赤と青

彼は青が好きらしい。
これはどこからともなく流れてきた、確証のない噂で聞いた話だ。そもそも何でそんな噂が流れるんだろうか。あくまで噂、しかし無碍にできない噂であった。
「青かあ…」

舟橋は、赤色が好きだ。
本人がそう豪語しているのを、小耳に入れたことがある。なんでも、赤はどこに入れても恥ずかしくない色だから、だそうだ。何だそりゃ。しかし、そんなツッコミなどしている暇もないほど由々しい問題だった。
「……」

「ねえ、どうしても青じゃないとだめなの?」
「そこだけは、譲れねぇ」
「そっかー」
人には譲れないものと、ある程度譲歩できるものがあるが、譲れないものが衝突した場合はどうなのだろうか。
妥協か、意志を貫くか。
「赤でもいいと思わない?」
「…いや、だめだ」
「どうしても?」
「どうしてもだ」
二人の視線が交差する。どちらも一歩も譲らず、睨み合った状態だ。
「わかった。しりとりで勝負しない?」
「んなもんいつ終わるかわからねぇだろ。却下だ」
「あやとり」
「勝負になるかよ」
「あみだくじ?」
「用意が面倒だ」
「じゃあ何で勝負するのさ!」
「じゃんけんでいいだろ?!」
「弱いんだよ!」
「そんなもんやってみねぇとわからねぇだろうが!ほら手出せ」
渋々と手を差し出す。
「最初はグー」
戦いの火蓋が切って下されると、
「じゃんけんぽん!」
勝負はあっさりと決まった。
「フン、本当に弱いんだな」
「だから言ったのに」
がくりと肩を落とす私。彼は嬉しそうに鼻を鳴らした。
「今日のランチョンマットは青で決まりだな」
「絶対赤の方が可愛いし」
彼は、私の声など聞こえないと言うように青いランチョンマットを敷き始めた。
こうなれば潔く負けを認めて、彼の用意した朝ご飯を並べるほかに私のすべきことはないだろう。