02.初デート
晴れて死を免れたなまえは、まず最初に自分がちゃんと子を宿せる状態かを調べてもらった。縛りのことがあるので、重要だと判断し、自ら願い出たのだ。検査を担当した家入硝子は、祟り神の「返し」を受けたなまえの体を調べられたという点においては満足したが、縛りの内容……こと、2つ目に関しては、流石にどうかと思うと口にしていた。
「だって……あのクズの五条だよ?」
「と言いつつ、多少は楽しんでるでしょう、家入先輩」
それで、結果は?と、私服に着替えながらなまえは家入に問う。家入は、問題なしと簡潔に答える。
「個人的にはもう少し調べたいけどね」
「別に構いませんよ」
「僕が構うよ」
当然のように割って入ってきた声に、なまえは思わず顔を顰めた。そのまま、声の主……五条悟へと顔を向ける。検査していることは五条も知っているのでここに現れたこと自体は不思議では無いのだが、マナーとして声もかけずにとは如何なものかとなまえは思った。気配で分かっていても、それはそれ、これはこれ。
「着替え途中だったらどうしたんですか」
「え。問題ないでしょ?なまえはもう、僕の嫁だし」
「……」
ぞわりと、なまえに鳥肌が立った。
「五条先輩からの嫁扱い……気持ち悪い……」
家入が分かる、と頷いた。
ひどいなぁとさして傷ついた様子もなく、五条は言う。
「気持ち悪くてもなんでも、慣れてもらわないと。そういう縛りだし、表向きに夫婦らしさは多少見せていかないとめんどくさい連中が色々うるさいよ?」
「分かってますよ。でも、気持ち上そういう問題じゃないんです、生理的に無理というか」
縛り上仕方ないことと言えど、なまえの学生時代から根付いた五条への嫌いという感情は相当根強いようだ。思わず五条は、過去に自分がなにかしたか振り返ってみた。……散々煽り倒したりしたななど、割と心当たりがあったので、考えるのはやめておいた。
「とりあえず、検査も終わったし、無事死刑も免れた。じゃあ、やる事は決まってるよね?」
「分からないし分かりたくないです。嫌な予感がするので」
「そう、新婚らしくデートでもしようか」
「……家入先輩」
「痴話喧嘩はよそでやって」
家入からそう言われても反論する間もなく、なまえは五条悟によって外へと連れ出されたのだった。
「……何を、考えてるんですか」
「何って、僕がなまえを大事にしてるアピールだよ」
誰に、とは言わずとも分かった。五条悟のやりたい放題からくる敵の多さなどは、なまえも理解してる。ただ五条悟は、最強だ。彼を目の上のたんこぶと思っていても、実際は本人やその周辺に手を出せない。
これは、そういう連中へのアピールにして、警告なのだ。
「だとしても、」
「ほら、眉寄せない」
デートらしくないからと、しゃあしゃあと言ってのける五条に、なまえは思わず舌打ちをこぼす。学生時代にされた五条からの煽りやら何やらは、なまえの中で根深く残っていた。
「あとはまぁそれだけじゃなくて、新生活に備えて色々とね」
「引越しされるんですか」
「そう。なまえが、僕の家に」
さも当然でしょと言われ、なまえは顔を顰めた。
「……子を作ることは縛りですけど、私の引越しは別に関係ないですよね?」
「子作りするにしても一々通ってたら面倒だし、さっきも言ったけどうるさい連中から追及されるのもめんどくさい。のと、一応は僕の監視下に置いてるって体にはなるでしょ」
「……」
ぐうの音も出ないなまえに、五条は愉快そうに口角をあげた。
(そういうところが!嫌いなんだ!)
「ちょうど買い替えたい家具とかあったからタイミングよかったよ。ベッドはダブルでいい?」
「当然のように常に一緒に寝ること前提なのやめてくれませんか?」
「でも、広い方がする時には色々と都合よくない?」
「真昼間からやめてもらえますか?あと、義務ですることなのでそういうのは不要です」
イラつきながらも一緒に住むことを受け入れたなまえは、ちゃんと五条についていく。こういう性格だから学生時代に、五条から煽られ、からかわれ、遊ばれていたのだろう。なまえ本人は気づく余地もないうえ、気づいたところでという話だが。
もういいやと半ば投げやりになりながら五条の隣を歩いていると、不意に五条が自分の髪に触れたので、なまえの不機嫌さに拍車がかかった。それに対し、五条は至極楽しそうに、宣った。
「髪、おそろいの色になったなぁって」
「……っ!」
やっぱりこの人嫌いだ!
そう叫びたかったのをこらえた自分を褒めたいと、後になまえは先輩である庵歌姫に語ったという。