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「このことを知ってるのは?」
「...ひとりだけ。でも教えたんじゃなくてたまたま───その動画に映ってるでしょ」

その日は電車にも間に合ったし、DVD再生機も見つけた。テストだって満点だった。だから今日はサイコーに良い日だって思ってたのに。家に着いたらでかい車が止まってて、リビングにはメイおばさんと一緒にアイアンマンが座って僕を待ってた。僕の正体を知ってるのは?という彼の質問に答えると、彼はもう一度、彼のスマホらしきもので動画を見返した。


「...この子か。一緒に活動を?なぜ?」
「話せば長いよ。僕はこの力を半年前に手に入れて───彼女は確か、小さい頃から訓練したって。それ以上は知らない。というか、教えてもらえないんだ。クラスメイトなのに。」

動画の中には僕扮するスパイダーマンと、その後ろについて建物を軽々と糸もなしに超えていく少し小柄な女の子。...とはいえ、彼女も鼻から下を黒いマスクで覆っているから、顔はわからないようになっているのだけれど。目の前のトニー・スタークはなるほど、と手を顎に当てたあと、僕自身について尋ね始めた。どうしてこんなことをやってるのか、パスポートを持っているのか、などなど。ドイツになんか行けない!といった僕に、彼は無情にもメイおばさんに話そうとするものだから僕は反射的に糸で彼の手をドアに固定した。

「...わかった、メイおばさんには言わない。とりあえずこの糸を取ってくれ。」
「ゴメン、今とる」
「ああ、後」

ハサミを持った僕に彼が首を傾げた。

「その忍者ガールも呼べるか?」

僕はその言葉におずおずと頷く。

「一応番号は知ってるけど...来てくれるかはわかんない。彼女何考えてるかわからないし。」

僕がパチンっと糸を切ると彼は解放された右手を軽く振りながら、問題ないさ、と呟いた。

「元々誘おうとしてたのは君だけだ。だが仲間が増えるに越したことはない。君も友達がいた方が安心だろう。」

彼女を僕の友達、と称した彼に僕は少しだけ肩をすくめつ、彼女の携帯に電話をかける。iPhoneの独特な着信音を片耳に、僕は思った。"彼女って友達なんだろうか。"って。学校じゃ全然話さないし...活動の時も、必要なことしか彼女は話さない。喋るのは僕の担当だし、彼女は大体僕のたわいもない話を聞いて───いや多分大半は聞き流して、適当に相槌を打つぐらいしかしない。でも僕と同じようなことをしてるから優しいんだとおもう。何で活動してるのかは教えてくれないけど。無表情だし。そんなことを思いながら、僕は予想よりも早く繋がった回線に少し驚いた。

「あ、サキ?僕だよ、ピーター。あのさ、突然なんだけど、パスポート持ってる?何でって...わかんないけど、僕の家にトニー・スタークが来てるんだ。そう今。ドイツに行くぞって言われて...そう、君も。ともかく!パスポート持って僕の家の前まで来て。」

僕の様子を、スタークさんが腕を組みながら見ている。少しの沈黙の後に、電話の奥で溜息が聞こえた。僕は一瞬ダメかな...と思ったけど、直後に届いたわかった、という声に僕はほっと安堵した。ピッと通話を切る。

「来てくれるみたいです。」

僕がそういうと、彼はそうか、と眉をあげた。そして僕の部屋のドアノブに手をかけて、振り向きざまに言った。

「彼女が来るまでに準備しておけ。僕は下で待ってる。彼女が来るのはどれくらいだ?」
「アー...多分5分もかからないんじゃない...かな。」
「近所なのか?」
「いえ!...でも、彼女スゴク足が速いので。」


その会話の丁度4分後、玄関のドアベルがジリリリリッと鳴らされた。大急ぎで荷物をバックパックに詰めた僕がドアを開けると、彼女もバックパックを背負っていた。

「早いね。」
「...まぁ、信号引っかからないから。」

その言葉に、彼女が予想通り、建物の屋上を走ってきたのだと知る。行こ、という彼女の声に従って、僕は家を出た。

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