息が詰まるくらい、鋭く






『おいおいおいおい、食事青々しいなおい』
「お嫌ですか?」

休憩中、と言うよりかは昼になったので食事をとっている中。
メルはため息交じりにその場所を見てぞっとした。
正確には、げっという声と同時にため息を出した。

『食べれればいいんですけど…これ食べ物?正気の沙汰?』
「正気の沙汰ですよ。一口食べてみては?」
『知ってる範囲にこんな恐ろしい色してないから困ってる。』
「メルに同感。マジでこれ食べ物???おなかこわさない?」
「まぁ地球の食べ物に比べれば違いますねぇ。」

お腹を下したらそれまでです。死にはしませんよ。
栄養素的に問題ないと言われ、ならとメルは歯で軽くちぎる。
小さなそのミリ単位とも呼べるほどのものを取って食べる。

「そんな嫌でしたら食べなければ」
「ウイス、いい、やらせておけ。」
「ですが」
「食べ方くらい後で教えればいいだろ。」

好きなように食わせろというビルスに、ではと自分も食事を楽しむことにした。
周りを見渡し、クンクンと鼻で匂いを嗅ぎ、ちびちび食べる。

メリアは腹をくくって食べた後、美味しいと言って食べ始める。
食べ方は少々雑だが、それでもちゃんとしているのは、
環境の賜物と言ってもおかしくはないだろう。

メルは足を椅子に置いて縮こませ、両手でその肉を食べていた。
手がべとべとになるのは覚悟の上なのだろうか。
タレをもペロペロと舐める。

『ごちそうさま』
「もういいんですか?」
『うん』

本当にひとかじり程度。何なら食べない方がマシというまである。
手を洗いに走るメルに、放っておけとビルスは答える。

「暫くやらせておけばいい。どうせ腹が減れば呼び出す。」
「…地球の食べ物を用意しておきますね。」
「いや、まぁいいけど」
「なんです?」
「多分メル、同じこと繰り返す気がする。」


そう言ったメリアの話は的中し、
メルは三日連続で同じことを繰り替えしたのだ。
流石のウイスも痺れを切らし、いけませんと言う。

「貴方の身体は私が作ったとはいえど、
維持するには食事を摂取しなければなりません。
確かに気を扱って維持は可能でしょうが、限度があります。」
『うう…』
「お腹が空いているはずですが?」
『……すいてないよ』

すかないの、とメルは食べていたものを置いて身体を丸めて言う。

『その、お行儀既に悪いとは思うけど、好きな所で食べてもいい?』
「…この際食べて頂ければなんでも構いません。」

そう言うと嬉しそうに笑ったメルが物を持って外に出る。
ふぅとウイスはため息を吐いてそれを見送った。

「へぇ追いかけないんだ。」
「追いかければ食べないでしょう。腹に物が入るくらいわかりますし。」
「卵のサンドウィッチ、ねぇ」
「なんだ?お前も食べたかったのか?」
「いや、なんでも。」

メリアはサンドウィッチをかじり、飲み込んだ。
恐らく、メルは

「ごめんね、二人とも。私が躾していなかったから。」
「いえ、貴方のせいではありませんよ。」
「そうだけどね。そうじゃないんだよ。」
「どういうことだ」
「私家族が居ないの知っていますよね?」
「ええ」
「でも小さい頃に一度だけ食事を共にしたことがあるんです。」
「へぇ、それで?」

その時はとても幸せで、その時間が何処までも続けばいいと思った。
だが、そう願ったのがいけなかったんだと、今でも思っていた。

「両親仲たがいを起こしたまま、死んでしまいました。」

勿論その時私も地球の崩壊に巻き込まれましたが。
そう言ったメリアに、そうでしたかとウイスは言う。

「ですが一度ご両親も生まれ直したのでは?」
「離婚しましたよ。そして二人とも後に自害しました。」

一度だけの幸せだけが取り此処された。
外で食べた、小さな一人の願いが。

「ピクニックにと、外で食べようって約束してたんです。」
「…樹の下で?」
「ええ、メルはソレを見て同じ様に食べてるのかも。」
「なら僕らも食べるか。」
「いや、それは後での方がいいかもですよ。」
「なんでだ」
「もっともっと、深いナニかがあの子の中に入ってる感じがするんです。」

私の中に入っていたから分かるかもしれませんが
そう言うメリアに、ビルスは椅子に座り直す。

「飲み込むしか出来ない食事を、あの子は続けていたのかもしれないのです。」
「同じ様に、10もの魂と寄り添ったが故に?」
「ええ」
「なら猶更ついてやらないといけないだろ。」

今度こそビルスは席を立つ。
何方にと言ったビルスに、トイレと言う。
何故食べ物を持ったままトイレに向かうのか。
本当に呆れてウイスはため息を吐いた。

++++++++++

空は綺麗で、青くない。
でも綺麗なのだ。

青い空の下で、食べたかった。
サンドウィッチをかじった後、メルは置いて身体を横に倒した。

息をする。息が出来ている。息してる。

目を閉じても覚めれる。身体がある。
浮遊している感じはなくて、肉体がある感覚。
それに、メルは付いていけなかったのだ。

今まで肉体を持ったなんて、なかったから。
いや、肉体を持っていた記憶すら、今はないのだから。

『食べ方すら、忘れてしまったんだよ。』

飲み込む以外方法がない。
歯で直接噛んで食べるなんて、教えて貰うなんてなんか嫌で。
それなら誰かに教えて貰いたくて。
でも誰だか分からなくて。

『思い出したいのに、思い出したくない。』

胸が苦しくて、とてもじゃないが食べれる感じがしない。
そもそも食べ方すら忘れた自分に、どう食べろというのだ。

冷たい場所が、酷く居心地の悪さを強調する。
食器と咀嚼音しかしない、あの場所が怖い。

何故怖いのかは、分からないのに。
何故だか酷く怖くて食べるのも失せる。

でも、外に来たって同じで。

『ねぇ、誰なの?誰がこんなに食べたくないと思うの?』

そう言っても、誰も答えてくれない。
魂達は未だに身体の中にあるだけで、答えるなんて術を知らない。

消えてしまえれば、楽だというのに。
殺させてくれないのだ。
長い時間、この時間も共にしなければいけないというと、苦痛のなにものでもない。

きっと触れたくもないのだろう。
自分の記憶が、まるで何かを止める鍵のような役割をしているような気がして。

怖くて、理解していくのが、恐ろしく、怖いのだ。

『…食べなきゃ、』

なんでか食べないとと言うのは分かっていて。
でもウイスに言われた様に、確かに気を使って
身体に満たして空腹を紛らわしても無意味だ。

空腹を知りたくない程に、身体をどうして追い込んだのか。
それすらも分からないから、説明のしようがない。

『あいたい』

誰に会いたいか分からないのに。

『かえりたい』

何処に帰れるかも、覚えていないというのに。

目を閉じても目覚めるのはこの紫色の空の下でしかない。
隔離された、大きな鳥かごの中に居る感じが否めない。

美味しいってなんだろう。
楽しいってなんなんだろう。
分からないことが多くて、頭が混乱している。

酷く眠たくなって、でも寝てはいけない。
寝たら、身体が戻ってこない気がして怖いのだ。

全てを飛ばしてしまいそうで。

目を閉じた。

++++++++++

『…此処は』
「ね、ビルス様あそぼ!!」
「痛い痛い痛い痛い!
何で毎回僕の耳を掴むんだ!
ちっとは大人しくしろ!!!」

いつの間に眠っていたのだろうか。
青緑色の子供がビルスの耳をひたすら引っ張っている。


もう一度言う。

子供がビルスの耳を安易に引っ張っている。


その異様なことに、メルはドン引きするしかない。
ええ、ここいずざ何処。そう思っても、答えは返ってこない。
なんなら自分の姿は彼等に見えていないようだ。

魂の知る記憶の一部分に触れているのだろうか。
破壊神星に居るのは間違いなくて、でも
彼女の姿を、何処か知っていて。

なんなら


『(まて)』


こっちを見てにやりと笑ってきたのだ。
話しが戻り、青緑色の子はビルスの上で項垂れた。

「え〜そんなことしたら遊べない」
「お前はそれ以外に遊び方を知ろうとしないのか」
「だってビルス様こうしたら笑ってくれるから」
「笑って居るんじゃない!怒って呆れているんだ!!」

笑って答える小さな子供。
髪の毛は右側に編んでいる処、昔の時代…とした所か。
腰元には花は咲いておらず、
嬉しそうに笑って居るのが印象的だ。

何かに気付いたのか、ねぇねぇと声を掛けた。

「ねぇねぇ、ビルス様」
「なんだ」
「もしもビルス様が死にそうになったら」
「おい、僕が死ぬと本気で」

「メルがこの心臓を捧げてあげる!」

そう笑って両手を広げる彼女に、ビルスだけでなく、
見ていたメルですら固まった。

「…おい、嘘でもそんなことを言うな。」
「でも」
「お前が居なくなったら次の破壊神はどうする。」
「メルじゃなくてビルス様がすればいい。」
「未来を消してどうする。」
「だって」
「死にはしない」

ビルスは腰元に置いていた手を
少女の額にトンと付けた後、頭を撫でて言う。

「お前は死なない、僕もだ。」

そう言ったビルスが、そっと少女の身体を抱きしめて言う。

「だからそんな悲しいことを言うな。」

その言葉に、少女は寂しそうに、わかったと答えた。



途端、世界が変わる。


まるで、此処を見せたいかのように。
綺麗に変わっていくのだ。
鮮明に覚えているのだと、言い聞かせるように。


分かっていてと、言われているようで。


「…だから、どうしてお前はそう繰り返す。」
「何度だって、繰り返す。
何度も、何度も、何度も、何度だって」

赤赤しい世界で、
紫色の血を吐いていたビルスの隣で
少女が涙を零しながら言っていた。

「私は貴方がいいの!!
この世界は貴方を必要としている、だから!!」

私は捧げる。私は祈る。
両手を組み合わせた後、手を胸に当てる。
その時だった、少女の胸に、一輪の花が芽生えたではないか。

それにはメルも驚きなんでと声が上がった。


「私は、あの人に選ばれたかったから。」
「だ、めだ、ミシュ、おい」
「ごめんねぇ、ビルスさま。」

悪い子で、居ないといけないの。
そう言った少女の、腰元から大きな花が咲き誇る。
我を呼んだか、嘆いたかと声が降り注ぐ

それに応える少女に、駄目だとビルスが手を取る。
回復しようとしているのだろう。
それに、気付いた敵が動く。

ゆっくりと時間が進んで行く。
その姿を私は観ている事しか出来ない。


『…貴方は、其処を願ったのね。』


嬉しそうに、良かったと心から笑って。

痛みでそれどころではないのか、
ビルスの動きが鈍っていた。

メルの反応が誰よりも早く、
ビルスの身体を突き放した。

トンとした音に、腰から上に突き抜けていく光
それをみたビルスの目が固まる。
メルは目を閉じるしかなかった。

こんな現実、直視なんて出来ない。
目を背けるのを、どうか許して欲しい。
でも、あんまりにも酷いのだ。

ぐじゅりとした音が耳に響いて剥がれてくれない。
こびり付いた鍋底のケチャップみたいに。


「め、る?…おい、メル、メル!!しっかりしろ!!!」


ミシュメールという叫びに、嗚呼とメルは声を零した。
貴方の本来の名を、彼等は知っていたのか。

赤い血に、ビルスの顔が豹変していた。


「る、す、さ…け、が」
「っ馬鹿馬鹿馬鹿この大馬鹿者が!!!何故庇った!!」
「だ、て、しんだ、ら、みん、な、こまる、でしょ?」
「だからと言って庇う馬鹿がおるか!!」
「ビルス様!!」

そう言ったウイスの声に、前を向く。
緑色の人が、ビルスの身体に攻撃を入れようとしていたのに
ビルスが指を指して一つ穴をあけていた。

「…貴様、この子を、傷付けた行為、分かっているんだろうな?」
「っ!!」
「ウイス、メルを、ミシュメールを頼んだ。」
「…かしこまりました。」
「、か」
「メル様?」

駄目だよ、行かないで。

そっとビルスの服を掴もうとした手が落ちる。
それに気付かず怒りのまま走ったビルスに、
彼女のミシュメール目には涙が溢れて
今にも零れ落ちそうだった。

その切ない悲鳴に、メルもまた、涙を零した。
嗚呼やめて、これ以上酷いことをしないであげて。
そう思っても、世界は止まらない。

時間を止める程、残酷な結末はないのだろう。


「て、よ」
「メル様?…なりません、意識を強くお持ちなさい!
ビルス様と今度お稽古をなさるのでしょう!?
お料理も、まだ破壊の練習もなさらないと!!」
「い、も、」
「〜〜っ、駄目です、ビルス様が悲しみます。」
「ぶ、だよ、だ、わた、し」

私なんてどうでもいいから、早く逃げてよ。
良いもん、それはまた今度で。
大丈夫だよ、私は。貴方が居たらそれで。

そうとぎれとぎれに言いたい事を言おうとする小さな子供に
手を伸ばした小さなその手を、ウイスは手に取る。
回復をしてはならない。それは神ではない、まだ見習いだから。

そう言い聞かせるウイスに、メルは零す。

その小さな花を見て、嗚呼という嘆きと涙を共にして。

「ちょ、と、ねる、だけ、だから」
「駄目です!今お眠りになられないで下さい!!」
「うい、いる、から、だいじょ、ぶだよ?」
「…っ、私が居ても、貴方が、
貴方が居なくてはならないのです。」
「さび、し、く…ない、よ?」

だから、大丈夫。
寂しくなんてない。
ビルス様には、ウイスが居る。
私が居なくなっても、大丈夫。
一人ぼっちになんてならない。
破壊もろくに出来ない子供が、死ぬのは当然のこと。

破壊神が死んで天使も永眠してしまう世界に
独りぼっちで生きることこそが地獄に等しくて

それならいっそのこと、
自分の命を差し出せと思った行動に
ウイスもビルスも彼女の行動を叱りに叱った。

そりゃあ怒るだろう。
私がウイスだったら普通に怒ると思う。
でも、きっと彼女ならば、そんな怒りも甘んじて許すだろう。


許しても、それをしないという意味に続くなんて、しないのに。


「だ、じょぶ、ね」
「全然、大丈夫なんかじゃありませんよ、何を言って」
「す、き」

その言葉に、トクンと胸が叩かれた。

嬉しそうに笑って、言う言葉に、ウイスもまた目を見開いた。

ただ、その笑顔が余りにも可愛らしくて綺麗で…何処か、見覚えがあって。


突如、引きちぎった。


「っな!!何をして!!!」
「…嗚呼、そっか、私、まだ旅に出れるんだね。」
『え?』
「ねぇメル。私、いい子だよね?」
「っ何を馬鹿なことを!!」

華を食べたミシュメールの身体が変わる。
開いた華が綺麗に泡になりつつある。

ウイスが回復を入れても時間を巻き戻そうとしても
効果がないのは、ウイスとて理解した。
その姿を、この目に見てすぐに、気付いたのだ。

ああ、思い出したとミシュメールはぼやく。

「あ、お、いい、なあ」
「メル様?」
「ねぇ、こ、のて、と、、てよ」

そう言って此方に手を伸ばすミシュメールに駄目と答えるしかない。
貴方の手を取れるわけがない。とってはいけない。
未来にいる私だから?違う。ウイス達の元から放すから?違う。

どれも違う、どれも違うものに、否定した。

言葉が見つからない。
それでも、この記憶は言っている。

どうか、どうかお願い。
覚え続けていてと。
そして、

「わら、っ、て?」

置いていく貴方達に、笑ってと言うのだ。
残酷な、宣告を、告げるというのか。

「…なりません、なりません、駄目です。」
「お、ね、がい…う、い、…す」
「メル様、メル様!!」
「びる、に、も、でん、ご、つ、たえ、て?」
「なりません!貴方の言葉でお伝えください!!
気を確かに!緩んでいますよ!!」
「だ、い、すき、だっ、て…み、んな、これ、で」
「…メル?」

そっと目を閉じたミシュメールに、ウイスの顔も変わる。
パタリと落ちた手の音に
攻撃をしていたビルスの身体が止まった。


時間が止まったかのように見えた。
その時間が、華を咲かせて、
引きちぎり、喰らって言ったのだ。

華よ神よ、願いを告げる。
代償与えて、お願聞いて。

「”二人を守ってよ”」

代償は、私のこの今の、命を引き換えに。
その言葉に通じたのか、風がぶわりと吹き上がり、
その場所辺り一面花畑に変化するではないか。

髪色が白くなり、目の中が光り輝く。
囂々と、深い青い色が、空の宇宙を思い出させる。

三つ編みをしていた紐はほどけ、もう紐の行方等分からない。




ねぇと声が聞こえる。

お願い、と、胸が痛い。
腰元に咲いた華が、まだキラキラとしているのが辛い。

彼女の口には、赤と紫色の花びらが残っていた。





「…どうやら、お前は、破壊よりも
恐ろしい場所に連れていく方が良さそうだ。」

そう言ったビルスの言葉の後、
四角いキューブ上の箱に入れられた敵を
パッと手に取り握りつぶす。
細目で見た後、急いでメルの元に駆け寄る。

「ウイス、ミシュ、は…」

急いで戦ったと思っていたビルスだったが
首を横に振ったウイスに対して、
ミシュメールは嬉しそうに涙を流し、
ウイスの腕の中で眠っていた。

ふわりと華が口の中で解け消える。
願いが発動し始めたのだろうか、
ウイスとビルスの胸元に花びらが模様を描き出した。


「…なに、寝てるんだ。おい、起きろ。倒してやったぞ」
「…ビルス様」
「お前を虐めていたヤツを倒したんだ。僕は強いんだ。」
「ビルス様」
「こんな願いを言っても僕は強い。現に殺した。」
「…おやめください、もう、この子は。」
「…っ!!明日飯を作ってくれるって言った馬鹿は何処だ。
このままだと僕はくいっぱぐれて死んでしまうぞ。」
「……ビルス様」
「なぁ、破壊も、昨日、出来るようになって
褒めたばかりじゃないか。
この僕が褒めるなんてないんだぞ。
…なぁ、なぁ、声を、聞かせてくれ、頼む…なぁ頼むよ」

ミシュメール

そう言った小さな声に、ウイスが首を横に振った。
冷たくなっていく身体に、ビルスが涙を零す。
ボロボロと、頬に落ちても起き上がらない小さな身体に
嫌だ嫌だと駄々をこねる。

メルと言っていたのは、後ろを取ったのだろう。
ミシュメールは嬉しそうに微笑んで身体を動かさない。
ウイスとビルスの胸元に力が注がれ続けているだけで。

指一つ動くことはない。

「僕は君以外に破壊神を渡すつもりはないんだ!!」
「ビルス様…メル様からの伝言です。」
「嫌だ、絶対聞かない。」
「大好きだよ、と。これで皆死ななくて済むね
…そう、、そう、仰って、いました。」
「……馬鹿、ほんと、大バカ者だよ。」
「ええ、そうですね、
私もそうお伝えしましたが、笑われました。」
「…っ」
「帰りましょう。メル様も帰りたがっております。」
「………うん。」




そっと触れる身体に、大丈夫と声が掛かる。
背後に来ていたのか、後ろを振り向くと、死んだ彼女が動いていたのだ。


腰元に大輪の華を咲かせたまま、嬉しそうに笑って言う。


「ビルス様も、ウイス様も、生きて皆幸せ!
これがこの世界の一番良い状態!」
『そ、うだね』
「だから祈ったの、願ったの。
私の一番幸せで、どんな時間を越えたって忘れない時間を。」
『え?』
「貴方もきっとこの場所に辿り着く。大丈夫、貴方は強い。」

だから忠告、そう言って額にキスを落す。

「ず〜っと忘れないで。そして守って、お願い。」
『メル…』
「赤は「門出」紫は「永遠」。私は二人に沢山助けられたから。
だから恩返しと同時に、前に進んで欲しくて願った。」

貴方ではない貴方を見つけて、直ぐに分かった。
そうちらりと見ていう。恐らく彼女と出会った私は、もっと前に会ったのだろう。
そうして、ビルス達にはひた隠しにした。

出来たのが不思議で仕方がなかっただろうが。
メルの記憶を漁れなかったウイスのように、
ミシュメールはウイスより気付いたのが早かったのだ。


隠しきった、願いの末の、末路が、これか。


『置いていくことになるのに』
「そうだね。でも、そうしないと生きれそうになかった。
ウイスさんは中立から背いて攻撃しかねなかったから。」
『だから先手を打った。中立を背くまでもない。
どうせまた繰り返される命だからと。』
「うん」

だからといって、こんな、こんな小さな身体で、命を飛ばせるのか。
ビルスは言っていた。力がすさまじかったと。
華を咲かせ、笑っていた用紙を見ていたウイスの顔を思い出した。

『酷く覚えてたよ。鮮明に。忘れないように。』
「…そっか。」
『なんで死んだのこの結末なの』
「私は守れなかったから、
とっても、とっても悪い子だったから!」
『…っだとしても!!!そんなの駄目なの!
貴方じゃないと、貴方じゃないと
ビルス様達はずっと待って!!』
「貴方こそが、あの場所を守り抜ける、
たった一人の、優しい、華神だよ」


そう笑って手を取った彼女に、メルは力を強めて答えた。


『っ違う!!私はあの時間を!!!』



でも、目の前に居る子は、笑っていて。


後ろに手を組んで、もう未練なんて何一つないと言いたそうに。



「だからね?私貴方に付いていくの。」
『……へ????』
「だ〜か〜ら!メルに付いていく!」
『いやどういう』
「私を迎えに来てくれた、貴方に。」

神様にそう言う彼女に、メルは理解が追い付かない。
いやこれは所謂フラッシュバックであり、
彼女の手を取ることは出来ない。
と言うかこうして話なんて出来るわけが、いや。



この子自体が、フラッシュバックで魂ごと
記憶を取り戻した「現実」にいるならば?



白い髪色が、青緑色の色へと変化していく。


「私の名前はミシュメール。
華樹の記憶、廻廊に基づいて。
第7章、希望を願い告げた華神。」
『みしゅ、』
「スイートピーは綺麗に華を咲かせた。」
『だめ、だめ、連れてけないよ、』
「じゃあ置いていくの?」

誰も彼も。そう言ったミシュメールに、
白い髪色と黒髪の子が見える。
一体だれか、分からない分からないのに。

首を横に振るしかできない。

「私は貴方に付いていく。何を言っても、どうなっても。」

ずっとずっと、いっしょに。

そう言った途端、世界が淡く綺麗に華を散らせていく。
色とりどりのスイートピーが、宙を舞って、綺麗な青空を照らした。


「だから大丈夫。旅はまだまだ終わるわけがない。」

だって時間は決められているのだから。
ミシュメールの言葉に、メルが叫ぶ。



『っ駄目!!ミシュメール!!!!』
「メル様!!」

ハッと目を覚ます。起きたのは、
空から地面に向かってウイスに
攻撃を入れている途中だった。

爆発的な音が後から響く。
気付いた時には遅い。
メルは勢いよく飛び出し、ウイスの元に行くと、


「なんだ、これは」
「…これは」

ビルスの近くにふっとばされたウイスだったが
淡い青緑色と青に混じった華の結界が
ウイスの周りに張り巡らされていたのだ。

『…華樹の記憶、第七章』
「メル?」
『ミシュメール。希望。』
「…お前その名前を何処で」
『覚えてる』
「なに」
『覚えてるよ』

そう言って、メルは震えた手を首に抑える。

『ずっと、ずっと。貴方の願いを。』
「…どうやら、思い出されたようですね。」

パンパンと衣服についた埃を叩いて起き上がるウイスに、
メルは何も頷きもせず、少し違う方向からウイスの顔だけを見ていた。

『伝言』
「なんの」
『”私のことは忘れなくてもいい。
でも置いて行かれたなんて言わないで。
私はずっとずっと、此処に生きているのだから。”』
「……っはっ、くくくく」
「ウイス、さん?」
「っはははははは!!!!」
「えっビルス様?!?!?!」

どうしてと慌てるメリアに、メルは息を吐いた。
脳内、正確にはメルの中に、青緑色の魂が具現化をする。
左側に三つ編みを結んだ少女の姿が。

華を咲かせた状態で、此方をじっと見つめていた。

その状態を見て、メルはにやりと笑みを浮かべた。

『まずは一つ。完成したよ、メリア。』
「え!?!?!?嘘まさか!!!!!」
『貴方のおかげで、一つだけの時間だけどね。』

にしても気って多分こうするんだよね
そう言ってメルは手に力を込めて出しだしたのに
固まったのはメリアだけではない

「…め、るさん?」
「お前何処から気をだしてるんだ」
『え?どこって』
「ミシュメールさん隠れてないで出てきてください。
怒りません怒りませんから。」
『えっ!?!?!?ウイスさん!?!?!?』

肩をがっちりつかんできたウイスに、メルが慌てふためく。

「確かに貴方の力を私は見抜けませんでした。
貴方はとても賢い非常に賢く、
のちに貴方が華神だと気付いたのは華が咲いた後です。」
『…ういす、さん』
「ありがとうございます、メルさん。」

貴方が、私達にプレゼントを下さったのですね。
そう泣きそうに笑うウイスに、目がきらりと光る。
黄金の色が、一瞬だけ、深い青色に点滅した。

「ま、魂を分離するには出来なくはないですが…
その様子からして、今は差し控えておきましょう。」
『え?あ?え???』
「ビルス様」
「分かっている、お前に言う訳じゃない
お前の中に居る奴にいっているんだ。」
『…だって?ミシュメール。分かってる?』

そうメルは腰元に目を向ける。ちらりと見えたのは、その華だ。
スイートピーの花々が、綺麗に光り輝いていたのだから。

「っ!!!!」
『ミシュメールからです。”またこんど”だそうです。』
「…っくく、ええ、また、今度ですね?」
『あ、ひっこんだ、んあ』
「っメル!!!」

華が文字通り腰に引っ込んだ後、メルの身体がそのまま前に落ちる。
それを寸でウイスが受け止めた。

「どうやら限界のようですね。ビルス様
私はメルさんをお部屋にお連れしてきますので
メリアさんの相手をしてもらっていても?」
「いいぞ、今僕は気分がいいからな。」
「お願いしますね」
『だ、め、わたし、まだ、でき』
「いけませんよ。お身体を大事になさってください。」

それに、あの子も言っていたのでしょう?
そうウイスはメルの顔に近づいて言う。

「貴方にずっと、ついていくのだと。」
『っ、い、す、さ』
「ふふ、今はゆっくりお眠り下さい。」

その言葉に安心したのか、
ふっと力を抜いたメルに、
ウイスは足を速めることもなく
適度な速度で部屋に連れていく廊下を歩いた。