03
私の家系は代々忍者の本筋だったらしい。よくは知らない。すでに現代社会の中で需要のない忍者の技術を受け継ぐのはそれなりに大変だったらしいが、長い歴史というものは無駄なプライドを育ててしまうもので。日本のド田舎の奥山に私たちの里はあった。大自然に囲まれた中で代々子供達は皆代々鍛錬をつまされ、私も例外じゃなかった。昔話に出てくる牛若丸のような、木と木の間を飛び回ることなんて基本の基本だし、あとはまぁ殺陣とか、ロープの使い方とか、どこのスパイだよ(いや1000年前の先祖はスパイだったけど)って技術を身につけさせられた。
私の能力は天才的...とは行かないまでも飲み込みが早かったようで、爺さんや婆さんにはとても褒められた。が、問題があった。
まず一点。少子高齢化とはよく言ったもので、うちの里も例外じゃなく、里の子供は私だけだった。
二つ、これが最大の失敗。人里から離れすぎて、里が山火事にあったときに助けを呼べなくて、たまたま運良く生き残ったのが私だけだった。
...いや、どこのラノベだよ(ラノベとか最近初めて読んだけど)という状況。そしてこのラノベ展開はまだまだ続く。なんと、家族財産すべてを一夜の山火事で失った私は、とりあえず山を降りようとしたところ、訳の分からない男たちに拉致られた。不運にもほどがある。
数日間、なんか数名の私と同じように拉致られたっぽい人たちと同じ空間に放り込まれ、どうやって逃げ出そうかなぁなんてぼんやり考えてる時に私達が閉じ込められていたトラック?の荷台がバコンっと開けられた。わぉ。
「Are you OK?」
バコォンっと凄い音を立てて私たちを解放してくださった人は、白人さんだった。しかも金髪美人さん。明らかに英語で話しかけられていつの間に日本を抜けていたんだろうか、と思った。私以外の人質だった方々は泣いたり笑ったりしていたけど、私はなんの感情も浮かばなかった。もともと感情表出の少ない方だとは思っていたけれど、今思えば、多分、私には短期間でいろいろなことが起こりすぎていて、感情を処理できなくなっていたんだと思う。嬉々涙々とする人たちの中で、妙に落ち着き払った私を訝しんだか、その金髪美人さんは私に近づいて、そっとしゃがんだ。
「Hey,girl.What's your name?」
「...サキ」
「I'm Sharon. Can you stand up yourself?」
金髪美人さん───シャロンさんは、自分で立てるか、と聞いておきながら、そっと優しく手を差し出してくれた。私はありがたくその手を借りて立ち上がる。そして外に出た。
「...自由の女神像だ。」
出てすぐ、とんでもないところに来ていたんだなと思い知る。空は真っ黒だけど、周りはさんさんとネオンが輝いている。そして目の前にライトアップされた自由の女神像。Googil mapで見たことある。
「Can you speak English?Are you Chinese?」
「えーと、ちが...No, I'm Japanese.」
「OK,so...we ask to send a Japanese interpreter.」
にこやかに、多分通訳さん呼ぶね、みたいなことを言われて、私はシャロンさんに別の車に乗せられた。今度はちゃんとシートがあるやつ。シートベルトをしめ、大人しく乗せられる。見るからにこの人たちは警察の類の方々だ。大人しく保護されよう。どうせ身内もいないし。そんなことを考えながら、私はぼーっと、なんの感慨もなく、ニューヨークの夜景を眺めた。これが、私とシャロンさん、又の名をエージェント13との出会い。
それからなんか施設のようなところであれやこれやと質問された。
どこで捕まったの?何かやつらにされたことはある?家族は?
私の答えは単純だった。
どこで捕まったって...山?されたこと...拉致られたぐらい?家族なら全員死んだ拉致られる直前に火事で。
なんの捜査の役にも立たなそうな答えしか出せなくて申し訳なくなるくらいだ。日本に帰っても私の身寄りがないことがわかった私を保護してくれた組織───シールドというらしい、の人たちは、その後、いくつかのテストを私に受けさせた。すると私の頭は世間一般より良い方だったらしく、アメリカNYの高校に通わせてくださるらしい。奨学金制度が最近できたばかりらしく、それを適応するから、金の心配はいらないと言われた。そしてあれよあれよという間に学校への転入が決まり、小さなアパートメントに一部屋与えていただいた。なんとまぁ太っ腹な方々だろう。あまりにも上手くいきすぎて、私の今までの不幸って子のためにあったのでは、なんて不謹慎な考えにまで至ってしまった。いけないいけない。
「...動きたい。」
学校にも慣れた。山里でなく、しかも異国の、都会で済むことにも、慣れた。時々シャロンさんが様子を見に来たり、電話をしてくださったりする。優しい。優しくて美人とか、絶対イケメンヒーローみたいな恋人いるでしょう、羨ましい、彼女の恋人が。でも、なんというか、感情表現も乏しく、小さな頃友達と遊ぶ経験がなかった私はまぁ予想通りというか、全くと言って良いほど友達ができなかった。自由に動けるから良いのだけれど、シャロンさんには心配されてしまうから、クラブにでも入ろうか、と思ったけど却下。興味を惹かれるものがまるでない。体育の授業もつまらない。化学は楽しいけど。あれだけ毎日のように山々の中を駆け回っていたのに、急に動かない生活は息苦しかった。身体がそわそわしてしまう。だからあの夜は気が向いただけだった。Amasunで買った甚平(上下別売り)の上だけを着て、ベランダから駆け出す。ビルの屋根を軽々と飛び越える。ビュンビュンと過ぎ去っていく風が気持ちいい。山里ほどではないけど、案外楽しい。夜ならば人目も避けれる。するとどこだったか、わからない。ひゅっと通り過ぎる視界。アパートメントの窓から同級生が見えた。その時は、窓から外を見ているのかなと思ったけど、どうやらそれだけではなかったらしい。
「...パーカー君?」
自分のアパートの近く。背後から気配がした。振り返るとそこには、先ほど見た覚えのあるパーカーを着た少年。フードの向こう、思い浮かんだ顔に適した名前を口にすると、なんと正解だった。そういえばこのパーカーには見覚えがある。確かクラスで誰かが動画を見ていた。そうか、彼が噂のスパイダーマンか。
「あっこのことは誰にも...」
「言わないよ、大丈夫。」
こうして、奇しくも、私はクラスメイトの秘密を、思いがけず握ってしまったのであった。
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