込められた意図には気付かぬふりをして
「色目でも使いましたか」
責める・咎めるとかではなく、確認するように第2隊長のV.Uスネイルに聞かれた。「本業」の方の話が終わったと言ったタイミングで聞かれたそれ。誰に対してかは、言わずもがな。
「いいえ。V.Tはそういうのは裏目に出るタイプだろうと思ったので、使っていません」
色仕掛けなんて1度もしていない。それなのに、勝手に引っかかったといった感じだ。正直かなり気にいられてはいるが、なぜこんなにというのはなくはない。
私の回答に眉間に皺を寄せ、第2隊長は頭が痛そうにこめかみを抑えていた。
「色目を使った、の方がマシでした」
第2隊長殿からすると、自分の最優の駒が要らん状態になったと言ったところだろう。幸いにしてV.Tが色ボケして使えなくなるようなタイプではなかったので、私もこの程度で済んでいる。
「あまり、フロイトの興味や関心を煽らないように」
元々煽ってませんがという言葉は飲み込み、「心得ました」と返しておく。席を立ち、丁寧に第2隊長の執務室を辞す。
彼の機嫌を損ねても、ろくな事にはならない。再教育センターやファクトリー送りとならずとも、嫌味や小言が増えるだけだから。
それはアーキバスと契約している組織所属の「なまえ」という相手でも、同じだ。彼は外様とか関係なく、嫌味や小言を言う(ある意味では平等か?)。円滑に仕事を進めるなら、第2隊長の機嫌を損ねないに限る。
そう思いながら、V.Tの執務室に戻る。
居てくれればラッキー、居なければ探しに行かなければと思いながら入ると、嬉しいことにV.Tは執務室にいた。
デスクに座っているが、あれは戦闘ログを見ているんだろう。まともに仕事してるだろうかと言う期待は、最初からない。
やれば出来るのにしない、それがこの男だから。
「戻りました」
「ああ、おかえり」
端末から顔を上げることなく、V.Tは応じる。
さて、これからどうやって仕事をこの男にさせるかと、考えを巡らせる。知り合いの独立傭兵との模擬戦……は、この間飴として提案したばかりだ。仮想空間を用いたもので、異なる星にいてもオンラインで出来るが、毎度そればかりだとV.Tも飽きてくるだろう。
「秘書」
「はい」
「ちょっと、隣に来い」
ごそごそと探すように手を動かす動作をしながら、V.Tは私を呼ぶ。何かまた期限切れの書類か、出し忘れた領収書のデータだろうかと思いながら、V.Tの傍に寄る。
「なんでしょう、V.T」
「左手、出せ」
なぜ?とは思ったが、端末を置いて座ったまま私を見つめるV.Tの目からは、意図が読み取れない。
この男はAC以外だと、分かりづらい。
(まあ、害されることはないか)
この男に嗜虐の趣味は無い。それは身をもって体験してるから、分かっていること。なので、多少警戒はしつつも言われた通りに左手をV.Tのほうに差し出す。
V.Tは私の手をしっかり……正確に言えば、固定するように掴んだ。痛くはない力加減だから、黙って成り行きを見ている。そのままするすると輪状のもの……指輪が、私の薬指を通って行った。
「──……は、」
「うん、ぴったりだな」
私の左薬指に当然のようにはまった指輪を見て、V.Tは満足気にしていた。そのまま指先で私の指の付け根を、なぞっている。今まで何もつけていなかったのでそこに何かあるという違和感と、触れられる感覚でなんとも言えないむず痒さがわく。
「いや、あの……ちょっと、意味がわからないんですけど」
「つけていろ」
「答えてください、意図を」
別に恋人でもなんでもない、体だけの関係だ。そも、この男にそういう……指輪を贈るという発想、情緒があることにも驚いた。あとどうやって入手したんだこれ、ネットで買えるとはいえ、兵站部署に頼んでまさかルビコンまで運ばせたというのか?さすがにプライベートな買い物までは私もチェックしてないので、全然気づかなかった。
私の様子にひどく楽しそうに笑ったあと、V.Tは私の手を放した。いたく満足げで、なんだかイラッときた。
「つけさせたいと思ったから、つけただけだ」
それ以上でもそれ以下でもないとばかりだし、楽しくてたまらないし満足だと言うのは分かる。
──さきほどAC以外は分かりづらいと言ったけど、訂正しよう。自分にとっての愉悦に関わることとAC以外は、分かりづらい男だし、予想ができない。
「……」
付けられた指輪を、なぞる。
それなりの値段はするものだろう。それくらいは分かる。
V.Tが私につけさせたかったと思ったことも掘り下げるか考えたが──やめた。
V.Tは既に端末に意識と目を戻していて、私の様子を見ていない。
小さく、ため息をついた。
「私としては、仕事をしていただけると嬉しいんですが」
「そうだな。今日は、気分がいい。少しくらいならやってもいいな」
少しじゃない、毎日しろ。
物言いたげな雰囲気を察したのか、V.Tは楽しくてたまらないとばかりにまた笑った。
「……というか、なんでサイズ分かったんですか。私が寝てる時にでも計りましたか?」
「いや。触った感触から、ACの部品のサイズに当てはめてサイズ割り出した」
「……」
指くらいの細さの部品って相当細かいとこじゃないですか、基盤とか。これだからAC馬鹿は!
──後日、指輪に気づいた第2隊長に咎めるように見られたが、私は一切悪くないのでV.Tのせいですと目で答えていたら、「俺のだ、スネイル」と訳分からんことをV.Tが言い出して益々第2隊長の視線が鋭くなった。
頼むから黙ってて、本当に。