禁止令


海堂から禁止令が出た。
その名も、「『好き』禁止令」。
なんでも私が「好き」を言いすぎて特別感が無くなったとのこと。
最愛の人からの御触れと来れば従うのはやぶさかではないが、そっちがその気なら、こっちも黙ってはいないのだ。

「海〜堂〜」
「何だ」
一見ならぬ一聞不機嫌にも思える低音が返事をする。
「いや……別に」
一瞬、「好き」と言いかけて思い留まった。そういえば禁止令が出ていたっけ。
「何だよ」
「月が綺麗だな、って思って」
「おいコラ、禁止だって言ってんだろ」
私はとっさに屁理屈の虫を放つ。
「え、何。私は単に今日の月が綺麗だなって感想を述べただけだけど」
出てんじゃん、月。と窓を指す。
微妙な顔をする海堂。
「釈然としない?」
「釈然としねぇな」
私は煌々と照る月の元、勝ち誇った顔で「綺麗だなァ〜!」と叫ぶ。
発言者の意図は、享受者が勝手に推論するものだ。
海堂は苦々しい表情で私から目を離すと、腕を組んでううんと唸り声を上げた。眉根を寄せて悔しそうにする海堂は、正直とても可愛い。
「海堂海堂」
「今度は何だ」
課外学習の参考にしようと思っていた、『浮雲』を手に取る。
「私、今日で死んでもいいわ」
海堂はしばらく静止したのち、机に突っ伏した。
「負けた」
「じゃあもう禁止令は無し?」
「…………無しでいい」
「やった〜、海堂大好き。でも面白いからもうちょっとやる」

禁止されればされるほど、燃えるのが人。
万葉集にも載っている。割とそんな感じがする。
「むやみに言葉にすると安くなる」と人は言うが、君にありったけの言葉を送ろう。
一生かかっても伝えきれない「好き」を、少しでもわかってもらうために。