あなたにこがれる

きょうだいより遠いけど、他人より近い『わたしとわたし』がいた。つまりは、血がつながっているわけだけれど『わたしたち』は何故か実のきょうだいよりも双子のように似ていた。
まるで鏡のように。

祖を同じくして、それを介して生まれた『わたしたち』の両親たち。しかしファンタジー小説に傾倒している子どもみたいな事を言えば、私は……『わたしたち』は呪われた血の子どもたちだった。

何と言おうか。
何と言うべきか。

始まりの人たちは、人形師ではないけれど、ここでは人形師としておこう。
彼等は大きな大きな存在だった。だというのに、何か大きな傷のようなものをぴしりと、ばきりと、丁寧に丁寧に次の人たちに与えていった。
彼等は優しくて、花を溶かして色を付けた水を毎日子どもに飲ませていたけれど、本当はそれは人形には毒だと知ったのはずいぶん後の話だ。

始まりの人たちが死んでも次の人たちは傷のない人形を作る事ができなかった。
傷のついた型は、傷のついた人形しか作り上げられないのだ。
何故、始まりの人たちがそのような事をしたのかはわからないけれど。

『わたしたち』はゆるゆると空を細く遊離する血が、ゆっくりと喉を絞めることを知っていた。
他のきょうだいたちはとても必死に傷を修復しようとしていた。だから、きょうだいたちは強かった。

『わたしたち』は傷を修復する能力を持たなかった。欠陥品だったのだろうか、両親がわざと取り上げたのかはわからないけれど。

細く細く繋がる血が、いとおしくて苦しくてたまらないのに、ひとつになろうとすれば、とろとろと同じ血が溢れてとろけて幸福で。
『わたしたち』は『わたしたち』だった。きょうだいじゃないけれど、製造元を同じくして生まれた遠いけど近い、わたしたち。

きょうだいたちは、優しかった。
わたしと遠いけど同じ血を持つ君は、きょうだいたちの背に守られて生きていたけれど、きょうだいたちはある日『わたしたち』を置いて死んだ。

始まりの人たちが与えた傷を癒やしきれなくて、自滅した。

『わたしたち』は『わたしたち』で『わたしたち』を補うしかないのだ。

君の傷口に私の血を注ぐ。
とろとろと、とろとろと。
そうやって繋がっていると、しあわせで。
わたしたちはわたしたち。
わたしたちは赤い糸じゃなくて、赤い赤い血が繋ぐ。

呪われた子どもだった。
それが『わたしたち』だった。

これを読んで嫌悪を抱いたであろう、見知らぬあなた。
そう感じるあなたはとても正しいのだから、美しいと思う。皮肉ではなく、心からそう信じている。
そんな正しく美しい『あなた』に『わたしたち』は憧れてやまない。

ねえ、ところでわたしたちはほんとうに人形かしら。
でも、関係ないのかもしれないね。

『ワたシたち』は『わたしタち』にシかなレなかったの、だ、カラ。


20180219

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