれますか?」

浮遊したウイスがそのまま空を廻りだす。
それに付いていくメリアに、メルは叫んだ。

『お空飛んでる、天使だ。』
「天使じゃなくても空は飛べる」
『ビルス様…えっじゃあ前世天使?』
「なんでお前の頭はそんな天使ばっかなんだ……」
「おほほほほ!!!まぁまぁ可愛らしくていいじゃないですか。」
「というか普通に天使の話になると凄く馬鹿になるよね君。」

軽く回って帰ってきたウイスがつぶやく。
そうなの!?現にそうだよ。
そう呆れて言うビルスにメルが驚いた。

『はわ!!!』
「語彙力も旅立たれておりますしねぇ。」
『あ』
「ん〜腰が分からないのは服のせいでは?」
「そうですねぇ、確かに胸元から下はふわりとしていますし…ふむ。」

ではこうしますかと、ウイスはメルの衣装を変える。
白いワンピース姿には変わりないが、
肩が丸見えから、 ノースリーブ姿に変化した。

肩の付け根自体は丸見えだが、
先程よりかは比較的動きにくそうには見える。
くるぶし近くまでの長さで、ウエスト辺りが絞れるように
左右に金色のボタンが装飾されていた。

「この部分が腰元ですよ。」
『わあ!!分かりやすい!!!ありがとうウイスさん!!!』
「いえいえ。では続けますよ。」
『はあい!!』

ニコリと微笑んだ後、真面目な話に顔も切り替わる。
それに続いてメルも真面目な顔つきに戻った。
先程まで訓練していた続きに戻すようで、
メリアはそっとビルスの元に戻ることにした。

「そういや君、前に僕の元に飛んできた話してたの覚えてる?」
「え?あ、ああ…覚えてますよ。メルにその後会ったので鮮明に。」
「実際飛んできたって言うと、本気にする?」
「…私を貴方はご存知で?」
「いいや。」

ではと言ったメリアが止める。
気付いたのだ。

「君の中に居た彼女が持っていた魂が、僕を察知して、飛んできたと言えば?」
「…充分可能性ありますね。」
「だろう?それに気付いて納得したんだよ。」

君も同じような気を持ってたからねぇ。
そう言ったビルスが今度は眠いのかあくびをして寝っ転がる。
涼しい風が吹き、そうですかとメリアは項垂れる。

「会いたいですか?」
「まぁ、会いたくないわけではないねぇ。色々言いたいことは山ほどあるし。」
「魂をメルのように分断は出来ないのですか?」
「出来なくはないだろうけど、あの感じからして厄介そうだ。
今は力を扱えるようにして、後々ってところかな。」

つまり、分断はするつもりだと。
そうして、残ったメルは?
彼女単体になったら、今度こそ彼らは何をするんだろうか。

「悪いことはしない、と言いたいけどね。」
「するんですか」
「僕らは上の命令に逆らえないからね。」
「…それでも、それでもいいです。」
「どうして?きっと君は耐えれないのに?」
「メルが望むだろうから。」

酷い結末になることを、彼女は何よりも望んでいそうだ。
誰も居ない場所を振り返り、手すら伸ばさずに諦める彼女を見て、思った。

「きっと何をしても、あの子は受け入れる。それを受け入れない私は要りません。」
「そういうもんじゃないでしょうに。」
「いいえ。貴方方が上に逆らえないように。私も逆らえるなんて出来ません。」

だって彼女は酷いくらいに優しいのだから。

「優しいあの子の想いを、引き継いであげたいと、思ってしまった以上は、ね。」
「…君も大概だと思うけどねぇ。」
「でしょうね。」
「ところで、アレどうにかできないの?」
「無理でしょうね。」

メルは身体を変えて手に力を入れて気を出そうとする。
それに無駄な力が入っていますよ、とウイスに言われ
だらりとしては力を入れての繰り返しだ。

一向に気を撃ち放つ気配すらない。

「…ま、騒いだら覚えるでしょ。」

ビルスは身体を起こし、休憩と声を掛けたのだった。