二つの道



コトッーーー。

壺が一つ、とある建物の奥座敷に現れた。

『おや、玉壺殿じゃないか。
 わざわざ訪ねて来てくれるとは珍しいねえ。』

壺の中の液体が波打ち始めたかと思うと液体は溢れてうねうね顔を上げた。
『ヒョヒョヒョ。
 先日、私の壺を褒めて下さいましたからな。
 是非とも童磨殿の部屋にも一つどうかとおも……』
不自然に玉壺が言葉を切り、部屋の隅を凝視している。

『どうしたんだい玉壺殿?』
『今度は一体何を拾って来たんですか。
 貴方と言う人は可哀想だからと、色んなものを
 受け入れて、こうやって教祖にまで上り詰めたことは
 理解しておりますが、そうほいほい拾っては…』
『いやいや、それは買い被りすぎさ。
 俺は教祖に"された"だけだからね。まぁでも、
 それが良いように働いてる事は確かだけどね』
童磨は玉壺から目を離して、部屋の隅を見つめ笑みを深めた

『で、それのことかい?あまりにも泣いてる姿が不憫でね。俺は優しいから放っておけなかったんだよ。
 中々綺麗な生き物だったしね』
『……うぅん?…綺麗?ですかなぁ?私めにはまるで
 泥団子の様な出立(いでたち)に映っておりますが』

目を細める様にしながら玉壺は汚れた丸みへと顔を近づけた。
『あぁ、気を付けておくれよ
 "鬼にしたばかり"は気性が荒いからね。』

その言葉と共に振り払われた生き物の手が玉壺の顔を掠め、顔の脇についている小さな腕に傷を付けた。

『むむっ!私の美しい造形に傷を付けるとは何とも
 許しがたし!』
『そうだちょうど良い!玉壺殿!
 君の水獄鉢で、アレ洗っておくれよ!
 気性が荒いから信者達に洗わせる訳にもいかないし
 もうアレは鬼だから、水に沈めた位で死ぬ事もない
 みんな幸せになれるよ!』
『みんな幸せと言いますが、私に大した旨味が無い話
 なのではないですか?』
『そんな事はないさ。
 玉壺殿も綺麗なものは好きだろう?君の感性で
 弄り倒そうが、鬼なのだから元に戻る。
 それはとても素敵な事だろう?』

童磨の口が三日月の様に弧を描き、玉壺の頭のなかでは自身の思い描く芸術が形を成していく。

『それは良い!とても素敵な提案ですぞ』
顔の前で短い手を握り、乙女のポーズをする玉壺の顔はほのかに赤みを差していた。
 
   血鬼術  水獄鉢

ーーーーーー

水の中に少女が一人沈んでいる。
いや、正確には"少女だった者"が正しいのだが。
その者は確かに童磨が言った様に美しかった。
歳の頃は10歳前後といった処だろうか、、真っ直ぐに伸びる髪は腰の辺りまである。
"人形の様な"という例えがよく似合う、そんな容姿をしていた。

『時に童磨殿はコレを如何するつもりなのですか?』
『うーーん。そうだなぁ、、あ!良い事思いついた!
 鬼狩りの奴らが、下の者を育てるみたいな事
 やってるだろう?』
『あぁ、何でしたかな…確か、、継子という物ですな』
『俺もそれをやってみることにするよ!
 俺がアレを育てる。それが一番面白い』

童磨の頭の中では、少女の手を振り解いて置き去りにした少年の姿が浮かんでいた。あの後、少年は野良鬼に襲われ鬼狩り達に助けられていた。慌てて少女と離れた場所に戻ったものの、もう少女の姿は無く打ちひしがれていた。

ーーあの自責の念に染まった目は思い出すだけで
  ゾクゾクする。
  彼はきっと鬼狩りの道を選ぶだろう。

ざぱぁーと水鉢が弾けて辺りを濡らした。

「教祖様、床が濡れて居る様ですが、如何しまし…」
断りもなく開いた襖からは信者が顔を覗かせたが、言葉が終わる前に生き絶える。
痛みを感じる事もなかっただろう。
死んだ事にも気付かなかったかもしれない。

その骸は鬼の少女の目の前に。

大した間を置かずに、横たわっていた少女は水を吐いて体を起こした。
転がる死体を不思議そうに見て、視線を玉壺、童磨と移し再び死体見ると口元からは涎が滴り落ちて行く。

『おはよう。それ、食べて良いよ。
 大丈夫、信者達は綺麗にさせてるから』



そして、少女は赤く、紅く染まっていった


ーーーーーー


「……居、ない、、嘘…、、?
 嘘だ、、居たはずなんです!!妹が!
 お、、鬼に襲われる前に此処で、、此処で、、」

少年はつい先程鬼に襲われ、鬼殺隊の剣士と名乗る者に助けられた。一緒にこの場に戻ってきたのは置き去りにしてしまった妹の身を案じての事だった。
しかし、その場に少女の姿は見つからない。

「妹さんが心配なのは分かるけど、君もさっき怪我を
 したでしょう?まずはその手当をしなきゃ。
 この辺りは鬼殺隊の隠に探させるから、だから一旦
 この場を離れましょう」
「…でも、、俺が、、」

「君が無事で居ることを妹さんだって望んでいるわ」

ーーーーーー

そうして結局、妹が見つかったという連絡が入る事はなく、少年の耳には何処からか「妹は鬼に喰われた」と聞こえてきていた。

ーー俺が、、置き去りにしたから…
  俺が… 俺が妹を殺したようなものだ

「俺を鬼狩りにしてください…」

そうして二つの道は分たれて、


時は流れ、季節が巡りゆく…
 


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