「って感じで、ショッピングモールは一夜にして阿鼻叫喚、私はゾンビと化し、特にすることなく夢が終わったんだよね」
「飯食ってる途中だろ……やめろよ……」
「ごめん、でも何か」
ピタリと合う目と目。下まつ毛長いな。
「……」
いや、何だ、最近何かがおかしい。
「何か?」
「えっと、何か、海堂に言いたくなって」
「嫌がらせかよ」
「違う」
強めの否定と口に放り込んだきゅうりinちょっとお高めのちくわで、私のもやもやはすぐに吹き飛んだ。
否、お高めのちくわで騙されてはいけない。彼の家のおかずが美味しいからと言って、思考を止めてはならない。
何だ?何がおかしいんだ?
「お前ん家の卵焼き、出汁で味付けしてんのか?」
「うん。甘い方が好きだった?」
「いや、別に」
状況を一度整理しよう。私たちはいつものように仲睦まじく昼ごはんを共にし、友達のように差し障りのない話をし、お弁当のおかずを交換しているだけではないか。いつもと違うところといえば、今日の彼のお弁当のおかずがやけに私好みというところだけだ。一体何がおかしいというのか。
ちら、と彼の顔を伺う。目の前にいるのは目つきが悪くてキリッとした眉をして可愛い口で黒漆の弁当を食べている親愛なる「友達」、海堂薫だ。
髪を切った?いや、長さはそこまで変わっていない。
シャンプーを新しくした?いやいや、匂いに敏感な私が気にしていないならそこは問題ではない。
まつ毛が伸びた?彼のまつ毛は元々長いだろう、何を考えているんだ私は。
頭の中でてんやわんやになりつつ、彼のことを観察しているとまた目が合った。パチリと瞬きする度に綺麗な瞳が私の脳髄を射抜く。
そうだ。最近やけに目が合う回数が多い。いつ頃からかわからないが、視界の中に彼と、彼の目が頻繁に映り込む。今までそんなことは無かったのに。
彼の目に怯んでいては、この恋愛は成就しないと、自分で決心をつけたはずなのだ。なのにどうして私は彼の目線に狼狽えているのだろうか。
何か、後ろめたいことでも?
いや、そんなものあるわけないだろう。あるのは一度折られて目下修復中の淡い恋心だけだ。
じゃあ、それが?
また復活するのが怖いのか。修復中と言っておきながら、折れたまま放置しているだけではないか。
そうか、私は怖いのか。
「海堂って怖いものある?」
「…………ねぇよ」
嘘だ。
「私さあ、人の目ってすごく怖いんだよね」
私がそういうと、彼は少し動揺したように視線をずらした。違う、それをやめて欲しいわけではないのに。
「私とすれ違っていく知らない人が、私のことを見て何を思うんだろうって、考えたら怖くてしょうがないんだ。正直ゾンビなんかよりずっと怖いよ、視線って」
「……」
「でもさあ、好きな人とかだと全然平気なの。身内贔屓みたいなものかな」
再び目が合う。今度は私も確固たる意思を持って。
「ね、今の私、大丈夫に見えてる?海堂には、どんな風に見える?」
「……」
キーンコーンカーンコーン……
と、私たちの仲を引き裂く無情な鐘の音が鳴った。
もう!良いところだったのに!
ジュリエットになるつもりは毛頭無い。月に誓う気も無い。私は海堂から目を逸らさず、獅子奮迅の意を落とさず、はっきりと告げた。
「今日、一緒に帰ろう。部活終わったら校門で待ってるから」

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