刀剣ショートストーリー

×××翡翠の約束 2

誰かに呼ばれた気がした。
僕に呼び名など無い筈なのに、それでも呼んでいる。そう思った。
目を開けると桃色の風が視界に広がっている。
それは温かく「春が来た」という言葉が思い浮かんだ。
風が吹き止むと、無意識に皿の様に出した手の上には、桃の色の花弁が三、四と乗っていた。

「・・・・・貴方は刀違いをしたのでは
 無いですか?
 呼び名の無い僕など、存在しなかったと
 同義であるというのに…」

他の刀達と同じ人の身の等身ではあるが、まるで刀装たちのような足軽の姿。
肩に付か、付かないくらいの黒い髪は洒落っ気もなく流れている。
顕現した他の刀と比べると、正直地味な出立ち。手に持つ打刀の鞘の緑色がだけが際立って見えた。

「…私も、数年、本丸を預かっていますが、
 貴方の様な刀剣くんは初めてで驚いています…」


目の前に居た女性は、一歩二歩と距離を詰めると、顕現したばかりの頬を手巾で優しく拭った。
ーー僕は泣いていたの?……

手を掬い上げられると、その人は微笑んでいる。

「私はこの本丸の審神者です。
 優秀な本丸ではないかもですが、
 色んな刀剣くんが力を貸してくれています。
 君にも歴史を守るお手伝いを
 お願いできますか?」
 

僕はその目に魅せられたんだと思う。
元主とは違うけれど真っ直ぐな瞳。
その時は断ることなど思い付かなかった。


本文
2023/09/05BACK)
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